関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

高市圭二調教師

高市圭二調教師


‐:朝日杯フューチュリティステークスに出走するエスカーダに関して、高市調教師にお聞きします。よろしくお願いします。

高:よろしくお願いします。

‐:デビュー以来、一貫して芝1200メートルを使い続けていますね。

高:エスカーダはゲートがメチャクチャ速かったんですよね。それで「これは1200でも対応出来るな」と思っていたんです。

‐:それでデビューから1200メートルを使ったんですね。

高:そうです。また夏の2歳戦は1000メートルや1200メートルが主体でしょう?

‐:そうですね。デビュー戦は6月28日、福島競馬場で柴山騎手騎乗でした。

高:化骨状態がB評価の馬だったから「あまり新馬戦でギシギシとやる事もないし、あまり嫌なイメージを付けないように回って来て欲しい」という指示を出しました。レースでは、案の定、良いスタートを切って2番手に付けて行って。最後はタレて5着になってしまいましたけど。

‐:13番人気という評価を覆しましたね。

高:ねえ。ちょっと評価が低過ぎるかな、と思っていましたけど。

‐:続く未勝利戦では1番人気に支持されて。



高:急に評価が上がりましたよね(笑)。デビュー戦の時はあまりギシギシとやらなかったけど、馬も一回レースを使ったら覚えて、自分からポーンとスタートして、先行して抜け出して。余裕のある勝ち方でしたね。

‐:未勝利勝ちの後は、間を置かずに札幌に行きましたね。これは勝ってすぐに札幌行きを決めたんですか?

高:そうです。勝っていればステークスに使えますからね。それですぐ札幌に持っていきました。

‐:では、狙いは函館2歳ステークスだったんですね。

高:そうです。

‐:函館2歳ステークス前にラベンダー賞を使われました。

高:あの時は、レースが終わって間もなく札幌へ運んで、ちょっと馬に無理をさせちゃったかな、と思いましたね。

‐:ラベンダー賞出走時の馬体重は450キロで、未勝利勝ちの時と変化がありませんでしたね。

高:数字上では変わりはありませんでしたけど、ラベンダー賞の時は未勝利の時と比べて、何かちょっとしぼんだ感じだったかもしれないですね。調整過程でも、化骨状態がまだまだという状況で、札幌競馬場のダートコースでギシギシと追い切る事も出来なかったし、レースを使って間もなかったから、本当に馬を傷めない為に調整した感じでしたね。

‐:そのラベンダー賞は、先行して4着でした。

高:結構キツい過程だったにも関わらずあれだけやれるっていうのは「やっぱり力があるんだな」と思いました。馬体の完成度で言っても、まだ6分くらいの体で、まだまだという状況でした。

‐:ラベンダー賞から函館2歳ステークスに向かう過程はいかがでしたか?

高:調整は問題ありませんでしたけど、レースではちょっと作戦を失敗してしまいましたね。先行すれば良かったなあって。「行ってなんぼ」という、この馬の良いところを引き出してあげられなかったという気持ちがありました。

‐:では、函館2歳ステークスの結果からも「この馬は前に行く馬なんだ」という気持ちもより強くなられて。

高:はい。腹は決まりましたね。

‐:函館2歳ステークスの1ヶ月後にはすずらん賞に向かいましたけど、疝痛で取り消しとなりました。この時の状況を教えていただけますか?

高:馬の具合は凄く良かったんですよね。もう、物凄く良かったんです。でもまだ、馬の体と心のバランスが取れていなかったんでしょうね、レース当日の朝に腹痛を起こして…。具合が良かったから使いたかったけど、ここで無理をする必要は無いと思って取り消しました。しっかり処置したから、次の日にはもうケロッとしていましたよ。

‐:大事には至らず、という事で。

高:そうですね。それで腹痛を起こした後は少し楽をさせましたし、そもそも北海道が涼しくて過ごしやすかったから、馬にとっては良いリラックス効果はあったんじゃないかな、と思います。

‐:なるほど。その後は中山に戻ってカンナステークスに出走されますが、この時は馬体重がマイナス8キロでした。

高:やっぱり、北海道から美浦へ戻って来る輸送で。あと、腹痛を起こして腸内を洗浄しましたし、口籠をして食事量が減った事もありましたからね。

‐:それらが影響して馬体重が減ってしまったわけですね。馬の出来はどうでしたか?

