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湯日健治氏

社台グループ 湯日健治氏


古くから中心的存在として日本の競馬界を牽引する社台グループ。今回はその社台グループ・京都事務所において、スターホースが多数在籍する栗東トレセンの在厩馬の近況を掌握する湯日健治氏に、天皇賞に出走するブエナビスタ、ブエナの妹の動向などについて、紹介していただいた。

-:じゃあ、さっそくお話しを聞かせて頂きたいと思いますが、登録のあったルーラーシップは残念ながら回避となってしまいました……。

湯:そうですね。10月16日の追い切り後、左前に違和感があったとのことで、以前から不安のあった蹄と、球節を痛めたようで、19日に放牧へ出ました。僕もこの馬が北海道で調整をしていた頃はJCが目標かと思っていたのが、天皇賞の方に行くことになり、楽しみにしていたところですが、残念ですね。

-:そして、連覇の懸かる天皇賞にブエナビスタが出走予定ですが、前走後の経緯を教えてください。



湯:宝塚記念を使ってから予定通り放牧に出ました。この夏はノーザンファームの方で過ごして、それで札幌競馬場に入れていただいて、時計も15-15くらいはやっていました。そして、栗東に帰って、15日の土曜日もCWで幾らか時計を出して、19日もユニバーサルバンクと併せて、CWで7Fから106.8-88.4-71.4-55.5-40.1-11.7の時計で追い切りを終えました。松田先生も「予定通りの調整ができているし、いくらか馬体に余裕があるかもしれないが、この馬は自分で体を作るので心配していない」と仰っていました。
5歳ですから、グループの規約として牝馬は6歳の3月までで引退となりますから、恐らく、天皇賞、JC、有馬記念。この3つのレースは使うんじゃないかと思います。去年は不運な形でJCは降着になって、有馬も惜しい2着で、今年の春もヴィクトリアマイルでアパパネに負けて、宝塚記念も2着でしたから……。なんとかいい結果を出してもらいたいです。


-:今年の上半期といえば、これまでの競走馬人生の中でも初めてドバイでは結果が伴わいませんでした。

湯:そうですね。あの時、僕は現地に行っていないのですが、かなりのスローペースだったようですね。皆さんご存知だと思いますが、結局前に行った2頭がああして上位で走って、日本の馬が勝って良かったんですけれど、ブエナにとったら、スローペース過ぎたのかなと。帰ってきてから、またヴィクトリアマイルであれだけ走ったので、敗れはしましたたけれど、すごいなと。宝塚でも最後2着でしたから。

-:その前の年だと、ドバイから帰って調教だけを見ていると、かなり苦しい雰囲気を感じました。

湯:そんな雰囲気はありまましたけれど、その時のヴィクトリアマイルも厳しいレースで、最後、後ろから差してきて、なんとか勝たしてもらいましたけれど、厩舎の方々にもよく仕上げて頂いたし、馬自身もよく走ってくれました。ジョッキーも申し分のないレースをしてもらったのでね。僕ら感動しました……

-:今年の春からの状態の変化はありますか?

湯:年齢がひとつ重なりましたけれど、松田博資先生の厩舎は自然体ですからね。例えば他の厩舎ですと、結果がでなかったら「色々変えてみよう」とか考えられますけれど、ブレることがなかったので、厩舎の方々にお任せでした。確かに今年の春、勝てはしませんでしたけれど、安心してみていました。

-:ファンの中には松田厩舎の調教スタイルを知らない方もいます。どんなものか紹介してください。

湯:6Fの時計で80秒を切るとかはまずないですね。時計は6Fですけれど、実際は7F~8Fの時計を専門記者にはとるように言われて、ゆっくりゆっくり行って最後きっちりビシッとやるパターンですね。どんな時でもそれは崩しておられないですね。
厩舎のほとんどの馬がそういう追い切りで、テンにバンバン飛ばす感じじゃなく、終いを伸ばす調教ですから、それが特徴ですし、先生の考えというかやり方なんでしょうね。




-:馬主サイドから調教内容の指示などはあったりするものですか?

