関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

高野容輔調教助手

デビューが今年4月と、同世代には遅れをとったため、春のG1シーズンには間に合わなかったスマートレイアーだが、目下4戦3勝の勢い・内容は光るものを感じさせる。今回は、秋華賞最大の惑星として、注目を浴びる同馬の中間の調整過程や、素顔を担当する高野容輔調教助手が語ってくれた。

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1週前追い切り後のコメントはコチラ⇒


末恐ろしい潜在能力

-:秋華賞のスマートレイアー(牝3、栗東・大久龍厩舎)について、高野調教助手にお話を伺います。前走の夕月Sは圧倒的な人気に応え、素晴らしい末脚で勝利し、気持ちよく秋華賞に臨めますね。4戦3勝とほぼパーフェクトな成績ですが、普段はどんな馬ですか?

高野容輔調教助手:普段はすごく大人しい馬で、手がかからない、というのが第一印象ですね。

-:乗っている感触や、乗り心地などはどうでしょうか?

高:少し腰が高い馬で、まだキ甲が抜けきってないようなところもあります。体型的なものもありますが、走りにしても手前変換がおかしなところがあって、ユタカさん(武豊騎手)も「まだ完全にはしっかりしてないね」と言う中で、あのパフォーマンスですからね。馬体に成長の余地がある気もしますし、まだまだ進化するんじゃないかなと思いますね。

-:そういう状況でこれだけの末脚が使える秘訣はどこにありますか?

高:持って生まれた馬の能力というのが第一にありますね。前走も向こう正面から右手前で出ていて、手前を変えるのが早かったんですよ。競馬だけ見ればスマートなレースをしているのですが、上がってきてから脚をぶつけていたりだとか、あちこち傷をつくっていたりだとか、馬は荒削りですね。競馬の見た目と、馬の中身にギャップのある馬ですね。

-:末恐ろしい馬ですね。

高:恐ろしいですね。最初は脚元に不安な面があったのですが、それも解消されています。

-:それは4月デビューという、デビュー時期が極端に遅いということからもわかります。桜花賞、オークスに進めず、夏の成長を待って秋に懸けて、その策がピタリと嵌って秋華賞へと駒を進められる。それでもまだ完成途上の状態で挑む、初のG1になりますが、この馬は素質でクリアしてくれそうですか?

高:コーナー4つの競馬が初めてなので、そこがどうかと思うのですが、折り合ってユタカさんの手の内に入れてくれればと思います。今週の追い切りも、馬が自分でグイグイとハミをとっていたので、気が乗りすぎて逆に少し心配なぐらいです。

-:そのくらい、いい意味で元気いっぱいということですね?

高:そうですね。G1に向けて馬は万全の状態で出せるのではないかと思います。

夏を越してパワーアップ

-:今度は舞台が京都の内回り2000mに変わります。おそらく後方からのレースになるデニムアンドルビーよりも一つ手前の、メイショウマンボと近いポジションでレースを進められると思います。メイショウマンボにもヒケをとらない切れ味のある馬だと思いますし、京都の馬場状態を考えると、末脚だけで突き上げてきてもおかしくない一頭だと思いますが、いかがでしょうか?

高:2戦目に東京の長い直線で、3F32秒台という恐ろしい時計で走っていますし、長い脚も使えるし、切れ味もある馬です。デニムアンドルビーが強いとは思いますが、内回りという舞台はスマートレイアーに分があるし、メイショウマンボも叩き2走目で状態は上向いていると思いますが、レイアーもかなり前走からいい感じできているので。

-:前走よりも状態は上がっているという手応えはありますか?

高:はい、あります。

-:夏にトレセンに入る前は吉澤ステーブルで調整されていたということで、春から馬が変わってきた点はありますか?

高:折り合いがつきやすかった馬なのですが、だんだんと自分から行くようになって、走る気が前向きになってきました。パワーという面でも成長してきていると思います。ただ、未だに走り方が完成されていないというところもありますね。



-:ファンが気になっているのは、デビュー3戦目、新潟での敗因だと思います。このレースの敗因というのを教えてください。

高:帰って来てから飼葉食いが落ちたんですよ。タイミング的に歯が変に割れていたり、抜きにくい歯もあったりしましたからね。あとは馬房が過去2走と違う位置だったなど、色々な要因があったので、どこが飼葉食いが落ちた原因なのかは、正直わからないです。ですが、歯も治療して、馬房も元の位置に戻したら、飼葉食いが戻りました。その一時、飼葉食いが落ちたところで、全体的な部分をしっかりできなかったところですかね。輸送もありましたし。

-:この時のプラス10キロというのは、実際はもう少し内容の濃いプラス10キロであったはずが、少し辻褄合わせのようになってしまったのですか?

