4歳春シーズンの滑り出しは決して良くなかったが、東京1800mのエプソムCと毎日王冠を連勝し、完全復活を印象付けたルージュバック。そして、G1タイトルを奪取すべく、満を持して陣営が選択した舞台は天皇賞(秋)。当コースは2歳時の百日草特別をレコードで快勝して怪物牝馬誕生を連想させた舞台。今回は大竹正博調教師に、ローテ決定の経緯と直前の調整法について余すことなく聞かせてもらった。

秋への布石になったエプソムC

-:天皇賞(秋)(G1)に出走するルージュバック(牝4、美浦・大竹厩舎)について、まず2走前のエプソムCからお話を伺いたいのですが、あのレースに向けての調整過程、当日の馬の仕上がりはどのようにご覧になっていたか、教えていただけますか?

大竹正博調教師:ヴィクトリアマイル(⑤着)を使って、いつも通りノーザンファーム天栄に放牧に出して、レース間際に厩舎に入ってというパターンでした。やっぱり1回叩いてグンと良くなった印象で、あの時はとにかく順調に来ていたと思いますが、毛艶もすごく良くて、自信を持って臨めた一戦でしたね。カイ食いも良かったし、体重を維持するというよりも、むしろ絞りにかかった追い切り内容だったので、やれることはやった、というところでした。

-:実際に、ヴィクトリアマイルから絞れた体でレースを迎えましたね。

大:意識して6キロマイナスにしました。ちょっとヴィクトリアマイルのときは、最後まで休み明けという印象が拭えなかったので……。それで、1回叩いてグンと良くなりましたよね。

-:レース自体はどのようにご覧になられましたか?

大:大外枠がどうかと、そこだけは心配したのですが、目の覚めるような脚を使ってくれました。2歳時の強い勝ち方を思わせる末脚でしたからね。調整過程を考えても、あれくらい走って当然だったのかと。

大竹正博

▲きさらぎ賞以来、1年4ヶ月ぶりの重賞制覇となったエプソムC

-:レース後の馬の状態というのはいかがでしたか?

大:あの時はさすがに走った後の気配ではあったのですが、3歳時に比べて競馬後のダメージはどのレースでも少なくなっているのかなと思います。中山牝馬Sは蹄鉄が外れたことにより鉄唇を踏んでしまったというアクシデントがありましたが、今年に入ってからは、競馬後のダメージというのはそれほどありません。

-:エプソムC後の夏場の過ごし方を教えて下さい。

大:去年は札幌記念に向けて函館競馬場に入厩しましたが、熱発したりして体調が整わなくて、再び放牧ということになったんです。あの経緯があったので、今年の夏はジックリ休養に充てようということで、特に緩めず、かつ攻め過ぎずという感じでずっと過ごしていました。

-:秋のローテーションについては、夏場時点ではどのように考えていらっしゃいましたか?

大:選択肢として候補は色々挙がったのですが、東京1800mのエプソムCで強い勝ち方をしてくれたので、あのパフォーマンスを見て、毎日王冠からということになりましたね。

先を見据えつつ快勝した毎日王冠

-:毎日王冠に向けての調整過程ですが、こちらを振り返っていただくと、どうでしたか?

大:思っていた以上にカイバを食べてくれなくて、どうしようかと思ったくらいでした。ただ、動きに関しては、かなり良い部類に入る雰囲気だったので、カイ食いについては目をつぶって、その動きの良さがあれば何とか良いレースができると思いました。カイバのこともあったので、その先のことも見据えてつくり過ぎず、本来の動きさえ出来れば良いという考えで調整しましたね。

-:プラス2キロという体でしたが、当日の馬の状態、仕上がりはどのようにご覧になられましたか?

大:休み明けにしてはデキ過ぎている雰囲気はしましたが、とはいえ、何かピリピリしたところもありませんでした。ジョッキーが乗ればいつも通り一段テンションが上がるのですが、それもいつもの範疇でしたからね。色々心配はしましたが、むしろ競馬場で見て、ホッとできたほどの雰囲気でしたね。そんな佇まいでした。

-:レース内容を振り返られていかがでしたでしょうか?

