3連勝で世代交代の担い手に名乗り インカンテーション
2014/11/30(日)
陣営の青写真どおり、そのままの成長
-:チャンピオンズC(G1)に出走するインカンテーション(牡4、栗東・羽月厩舎)について、よろしくお願いします。前回、みやこS前にも取材させていただきまして、見事期待に応えて勝った訳なのですが、改めておめでとうございます。
羽月友彦調教師:ありがとうございます。
-:あの競馬を振り返って、レース内容を先生の立場から振り返っていただいて良いですか?
羽:装鞍所から下見所、返し馬とずっと大人しくて、もともと余計なことはしない馬で、それにしても全く覇気が感じられなくて、大丈夫かなと思っていたのですが、案の定というか、スタートも今イチであの位置取りになってしまったんです。そこから慌てず騒がず、凄く強い競馬で勝ってくれて、勝ち方にビックリしました。
-:戦前は、クリノスターオーなど先行馬がどこまで粘って、インカンテーション自体の末脚がどこまで通用するのか、というところがポイントかと思っていましたが、予想以上の一捲りで決着が付いてしまった感じでしたね。
羽:色々ラッキーな面もあったのでしょうが、良い競馬だったと思います。
「本当にそうですね。コッチがこうなってくれたら良いな、という青写真のとおり、そのままに来てくれています」
-:このみやこSで3連勝した訳ですが、思い起こせば去年のJCダートが終わってから休養明けのエルムS、そこからの4戦というのは完璧な内容じゃないですか。ファンのイメージ以上のレースが4回続いているといっても過言じゃないくらい充実期に入っているのかと思うのですが。
羽:本当にそうですね。コッチがこうなってくれたら良いな、という青写真のとおり、そのままに来てくれています。
-:みやこS自体は去年も2着に入りまして、時計も速いレースで2着だったので、JCダートでどれぐらいできるのか、やれるのかということを期待して見ていた訳ですが、結果としては人気を下回って14着でした。あの当時とは全然違う馬だと思って良いですか?
羽:ええ。ダート馬らしく力強くなっていますし、1年色々な経験をしてきて、中身もシッカリしてきていると思います。
-:JCダートは13年の12月1日で、その前年の12月1日というのが、インカンテーションが初めて未勝利を勝った日なんですよね。
羽:ああ、そうですか。それから2年ですか。
-:あれから2年で、ここまで充実してステップアップできるというのは、なかなかないことだと思うので、“今年こそ”という思いは強いのではないですか?
羽:今年が勝負だと思っています。1年先はどうなるか分からないですし……。
差し一辺倒のイメージは間違い
-:相手関係を考えると、盛岡で行われたJBCクラシックの上位馬がこぞってチャンピオンズCに出走してくる訳なので、注目ポイントとしたら、能力的にインカンテーションがどれだけダートのトップクラスと戦って通用するのかというところです。先生の分析からするといかがですか?
羽:通用してもおかしくないと思っていますが、それ以上のことは分からないです。楽観もできませんからね。
-:どういう流れになったら一番の理想でしょうか?
羽:この間の競馬を見ると、どんな競馬もできそうだし、特に理想というのはないですね。こちらは臨機応変に対応できると思っています。
-:もうちょっと他力本願な追い込み馬かなと思っていたのですが、他力本願な差し一辺倒の馬でもないと。
羽:ではないと思います。その気になったら、積極的に自分でレースを作ることもできると思います。
-:この強い相手とも互角で、普通にインカンテーションのレースを組み立てていくだけという感じですか?
羽:ハイ、そう思っています。漁夫の利をかっさらおうとは思っていないですね。
「本当に、ジョッキーは私らよりインカンテーションを信頼していると思います」
-:あとゲートに関してはどうでしょうか?
羽:これは特に問題ないです。そんなに速くはないですけどね。
-:レパードSとか2~3番手に付けられるレースもあれば、ちょっと後ろから終いの良さで来るレースもあると思うんですが?
羽:心配はないですね。行こうと思ったら行けるし、行くなと言ったら行かない。いっぺん小牧さんが乗った時につまづいて出遅れたのがあるぐらいで、それ以外は全然問題ないです。
-:差し一辺倒というよりは、むしろ自在と思って見ておけば良いですね。大野ジョッキーも、この馬には絶大な信頼を持っているんじゃないですか?
羽:本当に、私らより信頼していると思います。
時計の速い馬場でこそ持ち味を発揮
-:中京の1800ダートという舞台に替わるのは、この馬は当該コースだけでなく、レパードSでも結果が出ていますし、左回りも勝っていますから、全然問題ないでしょうか?
