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高田潤騎手

高田潤騎手


8月21日の新潟ジャンプSをコウエイトライとのコンビで勝利し、史上初の障害重賞全場制覇を達成した高田潤騎手。
今回は高田騎手が各場での障害重賞勝利の思い出、パートナーの印象、障害コースについて、話してくださいました。



小倉競馬場・障害重賞初勝利
【2001/7/22・小倉サマージャンプ(J・G3)優勝馬=ヒサコーボンバー


このレースは正直自信がありませんでした。前走の京都ジャンプステークスの反動があって、追い切りも15-15を一本やった程度で、レースに使えるかどうか分からないくらいの感じだったので「勝つまでは厳しいかな」と思っていました。
でも、レースに行ったらさすがは実績馬という飛越でした。

このレースは出入りが激しかったですね。レガシーロックが前に行っていましたけど、そのレガシーが水ごうでトモを落としたのを見て「ここしかない」と思って、一気に先頭に出ました。
3コーナーではマコっちゃん(西谷誠騎手)のハクサンラッキーが来て、マッチレースみたいな形になりました。
最後の直線は、もう「頼む!」という感じで必死に追いました。僕の気持ちに応えて、馬も最後まで頑張ってくれました。

【重賞初勝利について】
自分が重賞を勝つなんてことはありえへんやろな、と思っていましたから、夢を見ているみたいでしたよ。
自分が「この馬、凄いな」と思うような馬に乗っていても、重賞だとその遥か先でゴールする馬が何頭もいるわけですから「重賞を勝つ馬ってどんな馬なんだ?」と思っていました。
このヒサコーボンバーに乗って京都ジャンプステークスに出たときも、優勝した出津さん(ユーセイシュタインに騎乗)が遥か彼方でガッツポーズしているのを見て「凄いなー」と思いましたから。
そういう経験があったので、レースで先頭にいることが信じられませんでした。
ゴールした瞬間、頭の中が真っ白になって、知らん間にガッツポーズをしてました。もう“ゾクゾクッ”としましたよ。重賞を勝ってもすぐに実感は湧かないといいますけど、本当にそうでした。
その日の夜は「ホンマに勝ったんや…」という感じで、興奮して寝れませんでしたね。
重賞を勝たせてもらって「俺は重賞を勝っている」という自信が出て、自分の中でプラスのモチベーションに持っていけるようになりました。
それまでは、障害レース自体そんなに自信が無くて、落ちないように乗るのに必死でしたけど、落ち着いて乗れるようになりました。
障害は特に乗り手の気持ちで結果が左右される面が大きいので、自信を持って乗れるとやっぱり違いますから、本当に勝てて良かったです。

【ヒサコーボンバーについて】
凄く気持ちが前向きな馬でした。乗り味、飛び味が良くて初めて乗ったときに感動したのを覚えています。
僕が乗せてもらったときには、既に重賞を含めて5連勝していたし、馬に貫禄がありました。跨った瞬間、もう「黙って掴まっとけ」って背中が語ってるみたいな(笑)。よく「馬が競馬を教えてくれる」と言いますけど、本当にそんな感じです。
まだそんなに障害で勝てていない頃だったので、これだけ凄いキャリアのある、飛越も綺麗な障害馬のお手本みたいな馬の背中を感じる機会をもらえたのは、本当に有り難いですね。
8着だった京都ジャンプステークスのときは、前の週に落馬をして肋骨にヒビが入っていた状態でしたけど、調整ルームに入る前、JRAの許可をもらって病院で痛み止めを打ちました。
わきの下から注射を打ってメチャメチャ痛かったですけど、それだけヒサコーボンバーに乗りたかったんです。

