大竹正博調教師×高橋摩衣
2009/12/17(木)
大竹正博調教師×高橋摩衣
-:今日は大竹正博調教師にお話を伺います。よろしくお願いします。
大:よろしくお願いします。
高:よろしくお願いします。この間のロジフェローズの新馬勝ちおめでとうございます。騎乗した横山典弘騎手はレース後「真面目な馬だ」とコメントをされていましたけれども。
大:真面目な馬ですね。確かにそこがキーポイントになると思っています。初戦だと物見したり、フラついたりだとか結構あるんですけど、それが一切無かったようなんですね。一途に貪欲に走るタイプみたいで。そこがやっぱり2戦目以降、もっとハミがかりが良くなっちゃったらどうかな、という話で。
高:では、厩舎としては。
大:やっぱり折り合いに専念して仕上げて来ましたね。自分で燃え上がってしまうタイプなので、むしろカイバ食いが悪くなったり、筋肉のどこかを痛めたりだとか、そういう事が中間あったんですね。それがクリアしないと良い競馬は出来ないかなという事で、ここまでかかっちゃったんですよね。
高:本来だったらもっと早めに。
大:最初は夏の新潟を予定していたんですよ。ブリーズアップセールが終わって、そのまま厩舎に来たので、その流れでやれるところまでやっていこうという事でやっていたんです。でも、暑いうえに、もともとカイ食いが良い方では無かったので、体重のコントロールが上手く出来なかったんですね。それで、本当に直前だったんですけど、夏場はやめてもう一回充電し直そうという事で北海道のノーザンファームに持っていったんですよね。それから9月の終わりくらいに戻って来て、1ヶ月半厩舎にいて、この前のレースに使いました。
高:夏に立て直す為にノーザンファームへ行って、9月の終わりに戻ってきた時に以前との違いは感じましたか?
大:体重は増えていましたね。かなりふっくらして。それで、それまでは物音がちょっとするだけでもビクビクしていた馬だったんですけど、そういうところも解消されていて。
高:ドッシリしてきたという感じですか。
大:ドッシリした感じ。今でも敏感は敏感なんですけど、他の馬が暴れている時に一頭だけボケッとしている事がありますね。でも、見ていると厩の中でもピリピリしている事もありますけどね。
高:そうなんですか。でも、牧場から戻ってきた時はある程度ドッシリしてきて。それでデビュー戦に向けての調整というのは。
大:特に目標を決めずに、良くなったところで使おうとオーナーと話していたんです。
それで、最初は1週目の1600の芝でいけるかな、と思っていたんですけど、思いのほか動きも良くなかったんですね。じゃあ、延ばしてどこまでいけるかなって話をして進めたら、最終追い切り、結果的に最終追い切りになったんですけど、その追い切りの姿を見て、オーナーが「これで行こう」っていう事で決めたんですよね。ちょうどロジユニヴァース追い切りもあってオーナーがトレセンにいらっしゃった時に。オーナーは「間違いない」とおっしゃっていましたけどね(笑)。僕はまだ不安でしたけど。
高:そうなんですか。先生としてはもうちょっと。
大:いや、でもあの時、出馬想定表を見たら、除外馬が6頭くらい出る状況だったんですよ。「これで除外になっちゃうとなあ…」という感じで、ちょっと延ばすのは…っていうところまで来ていたので。オーナーも「行く」とおっしゃっていましたし、僕も「この週しかないのかな」っていう感じで意見が一致して。もっと時間がかかるかな、と思った時もありましたけど。
高:思いのほか早く態勢が整ったんですね。
大:それに関しては、彼女の持っているものをちゃんと出させてあげようっていう方向に持っていったのが良かったと思います。最初の頃は「期待されている以上はいろんな事をしなければいけない」と考えて、形にこだわってちょっと詰め込んでいた時期があったんですよ。「ウチのスタイルとしてはこういうフォームで作っていきたい」っていう事を、彼女にいろいろ注いでいったんです。それが、理解してくれるものもありましたけど、全く反発されるものもあったので「これは、やっぱり時間がかかるのかなあ」っていう感じで考えていたんですよ、秋以降も。だから、彼女の持っているものをちゃんと出せる状態にしてあげれば、結果は付いてくるだろうなっていう考え方にシフトしたんです。
高:そうなんですか。
大:それで、必要以上なものをとにかく削ぎ落としていったんです。カイ食いが悪いというのもあったので、ゆとり教育じゃないですけど、あれこれ詰め込むのをやめて。そうしたらグングンと良くなっていったんですよ。大体3週間くらいですね。で、まあ継続的に心拍数も計っていたんですけど、その数値もやっぱりうなぎ登りに良くなっていって(笑)。
高:無駄を削ぎ落として、本来持っている力を出させてあげよう、と方向を決めたら、良い方に出た、と。でも、ずっとやって来た事を減らすのは勇気がいるんじゃないですか?
