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酒井学騎手

連覇が懸かっていたJCダートこそ5着に敗れたが、現役最高ともいえるメンバーの中、5ヶ月半ぶりの実戦、それもぶっつけG1を思えば存在感を示したニホンピロアワーズ。昨年は東京大賞典をパスして新年に備えたが、2013年は当レースを大目標として見据えてきた。ベルシャザールこそ不在も、今年3度先着されたホッコータルマエがスタンバイしており、倍返しするには申し分ない舞台。主戦の酒井学騎手に、叩き2戦目の上積みを聞いてきた。

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負けて強しのJCダート・5着

-:ニホンピロアワーズ(牡6、栗東・大橋厩舎)について、酒井学騎手にお話を伺います。まずは愛知杯ではフーラブライド(牝4、栗東・木原厩舎)での見事な勝利おめでとうございます。

酒井学騎手:ありがとうございます。

-:本題のニホンピロアワーズですが、一週前追い切りについて、傍目で見ていても状態が急激に上がってきているな、という印象を受けました。乗っていての感触を教えていただいてよろしいですか?

酒:レースを使ってから最初の追い切りでしたが、使ったことで馬がシャキッとして、道中の行きっぷりや脚さばき、直線を向いてからの反応なども良かったです。一回使ったことで、上積みを感じる追い切りでしたね。

-:しかもゴールに入ってからもスッと止めない感じで。

酒:ゴールを過ぎたら一気にペースダウンしてしまうのは今回も一緒だったんですが、前走時はギュって自分でブレーキをかけたときに、トモを落とすようなところを見せていたのですが、今日はブレーキをかけたことに対しても自分でしっかり対応していました。

12/19(木) Pコースを単走で追い切り
6F:75.3-60.6-47.5-35.4-11.4秒(一杯)をマークしたニホンピロアワーズ


-:通ったコースも大外でした。

酒:前回使ってから間もあって、今回はしっかりやりたいという思いもあったので、外目を回して長い距離を走らせました。

-:状態がいい馬だからこそできる調教だな、と思いました。

酒:前走を使って、しっかり追い込んでも大丈夫だというのは充分わかったので、順調に着ていることもあってハードな追い切りを行いました。


「G1で構えた乗り方をするよりかは、思い切った乗り方をしよう、という気持ちがありました」


-:前走を振り返ると、“スタートから強気に乗るな”と感じました。

酒:休んでいたとか、中間順調さを欠いていた、ということよりも、G1の大一番だったので、そういう着を取りに行く競馬をするのではなく、勝ちに行く競馬をしなくてはならないと思っていました。勝ちに行った結果、それで勝ちきれなかったりするのは、その時点での足りなかった部分なので、あとに繋げればいいわけです。“G1で構えた乗り方をするよりかは、思い切った乗り方をしよう”という気持ちがありました。

-:夏に膝の怪我をして、その後に帰ってきて、馬体も全盛期に比べるとガレた状態から立て直して、JBCは使えず、JCダート直行という状況を知っていたものですから、あの5着を見て、改めてこの馬はすごいな、と思いました。乗っている感触としても、他の馬とは違う部分はありますか?

酒:休み明けの時点での万全の状態で、という覚悟で臨んだJCダートだったんですけど、それでもあれだけの競馬をしてくれたし、直線を向くまで「これ一発あるんちゃうかな」と思わせるほどの格好をつけてくれましたしね。思っていた以上に満足の行く結果だったと思うし、改めてこの馬の地力の凄さを感じました。



-:しかも、道中の動きを見ていると、久々の分もあって、若干かかり気味。それでいて、あそこまで粘り込めたというのも、凄いことだったと思います。

酒:G1ではあり得ないようなスローペースになってしまって、その3番手で前に壁がない状態になってしまって、更に休み明けで、馬も少し力んで走っていた部分もありました。それでいて5着までしっかりと流れに乗れたのでね。いつもは抜けだすと、頭を振っちゃうようなところのある馬なんですが、前回に関しては、最後までしっかり馬も踏ん張ってくれていますし、そういう部分では、JCダートは馬も勝負意識を持って臨んでくれていたんだと思いますね。

-:逆に、休み明けにしては走りすぎているというイメージもあったので、疲れを心配していたのですが、厩舎スタッフや先生に聞いても、そんなに疲れはなく、順調に上積みがあるということをうかがっていました。今日の追い切りは、まさにそれを裏付けるような内容だったんじゃないですか?

酒:レースが終わった翌週に何日か休ませて、運動を再開しました。いつも乗ってくれる助手さんから「疲れも残っていないし、かえってシャキッとした」というのを聞いていて、中間も上手く調整して乗ってくれていたので、今日の追い切りというのも、疲れというより、一回叩いた上積みをひしひしと感じました。

今度はインパクトある強さを

-:目指すは去年のJCダート前の究極のニホンピロアワーズの状態ですが、ここに持っていくまで、あと10日くらい調整が続きます。ファンとしては楽しみな東京大賞典になると思ってもいいですか?

酒:この1年で本当にガラッと力を付けてきた馬もいますし、G1らしい最高の相手だと思います。そこで改めて”ニホンピロアワーズ強し”を見せつけたいと思うし、前走時より明らかに良い状態でレースには臨めると思うので、なんとか去年のJCダートのようなインパクトのある強さを見せられればと思います。

-:ジョッキーとして、大井のコースの難しさはどこにありますか?