高:それは大きな問題はありませんでした。


‐:カンナステークス後から次走の福島2歳ステークスまで2ヶ月ちかく間があきましたが、これは何故ですか?

高:ちょっと寝違えか何かで、トモを少しひねったんですね。それでちょっと筋肉痛になったから「無理する事はない」と思って。この後にちょうど良い間隔で、未勝利を勝った時と同じ舞台の福島2歳ステークスがあったし、そこまでじっくり立て直そう、と。

‐:そして福島2歳ステークスに出走しますが、ここでは振るわずに13着でした。

高:もうちょっと前に行っても良かったかな、という印象でしたね。休み明けで息の入らないところもあったし、大作も初めて乗ったから、半信半疑のところがあったかもしれませんね。でも、これを使った後にググッと良くなって来たんですよ。トモの送りも凄く良くなって、稽古で乗った者もみんな「競馬を使った後の方が良いです」と言っていました。

‐:そうなんですか。調教の動きも格段に良くなったな、と感じられましたか?

高:あまり調教で動くタイプではありませんでしたけど、トモをちょっと強くしようと思って、福島2歳ステークスの前から坂路に切り替えたんですよね。そうしたらトモがどんどん良くなって来て、踏ん張りが利くようになって。クリスマスローズステークス前の調教の頃には、結構楽な感じで良い時計を出していましたから。息の入りも凄く良くなって。だから中山のレースの前は楽しみでしたね。

‐:そのクリスマスローズステークスでは見事に1着になられて。

高:期待どおりでしたね(笑)。中山の坂がどうかな、とも思っていましたけど、トモが良くなった事もあって、最後のひと踏ん張りが利きましたね。

‐:エスカーダは、調教の動きとレースでの動きが割りと繋がるタイプですか?

高:そうですね。分かりやすいタイプだと思いますよ。ファンにも分かりやすく、優しい競馬で(笑)。

‐:いいですね(笑)。クリスマスローズステークスを勝った後の状態はいかがですか?

高:更に良くなっています。やっぱり化骨状態や内臓も含めて、体が丈夫になって来ているんじゃないかと思います。クリスマスローズステークスの時も馬体重が増えていたように、食べたものがしっかりと身に付くようになって、筋肉も付いて来ていますしね。

‐:馬体が成長されて。

高:そう。でもまだこれからも伸びる余地はあると思うし、これで完成、というところまでは行っていないと思います。それでも力は出せる状態ですけれども。

‐:なるほど。そして今週は朝日杯出走になるわけですけど、出走を決めたのはいつ頃になるんですか?

高:クリスマスを勝ってすぐです。そろそろ長い距離のところも使ってみたかったし、良いタイミングだな、と。

‐:先生は「マイルでも対応出来ると思う」とおっしゃっていますが、そう思われるポイントはどんなところですか?

高:やっぱり体型なんですよね。体が長くて、短距離馬の体じゃないんですよね。短距離馬って、もっと体が詰まっていて、お尻もグワッと盛り上がって、いかにもパワフルという感じなんですけど、エスカーダはそういう感じではありませんからね。

‐:短距離馬の体型ではない、と。

高:どちらかというと長距離向きという感じです。でも小脚は使えるし、スタートも抜群に速いし、1200のオープンでも楽に付いていけるだけのスピードがあるんですよね。

‐:いいですね。朝日杯に向けて、今までと違う調整をされたりしましたか?