大:まあ、いりますよね。多少はしょうがない、と思って。今後教えたいものは次にとっておこうって(笑)。そういう感じで。まずはやっぱり一つ勝たせないと。もうこういう時期に来ていますし、オーナーが期待している馬ですから、大舞台から逆算していったら、あまり…。勝ちにこだわっていくしかないのかなって。
高:ちょっと歯車が狂ってしまうと、使いたいレースに使えなくなってしまったり。
大:そうなってしまいますからね。本当に大変だと思いますよね。まあ「東京で使いたいな」っていう頭もあったので、間に合って良かったです。
高:どういう点で「東京で使いたい」と思われたんですか?
大:ロジフェローズはパワータイプではないんですよね。しなやかさで走るようなタイプなので、中山の急坂っていうのは持ち味を殺されちゃうんじゃないかな、と思って。まあ、今後その部分も競馬を重ねていけば強くなっていくと思うんですけど、新馬戦を使う前はそんな印象ですよね。あと、データ的にもタニノギムレット産駒って東京向きという事もありましたから。
高:なるほど。先生がご覧になって、レース当日の具合はどうお感じになられましたか?
大:いやあ、良かったですねえ。体重は数字を見ると430キロで「え、こんなものなの?」っていうところだと思いますけど、パドックで見た時にもっと全然あるように見せましたからね。450~60くらいあるような歩き方をしていたので「良い雰囲気で持ってこれたなあ」って、ちょっとホッとしましたね。「これでもしヘンな競馬をしても、オーナーも納得してくれる」っていう状態に持ってこられたなあ、という感じでしたね。いつもオーナーはパドックまで降りてきて馬をご覧になるんですけど、お褒めの言葉もいただきました。
高:先生はデビュー戦をご覧になって、横山騎手と同じように「真面目だな」って思われたところはありますか?
大:うん、ちょっと真面目過ぎるかな、と思いました。思いのほかゲートをスムーズに出ましたけど、それは懸念していたところなんですけどね。むしろ遅れ気味に出てくれた方が、折り合いも付きやすいんじゃないかなんて言っていたくらいで。3コーナーを回るところも外を回っているのに彼女自身のペースが落ちていないなあって。普通はちょっと置かれ気味になっていけばいいところを、どんどん上がっていくから(笑)。あれー?っと思って。それで直線に入ったら少し“フワッ”てなったんですよね。「あれ?…これで終わっちゃうのかな」って。
高:もう脚を使い果たしたんじゃないか、と。
大:そういう感じで捉えてしまったんですけど、外に出して手前を替えてからはもう伸びが違いましたね。狭いところに入った事で、かえって馬にタメが出来て、それが最後の伸び脚に繋がったと思います。今考えれば、結果的に理想的な競馬だったのかなっていう感じですよね。ノリちゃんには追い切りでも乗ってもらって、彼女の特性というかクセを把握してもらったおかげもあって、ああいう競馬が出来たのかな、と。信頼し切って乗ってくれているという感じでしたもんね、あそこまで我慢出来るっていうのも。
高:あまり馬の力を信頼出来ていないと、もっと早めに動いてしまったり。
大:東京の1400って、前残りが多いですからね。その中であれだけ我慢していましたから。
高:それだけ、我慢すれば伸びてくれるだろう、という感触があったんでしょうね。では、横山騎手としても期待に応えてくれたという感じで…。
大:でもね、ノリちゃんが「真面目過ぎる」ってコメントをしていたじゃないですか。それ、もう何度も直接言われているんですよね、デビュー戦の後もね(笑)。ノリちゃん、「あとは調教師次第です」ってオーナーに言ってました(笑)。
高:プレッシャーがかかっちゃいますね(笑)。
大:何でそっちに話を持っていくのかっていう(笑)。まあでも、僕もやる事をやったら「あとは乗り役次第です」って、オーナーには言っていますから(笑)。
