競馬界に新風を吹き込むか。ハナズゴールでおなじみのマイケル・タバートオーナーがつい先日、個人馬主向けのオーナーズクラブ「ニューワールドレーシングオーナーズ」の立ち上げを発表した。従来のクラブとは、一線を画する形態が魅力に映るが、聞けば一般ファンでも参加が可能なクラブも準備中とのこと。タバート氏はどのようにして、このクラブを発起するに至ったのか。競馬ファンの多くが一口馬主に出資するようになった昨今で、一石を投じるクラブとなるのか。その戦略に迫った。

 第1章:ハナズゴールのオーナーが新たなクラブを設立
 第2章:タバート氏と日本の競馬との出会い
 第3章:海外競馬を模にしたクラブシステムに
 第4章:やるなら、このクラブ方針しかない タバート氏の決意

キーワードは「循環」 ハナズゴールのオーナーが新興クラブを設立

-:今回、ニューワールドレーシングオーナーズを設立された、「ハナズ」の冠名でおなじみのマイケル・タバートオーナーに伺います。今回、個人馬主さん向けの出資を募られているわけですが、この構想は、いつ頃からあったのですか?

マイケル・タバート氏(以下、タ):けっこう前からで、3~4年前ですね。ただ、本業もあるので、なかなか行動を起こせなかったのです。個人馬主として、ハナズゴールがG1を勝ってくれるなど、僕は恵まれてここまで来たのですが、周りの馬主の方を見ても、個人馬主では限界があるなとすごく感じていました。競馬って“循環”だと思うんですよ。だから、今回も桜花賞、ダービーと目標を決めて、“厩舎はすべて栗東・外厩は1カ所・育成も1カ所”このチームワークでみんな同じ目標に向かってやっていくというのが、まず一つ大事だと思います。厩舎は出来るだけ結果を出していて、一緒にやりやすい厩舎、それで良い騎手を乗せたい、これが個人馬主ではなかなか出来ないんですよね。

マイケル・タバートオーナー

▲個人馬主の窮状から、クラブ発足を決意したというタバート氏

まず“厩舎に入れてくれない・騎手は乗ってくれない”。これがいまの競馬の実態だと思うので、これで個人馬主を続けていても、結果を出すのが凄く難しい。それで、結果が出なかったら、馬は走らないから、厩舎に入れない。だから、循環だと思うので、結果が出るように持っていって、結果が出たら、さらに良い環境になる。例えば僕の馬が17連勝していたら、「次にこの馬が出るので」と言ったら、リーディング上位の騎手が乗ってくれると思うんですよ。でも、ずっと下位の騎手が乗っていて18連敗していたら、結果が出ていないから、「次、誰それに乗って下さい」と上位の騎手にお願いしても、なかなか乗ってくれない。育成を取っても、厩舎を取っても、やっぱり良い環境でやらないと良い結果が出ないんですよ。結果が出ないと、もっと結果が出ないんですよ。結果が出ると、ドンドン結果が出ると思います。

-:今の競馬界はむしろ個人馬主さんに引く手あまたなのかと思っていましたが、そんな実情は存じなかったです。

タ:僕も多い時は40頭持っていましたが、それはお母さんなども含めての話。現役が一番多い時は12~3頭ですね。共有を始めても、人の名義によっては、色々な厩舎にお願いしても「ウチはいっぱいです」と言われる。今回のオーナーズはある意味、共有に似たスタンスです。今年は6頭ですが、来年はもっと揃えていきますし、「ウチとの付き合いをお願いできませんか?」と言うと「お願いします」となりやすいですよね。今度、日高メインで、クラブも同じ発想でやるのですが、正直、いまの日高のブランドは低いのは事実です。それだけではなかなか難しいと思って、海外からも目玉になるような馬を買ってきて “そういう馬もいるので、ひょっとしたら来年はああいう馬に乗せてもらえるかな・預けてくれるかな”という期待を持ってもらえるようにしたいです。本当は日高だけでやりたいけれど、色々考えて、良いラインナップにしようという思いはありますけどね。