高:いや、これといって特に特別な事はしませんよ。レースの間隔もあいていませんし。レース後は、馬場に出ないで歩かせたりしてとにかく疲労を取ってあげよう、と。先週末には坂路を2本スムーズにやって、今週の追い切りに備えて。水曜日の追い切りは単走で軽くやっただけですけど、体調が良いからタイム(坂路50.9)も良かったですね。

‐:順調なんですね。

高:はい。やっぱりG1だからといって特別な事をやるよりも、普段どおりの事をキッチリやる事の方が大事ですから。人間が舞い上がっていたら絶対勝てないですよ(笑)。やり過ぎず、やらなさ過ぎず、いかに普段どおり出来るかが大事だと思います。

‐:なるほど。

高:だからこそ、普段から高いレベルでの仕事が出来ていないとダメなんですよね。日々の積み重ねが大事なんです。G1だからって急に馬の状態を上げる方法なんてありませんから(笑)。

‐:そうですね(笑)。さて、鞍上は前走と同じクラストゥス騎手ですが、エスカーダ以外にも先生の厩舎の馬によく騎乗していますね。

高:うん、彼は上手ですよ。馬込みでも馬をなだめるのが上手いし、無駄な動きをしませんからね。追ってからも馬をまっすぐ走らせられるし、隙間も作らないし。

‐:隙間を作らない、ですか?

高:内側から行きたいような馬がいても、危ない乗り方でなく、キッチリ閉めて抜かせないように出来るんですね。だから、レースでクラストゥスの隣を走る騎手は凄くやりづらいと思いますよ。



‐:したたかな感じですね。

高:そうですね。でもしたたかというか、フランスの競馬ではあれが普通ですからね。向こうのレースは馬群がグッと固まって進んで行きますから。そういう流れの中で揉まれて来ただけの事はあるな、と思います。

‐:なるほど。エスカーダとクラストゥス騎手は前走で初めてコンビを組んだわけですが、相性に関して先生はどうお考えですか?

高:勝ったから言うわけではないですけど、合っていると思います。クラストゥスは道中も上手ですけど、追わせても凄く上手ですからね。「最後までもたせるぞ」という感じで、追い方も力強いですよ。それが馬にとっても良い影響がありましたね。やっぱりジョッキーがあきらめてしまったら、馬にも伝わって勝ち切れなかったでしょうから。レースが終わった後「良い馬です」って言ってくれたし、彼もエスカーダを気に入ってくれているんじゃないかな(笑)。

‐:そうですか(笑)。人馬のコンビもバッチリという事で。では、朝日杯に向けての展望をお願いします。

高:レースでは先行策を考えています。今の馬場ならそんなに速い流れにならないでしょうし、みんなが牽制し合うような形になれば面白いと思います。

‐:分かりました。では最後に抱負をお願いいたします。

高:多くの馬がデビューするなか、エスカーダが2歳チャンピオン決定戦に出られるだけでも本当によく頑張ってくれていると思います。強い相手が揃いましたが、エスカーダも具合は良いので楽しみを持っています。

‐:応援しています。

高:こういう値段のあまり高くない馬が頂上決戦に出られるというのも競馬のひとつの面白さですよね、ロマンがあって。このエスカーダは、バゴという種牡馬の評価に影響を与える存在でもありますし、ファンの方にはそういうところも楽しんでいただけると嬉しいです。

‐:分かりました。ちなみに先生の厩舎は今、199勝ですが…。

高:朝日杯で200勝が決まるとカッコいいですね(笑)。

‐:そうですね(笑)。では、朝日杯を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

高:ありがとうございました。




高市 圭二

1955年千葉県出身。
1996年に調教師免許を取得。
1996年に厩舎開業。
JRA通算成績は199勝(09/12/17現在)
初出走:1996年12月22日 6回 中山8日  4R マレットラック(8着/16頭)
初勝利:1997年 3月 8日 2回 中山5日  7R ミヤギロドリゴ


■最近の主な重賞勝利
・05年ダイヤモンドS (ウイングランツ号)
・01年、00年ガーネットS (共にビーマイナカヤマ号)
・00年帝王賞、00年東京大賞典 (共にファストフレンド号)


ファストフレンドやビーマイナカヤマ、ウイングランツなどの重賞勝ち馬はもちろん、タレント陣内孝則氏が所有するキクジロウを管理している事でも話題に。現在も馬に乗っており、趣味であるキックボクシングなどの影響もあり、元ジョッキーらしい精悍な体つきを維持し続けている。