湯:そんな事は全くないです。結局、馬のことを知っているのは調教師、厩舎スタッフですし、ノウハウもありますから。ウチらから調教指示をだしたりとかは、全くないです。

-:それはどこの厩舎に対しても。

湯:そうですね。厩舎にはそれぞれのやり方がありますから、坂路ばっかりのとこもありますし、CWだけのところ、ポリで乗られるところもあります。終いを強調するところとか、テンを飛ばして終いかかるとこもありますし。その辺りは厩舎のやり方でしょうから。われわれは厩舎にお任せしています。

-:天皇賞はローズキングダムも出走します。

湯:戦前は橋口先生も「59キロは……」と言われていましたが、終わってみれば、時計も速かったですし、ほんとにいい勝ち方でした。

-:ジョッキーがテン乗りでフランスのメンディザバル騎手に代わります。

湯:メンディザバル騎手もワールドスーパージョッキーで優勝されましたよね。すごく背が高い印象です。フランスでもリーディングを獲られていましたし、ワールドスーパージョッキーに来たときにも、「短期免許で日本に来たい」と仰っておられたのが、ようやく実現されたので、楽しみにしています。ただ、本音としたら僕は日本のジョッキーに乗ってほしかったなと……(笑)。

-:そして、11月3日に行われるJBCにはミラクルレジェンド、カラフルデイズが出走しますね。

湯:レディスクラシックですね。ミラクルレジェンドとカラフルデイズが選出されました。ミラクルレジェンドはこの前のレディスプレリュードでラヴェリータに勝ちましたし、牝馬のJBCは記念すべき第一回ですからね。現在、“G”は付いてないですが、牝馬のGⅠができて喜ばしい事ですね。

-:湯日さんから見て、藤原厩舎のスタイルはどう感じますか?

湯:先生は僕らには見せないですが、厳しい方だと思います。調教を見ていても、角馬場でジッと乗られて、コースでも、いつも調教スタンドではなく馬のそばにおられますよね。だから、藤原先生は調教中になかなかお話ができないですね。ずっと角馬場で馬に乗って、馬場状態を見てCWでやったりとかポリや坂路でやったり。
前日にどこでやるかは、藤原先生は決めないですよね。常に「馬場の状態を見てから」と言われますから。正に馬本位な方です。 元々、乗馬出身の先生で、スタッフの方も乗馬経験がある方が多いですので、しっかりしていますよね。時間も他の厩舎よりも仕事から帰ってくるのも遅いですし、先生自ら乗られていますし、ほんと熱心ですよね。


-:現2歳世代でグループの中での有望株について教えて頂きたいのですが、ブエナビスタの妹・ジョワドヴィーヴルもデビュー間近ですね。

湯:これはトレセンに入りました。ブエナを担当している山口さんという方が、この馬も担当して頂いています。種馬はディープインパクトで、体も大きいことがなく中ぐらいのタイプの馬です。あれだけの馬ですからファンの方が一番よく知っているんじゃないですか?ゲート試験は今週の時点では通ってないですが、ゲートさえ合格すれば、というところですね。北海道でも、だいぶ乗り込んできたようです。

-:ブエナビスタ然り、ディープインパクト産駒然り、馬体だけみると、凄さを感じ辛い馬が多いものですが、この馬はどうでしょうか?

湯:松田先生のとこは調教を目一杯にされませんし、ブエナ自身も馬を見たら分かると思いますが、筋骨隆々というわけではありませんし。私もブエナを初めて見たときは「あれ?」という感じでした。
はだか馬で運動しているのを見たら、とてもG1馬には見えないですけれど、中身がしっかりしているんでしょうね。それにディープ産駒自体、ガッチリしたタイプではなく、どちらかというと華奢な感じの馬が多いですから。ディープ自身もそうでしたし、ディープの子は小さくても、走るんだなという気はしているので、その辺りは気にはしてないです。