高:お互い様、という事で(笑)。
大:そうですね。
高:真面目な馬だけに、抜いて走る事を覚えてくれれば、と。そこら辺が成長してくれば距離も。
大:融通がきくと思うんですけどね。やっぱり距離が延びて良いタイプだと思うので。
高:しかも東京コースであの末脚を見ると、どうしてもオークスという舞台を意識してしまいますけど。
大:いや、考えたいですよね(笑)。オーナーが今年は牡馬クラシックの最高峰、ダービーを取った、と。じゃあ来年は牝馬のクラシックだ、という話で。だから今年はブリーズアップセールで牝馬を2頭買ったんですよね。
高:牝馬クラシックを狙うぞ、と。
大:桜花賞もオークスもっていう話になると思いますけどね(笑)。そういう気持ちを込めて選んだ馬なので、プレッシャーが…(笑)。まあ、自分も浦河の展示の時や、中山での走りを見ても「やっぱりこれだろうな」と思っていた馬だし、オーナーも気になっている一頭だっていう事で「買おうか」という話になって。まあ、他の方も結構目を付けていたので、どんどん競り上がって結果的に高い値段になったんですけどね。
高:先生も気になっていた馬という事で、預かる事が決まった時には喜びと同時にプレッシャーもあったでしょうね。
大:ちょっとプレッシャーもありましたよね。
高:ロジフェローズをはじめとして、楽しみな2歳馬がたくさんいらっしゃって。これだけ馬を揃えるのも大変ですよね。
大:いや、でも若い調教師は「若い」というだけで結構声を掛けていただけるので。でも、その後が恐いですよね。やっぱり成績を出さないと。今はお試し期間みたいな感じで預けていただけるのかな、と。
高:そういうキッカケであっても、ここで結果を出さないと。
大:出していかないと、やっぱり後に辛い事になっちゃうんじゃないかなって。
高:JRAのホームページでデータを見ると、先生の厩舎には今22頭の2歳馬がいらっしゃいますね。預けてくださっている馬主さんは、先生が所属されていた萩原厩舎時代からお付き合いのある方が多いんですか?
大:そうですね、何人かそういった方たちがいますけど、萩原厩舎と直に関わっている馬主さんはそれほど多くはないですね。
高:ところで先生は大学の獣医学科にいらっしゃって、競馬と獣医とどっちの道に進もうか、という岐路があったと思うんですけど、競馬の道に進もうと決めたのはいつ頃だったんですか?
大:そうですね、大学3年の時に競馬サークルの中に入って仕事をしよう、と思いましたね。もう競馬学校の年齢制限に引っ掛かるところだったんで。ギリギリで合格して。
高:キッカケは何だったんですか?
大:秋天ですね、レッツゴーターキンの。それで父(大崎昭一元騎手)が勝ってからだと思いますけど。その日、夕方5時くらいに用事があって学校へ行ったら、回りからえらく祝福されまして。
高:「おめでとう」とか「やったね」と。
大:勝ったのは僕じゃないのに(笑)。「これ、当事者になったら凄いな」って。まあ、子供の頃は結構、家で祝賀会とかやっていましたけど、自分の中ではあまりリアルな話ではないですよね、もうボヤーッとしたものだったんで。
高:先生もまだ小さかったわけですしね。
大:でも、秋天の時は今でも鮮明に覚えていますから。それで「これは良いな」と。獣医って、コツコツ頑張ってもこんなに喜ばれる事はないだろう、みたいな(笑)。獣医をやっていて「おめでとう」と周りから言われる事は無いだろうし。
高:「ありがとう」はあったとしても。
大:ですよね。「おめでとう」って声を掛けられる仕事ってあまり無いじゃないですか。それが、毎週毎週勝てば、毎週毎週言ってもらえるんですから。
高:「これはいいなあ」と。じゃあ、その日に気持ちが変わったんですね。
大:そうですね、その日ですね。それまでは、獣医として将来を考えていたので。
高:競馬学校に入る前にはどちらの牧場で働いていらっしゃったんですか?
