鹿戸雄一調教師×高橋摩衣
無事に走ってくれるのが一番ですけど、無事だけじゃなくて、やっぱりG1馬ですし、恥ずかしいレースはさせたくないという思いはあります…。
2009/10/30(金)
鹿戸雄一×高橋摩衣
―:本日はスクリーンヒーローの鹿戸雄一先生にお話をお聞きします、よろしくお願いします。
高:よろしくお願いします。スクリーンヒーローは元々矢野進先生(08年3月定年退職)のところにいましたけど、先生の厩舎に来ると決まったのはいつくらいですか?
鹿:僕が開業する前、結構早くから決まっていたんですよね。その頃スクリーンヒーローはヒザを骨折していて田口トレーニングファームに放牧に出ていたんですよ。その時に社台ファームの吉田照哉社長から声を掛けていただいて。「スクリーンヒーローとベストロケーションは復帰する頃には矢野先生の厩舎も解散しているし、どうですか?」と。それで当然、やってみたいなと思いました。
高:矢野厩舎時代のスクリーンヒーローのレースぶりはどうご覧になっていたんですか?最初の頃はダートを中心に使われていましたが。
鹿:そうそう。だから最初の頃に競馬を見た印象ではダートが良いのかな、と思っていました。
高:そうなんですか。
鹿:ええ。だから一番最初はダートで使おうと思っていましたけど、芝でも使いたかったんですよ。それで牧場の方から、随分良くなったしそろそろ復帰を、という話になった時に「せっかくだから北海道で使いたいな」と思いまして。1000万の番組は1700mのダートと2600mの芝があったんですけど、ダートの方は登録頭数が物凄く多かったんです。
高:そうなんですか。
鹿:はい。で、ダートでも芝でも横山典弘騎手が乗ってくれるという話になっていたので、ダートを除外されたら芝に行こうかという事で。
高:結局、ダートを除外になって芝2600mの支笏湖特別に出走されましたね。
鹿:プラス18キロでも勝ったんですよね。能力の違いもあったのかもしれないですけど「やっぱり芝の長いところでもやれるのかな」と思いまして。その後、オープン特別に出られるから、武幸四郎騎手で札幌日経オープンに行ったら、また良い競馬をしたんですよね。逃げ切られて負けはしましたけど「面白いな、この馬。長いところは合っているのかも」と思ったので、東京に来てからも長いところを使おうと。
高:その頃にはダートを使おうというお考えは。
鹿:もう無かったです。ダートは全く考えていませんでした。
高:そもそも「芝を使ってみたい」と思われたのは、今後のローテーションを考えて選択肢を増やしたいというお気持ちがあったんですか?
鹿:それもありますし、芝でももしかしたらいけるんじゃないかな、という気持ちがあったんです。
高:走り方が芝向きだったんですか?
鹿:稽古で走らなかったんですよ。函館のウッドチップでやった攻め馬で走らなかったので「軽い馬場の方が良いのかな?」と思ったんです。
高:では、芝の方が良いんじゃないかな、と思ったのは希望的観測も含まれていたんですか。
鹿:そうです。でも実績ではダートの方が良かったので、除外覚悟でも一番最初はダートに登録したんですけどね。いきなり芝一本で登録したら「何を考えているんだ」と言われたと思いますよ(笑)。
高:アハハ(笑)。
鹿:まあ、芝の長いところで結果を出してくれたので「これは面白いな」と思って「来年の天皇賞あたりで使えればいいな」と考えたりしまして。それでオーナーともそういう話をしていたら「じゃあ、アルゼンチン共和国杯も出られそうだし、良いジョッキーも空いているし行ってみましょうか」となったんです。
高:その流れで使ったら。
鹿:意外と強いレースを見せてくれて。アルゼンチンではジャガーメイルが人気していましたけど、前走で負けていたとはいえ「ジャガーメイルと同じくらいは走れるだろう」とは思っていましたよ。
高:見事その通りの結果になって。アルゼンチン共和国杯を勝った後はジャパンカップを使おうと決めていらっしゃたんですか?
鹿:いえ、決めていないです。アルゼンチンの後は、ステイヤーズステークスに行こうかという話でほぼ決まりそうだったんですけど「もしかしたらジャパンカップに出られるかも」という話になって。オーナーから「出られるなら使ってみたら」と言われまして。
高:これまた流れで(笑)。
鹿:オーナーも「レースに使わないと勝てないしね」という感じで(笑)。馬の調子も随分上がって来ていましたから「良いかな」と。
高:8月に復帰してからコンスタントに使われて来ていますが、使うたびにどんどん調子を上げて来たという感じですか?
