ゾクゾク!とするスマートレイアーの切れ味!!【平林雅芳の目】

スマートレイアー

17年10/9(月・祝)4回京都3日目11R 第52回京都大賞典(G2)(芝2400m)

  • スマートレイアー
  • (牝7、栗東・大久龍厩舎)
  • 父:ディープインパクト
  • 母:スノースタイル
  • 母父:ホワイトマズル

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場内放送が『真夏日の京都競馬場です』と告げる。つい先日にストーブの灯を見たばかりでこの暑さである。ほとほと参ってしまう、秋晴れの淀競馬場。G1にはまだ届いてはいないが、近いうちにと目論む馬達の集いと言っては失礼か。
鞍上が替わったシュヴァルグランが、1頭だけ抜けた人気。サウンズオブアースが続くが、実力も上位馬は横並びかと思えた。
レースは、好位の3番手を進んだトーセンバジルが直線で抜けだして勝利かと思えたが、あともう少しのところで一気に交わしたのが、インを強襲のスマートレイアー。脚を貯めに貯めて、直線ではインから間を詰め、横のスペースが開いたと思った瞬間に抜けてきた。切れが1頭だけ違っていた。最後は半馬身の差もあった。シュヴァルグランは、後方から外を廻って追い上げてきたものの、3着までであった。

朝から迷子の放送が多い。それだけ家族連れで来場しているのだろう。子供は勝手気ままに、どこへでも行ってしまうもの。競馬場の混雑のなかでは親も大変であろう。
そうそう、この三日間、ラーメンダービーなるものが広場でやっている。最終日の今朝、今なら大丈夫と思って行ったら、チケット売り場ですでに行列が3重ぐらい。ラーメン売り場ではさらに並ばなければならない。結局、今回も諦めて帰った。もっとテキパキならんのかい!と毎年、食えない恨みだけが積もる。でも今日はアイス、ジュースが欲しい暑さ。ラーメンを食べて、汗をかいてしまっては大変でもあった。と、解釈する。

パドックは入場から観る。ぱっと目につくのが、シュヴァルグラン。毛艶も雰囲気もいい。そしてダメなのがフェイムゲーム、毛艶がまったく出てない。いつもこんなだったか知らないし覚えてもいないが、雰囲気が悪い。その前のトーセンバジルはイキイキでいい。サウンズオブアースは、何かモッサリ感が抜けない。ミッキーロケットはあの稽古での重苦しさよりはましだが、春頃はもっと良かったと思えた。スマートレイアーは、芦毛だけに何とも難しい判断ではあるが、スリムな感じはある。

馬場入場してスタンド前を4コーナーへと返し馬をしていく馬達を見ていて、今、馬券を買うならシュヴァルグランとトーセンバジルの③⇔⑧だな、と思った。そしていつものウイナーズサークル傍の、テント近くのビューポイントで見つめる。

スタンドはけっこう入っていたと思ったが、空きもそこそこある。好天の最終日。家族サービスでどこかへ行っているのかも知れない。
ゲートが4コーナーで、かなり遠くて肉眼では見えない。双眼鏡で見てもハッキリとは見えづらい場所での観戦だ。
内の方が、あまり出が良くなかったかの様に見えた。当然にスマートレイアーを中心で見つめている。ラストインパクトが行った。《エ!、エ?》と、思わず《この馬って先手をとった事があったっけ?》と競馬新聞を見つめなおす。意表をつく逃げ、と言うか、どの馬が行くのかも検討していなかった。

ラストインパクトが逃げの手に出て、外からマキシマムドパリが2番手。トーセンバジルが好発から3番手のインに入れた。そしてミッキーロケットと続く。そこにサウンズオブアースが続いている。ゴール板過ぎの我々が見ているすぐ前を通って行く時には、《人気馬がえらく後ろにいるな~》と思う。シュヴァルグランである。後ろから2番目、スマートレイアーも後方グループで、フェイムゲームの内でカーブを廻って行った。さらに2コーナーを廻って向こう正面に入るとラストインパクトは軽快な先行、3馬身のリードで行く。シュヴァルグランはと見ると相変わらずブービー、前からは相当なる位置である。3コーナー手前あたりで動いてくるのだろうと推測する。

レースのちょうど半分を過ぎるあたりでは、ラストインパクトと後続の差が詰まってくる。先頭から最後方もだいぶ差が詰まり、縦長の隊列が短くなった。3コーナーの坂を駆けあがって行く時には、さらに馬群は凝縮していく。
ラスト800の標識を過ぎるあたりで、シュヴァルグランが一気に前へとあがってきた。その動きにフェイムゲームもついて行く雰囲気だ。だが白い馬体は動かない。インコースでのそのままのポジションで微動だにしない、武豊Jとスマートレイアー。《ああ!今日はインをつく競馬をするんだ!》と心が読めた。
ラスト600の標識では、シュヴァルグランはさらに前へと進んで4列目、先頭からは2馬身とない。スマートレイアーはインコースをピッタリ、前にはヒットザターゲットがいた。あとはインが開くことだけだ!

しかし前の2列目のインで、トーセンバジルの岩田Jが楽な手応えで待っているのが見える。そして4コーナーを廻って、エアポケットの空間を過ぎる。トーセンバジルがインの最短を廻り、前を行くラストインパクトの横、外を狙う。スマートレイアーも一気に前との差を詰めてきた。
《一番内へ入れっ!》の声が届いたのか、前を行くプロレタリアトのインに入って、さらに前へと向かう勢いがある。ラスト200でト、ーセンバジルがラストインパクトを抜いて先頭に立った。まだスマートレイアーとは、2馬身ぐらい差がある。だがその間に空間があって馬がいない。
ミッキーロケットのインからその前へと出した武豊J。右ステッキでゴーサインを出されたスマートレイアーのエンジンに火が点いた。外から来ていたシュヴァルグランと並びはしたが、勢いがまるで違う。そのままトーセンバジルの横をすり抜けて、先頭でゴールを駆け抜けた。

実は直線のラスト1ハロンぐらいから、もうスマートレイアーしか見ていなかった。また面白いように進路が出来ていき、何にも妨げられずに伸びてゆくスマートレイアー。思わず心の中でガッツポーズをしてしまいそうであった。
後検量も終わり、レイも掛けられたスマートレイアーを見ていると、息がまったく乱れてもいないし落ち着いている。担当の助手さんにそれを言うと、『今日は輪乗りの時でも、最近では一番ぐらいに落ち着いていましたよ』との事であった。

表彰式を眺めていて、スマートさんの馬番頭の金子君と会話。『エリザベス女王杯に予定どおり行きます。これで香港も選ばれると思いますので、お願いします』とのことだった。あと2戦の競走生活となるのかも知れない。

今までの無念さが、スッキリする勝ち方が出来たスマートレイアー。熟女となった様である。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。