大:僕はね、白井牧場ですね。昔はシグナスヒーローとかグルメフロンティアとか、走る馬が結構いましたね。育成でもナリタトップロードの育成をやっていた牧場です。
高:先生が牧場にいらした時にはどんな馬がいたんですか?
大:僕がいた時は、ハギノリアルキングとかメガミゲランとか、その辺かな。牧場にいた期間が短かったですから。9ヶ月で、冬を越す前にこっちに来ちゃいましたから。あまりの寒さに(笑)。いや、まあ競馬学校も合格していたので、残りの一ヶ月は美浦の近隣の牧場で馬乗りをやっていたんですけどね。
高:競馬学校に入る時に、将来は調教師になろうというお気持ちはありましたか?
大:いや、まだ無いですよ。入る前に調教助手になろうっていう考えはあったんですけどね。
高:いつ頃、調教師になろうというお考えが出始めたんですか?
大:うーん、具体的にいつくらいだろう…。でも、助手として何年か経って、やっぱり自分なりの考えが出てきた時があったんですね。萩原先生のやり方はこうだけど、僕はこうしたいな、と。日々の細かい部分は、乗っている者がある程度工夫出来るけど、例えばローテーションを組むとか、馬の入退厩をどうしていくかも、仕上げの中で大きなウエイトを占めているなっていうのが分かってきたんですよね。そうしたらやっぱり助手じゃ限界だなって。そこには手が付けられないんで。それで、調教師を目指すべきかな、と。
高:なるほど。萩原先生の厩舎にはかなり長くいらっしゃいましたね。
大:いましたね。僕はもう最初から助手としては萩原厩舎だけですから。だから他の厩舎のやり方も知らないんですけど(笑)。
高:萩原厩舎に所属していた時の思い出と言いますか、印象に残っているレースがあったら教えていただけますか?
大:うーん、どれだろう、たくさんあり過ぎて…。…ヤマニンアクロの新馬戦ですかね。
高:あ、ヤマニンアクロが重賞を勝った時ではないんですね。
大:重賞ではなくて、新馬戦の時ですね。札幌で5頭立てでしたけど、結構メンバーが揃っていたんですね。僕ね、萩原厩舎に入って、真っ先に担当を固定された馬がヤマニンアクロだったんですよ。「助手としてよい勉強になる馬だと思うよ」って言われて。「大人しいよ」とも言われたんですけど、全然ウルさくて(笑)。
高:評価が違ったんですね(笑)。
大:本当に、毎日落とされていましたよ。毎日憂鬱でした。共同通信杯を勝った時も、ゴール板を過ぎてから勝浦騎手が落とされているんですよね。今まであれ以上に「怖いなあ」と思う馬はいないかもしれないですね。
高:かなり大変な思いをされて。
大:だからこそ札幌の新馬戦を勝った時には、どうしていいか分からなくなって、スタンドの階段を行ったり来たりして走り回ってしまったんでしょうね。あれはそれだけ嬉しかったですから。
高:気持ちも格別ですね。
大:あとは、萩原先生から「何とかこの馬を仕上げれば、君の厩舎の中での位置も上がっていくと思うよ」と言われていたんですけど、その言葉ですよね。それで「何とか頑張らなきゃ」って強く思いました。
高:それは気合が入りますね。
大:はい。また、萩原厩舎にいた僕以外の二人の助手さんが、上手いんですよ。全然敵わないので、悔しくて…。それが、アクロが勝ってくれて、少し自分の立ち位置も定まって来たというか。最初は厩舎の中に居場所がありませんでしたから。この社会は結果を出さないと認めてもらえませんからね。でもアクロが共同通信杯を勝ってクラシックに乗って、ダービーにも出てくれて。本当に良い経験が出来ましたよ。
高:ヤマニンアクロの共同通信杯が萩原厩舎にとって初めての重賞勝ちになったんですよね。そういう意味でも嬉しさがあったんじゃないですか。
大:そうですね。あの共同通信杯の時は「してやったり」という感じでしたね。人気も10番人気でしたし、勝浦騎手が「これは逃げるしかないな」と判断したんでしょうね。それが本当に見事に的中してハマって。
高:新馬勝ちの時に走り回ったという事は、共同通信杯の時もやっぱり走り回ったりされたんですか?
