ダートで開花した潜在スピード アスカノロマン
2014/8/4(月)
4戦目のダート替わりで一変
-:レパードSに出走するアスカノロマン(牡3、栗東・川村厩舎)ですが、異色ですよね。お母さんのアスカノヒミコもこちらの厩舎にいましたが、目立った活躍の産駒のいない血筋です。それでいて、すでに3勝を挙げています。
釘田優作調教助手:兄にアスカノバッハという障害で活躍してくれた馬がいて、馬は良いのですが、競馬の器用さがなくて、勝ち切れなかったんです。この仔の場合、最初に芝を使って、ダートに替わってからグンと成績が安定してきました。
-:安定したというか、ダート替わり緒戦で勝ちましたよね。
釘:芝で乗っていた馬ですが、こんなに変わるかな、と言っていました。
-:今も釘田さんは乗っていますが、その感触から言っても、いきなりダートに替わったからといって、勝ち負けできるとは思っていなかったですか?
釘:しかし、新馬を使う前から、ストライドや背中の感触は良かったです。
-:良いと言うのは、芝っぽいということですか?
釘:その時は芝、ダートを問わないと思っていましたし、追い切りの動きも良かったです。新馬は小倉で4着、2走目が12着、3走目が14着。こんなはずではないのに、という思いでしたね。そこでダートを使ってみよう、という話になって、ガラッと一変しました。
-:芝の重い馬場が悪かったのですかね。推測ですが、芝の滑るような馬場がこの馬のフットワークに合わず大敗した可能性はありますよね。
釘:そうですね。
「2歳の新馬を使い始めた時期から、能力は感じていたのですが、体質がまだしっかりしてなく、使った後に疲労が溜まったりもありました。休養を挟みながらで、ダート替わりのタイミングも良かったのかもしれません」
-:特に3走目は小雨で稍重になっている阪神でした。ただでさえ、スタミナのいるような芝で、雨が降ったことでさらに着順が悪くなったのかもしれません。
釘:2歳の新馬を使い始めた時期から、能力は感じていたのですが、体質がまだしっかりしてなく、使った後に疲労が溜まったりもありました。休養を挟みながらで、ダート替わりのタイミングも良かったのかもしれません。
-:ここ3戦はずっとプラス体重ですよね。
釘:ここへ来て、食べたものがだいぶ実になってきたのかもしれません。
実はどんな展開にも対応できる馬
-:なぜ、スタミナのことを聞いたかというと、先週に終わった中京開催のダートは凄く軽かったと思います。ほとんどが前残りの決着で、ラップも前半のペースが芝より速いレースもあって、速いラップでも前が止まらないという、明らかに軽い馬場の中でアスカノロマンも結果を出しています。そういう点からも、よりスピードに特化した部分があるのかと思いました。
釘:そうですね。あと、競馬は上手ですよね。前々で競馬して、終いもしっかり脚を使えて。展開に左右されるようなら、成績も安定しなかったと思います。
-:しかし、悪い面でいえば、目標にされやすいですよね。
釘:今まではハナに行くつもりがないのに、行く馬がいないから自然とハナに行く競馬だったのですが、前走は行く馬がいてくれました。前走みたいな形が理想だと思います。
-:例えば、行く馬が3頭いれば、4番手でも問題ないのですね。
釘:問題ないと思います。
-:他の馬を怖がるタイプの単なる逃げ馬ではないのですね。
釘:よく、ハナにはこだわらないか聞かれたりしたのですが、ハナに行かせようと思ってハナに行っているわけではなかったのです。
-:普段から乗られていて、急にスイッチが入るような気性面での難しさはないですか?
釘:たまにありますが、危なっかしく、どうにもならない感じはなく、基本的には人に対して従順です。だから、調教面でもてこずることはないです。
-:優等生タイプなんですね。乗り難いタイプの馬かと思っていました。あれだけのスピードがありますし、普段の調教なら、引っ掛かり気味に行くこともあるのかなと思うのですが?
釘:ある程度の跳ねっ返りはありますが、普段からも折り合いがつきます。
敵は暑さ。開場前乗りで万全の態勢を
-:前回が初の左回りでした。これまで右回りで結果を出していて、中京に向かう前に不安はありませんでしたか?
釘:調教も火曜、日曜は左回りですが、乗っていて気にはしていませんでした。先生(川村調教師)は気にしていたみたいですよ(笑)。
-:中京を勝った後は先生もホッと胸をなでおろしましたね。新潟に向けても良い試走になったと思います。
釘:前で競馬をできる馬が有利だと思っているので、前走みたいな競馬ができればと思っています。
-:新潟は中京よりも終いの伸びが求められると思いますし、馬場もまだ分かりません。良い意味で、万能型脚質の自在性を生かして欲しいです。
釘:前走の状態で行ければ好勝負ができると思います。
-:問題はこの暑さですか?