酒:坂があったり、コーナーがキツかったりという部分は特にないので、普通の地方競馬場と同じ感覚で乗っていると「直線が長いな」と感じる競馬場です。仕掛けどころを読み違えないように、アワーズで言えば、いかに仕掛けを我慢して、余力を持って追い出せるかというのが鍵になってきますね。



-:1コーナーまでに、いかにスムーズなポジションを取れるかというのが、アワーズのポイントだと思いますが、枠に関しては、あまり内というよりかは、ある程度外で、先手の馬を見ながら進めるのがベストですか?

酒:枠は正直どこでも大丈夫ですが、あんまり内だと行き過ぎてしまったり、外から被せられて、自分の競馬ができなくなってしまう可能性があるので、できればポジションが取れる枠がいいですね。

-:前に行く馬が近くに居てくれたほうが、目標にして進んで行きやすいですね。

酒:その辺はゲートが開いてからになると思います。とにかくスピードも、スタミナもあるので、スタートしてから、スッといいポジションにつけられるところが理想かなと思います。


「相手はJCダートを大一番に考えてきた馬ばっかりだと思うので、それを考えると、仕上がりの面では少し優位に立てるのかなと思います」


-:JCダートでは、ホッコータルマエが一番人気でしたが、あの馬に外から被せていって“なんならマークして潰してやろうか”くらいの強気な気持ちが見えました。今回もホッコータルマエ、ワンダーアキュート、ローマンレジェンドと、粒ぞろいの中央勢ですが、またある程度主張して行く感じでしょうか?

酒:周りの馬に関してはあまり気にしていないし、この間はおおよそああいう感じになるな、というのは戦前から分かっていたんですけど、思いの外、ペースが落ち着いてしまいました。僕の馬が外から行った時に、ホッコータルマエが踏んで行く感じがなかったので“もうここで我慢するしかないわ”と思って少し下げました。突っついたら、もう少しペースも流れるかな、と思ったのですが、僕が外に出ても、タルマエはそこでジーっとしていたので。

-:馬の特徴として、タルマエもソラを使う面がありますし、アワーズもソラを使いますし、どっちも先に抜け出したくないというタイプですよね。

酒:そうなんですよね。何かを見て行きたいタイプだからこそ、そうやって外から行ったんだけど、もう一度、待つしかありませんでした。あのペースだったので、相手もそういう覚悟で引っ張っていたと思います。



-:このデキなら、今回はもしかしたらJCダートみたいにスパンと切れる脚が見られるかも知れませんね。

酒:前走時より明らかに良い状態で臨めると思います。アワーズにとっても勿論JCダートは獲りに行くレースではありましたが、相手はJCダートを大一番に考えて、そこを大目標に仕上げてきた馬ばっかりだと思うので、それを考えると、仕上がりの面では少し優位に立てるのかなと思います。

-:中央勢の中でも一番フレッシュなのがニホンピロアワーズ。

酒:そうだと思いますね。

-:期待しているファンが多いと思うので、最後にメッセージをお願いします。

酒:応援してくださるファンも多い馬だと思うので、去年のJCダートを勝った後はG3こそ勝ったものの、少しモゴモゴしてしまいましたが、ここで何とか、本当に強いアワーズの姿を見て頂いて、更に応援していただけるように頑張りたいと思います。

-:東京大賞典は有馬記念の翌週になりますので、有馬記念でもし馬券を外したファンがいれば、大井まで来て、ニホンピロアワーズで取り返してくれたらということですね。

酒:そうですね(笑)。取り返していただければと思います。

-:応援しています。お忙しい中、ありがとうございました。

●帝王賞前・ニホンピロアワーズについてのインタビューはコチラ⇒




歴代ジャパンカップ・ダート勝ち馬の東京大賞典成績
馬名 出走年・着順
13年 ベルシャザール 不出走
12年 ニホンピロアワーズ 13年?着
10~11年 トランセンド 12年7着
09年 エスポワールシチー 12年5着
07年 ヴァーミリアン 07年1着・08年2着・09年2着
06年 アロンダイト 不出走
05年・08年 カネヒキリ 08年1着
04年 タイムパラドックス 05年3着
03年 フリートストリートダンサー 不出走
02年 イーグルカフェ 不出走
01年 クロフネ 不出走
00年 ウイングアロー 01年10着
中央と地方で砂質などが異なるからか、JCダート・東京大賞典を共に制しているのはG1・7勝のカネヒキリとG1・8勝のヴァーミリアンの名馬2頭のみ。ニホンピロアワーズは地方でもダート王に輝くべく、初の東京大賞典参戦となる。


【酒井 学】Manabu Sakai

1980年 新潟県出身。
2013年 西園正都厩舎に再度所属。
JRA初騎乗
1998年3月1日 1回中京2日1R ショウワヒカル
JRA初勝利
1998年3月8日 1回中京4日12R マチカネヒガノボル


■最近の主な重賞勝利
・13年 愛知杯(フーラブライド号)
・12年 JCダート/13年 平安S
(共にニホンピロアワーズ号)
・12年 京阪杯/13年 アイビスSD/13年 セントウルS
(共にハクサンムーン号)


1998年に二分久男厩舎所属からデビュー。池添謙一、太宰啓介、白浜雄造、中谷雄太騎手らと同期にあたる。 デビューイヤーこそ25勝を挙げたが、その後、勝鞍が減少。7年連続で年間の勝ち星がひと桁に留まった時期も経験。
しかし、近年は所属した西園正都厩舎や、「ニホンピロ」の冠名で知られる小林百太郎オーナーのバックアップもあり、勝ち星を伸ばすと、昨年はニホンピロアワーズとのコンビで涙の初G1初制覇。 西園厩舎のハクサンムーンで京阪杯を制し、恩人であるオーナー・師匠に報いたことはファンの感動を誘った。 父は現在では廃止となった公営・新潟競馬の厩務員、兄は川崎競馬の酒井忍騎手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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