大:いえ、その時は冷静に見ていましたね。多分、新馬戦の時に盛り上がり過ぎたって反省したのかもしれないです。
高:反省されたんですか。
大:だって、周りには負けている相手もいるのに、その中で一人でハシャいでいてはダメだなって。敗者がいるから勝者がいるんだ、という考えになりました(笑)。
高:じゃあ、レース結果だけでなく、そういう面でもヤマニンアクロには良い経験をさせてもらった、と(笑)。
大:確かにそうかもしれないですね(笑)。
高:大竹先生は、ヤマニンアクロ以降も重賞を勝つような馬に接して来られて。
大:その都度、良い勉強をさせてもらえましたね。アタゴタイショウが函館2歳ステークスを勝った時には、ほとんどの馬が函館で調整する中、札幌で調整をしたんです。萩原先生からは「現場に任せる」という話で。
高:大竹先生をはじめとした札幌に滞在しているスタッフの方たちでいろいろ考えながら調整されていたんですね。
大:萩原厩舎は担当制というか、個人の能力に依存するというか、スタッフ個人の職人技を生かすような厩舎運営スタイルなんですよね。そういう、個々のスタイルを尊重する厩舎なんですけど、札幌では、手の空いている人間がアタゴタイショウの世話を順繰りにやっていたんですよ。
高:みなさんで協力されて。
大:もう、時間が許す限りやれる事はやろうっていって、注げるものを全部注ぎました。そうしたら勝つ事が出来て。
高:やりきった甲斐がありましたね。
大:馬の具合が良かったんですよ。僕たちも燃えていましたしね。あの、夏の2歳重賞ってテレビで流すために調教を撮るじゃないですか。でも、札幌にいたのが一頭で、しかも人気薄だからって事があったんでしょうけど、誰も来ていなかったんですよ(笑)。
高:そうなんですか。
大:それでも、コメントは取るのかな、と思っていたらコメントすら取ってくれなくて「これはもう勝つしかないでしょう!」と(笑)。
高:反骨心まで生まれて(笑)。ちなみに萩原先生はスタッフ個人の職人技を生かすような厩舎運営スタイルというお話でしたけど、大竹厩舎ではどのような厩舎運営スタイルを理想とお考えですか?
大:僕の厩舎にも、過去に重賞勝ち馬の担当をしてきた職人技を持ったスタッフがいます。そういうスタッフは、馬を見る目は確かですし、素晴らしい技術を持っていますから、そういう個人の力を生かしつつ、厩舎単位で馬を良くしていきたいと思っています。個人技も大事にしつつ、チームプレーに徹してもらって、大竹ブランドというものを発信をしていかないといけないのかな、と。
高:なるほど。そうやってチームプレーを徹底していくには、スタッフ間の情報共有なんかも大事になりますよね。
大:そうですね。それは凄く大事だと思います。それも含めて、効率良く仕事を進める事も意識しています。ほら、トレセンの中は独特の休み時間が設けられているじゃないですか。例えば、助手が馬場に出て馬に乗っている時に、その馬の担当厩務員はスタンドで見ている、とか。
高:はい。
大:それで一頭につき30分休憩があると、担当馬が2頭で1時間ですから、そういう無駄を省いてギュッと凝縮すれば、効率が良くなりますよね。
高:そうですね。
大:なぜ効率にこだわるかと言うと、短い時間だけ集中して仕事をしていればケガも少なくなるだろうな、という考えがあるんです。やっぱりダラダラやっていると、事故の起きる率も高まるんじゃないかと思うんです。だから、集中しててきぱきと終わって、休む時はしっかりと休んでくださいね、と。
高:メリハリをつけるんですね。他にも大竹先生が仕事をするうえで気をつけている点がありましたら教えていただけますか?