羽:はい。問題ないと思います。
-:あと速い時計に対応するというのも、去年のみやこSでも1分49秒台でも2着に頑張っているので、そこも問題ないですね。
羽:むしろ時計が速い方が良いだろうと思います、パサパサの良馬場よりは。軽く降ってくれた方がありがたいです。
-:あとは馬体の変化とか、夏から復帰して5戦目になりますが、馬体の維持に関して難しいところはありますか?
羽:いえ、ないです。結構、使い込んでいる部類に入ると思うんですけど、まだ硬くもないし、馬がイライラしていることもないし、もちろん食いが落ちるということもないし、全く問題ないですね。何も苦労していないです。
-:馬体重の変化に関してはいかがですか?
羽:栗東にいる限りは490キロ台半ばでずっと安定していますので、あとは輸送が長いか短いかというところですから、それは気にせずに調教しています。
-:前回と同じぐらいの480キロ台後半ぐらいで?
羽:になると思いますね。大幅な変化はないと思います。
ダートの世代交代を狙う大一番
-:今朝(11/27)の1週前追い切りはいかがでしたか?
羽:乗り手には「54秒ぐらいの見当で」と言ったんですが、馬場状態もあってちょっと遅くなったものの、大体予定通りと思っています。今週も来週も、そんなにビシビシとやるつもりはないです。
-:もともと時計イコールレースというタイプでもないですから、それで調整が緩いとかいうことは、我々は感じなくて良いということですね。今の坂路の馬場状態が、思っているよりちょっと時計が掛かるんですね。
羽:増してウチの厩舎は、馬場の開場から時間を空けて行きますので、特に時計以上に負荷が掛かっていると思います。
-:先生の厩舎は、坂路で走るまでも逍遥馬道を往復したりだとか、ウォーミングアップに力を入れられているんですよね。その辺の積み重ねが、この馬の上昇に繋がっているのですかね?
羽:繋がっているんだと思います。
-:以前から比べたら、単純な10キロがプラスされたというよりは、もっと男らしさが出てきたと思いませんか?
羽:はい、思います。筋肉が良く付いて、逞しくなってきたと思います。
-:ダート馬の中ではちょっと軽いイメージがありますよね。
羽:そう思います。顔が良いですね。この馬の顔は好きです。また、人懐っこいですからね。
-:しかも、馬房でオットリできるというところもこの馬の強みですよね。
羽:はい。休むべきところで休むというのは、サラブレッドとしては大事なことだと思います。コイツは特別に賢いですから。同じ厩舎にいてイライラする馬はいくらでもいますからね。
-:チェックポイントとしたら、パドックでちょっと気配が乏しく感じていても、前回も同じような感じだったので、それほど気合を求めたりだとか、覇気を求めるというよりは、インカンテーションはこういう馬なんだという眼で見た方が良いということですね。
羽:はい。そう思います。
-:中京のパドックとかコースに対して、何か特徴的なことがあったら教えていただきたいのですが?
羽:中京はお客さんが近い分、やっぱりソワソワする馬は多いですね。インカンテーションがどうなるか分からないですけど。それで、風がすごく強く吹く所ですし、あそこは煩くなる馬が多いですね。
-:中京というのは、大きいレースになればお客さんが凄く入り、我々にとってはありがたい競馬場なので、そのファンに向けてインカンテーションを多くの人に見てもらいたいですね。
羽:はい。ぜひ沢山のファンの方に来て欲しいです。良いレースにしたいと思っています。
-:あと10日間ぐらいありますが、最後にインカンテーションに期待しているファンにメッセージをよろしくお願いします。
羽:ぜひ、次の世代を担う馬としてここで名乗りを挙げたいと思っていますので、応援よろしくお願いします。
-:ダートの世代交代を期待しています。
羽:はい。ありがとうございます。
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【羽月 友彦】 Tomohiko Hatsuki
1995年に名門、小林稔厩舎よりトレセン生活をスタート。その後、石坂正厩舎にも所属し、一流厩舎でのノウハウを経験し、'07年3月より厩舎を開業。乗馬で培った技術を調教に取り入れつつ、縦列調教で逍遙馬道を用いたトレーニングスタイルで育成に努めている。
'08年には湯浅三郎厩舎より引き継いだ実力馬ワンダースピードで重賞初勝利を挙げると、同馬で幾多のダート重賞を制した。現在オープン馬は(11/30現在で)マルカボルトと2頭を管理。片割れのインカンテーションは厩舎生え抜きの出世頭。秋のG1挑戦で更なる高みを目指している。
1970年鹿児島県出身。
2006年に調教師免許を取得。
2007年に厩舎を開業。
初出走:
2007年3月10日 1回中京3日目9R セフティーフリーズ
初勝利:
2007年4月8日 2回阪神6日目10R ワンダースピード
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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