船橋競馬の中野省吾騎手が、世界にその名を広める。8月26・27日に札幌競馬場で行われるワールドオールスタージョッキーズに、地方競馬代表として出場する。出場権をかけたスーパージョッキーズトライアル(SJT)では、シリーズ4戦3勝で最年少優勝を飾った。SJTが計4戦で行われるようになった2006年以降では、菅原勲騎手と的場文男騎手がマークした56ポイントを大幅に更新し、歴代最高となる合計75ポイントを獲得した。すべて4番人気以下の馬に乗りながら「ちぎって優勝してやろうと思った」「人がどう動きたいのか見えた」と語る25歳に、初の大舞台へ挑む意気込みを聞いた。

「やってやろう」という思いはなかったSJT第1戦で早速V

-:地方競馬代表としてワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)に出場する船橋競馬の中野省吾騎手です。よろしくお願いします。今回WASJへの出場が決まるにあたり、まずはその予選となったスーパージョッキーズトライアル(SJT)を振り返っていただきたいです。初出場ということで、どんな意気込みで臨まれましたか?

中野省吾騎手:さほど人気もしていなかったので、1戦目はそんなに気張ることもないなと思っていました。やってやろう、という強い思いもなく。その前に騎手交流戦で一度盛岡に乗りに行きまして()、その時はすごく良い馬に乗っていたんですよ。1番人気と2番人気だったのですが、アララという結果で、とても成績が悪かったです。その時は予習もしないで臨んでしまったので、今回はとりあえず馬場の状態だけでも知っておこうと、どこを走れば良いかというのを2レースほど観て確認しました。

(4月29日(祝・土)、南関東ジョッキーズフレンドリーマッチが行われ、第1戦は14頭立てで2番人気14着、第2戦は14頭立てで1番人気13着)

-:SJTの1戦目シルバーサドル賞(ダート1600m)はけっこう外を通ってきていましたね。

中:そうですね。ずっと外を回り続けるのも良くはないですが、内側を取りに来た人に「どうぞ、どうぞ。僕は引きますよ」という感じで引いて、切り返して外、という計算をして乗ってきました。前回の交流戦で来た時はいずれもダートだったので、馬場の感触はすぐに掴めましたよ。

競馬ラボインタビューには、約6年ぶりに登場してくれた中野省吾騎手

競馬ラボインタビューには、約6年ぶりに登場してくれた中野省吾騎手

月日 レース名 コース 馬名 人気 着順 ポイント
第1戦 6月5日 シルバーサドル賞(C1) 盛岡ダ1600m アクティブボス 5人気 1着 20
第2戦 シルバーブライドル賞(C1) 盛岡芝1700m マキシマイザー 7人気 2着 15
第3戦 6月22日 シルバーブーツ賞(C1) 園田ダ1400m マンテンスマイル 5人気 1着 20
第4戦 シルバーホイップ賞(B2) 園田ダ1700m ゴッドバローズ 4人気 1着 20

-:その1戦目を勝たれた時の心境は?

中:いや、特になにも感じなかったです。第1ステージ1位通過の人はだいたい尻すぼみになっちゃっているので、気楽にポイントを稼げるときに稼いでおこうか、という程度。その内に抜かれるだろうみたいな。

-:2戦目(芝1700m) は芝のレースだったのですが、真島大輔さんの馬(ユナイテッドボス)に内から迫っての2着でしたね。

中:人気的にも低かったですし、これはセコく乗ってこられれば良いなと。向正面でも(ハミを)噛んでいたから「これはいつ下がっていくんだろうな」という程度で3~4コーナーも回っていました。「前にいる2頭はタレるな、僕のも噛み過ぎているのでタレるな」というくらいの思いだったんです。それで、前2頭がけっこうタレてきたのですが、僕の馬が前に迫ると闘争本能が出るようで、近付くにつれて、いつの間にか走る気を出してくれました。間を割る時にけっこう狭いところに入ったのですが、そこでちょっとモタついた後に、タレている馬と伸びようとしている馬の闘争心の違いでズバッと抜けて、ゴールまで一生懸命走ってくれました。上手く消耗しないような乗り方が出来たのですが、力的に負けるだろうなと思っていたので驚きました。

スーパージョッキーズトライアル(SJT)出場騎手。中野省騎手は手前の右から3人目

スーパージョッキーズトライアル(SJT)出場騎手。中野省騎手は手前の右から3人目

「やっぱりジワジワ来ましたね。ジワジワ来ていて前日になろうものなら胃に来るわ、興奮するわ、やってやるぞと思うわ、色々な感情がありましたね」


-:前の馬を上手いこと捌いていたら勝っていたということですか。

中:そうですね。レース直後にも「綺麗に抜けられれば勝ってた」とは言っていたんですよね。

-:盛岡の芝自体は初めてだったのですね。

中:初めてでした。ボコボコして怖いから、下手に左右の進路変更をしたくないなと。一度ポジションを決めたらそこから動きたくないという気持ちでした。

-:内、外で馬場状態が違ったということですか。

中:いや、一緒は一緒なのですが、やっぱり車でもそうですけど、ボコボコのところで前輪を切ったら、タイヤを取られるじゃないですか。なので、直進しかしないぞと思いながらですね。

