極悪馬場でも、キセキが大外を堂々と差しきった!【平林雅芳の目】

キセキ

17年10/22(日)4回京都7日目11R 第78回菊花賞(G1)(芝3000m)

  • キセキ
  • (牡3、栗東・角居厩舎)
  • 父:ルーラーシップ
  • 母:ブリッツフィナーレ
  • 母父:ディープインパクト

菊花賞の結果・払戻金はコチラ⇒

3.18.9と、ちょっと考えられない時計での決着となった泥んこ馬場での菊花賞。しかしそんな壮絶なるコンディションの中で勝ったのは、1番人気に支持されたキセキ。Mデムーロ騎手のアクションに応え、最後の1ハロンで外からグイっと伸びての2馬身差の快勝劇であった。
2着には、4コーナーでダンビュライトの外へ早めに並びかけてきたクランチャー。ハナ差届かなかったが、ポポカテペトルも猛追してきて長い写真判定となった。ミッキスワロー、アルアインの上位人気馬は、ダンビュライトとの5着争いに屈する結果であった…。

紙面でも《ディープインパクト産駒には辛い馬場だろう》とはっきり名言していた私である。アルアインやサトノアーサーに加えて切れ味のキセキにもその血が入っているだけに、影響するのではないかと思ってもいた。それがどうだ、キセキが大外を力強く伸びてきて優勝。2着争いをディープインパクト産駒のポポカテペトルと粘るクリンチャーのデッドヒートで、ゴール板前で見ていてもどちらが前に出たか微妙なぐらいであった。
稽古で動いていたトリコロールブルーやスティッフェリオがいいのではと思っていた私を嘲笑うかのように、3コーナーの下りからこれらの馬は圏外になって行っていた。

ただこんな私でも、朝からずーっとレースを見ていて内を通っては絶対にいけない、外から外へと来るしかない馬場コンディションだと判るものであった。
芝のレースの直線での決着は、どのレースでもおしなべて馬場の真ん中から外での凌ぎあいとなっていた。
極めつけはMデムーロ騎手で、9Rテーオービクトリー、10Rグレイトチャーターと気持ちがいいぐらい外目をまっしぐらにゴールへと導いていた。だから外枠の馬は当然に外々を走れるが、内の馬でもあまり前に出ないで外へと進路を取る乗り方がベストだろうと思っていた。

マイスタイルが途中から先手を奪った。スタンド前では内ラチの方を走っていたが、向こう正面では外へ出したものの、すでに脚があがってしまっていた。スティッフェリオやトリコロールブルーが馬群の内の前々でレースをしてはいたが、4コーナー過ぎぐらいまでで最後はやっぱり脚がなくなっていた。
プラチナヴォイスがゲートの中で落ち着かず、やっぱりと思えるスタートでの出遅れとなった。この馬だけが最後は内を突いて来ていた。仕方なしに内でコースロスを抑えて来たものだろうが、それでも直線は馬群の方の馬場の真ん中へと寄ってきていた。残念ながら9着だったが、まともに出て外々の馬場のいい方を通って来ていれば、着順が変わっていたのではなかろうかと思える。

道中で14秒台が2度もある。13秒台が9回。15ハロンでのレースで12秒台がたったの4回で、それも13秒に近い数字ばかり。最後の1ハロンが13.9を見て貰っても判るほどに、最後はバテあいである。キセキの上がり3Fがメンバー随一の数字で、39.6が燦然と輝く切れ味に見えるぐらいだ。
キセキは、父ルーラーシップに初G1勝利をプレゼントした。母はロンドンブリッジに繋がる血筋である。ロンドンブリッジの8番仔、ブッリツフィナーレにルーラーシップの配合で生まれた。今週の天皇賞へ出走のグレーターロンドンが、母の弟でもある。ロンドンブリッジは、僅か6戦で繁殖入りした馬。桜花賞をファレノプシスの2着した馬で、松永幹騎手が全ての手綱を握った。
ルーラーシップは、不良馬場で国内では金鯱賞にAJCCと2勝。香港も確か悪い馬場ではなかったかと思う。後で考えれば考えるほど、勝つべき馬だと判ってくる。

火曜の監視小屋。角居師が、『あの天候で良くやってくれました~』と開催を続行してくれたことに感謝していた。他のギャンブルやスポーツが軒並み中止していただけに、JRAの決断に驚くとともに、日程を考えると先送りできないレースだけに、当然と言えば当然なのだが…。
友道師にポポカテペトルのことを訊くと、『あの馬は、ディープインパクトではありませんよ』と訳の分からないことを言う。すると音無師が『母の血が出ているんだよ~』と付け加える。母の遺伝力が強くその特徴を出しているのだと。
ダンビュライトもクラシック戦を全部戦って3、6、そして5着とよく頑張ったとの言葉もあった。

かくして今年の菊花賞も終わった。桜花賞は池添騎手で、オークスと秋華賞はルメール騎手。牡馬は皐月賞が松山騎手、ダービーはルメール騎手で菊花賞がM.デムーロ騎手と、外国人ジョッキーが4勝であった。
調教師も本田、藤沢和、橋田師が牝馬3冠で、牡馬が池江、藤沢和、そして角居師が最後を締めくくった。何かこうやってみていると、やっぱりかと思える足跡もある。

歴史に残るほどの悪路の菊花賞。この時計を塗り替えるほどに遅くなることは、今後はおそらくないだろうと思えるもの。ダービーのキズナではないけれど、キセキが菊花賞を勝つのはある意味、当然と思えるネーミングかと思える。

戦いを終えて、今年もまた記憶に残るレースであったと思える78回の菊花賞でありました…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。