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兼武弘調教助手

昨年の天皇賞(秋)以降はスランプに入っていたトーセンジョーダンだが、ジャパンカップ(以下、JC)では11番人気で3着と激走。師走の大一番に向けて、池江厩舎もう一頭のG1馬がさらに状態を上げている。過去G1での実績は言わずもがなで、復調なれば大将オルフェーヴルの最大のライバルにも成り得る。間近で日々の上昇を感じ取っている兼武弘調教助手に、再激走への手応えを訊ねた。

ジャパンカップ3着を振り返って

-:3回目の有馬記念に挑むトーセンジョーダン(牡7、栗東・池江寿厩舎)についてお話を伺います。今朝(12/13)はトーセンレーヴと併せて、併入か、少し遅れたくらいの追い切りでしたが、動きを教えていただけますか?

兼武弘調教助手:テンから結構引っかかるくらいの勢いで行っていたようですね。折り合いは付く馬なんですけど、それでも勢い良く入れたみたいなので、気配に関して言えば、良くなっているのかな、という感じですね。

-:前回のJCでも結果が出ていますしね。

兼:よく走ってくれたと思いますね。最後もうひと伸びしてくれたし、体調は良くなっているのは分かっていましたが、あそこまで良くなってくれるというのは、この馬の底力には恐れ入るという感じですね。

-:乗っていたビュイック騎手も、3着でガッツポーズかVサインをして帰ってきたという話もあります。

兼:あの結果に満足したんでしょうね。天皇賞の時よりも良くなって、どれくらいやれるかというところだったのですが、3着はよく頑張ったと思います。


「力がある馬だというのは、JCの時に再び証明されたと思うので、アッと言わせても何ら不思議はないと思いますね」


-:札幌記念時の体から、もう一度仕上げ直してJCに持ってきたわけなんですが、よく短期間であそこまで立て直したなと感じました。

兼:帰ってきて、天皇賞を使う前には、まだお尻の筋肉が盛り上がっている感じが無かったのですが、追い切りつつ、丸みが出てきたので、ゆったりしたペースながらも、いい頃の雰囲気に戻りつつあるな、とは感じ取れていました。確実に良くなっている、という手応えはありました。

12/12(木) CWコースでトーセンレーヴとの併せ馬(写真内)
99.5-82.3-66.9-52.3-38.8-12.1秒(一杯)をマークしたトーセンジョーダン

-:良化がスローというのは、脚質的な性格の部分とも似ていて、一瞬の脚というより、スタミナを使うイメージだったので、一気に良くなってくるイメージは無かったのですが。

兼:一気に変わってくるというよりも、休み明け3走目くらいに良くなってくるようなイメージですね。

-:JCのスローの展開も、馬の性格や、位置取りのことを考えると、向いた側面もありましたか?

兼:この馬はやっぱりある程度流れに乗って、スタミナ勝負、というほうがいいでしょうね。この前のJCの積極的な競馬というのは、次に繋がると思います。

-:あれが次に繋がるとすれば、今回の有馬記念は同厩舎にオルフェーヴルという大将格がいますが、それ以外の相手とは互角以上に渡り合えそうですね。

兼:力がある馬だというのは、JCの時に再び証明されたと思うので、アッと言わせても何ら不思議はないと思いますね。



過去2回は5着の有馬記念

-:ファンからすると、後追いになるかもしれない部分もあって、ここで買うべきか、もどかしい部分もありますが、中山2500mもこの馬にとっては合いそうな舞台ですよね。

兼:いいと思いますね。正直、この馬も十分チャンスがあると思います。

-:JCを使った後に、調教を積んで、体のラインなどの見た目の部分や、一番大事な心肺機能の部分で、何か変化はありましたか?

兼:JCを使った後は、流石に少し体がほっそりしたかな、という印象だったんですけど、すぐ戻ってきたように感じます。気持ちの面では今回の追い切りで、覇気があることを確認できたので。そこが一番大事な部分だと思いますね。



-:この馬の併走パートナーにトーセンレーヴを選んだのは、ある程度、走る馬と一緒に、という意図があってのことですか?

兼:もちろん。オープン馬には走る馬をということで。同格の馬と併せないと、両方ともいい追い切りにならないという、先生の判断です。

-:体重の数字的な変化を教えていただけますか?

兼:この前が480キロですか。少し増えたくらいでしたよね。帰ってきてからも、そこまで変わっていないと思いますよ。輸送したら前回くらいの馬体重になると思います。

-:同じ480キロ代でも、実の入り方が違うということですよね。

兼:筋肉量がやっぱり違うでしょうね。

-:コンディションに関しては問題なく来ているという感じですね。

兼:何より気持ちが折れていないというところに好感が持てますね。


「JCでは少し押し気味でポジションを取りに行きましたが、そのくらいで行っても、終いはしっかり来ているので、この馬の良さであるしぶとさを発揮してほしいです」


-:最近の池江厩舎というのは、アイシールドを最近良く使っていると思いますが、ジョーダンの時は着けていましたか?

兼:着けていたと思いますね。冬場のチップは特に痛いので、怪我の予防ということで装着しています。もちろんそれを気にする馬もいるので、そこは馬ごとに調整しています。

-:前回はビュイック騎手で3着に来ていますが、今回は内田騎手に乗り替わりということで。

兼:乗ったことがあるジョッキーなので、馬のことを分かっていると思います。

-:中山2500mというのはトリッキーで難しいコースだと思います。これを克服できるのは、馬の操縦性の良さというのが重要になってくると思いますが、兼武助手から見て、ジョーダンの立ち回りというのは、中山2500mで嵌りそうですか?

兼:前目で競馬ができれば面白いと思いますね。中山2500mで、あまりペースが流れないようであれば、ポジションは取りやすくなると思います。JCでは少し押し気味でポジションを取りに行きましたが、そのくらいで行っても、終いはしっかり来ているので、この馬の良さであるしぶとさを発揮してほしいです。



-:馬場的には渋っている馬場でも力を発揮できますが、昔のイメージより中山の馬場は硬くなっていると思います。それはこの馬にとってプラスですか?

兼:スピード決着でも対応できますからね。この馬の流れに向いて、スタミナが要求されるような展開になればこなせると思います。

-:これまで強いメンバーと戦った経験値を最大限に活かして、有馬記念で上位を狙うという感じですね。期待しているファンも多いと思うので、最後にメッセージをお願いします。

兼:この前のJCで3着と、まだまだやれるところを見せてくれましたので、この有馬記念でも”強いのはオルフェーヴルだけじゃないんだぞ”というのを見せてほしいと思っています。

-:わかりました。ありがとうございます。




【兼武 弘】 Hiroshi Kanetake

滋賀県出身。1983年3月6日生まれ。初めて観戦した競馬はダンスインザダークが勝った菊花賞。中学生の時に競馬好きの知り合いが多かったため、影響を受けてこの世界に入る。高校の卒業を待たずして、北海道の千歳国際牧場で修行。その後は滋賀の湘南牧場、トレセン近郊のグリーンウッドに勤め競馬学校に入学。卒業後、池江厩舎に所属。持ち乗り(エアラフォンやバトードールを担当)を経て攻め専の調教助手に。モットーは「馬1頭ずつ個々の個性を大切にする」こと。目標は「厩舎全体のことを把握できるように頑張る」こと。業界一といっても過言ではないビッグステーブルのムードメーカー的な存在。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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