-:「クラブ」ということは、今いただいている冊子とホームページに載っているオーナーズとは違う、ファンも参加出来るようなものも始まるわけですね。

タ:そうです。40口でやります。値段やどこの厩舎かというのはまだ言えないのですが、近々リリースできるのかと。フランケル産駒が2頭いまして、ディープインパクトの牡馬が1頭、オルフェーヴルの牡馬が1頭。他はルーラーシップやダイワメジャー、エイシンフラッシュなどですね。

【ニューワールドレーシングの主なコンセプト】

・入会費、毎月会費、年会費は一切なし

・育成が始まってから引退まで毎日の情報更新

・レントゲン、喉検査の映像や心臓検査結果など、獣医チェックの情報を全て開示

・明確な目標=桜花賞(牝馬)、ダービー(牡馬)を掲げ、
出資馬が出走した場合に所属厩舎に謝礼金500万円をボーナスとして支払う

・浦河町を中心に、日高の牧場が生産し育てた馬を厳選

・会員の声をなるべく反映する姿勢

詳しくは『New World Racing』公式サイトへ⇒
https://newworldracing.jp/


「情報をオープンにして会員さんには納得してもらえるように。ケガをしたらケガをしたで、どう対応するかというのは、馬がケガをするのも含めて馬主なので。全部オープンにやっていきます」


-:個人馬主さんじゃなくても買えると。

タ:そうです。ただ、会員さんは増えて欲しいのですが、1人1人を大事にしたいなと思っています。400、500口でやったりしているクラブが多く、その方が買いやすくはなるし、買える層も増えるので、ファンは喜ぶと思うんですよ。でも、馬主体験といいますか、本当に買うのだったら、それこそ毎日、動画などを配信したりしていますし、その馬ごとのLINEグループを作る形にしようと思っているんですよ。こうすると、みんなの意見も聞けるし、更新情報はここに貼って、ホームページをわざわざ観に行かなくても毎日届くという感じになる。意見が言えるし、騎手は誰が良いという会話もみんなで出来るし、本当に仲間でやっている感じでやりたいなと思っています。いまオーナーズは2頭が満口になったので、実際にこのLINEグループが2つありますね。そういうのを40口でもやろうと思っています。ただ、そもそもの問題として、どうしても1口の値段が高くなるので、そこのバランスに悩みましたね。

-:色々な人に参加はして欲しいですが、ある程度会員さんとの距離をしっかり持つということを考えると、口数を絞らざるを得ないということですね。

タ:本当にそうです。色々な人に入って欲しいけど、入ったからにはどうでも良い会員ということにはならないように、ちゃんと1人1人に対応が出来るようにしたいなと。スタッフもSNS専属の人もいますし、会員さん対応、おもてなしをする専属の人もいます。

-:北海道のお魚が届いたとSNSでも見ました。LINEもそうですが、SNSにも力を入れられていますよね。

タ:競馬ファンに好かれるクラブになりたいと思うんですよね。だから、こちらから発信していきます。もちろん競馬の世界なので、1番人気で負けるとバッシングも避けられないと思うのですが、情報をオープンにして会員さんには納得してもらえるように。ケガをしたらケガをしたで、どう対応するかというのは、馬がケガをするのも含めて馬主なので。それを隠されると馬主としては不満が溜まると思うので、全部オープンにやっていきます。もちろん満口になったら、会員だけの情報は大事なので一線を越えないようにしたいですが、まだ募集中で満口になっていない間はオープンにして、みんなに知って欲しいのでね。それまではツイッターでも何でも発信していきますよ。

マイケル・タバートオーナー

▲2012年のチューリップ賞 ハナズゴールで重賞初制覇を成し遂げたタバート氏

まだ言えない企画もありますが、折角やるからには盛り上がって、来年、再来年と頭数を増やしていって、最終的には日本の競馬界の中ではそれなりに存在感のあるクラブになっていければ最高です。今まであまり競馬が好きじゃなかった人たちにも届くように色々と考えているし、一般の競馬ファンだったら、高いところは難しいけど、1口をやるのだったら、あそこの馬を持ちたいと思ってもらえるように、楽しくやっていきたいなというのはありますけどね。