-:先日、ライラプスの初子・アナスタシアブルーは強いデビュー戦でした。

湯:新馬戦は強かったですね。募集の時も1月生まれですから、すごい体をしていたんですよ。ただファルブラヴの子はちょっと大きな馬が出たりとか、小さくでたりとか、産駒にバラつきがありますね。だから、今後どうなるのかと思っていたんですけれど、追い切りでもしっかり動いていたし、牧場でもよく動くという話は、聞いていたのです。この前のレースを見たら、京都の開幕週でほとんどのレースが前残りという中で、あの馬だけですよね。馬場の五分どころから来て追い込んで勝ったのは。
この前、安藤騎手に話を聞いたんですが、「普段もおとなしい馬だし、レースでは程よいテンションがあって、距離が伸びても大丈夫」との事ですから。 次は萩ステークスで1800Mになりますが、男馬相手にどんなレースをするのか楽しみにしています。お母さんのライラプスも早い時期に重賞勝たせてもらいましたが、よく初子であれだけの子が産んでくれたものです。


-:ファルブラヴ産駒だと距離が伸びてあまり結果が出てないように思うのですが?

湯:ファルブラヴは牝馬の方が走る傾向にありますよね、ダンスファンタジア、エーシンヴァーゴウ、ワンカラット、ワイルドラズベリー、スマートシルエットもそうですが。この馬も牝馬なのでね、楽しみです。



-:サンデーレーシングといえば、忘れてはならない遂にエリザベス女王杯でレーヴディソールも帰ってくるそうですね。

湯:先日、帰ってきまして、CWで5Fから時計を出しました。厩舎からはエリザベス女王杯と聞いています。3歳馬ですからね。古馬とは斤量の恩恵もあるのでね。

-:斤量だけの範疇に留まらない馬だと思います。

湯:確かにあの馬は次元が違うような感じがしますからね。

-:トレセンの噂では怪我がなければ凱旋門賞を使っていたと聞いたこともあります。

湯:僕は初めて聞きましたけれど、あの血統は走る血統ですけれどね、怪我が多いですよね。レーヴも(怪我の多い)タキオン産駒ですからね。松田先生が上手く仕上げてくださると思います。今年のエリザベス女王杯というと、秋華賞を使った組や、アパパネ、レッドディザイアもいますからね。盛り上がるんじゃないでしょうか。

-:海外からもドイツとイギリスのオークスを制した馬が参戦するかもしれないと言われています。

湯:スノーフェアリーも来るかもしれませんしね。今年のエリザベス女王杯は面白いですよね。

-:レーヴが復帰するにあたって、一番ファンが気になるのは競走能力が落ちてないかという事だと思います。

湯:僕らには分からない部分もあります。ただレーヴの場合は休む前は、調教を見ても、すごい調教ですからね。サーッと切れるすごい調教をしていましたからね。先週は馬なりでしたから、徐々にペースを上げていくのかなと。私もとにかく無事でいてもらいたいなと思います。芦毛で顔もかわいいですしね、活躍次第で人気も出そうな気がします。

-:今回はスターホースの動向について、お話しいただきありがとうございました。最後に競馬ファンへ向けて、コメントをお願いします。

湯:ここ最近の競馬は売り上げが落ちているし、入場者も少ないものですが、競馬というものは非常に面白いもので、もっと若い人に興味を持って欲しいと思います。100円から馬券が購入できるし、1日遊べますしね。でも、年配の方にも、今まで通り楽しんでほしいですね。
また、別の角度からですが、いま日本の競馬のレベルはかなり上がってきますし、また血統面でも世界にヒケをとらないし、種牡馬・繁殖馬のレベルもかなり高くなりました。それに伴い競馬に関わる人間のモチベーションも高まっています。
今、海外でも活躍する日本人が多くなりましたが、それに競馬も近づいています(実際にドバイWCで日本馬が1.2着になったように追い越したかもしれません)。バブル時には戻らないかもしれませんが、一人でも多く競馬に参入していただいて、一時のような勢いを取り戻してほしいですね。



【湯日 健治】 Kenji Yuhi

社台グループ京都事務所勤務。ハイセイコーやタケホープの現役時代に競馬に興味を持つ。他業種の経歴を経て、社台グループに入社。所属馬の近況や、レース後の関係者の談話を逐一取材し、クラブ出資者のために最新情報を提供している。一番好きな馬は「生で観たことはないがテンポイント」