釘:そうですね。前走後はレパードSに向けて、気温が高くなることが一番の心配材料でした。暑さに対して、あまり強そうでなかったので。うちの厩舎は5時乗りで坂路に持ってくるのですが、その前の涼しい時間にダクを踏んでおいて、馬場開場とともに乗るようにしています。馬房には2、3年前からミストがついていますし、今のところは暑さに負けてきたという素振りはありません。
-:僕らファンがパドックで見るのは、暑くて日が昇っている時間です。しっかり発汗している方がいいですか?夏負けして、発汗もできなくなってくると良くないですよね。
釘:そうですね。毛艶もカサカサしてきますしね。ある程度の発汗はしょうがないですし、馬体の艶があって、歩く姿に活気があれば、十分に走れる状態にあると思います。
勝って3歳ダート路線の主役に
-:心配事としては、2走前のようなカゼノコの鬼脚、ああいう強襲にやられることですか?
釘:そうですね。返し馬でも軽いキャンターするなと思っていました。
-:警戒しようがないですかね。あっちはJDDも勝ちましたし、ああいう馬場も得意だったわけですからね。だから、カゼノコとアスカノロマンは似ているところがありますよね。カゼノコもダートで活躍した後、毎日杯に挑戦して、やっぱり走らなくてダートに戻しました。だから、僕の中でもアスカノロマンがもっとしっかりしてきて、もう一度、芝で走ったらどうなるのかな、という気はしています。
釘:その思いはあります。ただ、先生が開き気味の立ち姿を気にしていて、だから芝の踏ん張りが利かないんじゃないかと。ただ、キャンターのスライドは凄く綺麗です。
-:芝のグリップが抜け気味なんでしょうかね。そう言ったら、芝のオープンクラスでも、ハーツクライなど開き気味な馬はたくさんいますよね。アグネスデジタルなどは芝もダートも走りました。ダート馬特有の硬さやパワー重視感はそれほど感じませんか?
釘:硬さはそんなに気になりませんが、2歳の新馬を使った頃に比べると、今は体重が乗ってきていることもあり、パワーがついてきています。
-:背腰が強いタイプですか?
釘:意外と頼りない速脚をするんです。キャンターに行くとしっかりとした歩様になるのですが。
-:理論的に言うと、どうしてでしょうか?
釘:オンとオフを分かっている感じになってきているのかも知れません。だから、馬場なんかで速脚すると、気が入っている分、シャキシャキするんですが、ここは速脚踏むとこだ、と分かるとフニャフニャになります。大丈夫か?しっかり踏めよ、って思いますから。
-:フニャフニャ感が出てくるんですね。
釘:気が入るとシャキッとしますね。
-:この馬のように先行できたり、スタートが良い馬というのは、スタートが猫みたいな体勢から、両脚揃えて踏み込んでボーンじゃないですか。ある程度、トモや腰、背中の強さがないと、出て行けないですよね。そこがオンになっているということですか?
釘:競馬に行くと、パドックでもシャキシャキと歩く感じがあります。全てにおいて、体質が強くなってきたのもありますし、競馬自体を覚えてきた、というのもありますね。だから、心配は暑さですね。今のところ維持はできています。
-:この暑さというのは、出走馬全体が心配していることですよね。
釘:当日の気温が高いとかじゃなく、競馬行くまでの調教過程が一番大事だと思います。それまでの暑さ対策ができれば、競馬に行っても十分に力を発揮できると思います。
-:あと1週間、しっかりと暑さ対策をして頑張ってほしいです。
釘:この状態で行ければ大丈夫だと思います。他はどういったメンバーでしょうか?
-:アジアエクスプレスに、ノースショアビーチ、抽選対象のグレナディアーズ、などでしょうか。
釘:しかし、前走も2着のキクノソルに乗っていた和田さん(和田竜二騎手)が「斤量差云々の敗因じゃなかった」と言ってくれていましたからね。
-:あのキクノソルも走りますからね。ここは3歳馬同士のレースになりますが、スピードを存分にみせつけたいですね。
釘:自分の競馬をして、前走くらいの終いの脚を使えたら、そう差し切られることはないでしょうからね。
-:額面上、35秒台くらいの上がりが使えなければ、届かない公算ですからね。
釘:カゼノコクラスじゃないと(笑)。
-:この馬のスピードを活かした競馬になるであろうレパードS。あと一週間、早起きして頑張ってください。
釘:ハハハ(笑)。他の厩舎ではそんなに早くないかもしれませんね。「俺らはもっと早いわ」と怒られそうですよ。
プロフィール
【釘田 優作】Yusaku Kugita
高校時代までは野球一筋。卒業後は鹿児島の育成牧場で働き、研修として2ヶ月間行った北海道でニューマーケット(イギリス)行きを決意。育成牧場で4ヶ月、クリスフォール厩舎で5ヶ月働き、現在はフランスで厩舎を開業している小林智調教師(当時は厩舎スタッフ)とも親交を深める。帰国後はイクタトレーニングファームで2年間勤務し、競馬学校の厩務員課程に進学。その後は平成18年4月より川村禎彦厩舎一筋でトレセン生活8年目。
川村厩舎の特徴に関しては「追い切りを目一杯することがあまりないと有名ではあると思います。その点、普段から距離自体は乗っていて、追い切りよりも他の調教内容を重視しています」。特有の調整方法を尊重しつつ、意見交換を欠かさず厩舎を盛り上げている。
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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