【小倉競馬場・障害コースについて】
小倉はタスキコースもバンケットもあるし、最後の直線には置き障害もあるし、小回りの割りに飛越力が試されるコースだと思います。ポイントになるのは水ごう障害ですね。
ちょっと前までは、水ごうで飛越を失敗してバランスを崩す馬が多かったんですよ。何故かと言うと、踏み切り地点より着地点の方が低いんです。
馬場造園課の方は「踏み切りも着地も同じ高さです」と言ってますけど、乗ってる感じでは着地点が低く感じるんですよね。
着地する感覚なのにまだ地面がない、みたいな。ちょっとの差ですけどこれが大きいんですよ。それでバランスを崩す馬が多かったんだと思います。
去年から水ごう障害を高くして、馬に注意させるように改善をしたので、失敗する馬も減ったと思います。
最後の直線の置き障害も難しいんですよ。直線に向いてから障害までのアプローチが短くて、飛ぶ2、3完歩手前になって急に障害が出てくる感じだから、乗っていてもヒヤヒヤします。小倉は滞在して調整する馬が多いですけど、普段の調教のときは最後の障害だけ置いてないから、練習も出来ませんしね。置き障害に入る角度も急だし、コース取りが難しいです。


阪神競馬場・障害重賞初勝利
【2001/9/15・阪神ジャンプステークス(J・G3)優勝馬=アイディンサマー


僕が初めて乗せてもらった未勝利戦のときは、まだ仕上がり切ってはいない印象がありました。そのあと雄造くん(白浜雄造騎手)が乗って未勝利戦を勝って、この阪神ジャンプステークスでまた乗せてもらえたんですけど、体の張りがあってプリップリしていて、もう馬が全然違っていました。
調教を見ていても調子は良さそうで「未勝利を勝ったばかりだけど、これだけ飛越の上手い馬が重賞でどれだけやれるかな」と思っていましたけど、この馬について話したとおり「ジーッとしているだけで先頭に立っていた」という感じのレースになりました。
最後はクビ差でしたけど、結構余裕があったので、このときは頭が真っ白にならず「よっしゃ!」という感じでしたね。
このレースには元々ヒサコーボンバーに乗る予定でしたけど、体調が戻らず出走出来なかったのでヒサコー陣営のことを考えると複雑な気持ちでした。
乗せてくださった藤原英厩舎には感謝ですね。嬉しかったです。
ポンポンと重賞を2つも勝たせてもらえて「本当にツイているな」と思いました。僕は良いことが続くと「ツキ過ぎていて怖い」と思うタイプなんですけど、このときは勢いがあって、何か根拠の無い自信を持っていました(笑)。

【アイディンサマーについて】
重賞を勝つ馬はみんな凄いですけど、この馬も天才的な馬でした。キングジョイと似ているかな。
アイディンは、乗馬の上手い助手さんばかりいる藤原英厩舎で、凄いスパルタ調教を受けていました。練習のときも普通の障害じゃなくて、角馬場のラチに木の棒をかけて、それを飛んでいましたからね。
そんな調教をした馬は後にも先にも見た事がありません!それくらい飛越力がハンパじゃないんですよ。本当、天才ジャンパーです。
性格的にはオンオフのある馬でしたね。オンになると闘志を前面に出して、オフになると大人しいという。これも藤原英厩舎の調教の賜物だと思います。
それだけに、レースで教えることは何もありませんでした。スタートはそれほど速くはないですけど、障害をヒョイヒョイ飛んでいくので、ジーッとしていれば最後は先頭にいる、という感じで本当に乗りやすい馬でした。

アイディンには京都ハイジャンプも勝たせてもらいましたけど、それも天才的でしたね。京都には3段飛びという、京都の障害重賞だけでしか使われない特殊な障害があるんです。京都の障害重賞に使う大概の馬はレース前に競馬場でその3段飛びを練習するんですけど、アイディンは競馬場で練習しないで、栗東の小さな3段飛びで練習しただけで本番に挑んだんですよね。僕は「競馬場で練習しないでホンマに大丈夫かな?」と思っていましたけど、栗東の3段飛びで乗せてもらったら、メチャメチャ上手かったんですよ!
調教が終わったあとに、藤原先生から「競馬場でやらなくても大丈夫だろ?分かった?」みたいな会話をしたのを凄く覚えています。

