競馬専門紙にて記者として30年余り活躍。フリー転身後もその情報網を拡大。栗東の有力ジョッキーとの間には、 他と一線を画す強力なネットワークを築く平林氏が、現場ならではの視点でレースを分析します。
【エリザベス女王杯・解説】たった1頭だけが伸びてきた!リスグラシューが差し切る!!
2018/11/13(火)
18年11/11(日)5回京都4日目11R 第43回エリザベス女王杯(G1)(芝2200m)
- リスグラシュー
- (牝4、栗東・矢作厩舎)
- 父:ハーツクライ
- 母:リリサイド
- 母父:American Post
レディス・デーであるがカ・タ・カ・ナ・デーであった。《ここは欧米か!》と古いギャグを自分で突っ込んで自分で引いていた。それほどに勝者が外国人ジョッキーの名前がばかりが連なっていく。 クロコスミアが逃げこまんとするところへ、たった1頭リスグラシューだけがグイグイと伸びてきた。モズカッチャンにレッドジェノヴァが脚を使うも、前の2頭からは3馬身もの後ろ。ただただ、リスグラシューの強さだけが引き立った一戦であった……。
やはり女性が多いのはいい。いつもなら殺伐とした賭場ムードなのが、あちこちに彩りを添えてくれている。エスコートする男性陣も穏やかである。聞こえてくる会話も、『外国人どうし買っていれば当たるわ~』ばかり。こんなことは過去に見たことがなかった。 川田騎手が、土曜の新馬戦のパドックで馬が転倒した時に外傷を負った。その乗り替わりが全て外国人ジョッキーが乗った馬が勝ったのも後押ししたにしろ、ウイナーズサークルに来るのは通訳付きとかばかり。 そしてメインもまたそうだった。岩田騎手が絶妙な逃げでセーフティー・リードを獲ってゴールへまっしぐら、と思った直線半ば。ただ1頭だけグイグイと脚を伸ばして来るのが、モレイラ騎乗のリスグラシュー。1頭だけ脚が違っていた。
パドックで落ち着いたリスグラシューがいた。前回でも、馬体重を大きく増やして輸送減りしなくなったのは知っていた。それが今回はさらに2キロ増し。そしてドッシリと周回していた。前回は東京競馬場だけに目の当りにしてないが、今回は微動だにしない落ち着きが出ている。こうやって馬って成長していくんだと感じた。 結局はいい時に、勝つときにその背中に収まっていられるかにかかる。そこは勝負の世界、最善の策を講じるのは当たり前、仕方のないことでもある。クロコスミアが逃げてノームコア、カンタービレに、モズカッチャンも前に位置する。その少し後ろの前の馬群の一番後ろにリスグラシューがいた。先頭のクロコスミアは3角の下りから4角に向けて後との差を広げる。いい感じで最後のカーブを周り、余力を残して直線へ。
内めへと馬が集中する。いちばん外との間が空いたところへリスグラシューが突っ込んで、進路を確保したモレイラ。そこからけっこうな数のステッキを入れた。内の馬を少し窮屈にするシーンもPVでは見受けられた。 内ラチ沿いを何とか逃げ込まんとするクロコスミア。2番手に上がったかのノースコアの外を、リスグラシューがあと200mあたりからグイグイと加速。最後まで伸びるクロコスミアを、さらに加速したリスグラシューが差し切った。 着差はクビ差ながら、もっともっと大きく感じる着差であった。2頭の3歳馬ノースコアとカンタービレは、直線でもうひとつ伸び切れず。パワーアップする来年は楽しみであろうと思える。
火曜朝、坂路の角馬場に北口君が佇むんでいた。競馬場でも握手はしたのだが、再び手が出る。しばし会話をする。《乗ったら一緒だけど、それまでがドッシリと落ち着きだしてきた》とパドックを振り返る。《馬が大人になってきた》とも。気になるのはこの先、どこへ向かうのかだ。《香港もありだろうし、俺としては有馬でいいと思っているよ》と夢が広がる。 G1馬となったリスグラシュー、またお声がかかるのを待つとしよう。そんな朝でありました。
プロフィール
平林雅芳 - Masayoshi Hirabayashi
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、その情報網を拡大し、栗東のジョッキーとの間には他と一線を画す強力なネットワークを構築。トレセンおよびサークル内ではその名を知らぬ者はいないほどの存在。