-:結果、第1ステージは1着、2着で通過して2位に大きな差を付けることになり、第2ステージの園田までしばらく(約2週間)あったのですが、その間はどういう気持ちでしたか。第1ステージの前はあまり意識しなかったかもしれないですけど、色気も出てきたと思うのですが。

中:どうせ抜かれるぞと思っていて、はじめの1週間は何となく過ごしていたのですが、やっぱりジワジワ来ましたね。ジワジワ来ていて前日になろうものなら胃に来るわ、興奮するわ、やってやるぞと思うわ、色々な感情がありましたね。

-:それは、他の大レースでもあんまりない感覚ですか?

中:全然ないです。SJTは次の舞台に直接つながるので、目に見えるものがあるから緊張するんでしょうね。

-:第2ステージの騎乗馬が決まった時はどんな思いでしたか?

中:騎乗馬は見ても分からないので……。だから、何も観なかったです。園田でも馬場は見ました。盛岡と同じようにですね。

-:あらかじめレースを見て、このコース取りをしようという意識はあったと。

中:あったのですが、思ったようには取れないですよねぇ、ハハハ(笑)。

「僕は他には翻弄されず、どうやったら噛んでくれるのか、それだけを考えながら乗っていましたね」


-:第3戦のシルバーブーツ賞(ダート1400m)は後方から行って、すごい脚で差し切りましたね。

中:道中はどうやったら(ハミを)噛むのだろう、ということに必死になっていました。最初の直線は全く噛まなくて、とりあえず分からない時は動くな、人間は余計なことは何もするな、噛みたいと馬が思う場所、コース、内、中、外、他の馬がどこにいるかというポジションとかを意識した上で、「コイツはいつ噛むんだ」と思っていたら、コーナーに入ったらグッと噛み出してくれました。噛んだらグッとハミも掛かるのでハマリもシックリ来て。前半、迷っているうちにいつの間にか他の馬たちが前に行って、僕はマイペースで後ろにいたら、前の馬群がペースダウンしてきて近付いてきたところで馬が噛み出して「噛んでる、噛んでる、良い感じ」と思って、そのままグッと噛んだまま上がっていって、早めに加速したという感じですね。

-:直線ですごい脚を出しましたけど、それは乗り役的には「してやったり」だったのではないですか?

中:う~ん、想定外と言えば想定外でしたけど。直線を向く時には2着くらいかなと思いました。

-:そもそも園田は乗ったことはありましたか?

中:ないです。今のところ(2戦2勝で)無敗です(ニヤリ)。

-:勝率100パーセント。園田は小回りだけど、差しがけっこう決まるから面白いですよね。

中:僕は他には翻弄されず、どうやったら噛んでくれるのか、それだけを考えながら乗っていましたね。

シリーズ優勝を決定付ける第3戦、マンテンスマイルとのコンビで勝利

シリーズ優勝を決定付ける第3戦、マンテンスマイルとのコンビで勝利

優勝の喜びは「応援団長をやった小学校の運動会以来」

-:第3戦が終わった時点で、早くも優勝が決まってしまいましたね。

中:本当にこんなに嬉しかったのは、小学校の運動会の応援団長をして優勝した時くらいですね。

-:ハハハ、応援しているチームが優勝したのですか?

中:いや、応援の最優秀賞をもらったということです。これはなかなか味わえない感覚と思います。

-:そして、3戦までで1着、2着、1着で決まってしまうと、第4戦(ダート1700m)は普通、緊張の糸が切れると思いますが。

中:僕はむしろ(2位以下を)ちぎって優勝してやろうと思いましたね。しかも、こういう優勝の仕方は普通は味わえないと思うんですよ。たいていは「(結果は)どうなった、どうなった?ああ、優勝したんだ」とポイントを計算してやっと結果がわかると思うのですが、本当にゴールを切った瞬間に優勝が分かるので、もうバツーンという感覚ですよね。

-:ここまで来たら4戦目もやってやろうみたいな。

中:で、1700mのグルッと1周する競馬。待機所がどこか分からなくて、僕だけ待機所にいかなかったんですよ、ハハハ(笑)。だから、ゲートの後ろで一人で待機していました。“俺の馬、イレ込んでいるな”と思いながら、やっぱりそういうところも下見しておかないとダメなんだなと。でも、勉強し過ぎるのも良くないので。

乗り方をぶっ壊してつかんだ「一生出られないかもしれない」舞台
中野省吾騎手インタビュー(2P)はコチラ⇒