鹿:そうですね。最初の頃は遊び遊びで、全然真剣に走っているような感じじゃなかったのに良いレースはしていたんですよね。アルゼンチンくらいからは集中するようになって、結構一生懸命走るようになってきましたけど。
高:レースで集中するように、調教で何かされたりしたんですか?
鹿:いや、それだけの為に特に何かをするという事はないですけど、ウチの厩舎のやり方でいつでも併せ馬をキッチリやる稽古をするので、まあ本人も徐々に「そろそろやらなきゃな」と思ってくれたのかもしれない(笑)。
高:重賞で観客も多くなるし、気合を入れて(笑)。
鹿:そう、人が好きな馬ですから(笑)。
高:それでジャパンカップを勝って。ジョッキーはデムーロ騎手に替わっていましたね。
鹿:その時はジョッキーがいなかったんですよ。蛯名騎手も横山典弘騎手も先約があって。そうしたらオーナーが「ミルコとルメールの二人が来るから。でも多分ルメールはアサクサキングスかな」とおっしゃっていたんで、じゃあミルコで、となりまして。だから運があったんですね。…いや、ほとんど運だね(笑)。
高:アハハ(笑)。次から次へうまい具合に進みましたよね。
鹿:そうそう。流れも良かったんじゃないかな、と思います。
高:もし先生が強硬な態度でオーナーに「いや、ステイヤーズステークスが良いと思います」と言っていたらまた違う結果になっていたでしょうし。
鹿:うん。でもそんな力ないしね(笑)。
高:アハハ(笑)。本当、開業初年度でジャパンカップを勝つなんて凄いですよね。ところで今まで乗ってきたジョッキーのスクリーンヒーローの評価はいかがですか?
鹿:蛯名騎手も横山典弘騎手も高く評価してくれたし、幸四郎くんも「この馬、走りますよ」と言ってくれました。みんなが褒めてくれていたので、そのうち大きいところを勝ってくれるんじゃないかな、と期待はしていましたけど、本当に早いうちに重賞も勝てましたし、トントン拍子で来られました。
高:スクリーンヒーローがここまで成長する、というのを想像出来ましたか?
鹿:うーん…どうでしょうね。僕は藤沢和雄先生のところで、ほとんどの走る馬の調教をさせてもらっていたから「これくらいの背中なら、このくらいのクラスまで行くんじゃないかな」という事は、ある程度分かっているつもりではいますけど、スクリーンヒーローの場合は、初めは馬が硬めだったし、ダート馬のイメージもあったので、ジャパンカップを勝つとは思いませんでした。オープンまでいくだろうな、とは思いましたけど。
高:そうなんですか。今回騎乗される北村宏司騎手もスクリーンヒーローの力を高く評価されていましたけど、レースでの乗り方など北村騎手とお話はされましたか?
鹿:いや、しないです。もう今までのレースを見ているし、どんなレースをすれば良いかはジョッキーそれぞれで考えているでしょうから。以前実戦でも乗っているし、この前の稽古でも乗っているし。
高:なるほど。そういえば今回は調教でブリンカーを着けていらっしゃいましたね。
鹿:はい。久々の競馬ですし、久々の2000mという事もあるし、いろいろ考えた結果、ちょっと着けてみようかな、と。今日(10/28)はちょっと外してみてどんな感じかチェックをしました。予定では木曜日の稽古でイレ込みが無ければブリンカーを着けようかと思っています。ちょっと興奮しているようならブリンカーをしなくても気分良くレースで走れるんじゃないかな、と思います。普段と同じような感じならブリンカーを着けた方が効果があると思います。
高:普段通りではブリンカーを着ける、という事は普段は結構のんびりとした感じなんですか?
鹿:はい。のんびりとしている方ですね。まあヤンチャな面もありますけど、レースで走る時にはのんびり屋なので。
高:大物ですね(笑)。ちなみにスクリーンヒーローの適性距離というのはどの辺りにあると思われますか?
鹿:うーん、ちょっと分からないですね。長いところ…、まあ春の天皇賞は距離が長かったのかもしれないし、体調が戻っていなかったのかもしれないし…。まあジャパンカップを勝った東京の2400mは合っているんだろうけど(笑)。
高:そうですよね(笑)。でも、2000mがダメだという事もないですよね?
