遅れてきた良血ステファノスが成長 G1好走組に真っ向勝負
2014/9/14(日)
良血ながらも意外性が持ち味
-:セントライト記念に出走するステファノス(牡3、栗東・藤原英厩舎)ですが、個人的には血統、馬体からして、いずれはダートに行くのかなと思っていました。
藤野陽平調教助手:(母父)クロフネと(父)ディープですね。
-:それでも、実際に走ってみると、芝でやれるのかな、という印象があります。特につばき賞を勝つ前、ステファノスに合いそうな時計の掛かる、スタミナのいる馬場だと思いました。あの頃と比べて、成長はしましたか?
藤:だんだん切れるようになってきて、反応が凄く変わりました。毎日杯の時には、調教からも自信を持って行けました。
-:つばき賞で期待を持ちましたが、次の毎日杯ではまさかの早仕掛けでした。
藤:そうだと思います。大外だというのもあったと思いますが、あれは早かったですね。
-:人気していたラングレーと一緒に動いて行って、結局はジッとしていた馬にすくわれました。上手くやれば連対があったのかなと期待を抱かせる内容でした。
藤:もう1つ上は行けた気がします。そこで賞金を加算できていたら、その先も違う競馬になっていたと思います。
-:終わった後のシュタルケ騎手の感触はどうでしたか?
藤:自分でも「ちょっと早かった」と言っていました。
-:それで迎えた皐月賞ですが、15番人気と人気が全くありませんでした。それで最後はあわやダービー出走権があるかないか。最後にターフビジョンのスローモーションを見たときに落胆した記憶があります。
藤:5着でしたね。一歩届かずでした。それでも、良く頑張ってくれました。
-:ダービーで来る馬と、互角に近い走りをしてくれました。皐月賞は時計の掛かる馬場で、それも向いたかなと思います。それからどこに使ってくるのかなと思ったら、意外にも白百合S。ダービートライアルに行って、ダービーでも見てみたいと期待していただけに、まさか京都1800という時計の速い舞台に出てくるとは思いませんでした。人気でしたが、個人的には半信半疑でしたよ。
藤:僕はそう思っていませんでした。きっちり勝って、放牧に出してゆっくり休んでもらって、“次は秋”と思っていました。
G1でも好走できるようになったキッカケ
-:パワータイプのステファノスでも、芝の良馬場で、ある程度速い勝ち時計で勝てるという自信があったというのは、馬にどのような成長があったのですか?
藤:毎日杯の時までは、馬がずっとカリカリして、飼葉も食べられないようになりました。一晩付きっきりでお腹をマッサージしたこともあります。そこで馬に無理強いしているなと、気付かされることがありました。
-:追い詰めている感じですか?
藤:それからは、馬の気が向くまで待つことを心掛けていました。それまでは、僕が朝に行っても、ステファノスがプイッとしている部分があったのですが、そこからは顔を見てくれるようになったり、馬が信用してくれるようになったなと思いました。引き運動とかでも、鼻前に入ってくる時に止まって、入りたくない、乗られたくないというのがあったのですが、それも気が向くまで待ってあげて、それから入ってというのを繰り返していたら、止まらずに歩けるようになりましたし、落ち着きました。引き手を噛んだりする部分はありますが、前ほどではなくなってきました。
-:ステファノスと藤野さんのコミュニケーションが良くなっていったというのは、内臓面や精神面にもプラスになったのですね?
藤:そうですね。落ち着けたのが一番大きいと思います。乗ったこともあり、そこで2000mもどうにか、という気がしました。皐月賞であそこまで走るとは思っていませんでしたからね。
-:時計の速い白百合Sでも、初めて上がり33秒台でした。
藤:調教を見ていると、反応が本当に良くなってきています。
-:岩田ジョッキーもその辺りを感じながら乗っていたのですか?
藤:自信を持って乗ってくれていたと思います。「背中が凄く良くなっている」と言ってくれていました。
-:好位から長く良い脚を使ってパワーで粘り込むというイメージを持っていたのですが、意外に差す脚があったのですね。
藤:ピカイチではないですけどね。どちらかと言ったら、長く良い脚を使うようなレースの方が向いていると思います。
函館滞在を経て現在は食欲も旺盛
-:この夏は休ませて、成長を促したわけですが、戻ってきての感触はどうですか?
藤:函館に一回入れたのですが、その時は飼葉を食べてなかったです。その時、僕は札幌に行っていて、他のスタッフに任せていたのですが、飼葉を食べないし、調教後の上がり運動の時に馬っ気を出して、バタバタする、という話を聞きました。
-:それは夏負け気味だったのですか?
藤:精神的にしんどかったようで、暑さにも参ったみたいです。でも、こちらに帰ってきて1週間ほどでそういうところもなくなってきました。飼葉も食べる時間は前と同じくらい掛かるのですが、ちゃんと食べ切ります。
-:一気にガツガツ食べる馬もいますが、放牧地でゆっくり草を噛むのが馬の本能的なものだと思います。内臓的にはそうやってゆっくり食べる方が合っているのかもしれません。
藤:乾草はよく食べるようになりましたね。
-:それは春とは趣向性が変わったということですか?
藤:春は本当に食べられていなかったです。一番しんどい時期だったこともありましたし、もともと獣医さんに「成長自体が遅い」と言われていました。トモの発達も遅かったです。夏に向こうでゆっくりしたので、やっと追いついてきたのかなと思います。
「折り返しという道具をつけたりしています。馬の腹帯から通してハミ受けを促すものです。頭頸(とうけい)を下げさせて、ハミ受けを良くします」
-:体のサイズや体重など、数字的にはどのくらい増えていますか?
藤:プラス6くらいです。輸送もあるので、もう少し増えてほしいですね。
-:成長の遅い割には、7月の中京でデビューして、藤原厩舎ならではの考えで使ってきたのですね。そんなに追い込む厩舎ではありません。その辺はステファノスにとっては良かったですよね。
藤:合っていると思います。馬自身が器用なので、求められたらそつなくこなせますね。折り返しという道具をつけたりしています。馬の腹帯から通してハミ受けを促すものです。頭頸(とうけい)を下げさせて、ハミ受けを良くします。
-:フォームを矯正する感じですね。
藤:そつなくこなしすぎて、必要以上にやられたりする部分もあったんじゃないかと思います。
ステファノス・藤野陽平調教助手インタビュー(後半)
「セントライト記念は新コンビの三浦皇成騎手」はコチラ⇒
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プロフィール
【藤野 陽平】Yohei Fujino
大阪府泉州出身の31歳。中学2年生より乗馬を始め、現在は師匠となる藤原英昭師に紹介された北海道新冠の小国ステーブル(サクセスブロッケンを育成したことで有名)で競馬人生をスタート。2年間勤務した後、年齢的に最後のチャンスとなるJRA試験に合格。藤原英厩舎に所属して3年目を迎える。馬と接する上で気をつけていることは「馬の気持ちを一番に考えること。時には導いてあげないといけない時もありますが、人間本位にならず、基本はちょっと待って馬に考えさせてから何かすることを心掛けています」。腕利き集う名門厩舎で切磋琢磨し、充実したトレセン生活を送っている。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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