ノーザンファーム天栄・木實谷場長 独占インタビュー前編はコチラ⇒

秋競馬も美浦所属のノーザンファーム生産馬が旋風を巻き起こしている。9月10日の京成杯オータムハンデをグランシルクで勝ち、同18日のセントライト記念もミッキースワローで制して2週連続の重賞制覇を成し遂げた。同24日には、いよいよダービー馬・レイデオロが神戸新聞杯で始動する。ノーザンファーム天栄・木實谷雄太(きみや・ゆうた)場長のインタビュー後編では、夏場を過ごしたレイデオロの様子や強い馬づくりの信念などを聞いた。

(インタビュー、構成:競馬ラボ・狩野)

馬も人も世界トップレベルに育てる

調教メニューの構築や、環境の整備などに尽力してきたが、成績を上げるために最も力を入れているのが人材の育成だという。ノーザンファーム天栄のスタッフは総勢約100人。約7割が現場スタッフで、3人の獣医や装蹄師、事務所の職員などもいて仕事内容は様々だ。個々のレベルアップを図りながらも、結果を出し続けなければいけない世界。競馬界全体で「乗り手不足」が深刻な問題となっている時代に成績を向上させていくためには、人材育成が最重要課題だと話す。

木:ノーザンファームは世界でもトップクラスの繁殖牝馬を繋養し、産まれてくる馬の素質も同様のものだと思います。しかし、そんな中でも扱う私たちスタッフの技術が伴わなければ能力を発揮させてあげることができません。素質を活かせるかどうかは人次第。今後も人材育成に力を注いで、馬だけでなく、スタッフも世界トップレベルの集団になりたいと思っています。

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▲「人材育成」の重要性を語る木實谷雄太場長

スタッフは忙しい毎日を送るが、場長の仕事は想像以上に多い。取材中も調教師や馬主からの電話が鳴り止まず、ひっきりなしに現場からの無線が入ってきた。自ら馬に跨る日もある。「不定休」という多忙な生活でも、仕事について語る表情には充実感が漂っていた。

木:大変だと思うことって、自分のやりたくない仕事じゃないですか。僕自身が馬に乗ったり、馬を見ることが好きだから、全然苦じゃないですね。素晴らしい馬やスタッフと一緒に仕事することができて、本当に恵まれているなと感じています。

ここにいるのは1週間の半分くらいですかね。火曜の昼くらいから水曜は美浦にいて、土日は競馬場にいます。1日の流れとしては夏だと4時半スタートで、午前中はだいたい11時くらいまで。自分で馬に乗ることもありますし、調教を見たりします。午後は調教をしないので、1時半から4時とか5時頃までトレセンから帰ってきた馬を見て健康状態とか回復具合、競馬場に向かえるかをチェックしたり、事務作業をしたりという感じです。

ダービー馬レイデオロの完成は来年の秋!?

こうした日々の積み重ねが、大きな花を咲かせた。デビュー前から鍛えていたレイデオロが日本ダービーを制覇。ダービー直後からの約2カ月半の間は、涼しい北海道には帰らずノーザンファーム天栄で秋に備えていたが、どんな様子だったのか尋ねてみた。

木:さすがに戻ってきた直後は疲れた様子を見せていましたね。馬房でも寝ていることが多かったですし、歩かせたりしても少し力が入っていないように感じました。ただそこからは順調に回復して、8月23日にトレセン入厩するまでしっかりと乗り込むことができました。体重こそ大きくは変わりませんでしたが体高が伸びましたし、始動戦に向けて順調に調整が進むことを願うばかりですね。

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▲レイデオロは夏をノーザンファーム天栄で過ごした

それぞれの馬に合わせて最善の方法を選ぶという信念は変わらない。レイデオロは世代の頂点に立ったが「まだまだ未完成」だといい、今後の成長に期待を込める。

木:完成度としてはまだ6、7分ぐらいじゃないですか。それでダービーを勝ったのですからすごいと思いました。筋肉や体幹はしっかりしていると思いますけど、体質がまだまだ弱くて、調教やレースでの反動があってダメージが大きい馬です。メンタルの部分では、オンとオフがハッキリしていますね。牧場だとノンビリしているんですけど、返し馬やパドックでは必要以上に気負ったりします。それでいてレースでは、ああいうダービーみたいなレース運びができるんです。そういうところは不思議ですし、逆に長所なんじゃないですか。来年の秋くらいにはだいぶイメージ通りの姿になるかなと想像していますが、その時にどんな走りを見せてくれるのか。本当に楽しみにしています。

馬券的中の近道は「数字にとらわれない」

数字にはとらわれない。自ら馬券を買う場長は、多くのファンが気にする追い切り時計や併せ馬での遅れ、馬体重の増減を確認せず、自分の「目」を信じる。

木:追い切りの時計もそうですけど、数字とかの情報だけにとらわれ過ぎるのは良くないのかなと思います。実際に牧場でも坂路コースは3Fの自動計測で時計も表示されますし、管理面でいえば毎週月曜日に全馬の体重を計測しています。ただ、あくまでも数字は目安で、調教では乗り手の手応えや馬の息遣い、馬体を見る時も増減にとらわれず自分の見た印象で状態の良し悪しを判断するようにしています。

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▲調教の様子をチェックするモニターは、坂路コースの頂上(上)と事務所内(左下)に設置

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上記のグラフの通り、ノーザンファーム生産馬の成績は右肩上がりに上昇している。関東馬の勝ち鞍も年々増え続け、いまや「1強」と呼ばれる時代になった。直前入厩でレースに臨んで結果を残す馬が増えている中、新聞などではトレセン外の状況はわかりにくい。今後、詳細な調教情報などがファンに開示されることはあるのだろうか。

木:放牧明けの馬が天栄にいたとか、しがらきにいたとか、情報は手に入れることができます。例えば、キャロットクラブのホームページには、いつ天栄からトレセンに移動したとか、どれぐらい乗っているだとかが出ているわけです。現に競馬新聞のコメント欄には「この中間はノーザンファーム天栄に短期放牧に出ていた」などと載っている場合もありますし、コメントを出す側がどの程度情報を開示するか。またそれをファンの方々に伝えるマスコミの方々がどう対応していくのかだと思っています。

ノーザンファームは地道に勝ち星を積み重ね、施設を整備し、良血の素質馬が増えていく好循環を生み出した。新たなトレンドもつくってトップを独走していても、蓄積してきたデータと経験に基づきながら進化を続ける。

木:天栄がスタートして今年の10月で6年になるので、データもそれなりに蓄積されてきました。ある程度の傾向も見えているので、どこの数字を直していかないと全体の数字を上げられない、というデータも出てきています。数字としては(天栄からトレセンに)行ってすぐに使ったレースの成績とか、2回目、3回目はどうだったかとか、そういう変化を見ますね。ノーザンファームは日本トップクラスの規模で運営されていますから、毎年蓄積されていくデータ量も相当な量になります。そのデータを元に修正していくことができるのも強みの1つですよね。

やはり勝負の世界ですから、みんな勝ちたくて日々馬と接しているわけです。ここ数年リーディングブリーダーの座に立っているわけですが、決して奢ることなく、これからもスタッフ一丸となって更なる成長を遂げていきたいと思います。

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▲9月18日、ミッキースワローがセントライト記念を勝って2週連続の重賞制覇

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