競馬専門紙にて記者として30年余り活躍。フリー転身後もその情報網を拡大。栗東の有力ジョッキーとの間には、 他と一線を画す強力なネットワークを築く平林氏が、現場ならではの視点でレースを分析します。
早めのスパートのミッキーロケット、宝塚を制す!【平林雅芳の目】
2018/6/26(火)
18年6/24(日)3回阪神8日目11R 第59回宝塚記念(G1)(芝2200m)
- ミッキーロケット
- (牡5、栗東・音無厩舎)
- 父:キングカメハメハ
- 母:マネーキャントバイミーラヴ
- 母父:Pivotal
上半期の総決算、そんな意味合いの宝塚記念。梅雨時だけに、馬場のダメージがある。土曜の午後からの雨で馬場も悪化、と思われたが30度を超す気温でどんどんと乾く。稍重の発表だが、完全に良馬場まで回復した。 前半の1000が59.4とけっこう流れて行く。サトノダイヤモンドの早めのマクリでレースが動いた後半。好位の内にいたミッキーロケットが、直線入口で内めから外へ出して先頭に立つ。ゴール前に強襲してきた外国馬ワーザーの追撃を、クビ差しのいでのG1初勝利。鞍上の和田騎手も、テイエムオペラオー以来の待望のG1勝利であった・・・。
朝から何か場内が移動しにくい。パドックの周りもやけに人が多く感じる。それでも何度かパドック、レースを繰り返す。 パドック入口に何か書いてある。《最終レース終了後に、パドック廻りでは場所の・・》とあった。何かイベントをやるのか~ぐらいに思っていたが、後で《関ジャニ》とかが来るらしいとのこと。ボンヤリとイメージが湧いてきた。 後半のパドックは断念した。宝塚記念も、場内のデッカイ画面で拝見させていただいた。前走との比較を映しだしている。レースを観るのも、場所が大変。カメラマン席にお邪魔していたのだが、何か外国人が多くなってきた。調教師席の隣りに来賓席があるのだろう。そこの傍がカメラマン席。馬場に馬が入って返し馬に行きだすと目の前にズラリと並び、視界がまったくない。これはこれはと、席をまた移動。厩務員さんや助手が見る席の端っこで、小さくなって観戦した。
ゴール板を過ぎて1コーナーへ入って行くのが、眼の前で見れる場所である。サイモンラムセスが先手を取ったが、外からタツゴウゲキにスマートレイアーも前に出てきている。そのすぐ後ろでは、内のストロングタイタンがやけに外を主張する。外のダンビュライトが、かなりプレッシャーを受けていた。その右後ろにミッキーロケット。あまり出の良くなかったサトノダイヤモンドは後ろから。隣りにキセキ、で最初のコーナーへ入って行った。 2コーナーを廻って行く時には、サトノダイヤモンドが順位を上げて行く。1000mを通過する時には、ちょうど真ん中にサトノダイヤモンドはいた。その少し前を、ミッキーロケットが内でその横にダンビュライト、さらに外にゼーヴィントと並んでいる。
内目をノーブルマースが前へと詰めていく、がその前のミッキーロケットも前との差を詰めていく。3コーナーへ入る前から動きが出てきている。先頭のサイモンラムセスが、2馬身ぐらい前を行く。その後ろが縦長の隊列となっていたが、外をサトノダイヤモンドがグーンと上がって行く。スマートレイアーの外へ並び、いや前へ出た様だ。
4コーナーを内のサイモンラムセス、外にサトノダイヤモンドで廻ってきた。そこで内から外へと出したミッキーロケットが、先頭に立ったか。外のサトノダイヤモンドが前か。 ラスト300を前にして、和田騎手の右ステッキが入る。2番手となったサトノダイヤモンドが脚が止まったかの様に内からノーブルマーズ、外ではワーザーが伸びて行くのに勢いがない。 ミッキーロケットが先頭、1馬身は楽に前へ出た。内ノーブルマーズ、外ワーザーと並んだかと思いきや、ワーザーはそのまま前へと追い込んでいく。ミッキーロケットが楽に先頭と思っていたのに、ワーザーの勢いある脚に飲み込まされそうになる。 和田騎手の渾身の右ステッキが唸る。ワーザーも、ボウマンの回転ムチでどんどん間合いを詰めて、首差まで迫ったところがゴ-ルであった。
少し開いて内がノーブルマーズ、外にヴィブロスがしのぎあい、さらに後ろではダンビュライトがサトノダイヤモンドを交わしたのが、ゴールであった。恐るべし香港馬の実力。マイナス27キロでありながら2着。それもメンバーのなかで最速の脚を使ったに違いない鬼気迫る脚色だったワーザー。 そしてノーブルマーズの健闘。サトノダイヤモンドのあのレースぶりにも驚いたし、キセキが結局は何もなく終わってしまった意外なほどの負け方。ゴール前でスマートレイアーが立ち上がる不利だが、勝ち負けまでの場所ではなかった。 枠場に入ってきた武豊騎手は、『3、4コーナーで窮屈になった、もっとやれた』と言葉を置いて検量室に入って行った。一番右の枠場に、ミッキーロケットを待つ音無師がいた。握手を求めに近づいた。
火曜の朝、当然に坂路の監視小屋に出向いた。音無調教師の話も聞きたいし、イロイロと取材もしたい。いつもどおりの雰囲気で入ってきた音ちゃんだったが、そこにいる皆から祝福の言葉をかけられると饒舌になって行く。馬場が乾いてきて、ミッキーロケットにはいい条件になったとも。そうそう、和田騎手のゴール過ぎの涙を拭ったかのシーンを言うと、『和田もゴーグルを外して涙を拭くのは判るが、着けたままだったぜ~』と茶化す。 原稿を書いている今、ゴール過ぎのシーン。ゴーグルの外にもう一枚、プラスチック製のやはりゴーグルの様な働きをする板を、近年は着けている。それを外してから、左手を眼のあたりに持っていく和田騎手。やはりゴーグルは着いたままだった。溢れる涙で、視界が悪かったのだろう・・・か。
『和田に稽古を任せていたけど、この3週ぐらいは本当に動きが良かったからね。ダンビュライトの方が動くのだけれども、先に来ていたしね。何せ、昨年の宝塚を終わってからゲート練習をしっかりとして、その点が良くなったのが大きい。前走の天皇賞も悪くなかったからね』と音無師の話は続く。
傍で角居師が、何も言わずにジーッと坂路モニターを見続けていた。敗者は多くを語らない。勝つにはちゃんと理由もあるし、負けるのも同じく理由があるのを知っている。 テイエムオペラオーが先日に亡くなった。競馬場にはファンに何かを書いて貰う台も置いてあるし、パネルも立っている。 キタサンブラックがやっと賞金を塗り替えたが、当時と今とでは出す金額も違う。そんな本当に強いテイエムオペラオーの和田騎手である。この勝利は、何かテイエムオペラオーが空から見守っていた勝利なのかと思ったゴール前でもあった・・・。“競馬にはドラマがある”と。
プロフィール
平林雅芳 - Masayoshi Hirabayashi
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、その情報網を拡大し、栗東のジョッキーとの間には他と一線を画す強力なネットワークを構築。トレセンおよびサークル内ではその名を知らぬ者はいないほどの存在。