しかも、売れなくても自分で持てるし、全部売れたら逆に寂しいので、という話は色々なところでさせてもらっているんですけどね。本当に全部馬が売れたら、初めて僕の馬がゼロになりますから。大井とかでもちょっと走らせると思うのですが、楽しくして会員さんが増えていったらいったで、より良い厩舎、より良い騎手、さらに良い循環が出来るし、みんなを大事にしてドンドンやっていきたいなと思いますね。

-:こういう経費とのバランスを考えることは、もともと本業としてプロなわけで、どんとこいですね。

タ:まあ、そうですね。本業が会計事務所なので。今回のオーナーズにしてもギリギリの値段設定で、色々言われるかもしれないですが、僕はメチャクチャ安いと思っているんですよ。この6頭がセレクションセールに出たら、すべて募集価格を超えると思います。それでも僕が牧場を回ったりしていると、この値段より安く買えている訳ですよね。でも、生産者が喜ぶ値段で買っていて、会員から見ても安い。特に日高はこういう馬が多いので、そういう馬を見つけてきて、そのギリギリのところでこっちがやっていけたら回るので、あとはちょっとでもこういう形で還元していくという、もちろん賞金で還元出来れば一番良いですが、保証がないので、馬が走らなくても楽しかったと思ってもらえるようにやるのが趣旨なんですよね。

▲SNSの活用も頻繁なところもクラブの特色といえる

「(ラインナップには)自信を持っているので、セレクションセールに出ていれば間違いなく、この値段よりは高くなっている馬ばっかりだと思いますよ」


-:今回の馬選びというのは全部タバートさんが担当されたわけですね。

タ:そうです。アイルランドにも行って。

-:アイルランドはもともと伝手のある国だったのですか?

タ:全然ないです。ただ、今まで色々な人脈というか、海外の関係者と沢山会ってきましたが、皆、いま日本の競馬にはものすごく関心があるんですよ。僕はいつも情報を求められて出している方なのですが、例えば、何年か前に「後に海外でG1を勝った日本馬を買いたい」と相談されることもかなりありました。「いま日本馬を買いたい。ヨーロッパのG1を勝てる馬、ドバイのG1を勝てる馬を紹介して下さい」と。「それ、絶対に買えないでしょ(笑)」と。海外のお金を持っている人は誰もが日本馬を欲しいんですよね。

-:アドマイヤデウスも最近、トレードされましたね。

タ:そうです。実際にオーストラリアで特にそういうケースがあるのですが、そういう人たちに今まで対応してきたので、「今回は逆にお願いがあるんだけど」という感じですね。「良い馬がいたら教えて欲しい。(今回はフランケルが欲しかったので)こういう血統を」ということでね。もともと子供がデビューする前からフランケルは絶対に成功すると思っていたので、ハナズゴールも連れていきたかったのですが、こういう構想があったので、お金を残しておかないといけなかったのです。

例えば、日本からハナズゴールを持っていって、種付けをして返ってくるだけで、多分3000万くらい掛かるので、それくらい掛かるんだったら、ルーラーシップにしておこうかな、と。本当は付けられれば良かったのですが、これだけ走っていると、“やっぱりな”と思いますね。しかも、日本でも産駒が走っているというのが大きいので。今年は“良いフランケルの1歳馬がいたら、どうしても”と、色々なアンテナを出していたら、1頭は早々に決まりました。先に代金は全て払わないといけないので、お金は大変ですが、本当にこれだったら夢があって、それこそ最終的に引退して、日高で将来的に有名な繁殖や種牡馬になる可能性がある馬だと思います。

日高の馬は、牧場に何回行ったか分からないくらい自分で行って、選びましたが、楽しかったですね。普通に「馬を見せて下さい」と言ったら、「いま寝ていました」とパジャマで出てくるなんてことも。そういう個人の牧場にも回ったりしていて、雨の中や実際に放牧されている中に歩いていったりだとか。泥が付いたままだけど、この馬はオーラがあるな、ボス的な感じだな、このトモが好きだな、と色々考えましたね。自信を持っているので、セレクションセールに出ていれば間違いなく、この値段よりは高くなっている馬ばっかりだと思いますよ。

幼少期から馬主を志し、現実に。
マイケル・タバート氏独占インタビューPart.2はコチラ⇒