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市川明彦厩務員

市川明彦厩務員

名牝・トゥザヴィクトリーを母に持ち、生まれながらにして注目される運命を背負った馬トゥザグローリー
大きすぎる期待に応えるべく今春3月ようやく遅いデビュー戦を迎えた。最短でダービーに間に合う過酷なローテーションが組まれ、青葉賞2着でダービー出走権を取った。 秋シーズンを迎え、さらなる飛躍を目指すトゥザグローリーについて担当の市川明彦厩務員にお話を伺った。


-:まず、ラジオNIKKEI賞(福島)の後、夏場は休養していたようですが、帰厩してから春とどう変わったのか?そのあたりから教えてください。

市:今年の夏は暑かったせいか思ったより牧場で乗り込めませんでした。未経験の暑さだったので馬もこたえたんでしょうね。栗東に帰ってきてからも体力や心肺機能が落ちた状態だったので、結局、神戸新聞杯には間に合いませんでした。この時点で予定していたメニューより2週間ほど遅れていました。神戸新聞杯を使えなかったということは、直行で菊花賞に向かうしかありません。さすがに、ぶっつけでは行けませんから10/16東京のアイルランドT(2000m)に使うことになったんです。

-:そのアイルランドTでは惜しくも2着でしたが、やはり休み明けの影響もあったんでしょうか?

市:負けたのは休み明けが原因ではありませんよ?本当に良い状態で出走できたんです。レースでは初めての古馬混合戦で張り切ってしまい4コーナーまで引っ掛かっていましたから。あの内容で2着に来たのには正直驚きました。『ただ者じゃないぞ?』って感じですよ(笑)ちょうどこのレースに使う前から馬の調子がグッと上がってきたんです。体力が落ちた状態から春の状態に戻すには時間がかかるかもしれない、と心配していたんですが、攻めれば攻めるほど良くなって行く。並の馬では精神的にも肉体的にも我慢できないですから。

-:状態が良くなって行く過程というのは市川さんはどうやって把握しているんですか?獣医さんに心拍数を計ってもらったり数値的な裏を取るわけでしょうか?

市:ディープの時はいろいろと馬の強さを計る為にデータを取った事もありましたが、僕は普段の馬の様子から今どんな状態なのかを判断します。追い切った後の息の乱れや疲労の度合いを肌で感じるようにしています。幸いアイルランドTは不完全燃焼に終わりましたが馬の疲労もなく、早めに次走に向かえる状態でホッとしました。



-:次走のカシオペアSでは2着のナムラクレセントを相手にしないような危なげない勝利でした。

市:あれでもまだ遊んで走っているんです。抜け出すとフッと気を抜いたりして、まだ少し子供っぽいところがあります。それにオープンを勝って賞金加算できたことが大きいです。これでマイルCS(GⅠ)に使えるようになったわけですから。

-:さらに相手が強くなるマイルCSに向けて今の状態はいかがですか?

市:先週の追い切りはPコースで82~83秒の予定だったんですが、走っているところを見るとモタモタしていました。もうちょっとハミを取って走ってくれないかな?と思っていたんですが時計を聞いてびっくりしました。77秒でラストも12秒台でしたから(笑)先生も乗っていた助手も首をかしげるような。そうは見えなかったな~と。それより走った後の息の乱れもなくケロっとしているんで改めて高い心肺機能を持った馬だと思いました。

-:母トゥザヴィクトリーと比べて違うところ、同じところはどこでしょうか?

市:ヴィクトリーはパドックでも早脚になったりして少し気性の勝ったタイプでした。どちらかというとうるさい一族ですが、トゥザグローリーは違うタイプです。この仔は大観衆のダービーのパドックでも落ち着いていたように、精神的なタフさが強みですね。そういう度胸のいいところ、場の雰囲気に飲まれないところは大舞台でプラスになりますから。それと、この血統の共通点は一瞬の切れ、瞬発力じゃないでしょうか?母や伯父のサイレントディールも凄い瞬発力を持っていましたが、この仔の瞬発力もケタ違いのモノがあります。大排気量のレーシングカーにしかない怖さを持った馬です・・・・わかりますよね?

-:母のトゥザヴィクトリーも担当していた市川さんにとってトゥザグローリーはどんな馬でしょうか?

市:それは、一度はお母さんのヴィクトリーの仔をやって(担当して)みたかったですよ。この仔の前まではヴィクトリーの繁殖成績が良くなかったので心配もしていました。それで先生からこの仔をやってくれって頼まれた時は、自分との巡り合わせだなと思いました。思い入れのある馬の仔を担当できるなんて、この世界で働く者にとっては本当にありがたい話なんですから。

-:そんな思い入れの詰まったトゥザグローリーが初のビッグタイトルを取るチャンスかもしれません。

市:能力的にはGⅠでも十分勝負になると思います。ただ、さっきも言ったように子供っぽさが残るのも事実です。今回はデムーロ騎手が跨りますが、そこには訳があるんです。ただ外国人騎手なら良いって話ではないんです。日本の競馬を熟知したデムーロ騎手ということが大切なポイントなんです。なぜ外国人騎手なのか?というと、馬を遊ばせない競馬をしなければ上位にはこれないと考えるからです。秋の2戦はまだまだ遊んで走っています。GⅠで勝負するには一瞬のスキも作ってはダメなんです。そんな願いを込めてデムーロ騎手にお願いする事になったんです。



-:最後にマイルCSを楽しみにしているファンの方へのメッセージを頂けますか?

市:トゥザグローリーは見栄えのする馬ですが、馬っぷりが良いだけではありません。どこか気品がある馬なんです。父キングカメハメハにも通ずる筋肉量の豊富な身体。見てもらえたらわかると思うんですが水々しさが残る若い馬体をパドックで感じてくれたら最高ですね。レース当日まできっちりと仕上げますので楽しみにしてください。

-:今日はいろんなお話を聞けて参考になりました。本当にありがとうございました。

市:こちらこそありがとうございました。来年の二月で池江厩舎は解散ですが今後とも応援よろしくお願いします。




【市川 明彦】 Ichikawa Akihiko

厩務員歴25年。ケープリズバーンで初重賞勝ち(TCK女王盃 GⅢ)。 ディープインパクト、トゥザヴィクトリー、のGⅠウイナーの他サイレントディール、ブラックタイド、なども担当した。 現在はトゥザグローリーとフォゲッタブルを担当している。26歳で競馬の世界に入って以来、恩師である池江泰郎師のもとで働く。