3歳馬、サトノダイヤモンドが今年を締めた! 【平林雅芳の目】

サトノダイヤモンド

16年12/25(日)5回中山9日目10R 第61回有馬記念(G1)(芝2500m)

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中山競馬場、厩務員さん達が見守る2階席で観戦していた。目の前を通っていく馬、ゴールを過ぎて1コーナーへと入る前あたりになるのだが、サトノダイヤモンドが《こんな位置にいるのか!》とルメールの積極的な乗り方に驚いていた。
思ったとおりの流れで、キタサンブラックはマイペースの2番手。だが2コーナーを廻る時にはサトノダイヤモンドがすぐ左後ろにいた。ほぼ思い通りの仕掛けで直線へと入ってきたキタサンブラック。早めに馬体を併せてきたゴールドアクターは持ち前の根性で差し返したが、さらにその外のサトノダイヤモンドの勢いにはなす術もなく、クビ差先んじられた。
クリストフ・ルメールJの『ライバルはただこの1頭だけ』と思っての騎乗。勝ち鞍で戸崎Jに追いつけないのが事実となってから、吹っ切れたかの様な彼本来の騎乗ぶり。今年を象徴する様な2頭のゴールシーンであった…。

ずーっと単勝売り上げを見ていた。海上自衛隊の東京音楽隊の生ファンファーレが鳴った時点でも、アイパットのJRAページではまだどちらも同じ2.7倍だったし、キタサンブラックの名前がまだ上に書いてあった。レースを終えて帰りの電車の中でファンが『1番人気、2番人気、3番人気で3連単は入った』の声を耳にした。そこでサトノダイヤモンドが2.6倍でキタサンブラックが2.7倍と、差が出来ていたのを確認した。どんどんとサトノダイヤモンドの売り上げだけが伸びて行っていた現象、そして最後の僅か1、2分の間にどっと集中して馬券が入ったとしか思えない現象であった。
競馬って、何か私どもが知らないどこかで何かが起きている気がしてならないと、こんな瞬間に思ってしまう。

中山の2500芝は3コーナー手前にある。だからなのか、返し馬を馬場入りして左の1コーナーへ行く馬と、ゴール板を過ぎて4コーナーの方へと走っていく馬と二手に分かれる。馬場内のダートコースの方から出てきて、左右に散って行く馬。キタサンブラックは1コーナーへと走って行った。左へ7頭が走って行った。そこにサトノダイヤモンドが入っていなかったので右へ行ったのだろう。
見渡す場内は人、人、人の黒い頭しか見えない。スタンドが改修されたが、我々がパドックを見てスタンドで観戦していたら、とても後検量には間に合う構造ではなくなった。早めにパドックを切り上げ人込みをかき分けて、こちら側に帰ってこないといけない。移動が大変になってきている競馬場だ。パドックも、馬が周回するあたりは影になってしまい、毛艶とかはっきりと見づらい。電光掲示板側に太陽があたって、そちら側がかなり眩しいのも事実だ。
周回する馬を観ていてサトノダイヤモンドがやけに良く見える。いつもは線が細い馬の印象があったのが今回はそこも気にならない。何か男馬らしくなってきた。キタサンブラックは一瞬、《冬毛か?》と思える瞬間もあったが目の前を通る時は違っていた。少しイラっとしているところもあったりしていた。JC時がかなりピークの状態になっていたからかとも思う。サトノダイヤモンド恐るべしの感でパドックを切り上げた。

場内の応援の声が聞こえる。ゴールドアクターにけっこう声援が多く感じられた。『お前が一番強いんだぞ~』が聞こえた。昨年の覇者で、今日は落ち着きがましだった。サウンズオブアースは相変わらずうるさくしていた。馬場入りしてからレースまでが、けっこう長く感じられた時間だった。
レースが近づくといつも思う言葉を口に出す。《結果はいい。自分の力だけ出してくれ!》と。力を出して負けるのは仕方あるまい。力を出せずしての負けほど悔しいものはない。不思議とレース前だか正論に帰れる時間なんである。邪心がなくなる時である。
ゲート入りが始まる。キタサンブラックは当然に奇数から先出し、1番だから先に入っている。最後のマリアライトが入るまでに枠内でけっこうガタついていたので出る瞬間が嫌だったが、開いた瞬間にうまくタイミングを合わせて出てくれた。スタートはうまく行ったキタサンブラック。マルターズアポジーも出が早かった。そこは無理をしないで、先にマルターズアポジーを行かす。

