16年ぶりのJRA女性ジョッキーとして、連日メディアを賑わせている藤田菜七子騎手。3月3日(木)の川崎競馬での初陣から、その動向は一般ニュースでも取り上げられるほどで、まさに「菜七子フィーバー」と言っていいだろう。男性社会の競馬界において、プロ騎手に至るまでの道のりは容易いことではなかっただろうが、ここまでのキャリアと激動のデビューウィークを振り返ってもらった。

川崎&中山、充実感いっぱいの騎手デビュー

-:いま最も話題のジョッキー・藤田菜七子騎手ですが、新人騎手としては川崎で異例の地方競馬デビュー。そして週末の中山での騎乗を終えられました。激動の1週間だったと思いますが、振り返っていかがでしたか?

藤田菜七子騎手:本当に慌ただしい1週間でしたが、何よりも乗せていただいた関係者の皆様、先生、馬たちに感謝しなければならないと思いました。特に川崎でのレースは本当に周りの方々が支えてくれて、そのお陰でデビューさせてもらえたので。その中でも良い馬に乗せていただいたので、感謝の気持ちでいっぱいです。

-:中央競馬の開催を前に、地方競馬で初騎乗を迎えるという、前代未聞のデビューでしたね。初めての実戦の雰囲気はどうでしたか?

菜七子:まだ、全然周りが見えていなくて、本当にアッという間に終わってしまったという感覚でした。

藤田菜七子

-:その割には、色々な人の評価を聞いていると「冷静だ」という声が多かったですね。

菜七子:とてもありがたいお言葉です。でも、本当にまだまだだと思います。


「模擬レースも何度かは乗ってきましたが、1レースの頭数は多くても8~9頭で、中山競馬場では14頭、16頭で乗ったので、馬の数も違います。模擬レースももちろんとても勉強になったのですが、実戦は全然違うなという印象です」


-:中山と川崎の2つのコースを経験されましたが、今まで客観的に観ていたコースの印象としてはいかがでしたか?

菜七子:ひとえに右回りと左回りで回りも違いますし、中山だと芝がありますし、川崎はダートだけで違いますし、競馬場ごとにやっぱり違いました。地方だったら砂も重いですからね。模擬レースも何度かは乗ってきましたが、1レースの頭数は多くても8~9頭で、中山競馬場では14頭、16頭で乗ったので、馬の数も違います。模擬レースももちろんとても勉強になったのですが、実戦は全然違うなという印象です。

-:頭数の多さ、スピード感は競走馬に乗ったことがない人には分からないものですが、実戦でのスピード感、臨場感はいかがでしたか?

菜七子:とても危険だとは思うのですが、本当に乗っていて楽しいです。結果を出せていないので、まだまだこれからなのですが、いまは充実感があります。いまのところ怖さもないので。

-:まだ、ご自身も模索している段階かと思いますが、競馬学校の頃からジョッキーとしての強みというか、ご自身のセールスポイントは感じられる部分はありましたか?

菜七子:まだまだデビューしたばかりで見つかっていないので、いま探しています。そういう強みをつくっていきたいです。観るだけならば、やっぱり長距離の方が楽しいかなと思いますね。

藤田菜七子

▲ひな祭りの3/3(木) 川崎1Rでデビュー戦を迎える


好きな馬はダイワスカーレット その理由とは

-:ここまで沢山の取材を受けられて、色々な人に聞かれたとは思いますが、騎手を志したキッカケを教えていただけますか?

菜七子:キッカケは小学校6年生の時にテレビで競馬中継を観て、そこで騎手ってすごくカッコ良いなと思って、そこから騎手を目指すようになりました。

-:日本では売上が海外よりも大きい一方で、競馬文化があるようで、あんまり一般的でない部分があるじゃないですか。それでも志されるというのは、なかなか異例だと思うのですが、自分一人でもやっていこうと意志の強さがあった訳ですね。

菜七子:そうですね。人と違うことがしたかったといいますか、どこかそういう思いがあったので……。そんな時にジョッキーのカッコ良さに憧れて目指したのもありますね。

-:おお~。では、いま脚光を浴びている状況は菜七子さんにとっては願ってもない状況ですね。競馬ファン当時に好きな馬はいましたか?

菜七子:好きな馬はダイワスカーレットですね。とてもかわいいのに強くて、カッコ良いなと思っていました。名前もかわいらしくて。

-:じゃあ、先行脚質が好きだとか、そういう訳ではないですよね。

菜七子:ハハハ(笑)。そういう訳ではなかったですけど、その時は全然、漠然と競馬を観ているだけで、何がどうとか全然知らなかったので、ただただ強いなと。顔もかわいらしいし、それでも男馬に勝つからすごく強い馬だと。


-:でも、男勝りなところも、男性騎手を差し置いての注目度という意味では共通していますね。早くから志されたからには、準備などもされていたと思います。中学校を卒業するまでの準備期間で騎手になるためにやられていたことはあるのですか?

菜七子:ハイ。もともと茨城県出身で、小学校6年生の時に乗馬を始めて、その乗馬を始めたのがこの美浦トレーニングセンターの乗馬苑でした。周りにも騎手を目指す子がたくさんいたので、色々教えてもらったり、乗馬をしながら、ちょっとしたトレーニングをしたりはしていました。

藤田菜七子

-:その中もやはり男性社会でしたか?

菜七子:そうですね。乗馬でさえも女の子が少なくて。何人かはいたのですが、騎手になりたいとまで思っている女の子は全然いませんでした。

-:そういう環境の中でやっていくというのも、なかなか決断力があるというか、頼もしいですよね。なおかつそれをやり遂げたということはすごいことですね。

菜七子:いえいえ、まだこれからなので。

-:以前、凱旋門賞に行った時に、向こうのエーグル調教場におじゃましたら、乗り手の方が女性だらけでした。それを見ているとやっぱり日本とは違うなという感じはしましたね。

菜七子:へえ~。それは初めて知りました!日本もそうなれば良いのに、と思いますね。

-:馬事文化の根付きの差は否めませんが、そういう意味では菜七子さんが頑張って、話題になることで、後を追う人も出てくるかもしれないですからね。

菜七子:そうですね。私では偉そうなことは言えませんが、そうなってくれると良いですね。

-:競馬学校時代の毎日はいかがでしたか?

菜七子:競馬学校は朝起きて、すぐに体重を量って、それから馬の部屋を3頭分掃除してから、朝ごはんを食べて、そうしたら馬3頭に乗って、お昼ごはんを食べて、また授業を2時間やって、その後は馬の世話をして、夜になる毎日ですね。日曜日だけは馬房の掃除だけで、あとは休日です。でも、当番制で馬のエサを付ける人はお昼と夕方に帰って来ないといけないので。

-:毎日が馬づくしといいますか、普通の高校生とはまた違う大変さがありますね。

菜七子:学校では馬に乗れない時ももちろんたくさんあったのですが、何よりも馬に乗るのが好きでしたし、同期もみんな優しかったし、楽しかったと言えば楽しかったですね。ただ、トレーニングだけは本当に大変でした。

-:高校生の年齢ともなれば、高校野球などを見ても、体力的な個人差は大きく出てくる頃です。それを周りに追い付いていくというのは大変なことですよね。

菜七子:そうですね。最初はなかなか付いていけなくて、大変だったですね。

藤田菜七子騎手インタビュー後編
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