大:追い切りでもちょっと反応が鈍い感じはあったので、競馬に行ってその部分がどう出るかと思ったら、やっぱりワンテンポ、気持ち遅いかな、という感じでした。ただ、他のメンバーも休み明けということもあったので、そこまでやんわりと仕上げても、対応が利いたのかと思っています。勝ちに行こう、というよりも、やっぱり先を見据えての競馬だったので、そのお陰かレース後もそこまでダメージがなかったですし、乗り役もその辺は大事に考えて乗ってくれました。ステッキも入れてはいるのですが、ほとんどが見せムチでしたからね。


「先を見据えての競馬だったので、そのお陰かレース後もそこまでダメージがなかったですし、乗り役もその辺は大事に考えて乗ってくれました。ステッキも入れてはいるのですが、ほとんどが見せムチでしたからね」


-:馬場が稍重だったということもあって、疲労を心配しましたが。

大:そうですね。次の日までジックリ状態を見ましたが、本当にダメージがなかったです。むしろ競馬を使った後の方が吹っ切れたのか、カイ食いが良くなりましたし、それでいつも通り放牧に出そうということになりました。

-:いつものパターンでノーザンファーム天栄に放牧に出されて、今週の木曜日(10/20)に入厩されたと思うのですが、ルージュバックのキャリアの中でレース間隔が一番詰まった形で本番に臨むことになると思います。この調整で来週も含めて気を付けていきたいポイントなどがあれば教えて下さい。

大:牧場で1本、坂路で時計を出しているので、トレセンでは競馬まで2本考えていますが、放牧を挟んだからと言って、特別なことをする訳ではありません。

競馬を1回使ったベースはそのまま残っているので、あまり攻め過ぎる必要もないかなという感じですね。今日の雰囲気なんかも細くは見せるのですが、活気はあったので見た感じは悪くはないなと思います。

-:今年のレース前は、週末に長めを乗って、当該週にもう1本という形で調整されてきていますね。

大:これまでは、レース間隔が空いていたので週末に長めからということになっていましたが、今回は中2週なので、特に長めを乗ろうということは考えていません。

大竹正博

▲好メンバー相手に毎日王冠を制覇 戸崎騎手からも笑顔がこぼれる

天皇賞(秋)は培ったノウハウを発揮する舞台

-:今回、東京の2000mという舞台になりますが、2歳時に百日草特別でレコード勝ちをしています。このコース条件についてはどうご覧になられていますか?

大:1800m以上に枠に左右されるので、それがどう出るかというところですね。ただ、登録が15頭で、フルゲートにはならなかったということがね。もし外枠を引いても、そこまで枠の差はつかないのかなとは思います。ただ、結局のところ、東京2000mは1戦1勝で1回しか走っていませんからね。東京コースで2000mになると、外を回って良いイメージはないので、そこはジョッキーに任せるしかないと思います。

-:今、ルージュバックは4歳秋シーズンを迎えていますが、先生はこの馬の完成度について、どのようにご覧になっていますか?

大:若い時から体重もほとんど変わっていないですし、肉体的な完成度というのは、早い段階から高かったと思いますが、それをちゃんと出してあげられる状態に持っていけたか、というところだと思いますね。今、精神的な成長もかなりありますし、本来持っているモノを出せるようになってきたのかなと思います。

大竹正博

-:力を出せるということは、オン、オフみたいなものが?

大:そこは、本当に気を付けてずっとやってきたところです。新馬前は、距離はもってマイルまでかな、というイメージだったのですが、厩舎でも牧場でもジックリと大事にやってきた成果があって、これまでも距離に対応できているのかなと思います。

-:実際にオークス(②着)でも好走できた訳ですからね。最後にお聞きしますが、G1馬や強力な馬が揃う天皇賞(秋)ですが、それに向けての見通しを教えていただけますでしょうか?

大:中2週でも放牧を挟んで、という流れでの出走となりますが、牧場でも厩舎でも、とにかく彼女のパフォーマンスが最大限引き出せる方法、お互いのノウハウをミックスして臨む一戦だと思いますね。メンバーは強くなりますが、彼女の持っている能力さえ出せれば、良い競馬に繋がるのかなと思っています。ただ、あまり人間の気持ちが先走ったところで、勝てるものではないのでね。今は1週前ですが、厩舎スタッフもザワついた感じはありません。今までもずっとこのパターンを崩さずにやってきて、牧場も厩舎も含めて、何が足りなくて何が十分足りているのか、ということもシッカリ分かっていますからね。

-:厩舎と牧場が万全のコミュニケーションが取れている、と。

大:そうですね。デビューしてからずっと騒がれてきた馬ですし、細かいところまで見てきているので、彼女のちょっとした変化なんかも感じ取れるようになっています。このまま行けば良い形で送り出せると思っていますし、結果を出せるように頑張ります。

-:ありがとうございました。