ひと夏を越した成長の軌跡を見せつけるリラヴァティ
2014/10/12(日)
夏の勢いを利して出走権獲得
-:ローズSではリラヴァティ(牝3、栗東・石坂厩舎)が秋華賞への出走権を獲得、おめでとうございました。
桑村光史調教助手:ありがとうございます。
-:(他媒体で)ローズS前も取材させて頂いて、この馬の特徴を教えて頂いたままの形ができたというのは、大きな収穫ではないですか?
桑:松山騎手が思い切った競馬をしてくれました。それ以外にないと思います。僕はいつも通り、レース前は何もしゃべってないですし、何も考えていませんでした。
-:客観的に見ていると、ゲートが開いてから出して行っても、ちゃんと抜けるという特徴を聞いていた上でも、えらく行くな、と感じました。これは終いに止まらないかなと、不安を抱きながら見ていました。かなり渋太いレースができましたよね。
桑:道中で上手いこと息が入るんでしょうね。そうでないと粘れないですよね。
-:改めてこの馬の渋太さと、操縦性の良さというのを感じたレースでした。2、3番手に行っていた馬が大幅に順位を下げてゴールしています。かなりタフなレースがこの馬に向くというか、タフなレースが好きな馬なのかな、という印象を持ちました。
桑:勝負根性が凄いですし、掛かったら頑張れないと思うんですよね。
-:その辺は見た目からは分からないです。
桑:毎日乗っていると元気が良いし、気力を感じます。
-:ここまできた以上、秋華賞でも良い結果を出して欲しいです。京都コースはあまり経験がないので、阪神のイメージが沸きやすいのですが、内回りで先行馬ということを考えると、展開も味方にできそうな気がします。
桑:そうなったら良いですね。
目に見えない疲れを意識しながらの調整
-:肝心の状態はいかがですか?
桑:変わらないです。夏からずっと使っているので、一番の心配は疲れです。疲労はなさそうですが、疲れているものだと思って、最初の2週間くらいは上手く抜きながら調整しました。今週からは"15-14"くらいでやって、来週は普通に併せ馬で追い切って、競馬という形になると思います。
-:体のラインはどうですか?
桑:体重とかは全然変わってないです。
-:2週間で良いリフレッシュができたのですね。
桑:ええ。そんなに心配することはないと思います。
-:牝馬はずっと使っていると体調管理が難しいと聞きます。
桑:僕はずっと牝馬が好きでやっていますし、そこに難しさは感じないです。それに男馬も一緒だと思います。
-:牝馬特有のフケという問題もありあます。秋の時期にも馬によってはあります。そういう部分はファンにとって馴染みがなく、牝馬限定の難しさだと思います。この馬は体調管理がけっこう安定しています。それは強味であり、能力のひとつですよね。
桑:春に比べて強くなりました。1年前からチューリップ賞の間は、使っては休ませて、でしたし、疲れを感じる部分もあったのですが、今は全然です。その辺が成長だと思います。
-:いわゆる、体質が強化されたというやつですか?
桑:そんな感じです。体重だけじゃない部分で、真の強さがついてきました。
-:桜花賞での悔しさをここで晴らしたいですね。この世代で言うと、ハープスターやレッドリヴェール、距離が伸びて良くなってきたヌーヴォレコルトなどが上位にランキングされます。京都の2000mというのは、人気馬にとっても乗りにくいコースだと思います。その中で展開利を得られそうな筆頭はリラヴァティじゃないですか?
桑:結局は強い馬が勝ちますからね。あとは運だと思います。桜花賞も正直、悔しいとは思わなかったです。よく頑張ってくれたなと。
「(桜花賞は)十分に走ってくれたと思っていました。なおかつこの馬でまたG1に出たい、と思ったのは確かです」
-:あの時期のコンディションでは、ということですか?
桑:十分に走ってくれたと思っていました。なおかつこの馬でまたG1に出たい、と思ったのは確かです。
-:桑村さんは以前から、「この馬が良くなるはもう少し先」と仰っていました。実際に桜花賞を使って、休養して、中京でいきなりの勝利。あの時は松若騎手が乗って、斤量も軽かったですが、この先どこまで行けるのだろうと感じました。あの辺から、僕らも秋華賞というものを意識し始めました。小倉では残念な不利で、出られないレースだったのですが、その後のローズSでちゃんと結果を出せたというのは、傍から見ても芯が入っているなと感じます。この一戦で、なんとか女神が微笑むといいですね。
桑:そうなって欲しいですね。
-:勝つ、勝たないを抜きにしても、どれだけこの馬のレースができるかですか?