鹿:全くダメっていう事はないでしょうね。ただ、相手も強くて、2000mで結果を残している馬ばかりですから何とも言えないですけどね。走れてもおかしくはないと思います。
高:なるほど。先生の考えるスクリーンヒーローの武器、いいところは何ですか?
鹿:そうですね…、普段どおりに平常心でいる事ですかね。レースの時も実は凄く興奮しているんでしょうけど、表立っては落ち着いて見えるし、普段も余計なところでは力を使わないし。
高:調整はしやすいタイプで?
鹿:はい。調整はしやすい方だと思います。特にここが悪い、あそこが悪いというところも無いですしね。
高:好調時と不調時の違いは何かありますか?
鹿:それが分かりにくいので、春の天皇賞みたいな結果になったという事もあると思います。阪神大賞典を使った時にちょっと疲れがあったのは確かなんですけど、見た目は元気が良かったので「いけるかな」と思っていました。でも結果から見ると随分と疲れが溜まって抜けきらなかったのかな、と。だから天皇賞ではああいう結果になったのかもしれないですね。
高:なるほど。天皇賞のあとは宝塚記念に出走して5着という結果でしたが、振り返っていかがですか?
鹿:宝塚の時は体調は大分戻っていたんですけど、体重がかなり減っていたんですよね。ただ天皇賞の時よりは良いかなと思っていました。実際にレースも積極的な競馬をしていましたしね。あの内容から、ただ能力だけで負けたわけではないな、と思いました。その後夏休みという事で社台ファームに出して、疲れを取ってリラックスさせてもらいました。その後は山元トレセンに移動して乗り込まれて、良い状態になって厩舎へ戻って来ました。もちろん体重も凄く増えていましたよ。
高:どのくらい増えていたんですか?
鹿:宝塚記念の時と比べて30キロちかく増えていたかな。だから凄く良い夏休みを過ごせたんじゃないかな、と思います。レースの時には10キロ以上は増えているでしょうけど、それくらいでなければダメだと思っています。
高:それくらい宝塚記念の時は体が減ってしまったんですね。
鹿:もともとドシッとして見える馬なんですけど、それが宝塚の時はちょっと細く見えましたからね。体重が戻るのは良いと思うんですけど、あとは実際に走ってみないと分からないですからね(笑)。
高:結果次第ということで(笑)。ちなみに早い段階から、秋の復帰戦は天皇賞と決めていらっしゃったんですか?
鹿:いや、北海道に持って行った時点では、とりあえず疲れを取る事だけを考えて、予定は白紙状態にしていました。それで山元トレセンに移動するくらいの時にオーナーたちと相談して「このペースなら天皇賞に間に合うかな」という感じだったので、それなら前哨戦を使っても斤量を背負わされてしまうし可哀想な思いさせたくないから、天皇賞一本で行った方がいいかな、と。秋には中距離のG1が3回ありますしね。
高:そうですね。いやー、府中のレースだと更に期待しちゃいますよ(笑)。
鹿:確かに結果は出していますからね。
高:今回の手応えはいかがですか?
鹿:まあ久々の分は割り引かなきゃいけないでしょうけど、体調に関しては随分良くなっているので、それが上手く良い方に出てくれればな、と思います。まあ無事に走ってくれるのが一番ですけど、無事だけじゃなくて、やっぱりG1馬ですし、恥ずかしいレースはさせたくないという思いはあります。
高:希望の枠はありますか?
鹿:東京の2000mだから外枠はイヤですけど、レースの上手な馬ですからどこでも対応できると思います。G1馬も多くて相手も強いですけど、とにかく恥ずかしくないレースを出来るように準備をしたいと思います。
高:当日は競馬場に応援に行きたいと思います!今日はありがとうございました。
鹿:ありがとうございました。
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■主な重賞勝利
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08年開業後、エフティマイア号が牝馬クラシック路線で活躍し、同年秋にはスクリーンヒーロー号がアルゼンチン共和国杯とジャパンカップを連勝し、JRA賞(最優秀4歳以上牡馬)を授賞するなど、華々しいスタートを切った。09年もコンスタントに勝ち星を積み重ねており、天皇賞秋では、厩舎の看板馬スクリーンヒーロー号で二度目のG1制覇を狙う。 |
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■出演番組
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2006年から2008年までの2年間、JRA「ターフトピックス」美浦担当リポーターを務める。明るい笑顔と元気なキャラクターでトレセン関係者の人気も高い。2009年より、競馬ラボでインタビュアーとして活動をスタート。いじられやすいキャラを生かして、関係者の本音を引き出す。 |