関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

吉澤克己社長

吉澤社長から見るゴールドシップ

-:須貝先生の管理されているゴールドシップなんですが、社長から見てどういう馬ですか?

吉:ゴールドシップは難しい馬です。こちらが怒ったら、3倍返しされます。

-:“馬 対 人“”じゃ、ちょっと勝てないですからね。

吉:ゴールドシップには勝てません。どんな馬でも扱いやすいようにしてきたけれど、この馬はちょっと難しいかも知れない(笑)。でも、将来は種馬になる馬ですから、少々うるさくてもいいでしょう。

-:ちなみにゴールドシップを一番最初に見たのはいつですか?

吉:一番初めに見たのは明け2歳の2月の末に福島で見ました。北海道から福島に来た時です。その頃から立ち上がるし、止まるし、従業員が病院送りになりました。すごくヤンチャでした。ヤンチャだけれど、今ほどではなかったです。当時は今ほどパワーもありませんでしたから。トラックに入れたら、言うことは聞くんです。どうしようもないヤンチャではなかったから、走る馬になるんじゃないかなという思いはありました。ここまで走るとは思っていませんでしたが(笑)。2月の末に僕と出会って、3月11日に地震にあったんです。

-:地震の時にゴールドシップは福島にいたんですか?

吉:はい。“3.11”の福島で地震にあいました。コレは大変だと思って、さっき言った通り、北海道に戻しました。



-:福島から北海道に帰っていったんですか?

吉:せっかく24時間掛けて福島まで来たのに、2週間もたたないうちに馬運車に揺られて、北海道に戻って行きました。北海道から弊社の分場の石川県に行ったりとか、あちこち回りました。そういう意味では僕も須貝先生もあの馬に何も調教していないですよ。あの馬を調教したのは馬運車の会社です(笑)。

-:馬運車の移動で鍛えたんですか(笑)。

吉:結果的に、馬運車がゴールドシップを鍛えたのかもしれません(笑)。でも、あの大地震にあってなかったら、もっと言うことを聞かない馬になったかもしれません。地震の大揺れで大人になったのは確かです。

-:人間にはイジめられていないけれど、地球にはちょっと脅された訳ですね?

吉:脅されましたよね。

-:強い精神力の馬ですね。そこで終わる馬もいるかもしれない恐ろしい状況でしたからね。

北海道の本場と信楽の連携

-:WESTが完成して北海道の本場との連携について教えてください。

吉:北海道とWESTと栗東、これを一つのラインで考えています。北海道の場長から報告を受けて、個々の馬の特徴や癖を把握して信楽のWESTに送り出す。この馬はこういう風にエサを食べるとか、こういう装蹄を気をつけなくちゃいけないとか、調教はこうした方が良いと、WESTの場長が北海道の場長から引き継ぐ仕組みです。そうすると、タイムラグがなくなります。例えば、違う育成牧場から来たら、どういう状態で入ってきたのか詳細が分からないですからね。

-:入厩する馬の個性や癖など把握するまで時間が掛かってしまう?

吉:そうです。そうなると1カ月はロスすると思います。北海道~WEST~栗東、みんなこの馬を知っている訳ですから最短距離で、一番良い仕事が出来るシステムなんです。だから、調教師の先生方にお願いしたいのは1歳から北海道に入れて欲しいんです。そうすると、最初から一貫性を持って、スムーズな調教ができる。

-:英才教育ですね。一番ケガもさせず、管理していけると?

吉:はい。

-:例えば、レースを経験した馬がいて、ソコソコ成績が出るようになってきた時に、じゃあ、もうワンランク上の馬にしようといった時に、“乗りやすさ”というところが出てきた時は馴致まで遡らないとできないですよね?

吉:そういう馬もいますよ。

-:それを1歳からやることが後に生きてくるんですね。リスクを背負って購入した馬主さんの大切な馬を“乗りやすく”育ててくれる。

吉:あと、弊社の牧場の技術的なことで言えば、ゲートが得意なんです。ここからトレセンに行った馬は1週間でゲート試験を受かります。それも厩舎と綿密な打ち合わせをしながらになりますが、すぐに受かっていますよ。ここからトレセンに入ってデビューする馬というのは、だいたい1コーナーは1番手、2番手にいる馬が多いんですよ。

-:もしかしたら、ゴールドシップも吉澤ステーブルに入厩していなかったら、もっとスタートが遅い馬になったかもしれないですね。

吉:いや、初めは速かったんですよ(笑)。でもゴールドシップはアレで良いんです。あの馬は特別ですから。だから、栗東や美浦で、ゲートが苦手な馬はウチに来ることも多々あります。ゲートに入らなくなってしまった馬、モタれる馬、暴れる馬は時間が掛かります。弊社ではゲートを直して、整え直して、少しでも成績が上がるような馬にする調教を心がけています。

-:まだまだ、話を聞きたいところで、興味津々なんですけれど。また、機会を改めて、第2回の取材をお願いします。今年の2歳馬の話も、もうちょっと時期が進んだらよろしくお願いします。

吉:今回のようなインタビューを受けることは希なんですよ。震災の時に1回受けたくらいです。通常は牧場長が取材をお受けしています。北海道の牧場長、WESTの牧場長が受けているから、僕が雑誌とか、テレビとかのインタビューに出るというのは、ほとんどないんですよ。

-:最後にもう1つだけ質問させてください。今年デビュー予定のウオッカの2011(父sea the stars)の(調教の)進み具合いを教えてください。

吉:ウオッカの2歳は北海道で順調にメニューをこなしています。アイルランドから北海道に入った当初は馴致も終わっていませんでしたが、今ではハロン20秒程度のところまで進んでいます。性格はとても賢く、人に対して素直な馬です。急な物音にも動じない精神的にしっかりとした馬なので今後が楽しみです。

-:このような機会をありがとうございます。しかも、貴重な単独取材をありがとうございました。我々ファンには直接、関わり合いがない育成場が見れて勉強になりましたし、今後共、よろしくお願いします。

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【吉澤 克己】Katsumi Yoshizawa

1994年、北海道の浦河町で牧場を開場。乗馬で培った技術、ヨーロッパで学んだ経験を活かし、前衛的なスタイルで頭角をあらわすと、タニノギムレット、ウメノファイバーなどの活躍馬を輩出。北海道と福島に牧場を構えていたが、2011年の東日本大震災をきっかけに新たな牧場を造ることを決意。昨年秋から栗東トレセンの近郊(車で30~40分)である滋賀県甲賀市信楽町に「吉澤ステーブルWEST」を設立。
WESTだけで約150頭弱の管理馬、40人の従業員を抱え、ゴールドシップを筆頭に栗東トレセンの有力馬の外厩として、重要な役割を帯びる。「僕が雑誌とか、テレビとかのインタビューに出るというのは、ほとんどないんですよ」と語るように、貴重な独占取材に応じてくれた。

≪関連リンク≫
吉澤ステーブル 公式HP