【阪神競馬場・障害コースについて】
阪神障害コースの大きな特徴は、向正面にある障害ですね。その障害を左回りから飛んで、次に右回りで飛ぶんですけど、馬はこういう両面の障害はあまり得意ではないですね。
もう一つ、コーナーに2つの障害があるのも大きな特徴です。コーナーにある障害は、直線にある障害よりも斜めに入っていくから、馬も飛びにくいし人間も飛ばしにくいんです。
阪神コースには独特な勝負ポイントがあるんですよ。逃げ馬だったらココ、差し馬だったらココ、という感じで。その勝負ポイントがどこかと言うと…いやー!これは言えないっすね~!企業秘密という事で(笑)。


東京競馬場・障害重賞初勝利
【2001/10/13・東京オータムジャンプ(J・G3)優勝馬=ギフテッドクラウン


東京コースについて「外枠は圧倒的に不利」と言いましたけど、その東京でギフは8枠で勝ちました。これは相当力が無いと出来ない、至難の業ですよ。
8枠で「最悪や」と思いましたけど、ギフはスタートが速いので、ゲートをポンと出てキューッと内に行って、ロス無くハナを切ることが出来ました。
中途半端なポジションだと外を回されてしまうので、スタートしてから結構押していったので、馬にはキツいレースだったと思います。
最後はマキハタコンコルドが差を詰めて来ているのが分かっていたので「頼む!」という気持ちで追いましたけど、バテずにしっかり走ってくれていたので、何とか凌げるだろうと思っていました。
飛びが低いので失敗しなければ、と思っていましたけど、問題ありませんでしたし、思っていた通りの強い競馬でした。
これで重賞を3つ勝たせてもらいましたけど、3頭で3つの重賞を勝てるなんて大変なことですよね。巡り合わせもありますし。やっぱ勢いあるな、と思いました(笑)。

【ギフテッドクラウンについて】
この馬は障害レースに使う前の調教から乗せてもらっていました。もうレースに使う前から「これは走る」と思っていましたよ。
でも自信のあった障害デビュー戦はまさかの落馬で…。低くて無駄のない飛越をする馬だったんですけど、そそっかしさもあって初障害で引っくり返ってしまいました。
それで管理していた吉岡先生も「もうやめようか?」という感じでしたけど、自分としては走る馬だと思っていたし、このまま終わるのは納得いかなかったので「もう一回使ってください」とお願いしました。
落馬明け・休み明けとなった未勝利戦は、まずは障害レースを教える意味も込めて完走を目指した乗り方でしたけど、それでも最後にビュンと来て2着だったので「やっぱり走るな」と思いました。
自分が作ってこれだけの成績を残してくれたので、思い入れがありますね。

【東京競馬場・障害コースについて】
東京コースに関しては「外枠は圧倒的に不利!」と声を大にして言いたいですね。もう太字で書きましょ。「外枠は圧倒的に不利!」です。
コーナーからのスタートになるので、距離ロスのない内枠が断然有利なんです。内枠と外枠では、普通に走ったら多分10馬身くらい差が出ますよ。
しかも順回りのタスキなしなので、よりコースロスなく回るのが大事です。内の良いポジションを取れるかどうかがポイントになります。
先手を取れるスピードのある馬なら、スタートでちょっと出して、そのまま内に行けることもありますけど、差し追い込み馬が外枠に入ったら相当厳しいですよ。

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【高田 潤】Jun Takada

1980年大阪府出身。

JRA初騎乗:
1999年3月 6日 1回 中京7日 1R ヤマカツロバリー(7着/14頭)
JRA初勝利:
1999年6月12日 3回 中京7日 1R エアウィンスレット
JRA通算成績は平地で44勝・障害で43勝(10/9/22現在)


【最近の主な重賞勝利】
・10年 新潟ジャンプS(コウエイトライ号)
・08年 京都ハイジャンプ、中山大障害(共にキングジョイ号)

デビュー2年目から障害戦にも騎乗するようになり、重賞騎乗50回目にして障害重賞全場制覇を成し遂げる。
09年11月に所属していた松田博厩舎の元を離れ、フリーに転向。今年は現時点で7勝と、順調に勝利を挙げている。
競馬ラボ・現役関係者コラム「FEEL潤!!」にて毎週コラムを掲載中