ハイセイコーに乗れたキッカケは嫌々乗った菊花賞

-:良いジョッキーと言えば、名馬との出逢いが重要かなと思います。先生といえばハイセイコーダイナガリバーですよね。

増沢:僕にあの馬が回ってきたというのは運が良かったんだよ。その前にイシノヒカルとの出逢いだね。1回乗って勝ってたんだ。2回目が菊花賞で、僕は福島にいたんだよ。調教師さんが来て「菊花賞に乗ってくれ」と。「行くの嫌だからいいよ」と答えると、「いや、行ってくれ、行ってくれ」と。とうとうしょうがないから行ったよ。行ったって、馬も何にも見ない。いきなり装鞍所に行って。そうしたら馬場に入ったらバカついて、なかなか向こうに行かないしさ、その内に(蹄)鉄を落としちゃってさ。

話もしたように、僕は競馬でだいたいが前の方に行くのに、あの馬の時は19頭立ての18番目でずっと後ろにいたの。行き始めたのは下りからだよ。そうしたら、タイテエムら良い馬ばっかり前にいたんだ。しかし、手応えが違うから、4コーナーを回る時はハナに立つくらい楽勝。それを見て「ハイセイコーに増沢を乗せるか」となってね。菊花賞を勝って有馬記念も勝ったの。有馬記念も楽勝さ。


圭太:先生があまり好まなかったというのは、馬場入りの難しさがあったからですか。後ろから行くからですか?

増沢:後ろから行く、前から行く、ではなくて、あの馬はあまり好きじゃなかった。

一同:(笑)

スペシャル対談

増沢:あの時は福島にいて、京都への移動だから、何でそんな遠い所までと。自分勝手だよな。それが、嫌々行って勝ったというんだから。あの馬に3回乗った内、3回勝ったんだから、ハハハ。

-:戸崎さんはそんなわがままなエピソードはありますか?この馬は嫌いだなというのはありますか。言えないですか?

圭太:(焦りながら)いやいや、どうですかねぇ。

増沢:それは嫌いだって言うのは、走らない馬が嫌いだよな、ハハハ。

圭太:走らない、さらにうるさいというのもありますね。走らないにしても大人しい馬の方が良いですよね、フフフ。

増沢:だが、馬というのはバカにするもんじゃないな。本当に分からんものだ。あんな馬が突然……(大化けする)というケースがあるよね。後に急成長を遂げるような。人間でも絶対にそうだと思う。だから、絶対に人をバカにしたり、馬をバカにしたりするのは性分じゃないなと。

-:重い言葉ですね。

増沢:うん。

スペシャル対談

▲「馬や人は決してバカにするものじゃない」と説く増沢氏


-:ハイセイコーに乗られていた時は、今の入場人員よりもズバ抜けてお客さんが入ったと耳にしました。

増沢:ああ~そうだな。あんなに入ったのはないだろうな。あの馬は中京の高松宮杯にも行ったのだよ。普通なら中京は2~3万人が(キャパシティは)いっぱいじゃないの?その中京で7万何千人も入ったんだから。あの馬が1頭行っただけでね。中山では人が入り過ぎて、みんな後ろから押されて押されて、馬場に飛び込んできたんだよ。あんなのないよな。それから、(柵に)手すりのようなもの付けたでしょ。それからだよ。

-:弥生賞で12万人ですか。

圭太:G1じゃないのに?初耳ですし、今では考えられないですね。

増沢:あれからだな。女性ファンが多くなったのはね。それまでは、みんなガラの良くないニッカズボンを履いて、そんなのばっかりだよ。今なんかアベックで一杯来てるからね。あれからだもん。

緊張感を克服するには?

-:それだけ注目を浴びる馬に乗っていて、緊張感やプレッシャーは並大抵のものではないですよね。

増沢:僕なんて気がちっちゃいもん。いつもドキドキ。トイレはしょっちゅう行くし。

-:今からは想像できないほど、今日はどっしりとされていますが……(苦笑)。戸崎さんはご自分でメンタル的な部分はいかがですか?

圭太:僕もやっぱり緊張する方ですね。それだけの馬でそれだけの観客がいて、どうやって我慢していたんですか?

増沢:ベロを噛んでいたら良いよ。緊張する時は自分のベロね。痛くなって血が出たらダメだよ(笑)。やっぱり自分で噛んで痛いとわかるよね。あまり分からなくなる時があるんだよ。これから一杯そういうことがあると思うからやってみい。

-:今のところ、レースでそれほどの緊張感というのはありましたか?

圭太:僕は本当に緊張する方なので。フリオーソなんて乗っていても、前に行く馬であったので、ゲート裏などでは緊張しましたね。他にも多々ありますよ。下のクラスでも人気していると、少し感じたりしますね。

増沢:誰でもやっぱり緊張するよね。こういう仕事だから。ただ、乗っている人の方がまだ良い。見ている方がかえって緊張するなあ。(調教師として)馬を出して見ている方が。やっぱり競馬は騎手の方が良い。面白い。僕なんか乗っていて面白かったもん。今でも最高であったと思う。

増沢末夫×戸崎圭太

-:騎手という職業に魅力があったということですね。

圭太:緊張はしますが、やっぱり騎手になれて良かったとつくづく感じますし、充実感を日々の騎乗につなげたいですよね。

増沢:でも、調教師をやっていても、今はアメリカには行かないだろうが、向こうに行ってバンバン競って、5~6頭買ってくるんだから。それが面白い!馬主さんのお金でさ。

圭太:ハハハ。

増沢:人の金だからな(笑)。

-:海外といえば戸崎さんもこれから視野を広げるために……。

増沢:チャンスがあったら行った方が良いよ。それが今のうちなんだから。若いうちは、何でも自分の好きなことをやった方が良い。

圭太:具体的に考えてはいないのですが、今後、そういう機会も増えてくるのかとは思っています。今年は招待競走もあるかもしれませんからね。