ゴールドアクターも3番手と、思い描いた位置を取れた。アドマイヤデウス、マリアライトと続いて4コーナーを廻る。マルターズアポジーの逃げは4馬身ぐらい。キタサンブラックとゴールドアクターの間が2馬身ぐらい。この3頭はラチ沿いを通っている。
1周目の直線へと入ってきた。サトノダイヤモンドの位置を確認する。マリアライトの後ろの7、8番手にいた。1周目ゴールを過ぎるあたりで、そのサトノダイヤモンドがさらに前へと順位を上げる。目の前を通る時には、ゴールドアクターの後ろのアドマイヤデウスの外まで上がる。1コーナーを過ぎ2コーナーへと入る時には、さらに前へと出てゴールドアクターを抜く勢いだ。向こう正面に入るあたりではキタサンブラックのすぐ後ろにいる。
先頭のマルターズアポジーは、少し差を開いて5、6馬身の差。最後方はヒットザターゲットで、これも変わらず。サトノダイヤモンドの接近を、場内アナウンスも告げている。その時に、さらにその後ろにサトノノブレスも上がってきていた。ここらはある程度の作戦があったのかと、今になると思える。これも競馬だ。

向こう正面を過ぎて3コーナーのカーブに入るあたりでは、そのサトノノブレスが押して前へと出ていく。内のサトノダイヤモンドを見ながらの動きだ。まるでダイヤモンドのスペースを確保させながら、自分は前を威嚇するかの様に。この動きが1ハロンぐらいはあった様だ。
マルターズアポジーをラスト400で交わして行ったキタサンブラック。それを追う様にゴールドアクター。サトノダイヤモンドもその外を一緒に動いてきて直線へと入っていく。最内にキタサンブラック、間にゴールドアクター、少し遅れてサトノダイヤモンド。
ラスト200のハロン棒を前に、武豊Jの右ステッキが入る。JCの時は誰よりも遅い追い出しだったが、今日は早い。並ぼうとした、いや一旦はゴールドアクターが前に出た気もした。それをもう一度内から盛り返していくキタサンブラック。だがこの2頭の外から来ているサトノダイヤモンドを跳ね返す力はなかった。と言うか、サトノダイヤモンドの最後の伸びが鋭かった。サトノダイヤモンドの方を見る武豊Jの横顔。ルメールのステッキを持つ右手でガッツポーズが見えた。

検量室前の枠場に各馬が入ってきた。キタサンブラックも武豊Jが『もう少しだったんだけどね~』と辻田厩務員さんに言う。清水久師もにこやかに『惜しかったですね~』と声をかけあう。その左の勝ち馬だけが入れる枠内にサトノダイヤモンドが入ってきた。もうルメールJは涙顔だ。池江泰郎元調教師さんが、真っ先に馬のクビをポンポンと愛撫してあげていた。

かくして今年の有馬記念も無事に終わった。結果は受け止めなければならない。道中の流れも競馬だから仕方あるまい。何よりもC.ルメールJが、早めに動いての勝ちに行くレースをしたことだろう。
サウンズオブアース、シュヴァルグランはまだ期が熟していないのだろう。ヤマカツエースが直線で馬込みのなかを縫う様にいい脚を使っていた。地力強化が判る。ミッキークイーンもあの位置であの結果だ。これも来年はもっと強くなりそうだ。
キタサンブラックが勝って年度代表馬への夢は叶わなかったかも知れない。でもサブちゃんの馬で、多くのファンを競馬場へと連れてきてくれたのも事実。
サブちゃんの《キタサンまつり~》が流れた中山競馬場を後にした…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。