高:この馬もその時はまだ3走目だったので、こちら側としても、まだこの馬のことを把握しきれていなかった部分もありましたし、少し帳尻合わせのような感じになってしまいましたね。

-:中間の馬体重ですが、前走は462キロで、新潟で負けた時からマイナス8キロでした。体重自体はこれ以上減らない方が良いと思うのですが、中間の馬体重を教えて頂いていいでしょうか。

高:474キロですね。

-:前走から換算すると12キロ増えた状態ということなのですが、来週に最終追い切りをして、競馬場に行った時にどのくらいになりそうですか?

高:470キロくらいかなと思います。攻め手を緩めてもいないですし、調教をしっかりとこなして、飼葉を食べています。今週は追い切りでも鞍上が持って行かれてしまうような勢いで、プラス体重になっても、パワーアップしていると受け取ってもらっていいと思いますよ。

-:それでは前走からの疲れなど、そういったことはありませんか?

高:無いですね。いい状態で初G1を迎えられると思います。

武豊騎手とのコンビでスター街道を駆け上る

-:ここまでの出世街道を見てきて、楽しみにしているファンの方も多いと思うのですが、逆に初めてスマートレイアーを見るファンもいると思います。父ディープインパクト、母父ホワイトマズルという、大久保龍志厩舎ならでは、と言っていいような血統のこの馬の素顔を、ファンの方々にむけて教えてください。

高:普段はよく寝る子です。めちゃくちゃ寝ますね(笑)。本当におっとりしているのに、競馬でジョッキーを乗せた瞬間にガンガンハミをとって行く気を見せるので、オンとオフがはっきりしている馬かなと思います。

-:返し馬であまりカッカして行かない方が良いタイプですか?

高:そこまで引っ掛かって行くというタイプでもないので大丈夫だとは思います。

-:ただレースでは折り合い面が鍵ですよね。

高:そうですね。前走くらいの折り合いが理想です。

-:あまり外枠に入らず、真ん中からやや内くらいで、馬の後ろで我慢させたいですね。

高:そうですね。それでも鞍上がユタカさんですし、僕自身、枠はあまり気にしていませんね。



-:武豊騎手も良きパートナーになってくれているし、ドンと構えて見ていてくれ、ということですね。あとの問題は単純に春の実績馬との力量差が、どのくらいあるのかということだけでしょうか?

高:デニムアンドルビーは重賞も勝っているし、前走も強い競馬をしていますが、今はそこまでの力量差は無いと思っています。

-:前哨戦のローズSは雨で、ペースも流れて、特殊な状況だったと思います。これがファンにとっては馬券にスマートレイアーを足すかどうか、という悩ましい問題に繋がっているのですが(笑)、高野助手から見ての意気込み、ファンへのメッセージをお願いします。

高:芦毛はゴールドシップだけじゃないぞ、という。スマートレイアーは女の子ですけれどね。新たな芦毛のスターホースの一頭になれるよう、まずは秋華賞を取りたいですね。馬券でも是非、応援してください (笑)。

-:凱旋門賞だけではなく、国内のレースも注目したいですね。

高:そうですね。ユタカさんには、まずキズナで勝ってもらって、弾みをつけて秋華賞へ、という感じでお願いしたいですね。

-:ありがとうございました。




【高野 容輔】Yousuke Kouno

兵庫県揖保川町出身。中学2年生の時にシルクジャスティスが勝った有馬記念で競馬に引きこまれ騎手を志す。2002年3月に福永甲厩舎所属で騎手デビュー。当時は減量騎手が溢れており、師匠の方針もあって平地、障害の双方で活躍。現役時代の思い出の馬としてJ・G1を制したメルシーモンサンを挙げる。「自分とだぶるというか、派手さないけど、コツコツと地道にやり続けて、結果としてそれが実になった」。48キロでマーメイドSを制したトーホウシャインについては「減量することだけを考えていて、嬉しかったというよりも、驚きの方が大きかった。あの時初めて、自分の体脂肪とか無駄な肉が最初からなかったんだということに気づきました」と。

2010年に騎手引退後は吉岡八郎厩舎に所属し、日吉正和厩舎を経て現在は大久保龍志厩舎の調教助手に。「スタッフになってから、レースにベストの状態で持って行かないといけないという難しさがある。自分では文句なしにできたと思っていても、競馬に行ったら結果が出ないとかジョッキーをやっていた頃よりも正直難しい。馬の癖に合わせて、仕上げたことを引き出せるような状態に持っていくようにしなければいけない」。騎手時代の経験を生かし、攻め専として名門厩舎を盛り上げている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。