大:僕は、一人でも多くの人が幸せとか、楽しいと思ってもらえるようにしたいと思っているんです。だから、ファンに対しても細かいコメントを出すようにしていますし、馬主さんにも同じように、馬の状況を伝えるようにしています。
高:なるほど。
大:パソコンで競馬の掲示板を見ると「レース前に、先に言えよ!」というような書き込みがあったりしますからね。例えば、レース前は調子が良いっていう話だったのに、レース後のコメントでは「やっぱりソエの影響だったのかなあ」みたいな。だから、やっぱり出来るだけ精度の高い情報を出していかないといけないな、と思いますよね。
高:ファン目線ですね。
大:あと、僕のコメントは、それだけでは完結しないようにしているんですよ。レース当日の体重とか雰囲気とか、入れ込み具合で判断してくださいって、ファンに投げかけるような言葉を一言添えるようにしています。実はそこには「競馬は、現場で見て買ってください」っていう思いも込めているんですけどね。
高:競馬場に来てください、と。
大:そう、ライブ競馬ですよ(笑)。結局、そこに行き着かないと競馬が廃れていってしまうのかな、と。そうでないと、ゲームでしかなくなってしまいますから。それを危惧して言っているんですけどね。……深いでしょ(笑)?
高:深いですね(笑)。本当にゲームのようになって行くとどんどん競馬が味気ないものになっていってしまいますよね。
大:やっぱり、生き物のやっている事なんだし、無機的な競馬ってイヤですよね。もっと、レースが終わった後に、いろんな逸話が出てくるような競馬がいいですね。最近では、義理人情みたいなところで泣かせるような話も少ないですし。
高:何かファンの人たちにも熱が伝わるような感じの。
大:そういう方向に持って行きたいと思っています。ちなみに高橋さんは、こういう仕事を始めてから馬を間近で見るようになったんですか?
高:はい、そうです。初めの頃は、大きくてちょっと怖かったです(笑)。
大:そうでしょうね(笑)。競馬は昔からご覧になっていたんですか?
高:いえ、ターフ・トピックスのお仕事が決まってから初めてレースを見ました。父が競馬が好きなので、昔から家で騒ぎながらテレビ中継を見ていたんですけど「うるさいな」と思って自分の部屋に引っ込んでいたくらいでした(笑)。
大:そうなんですか(笑)。
高:それが、レースを見て一発でハマりました。お仕事の関係で、競馬場でレースを見る時は静かに見るようにしていますけど、プライベートの時は、父と同じで大騒ぎしながら見ています(笑)。
大:それは血ですね(笑)。やっぱり競馬はブラッドスポーツですよ(笑)。
高:父の特色が思いっきり出ちゃいましたね(笑)。ではそろそろお時間になりますので、最後に先生が勝ちたいレースがありましたら教えてください。
大:え?また最後に来て、急に月並みな質問になりましたね(笑)。
高:すみません(笑)。
大:うーん、実は難しいんですよね、この質問…。目標はやっぱり置かないといけないんでしょうけど、それによって馬を追い込んでしまうのは、獣医師としてどうなのかなって考えてしまうんですよ。
高:獣医の資格を持っている立場から見る時と、調教師として見る時と違いが…。
大:そうなんですよ。それで結構悩むときがあります。競馬は、やっぱり攻める時に攻めていかないと勝てないものですから。
高:馬にとっては厳しい要求をしなければいけない面もあって。
大:そうです。でも、獣医になる人っていうのは、動物が可愛いから獣医になるっていうのがほとんどなんですよ(笑)。
高:動物にやさしくしたい、と思っているんですね(笑)。
大:だからツラいですよね。でも愛情だけではね、競馬は走らないですから。競走馬は、完全な愛玩動物ではありませんからね。
高:結果を出さないといけませんからね。
大:だから勝ちたいレースっていうと、困っちゃうんですよね。でも、開業前はあれも勝ちたいしこれも勝ちたいな、なんていう事も考えましたけど、開業してみるとどのレースでも勝ちたいですよ(笑)。
高:もう全部勝ちたい、と(笑)。大竹先生のお気持ちが伝わりました。これからも応援しています。今日はありがとうございました。
大:ありがとうございました。
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麻布大学獣医学部獣医学科を卒業し、獣医師の免許を持つ異色のトレーナー。開業前に所属していた萩原厩舎では、助手としてヤマニンアクロやアタゴタイショウ、ロジユニヴァースなどの調教パートナーを務めた。また、厩舎公式ホームページ(http://bigbamboo.chicappa.jp/)内では、ブログも公開している。 |
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■出演番組
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2006年から2008年までの2年間、JRA「ターフトピックス」美浦担当リポーターを務める。明るい笑顔と元気なキャラクターでトレセン関係者の人気も高い。2009年より、競馬ラボでインタビュアーとして活動をスタート。いじられやすいキャラを生かして、関係者の本音を引き出す。 |