桑:力を出せるデキになるように、まだ10日くらいありますから、注意しながらやっていこうとは思っています。勝ち負けはいつも意識していないですし、無事に出すことが一番大事だと思います。無事に出さないと、チャンスもないですからね。今、考えているのはそれだけです。
-:ローズSでは強気に踏んで行って、粘り切れました。改めてこの馬の得意な形を出せたので、今度は迷いなくあの形を選択できるというところも、乗り役さんにとってレースがしやすいところですよね。
桑:松山騎手には思い切って競馬をして欲しいです。
「いつも通り」というコメントに注目
-:あとは、来週の追い切りを僕らが確認してですね。
桑:追い切りではそんなに走らないと思いますよ。
-:ローズS前も、併せていた馬と手応えが違っただけでしょうけれども、見劣っていました。あの追い切り映像を見ていた人は、大丈夫かなと思ったぐらいです。
桑:ええ。完全に見劣っていました。でも、時計はいつも通りでした。相手に併せたらバタバタになると思ったので、自分のペースを守るようにしました。この馬もムキにならず走れるのでね。
-:坂路の追い切りは、全部を見ることができません。最後の絵面や手応えだけを見て取捨をしたら、ファンにとっては危険ですよね。
桑:「いつも通り」とちゃんとコメントしたつもりなんですけどね。先生(石坂正調教師)にも「相手が走っただけで、この馬のペースでやって、動きが悪いわけでもなかった」と言っていました。先生もそういうコメントを出していたし、僕も聞かれたらそういう風に喋っていましたよ。
-:僕はコメントではなく、映像で判断しようとして迷路に入り込みました(笑)。
桑:時計だけを見たらいつも通りでしたよ。
-:台風が来たり、当週の坂路での馬場コンディションは荒れるかもしれないです。荒れてきたら時計が掛かるかもしれないですね。
桑:トビが凄く綺麗な分、苦手なんです。芝でこその馬です。
-:ちゃんと補正して見ないといけないですね。
桑:そういう意味ではあんまりアテにならないですね。
-:この馬は調教を見るだけじゃダメというですね。体調が激変して落ち込むこともないでしょうし。
桑:そうだと思いますが、注意しながら、という感じです。
阪神でイレ込む馬が多い理由
-:どこまで素質が開花してくるかは、誰にも分からないところです。桜花賞から半年くらい経っているわけですから、この馬の成長というのを、もう一回見届けたいですね。
桑:まだ良くなるか、と言われたら、正直それも分からない部分があるのですが、桜花賞の頃から馬に身が入ってきて、良くなってきたと思っていました。この夏にずっと競馬をしてくれて、春とは体力が全然違います。このまま無事に、うるさいところもありますが、性格もこのままで伸び伸び育ってほしいです。
-:人間の型にはめようとせずにですね。
桑:良いとこは残しつつ、伸び伸び育ってくれています。
-:パドックでもうるさかったですよね。
桑:装鞍所でもうるさかったです。だから、毎回不安です。
-:パドックを見る人は、不安に思ったりしますよね。
桑:阪神はパドックの構造上、馬がちょっとうるさいんです。お客さんが下になるし、屋根に反響して音が響くし、苦手な馬が多いです。京都の方が外だし、お客さんが同じ位置にいるし、ずっと円なので周りやすいです。
-:その辺がプラスになれば良いですね。あとは京都の内回り2000mがプラスに出るか、ですね。一瞬の決め脚勝負になったら分が悪いところがあるので、ある程度のラップで引っ張る競馬になった方が良いですよね。
桑:枠にもよるでしょうし、他馬で何が何でも行くっていう馬がいるかもしれないです。一方でドスローになるかもしれないし、そればかりは分からないです。
-:ローズSでの強気の騎乗を見ていると、乗り役さんでないと分からないですね。
桑:松山騎手の良いところだと思います。ああ見えて、気が強いのだなと思いますよね。
-:それがリラヴァティと上手くマッチングしています。
桑:この子も気が強いので、合うんじゃないですか。
-:コンビじゃなくて、トリオ、チームで、1つでも上の着順を目指して頑張って欲しいです。
桑:第一は、無事に行って、無事に終わることですね。
-:同世代のハープスターは凱旋門賞に挑戦しました。
桑:一緒に走った馬があの舞台であれだけの競馬をしてくれるのですから、この子も見限るものじゃないな、と改めて思います。
-:国内の競馬も盛り上げたいですね。
桑:僕もG1を勝ったことがないですし、夢の夢みたいな話なのですが、勝ったら嬉しいでしょうね。まずは無事に行くことです。
-:無事の先に幸運が待っていることを祈っています。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【桑村 光史】 Koji Kuwamura
昭和48年生まれ。親族に競馬関係者はいなかったが、動物好きという理由でこの業界を選ぶ。一番最初に見た競馬はアイネスフウジンが勝った日本ダービーで、高校時代に有馬記念のオグリキャップに魅せられた記憶があるという。解散した福永甲厩舎からトレセン生活をスタートし、現在所属する石坂厩舎は2厩舎目。秋華賞に挑戦するリラヴァティの他に短距離戦線で活躍しているエピセアロームを担当しており、自ら牝馬好きであることを公言している。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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