関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

酒井学騎手

これまでもとにかく堅実だったニホンピロアワーズ(牡6、栗東・大橋厩舎)だが、JCダートでタイトルを奪取した後は風格すら漂ってきたように映る。現代の競馬において6歳でここまでの進化を遂げる馬も珍しい。今回は3歳時から主戦として手綱を取り、自身も同馬でG1を初勝利、その背で成長を感じてきた酒井学騎手に、初めてとなる大井ナイター攻略(帝王賞出走)の手応えを伺ってきた。

みやこSを転機に突如の激変

-:前走の平安Sは59キロを背負って横綱相撲でしたね。スタートからレースを振り返っていただけますか。

酒井学騎手:レース前の大方の予想だったら、トウショウフリークが競ってきて、になると思っていたら、パッと見たら同じ厩舎のナムラタイタンがいて、まさかこんないい位置にいるとは思わなくて……(笑)。太宰騎手も、こちらが一番人気で気を使っていただろうし、お互い顔見合わせて、“どうしよう”と思っていたと、レース後に言ってました(笑)。僕もそんなに前には行きたくなかったですしね。

-:ちょっと1コーナーで外に膨らんだ感じでしたね。

学:そうですね。馬が外に張るところがあって、僕も焦ってしまって、ちょっとハタノヴァンクールと、トミケンアルドールに迷惑かけてしまいましたね。向正面に入るところからは完璧なポジションでしたね。あとはもう掴まっていただけです。

-:抜け出して1頭になると、ソラ使うようなところありますよね?

学:そうなんですよ。なので、平安Sに関しても、待てるとこまで待って追い出したんですよ。でも、抜け出して姿勢の高くなるところはありましたね。ただ、逆に59キロを背負って、あそこまで待っていられるというのは、改めて、この馬の力に驚きましたね。

-:去年のみやこSあたりから、何か変わったなという印象を受けるのですが?

学:僕からすれば、みやこSでもソラを使うところがありましたし……。着差が着差だけに、もう少し、あとちょっとだけ集中してくれたら勝っているのに、というレースでした。みやこSの時点で、交流重賞勝ちしかなかったので、なんとか早くJRAの重賞レースを勝ちたかったんです。交流では結果を出せる力は見せてくれていたので、持っているものは確かなんでね。

-:徐々に力をつけていった感じですね。

学:みやこSで変わったというよりも、ステップを踏んで行ってという感じですね。みやこSからのJCダートまでの変わり身……。“あそこはなんやったんやろ?”という感じです(笑)。

-:そして、ジョッキーとしたら、みやこSでの悔しさを活かしたのがJCダートですね。

学:みやこSでも十分に待ったつもりでしたけど、まだ早いかと……。やっぱり重賞レースじゃないですか、ある程度馬が見えたら、そろそろ追って行かなきゃってなりますし。条件馬だったら、持ったままの手応えで待っていたら、他の馬が下がっていたりするけど、重賞はそこからでもビュンって突き抜けてくる馬がいますからね。

-:それがみやこSのポイントですね。

学:あそこでもうちょっと追い出しを待っていれば、ローマンレジェンドも動けない。僕が動いてできたスペースを突いてローマンが来た訳ですから。

-:悲しくも自分がスペースを作ってしまったと。

学:そうそう。馬は反応してくれているのですけど。あそこで待てていたらどうなっていたのだろうと……。

-:JCダートはそれまでの事を一気に払拭したレースでしたね。

学:JCダートは気楽な気持ちで乗れました。G1で相手強いのがわかっていましたし、チャレンジャーでしたし、今回は追い出しを待てるだけ待てってやろうとね。そうしたら、あの内容でした。



大井コースよりも課題はナイター

-:平安Sを叩いての帝王賞、大井コースに臨む訳ですけれど、初めてのナイター競馬、そこが気になるポイントになると思うのですが?

学:大井は右回りだし、紛れもないですし、コースには問題ないと思います。どちらかと言うと、左回りがダメな馬で、ちょっとしたところに敏感なところがある馬なので。川崎記念で使った川崎競馬場が左回りで、コーナーリングで故障したのかな?って、思うくらいのレース振りで……。

-:それは、もう左回りがダメということですか?

学:僕は苦手だと思っているんですよね。川崎はコーナーもキツいけれど、小回りは名古屋や金沢では大丈夫だし。ナイターは大丈夫だと思いますよ。

-:ローマンレジェンド、ホッコータルマエ、ワンダーアキュート、ハタノヴァンクール、テスタマッタと錚々たるメンバーが連なるわけですけど。

学:G1レースですからね。やっぱりそれくらいのメンバーが揃ってくれないと!逆にメンバー軽かったら、「ラッキーなG1だよ」とか言われるだろうし……。やっぱり、G1はG1らしいメンバーが出てくれないとね。お客さんも見応えあるだろうし。ジョッキーとしても、そこで勝ってこそのチャンピオンだし、望むところですよ。

アワーズも力つけていますけれど、去年の東京大賞典を勝ったローマンレジェンド、ホッコータルマエも連勝して去年とは別馬ですし、確実に走ってくるワンダーアキュート、底を見せていないハタノヴァンクール。錚々たるメンバーだけれども、相手云々より、アワーズの自分のリズムでの走りができれば一番だと思います。




-:時計のかかる時の大井コースの対応とかはどう考えますか?

学:他の交流重賞で経験していますしね。2500メートルの名古屋グランプリでも距離こなしてくれていますし、その辺は問題ないと思います。

-:やはり、ナイター?

学:そこは未知なんでね……。「別に夜だからといって、気にするな」という事でも馬って元来は臆病ですからね。競馬のある日の調教とか、いつもより早い時間帯(で照明がついている)なんですけれど、ビクビクしちゃう馬とかいますから。逆に引っかかる馬なのに、朝早く暗い時間帯だったら、引っかからないとかありますからね。もし、アワーズが敏感になって、競馬に集中しきれなかったというのも、ないとも言い切れないですからね。

-:普段は馬房にいる時間ですものね。

学:でも、それはいい訳にならないですから。

-:アワーズは普段の調教でも、コース入る時に立ち止まったりしますよね。

学:そういう気ムラな面はありますね。

-:ポリトラックコースの調教とか、すごく軽い走りをしますよね。芝でもいけるような気がしますが……。

学:僕もそれは早い段階から思っていました。これだけ柔らかい身体で、軽い走りするのだったら芝でもやれるだろうと思いましたね。ただ、これだけダートで結果残しているので、あえて芝に行く事もないだろうしね。



緊張を楽しみつつ王座を防衛

-:かなり気の早い話になりますが、来年はオールウェザーのドバイWCなどが目標になるのではないですか?

学:それも頭にはなくはなかったです。まだうっすらとした夢の段階ですけど。ドバイに行くのであれば、左回りも克服しないといけないですし、ナイターもあるし、長距離の輸送もありますからね。歴代の出走した馬を見ていると、やっぱり帰ってきてからガタっときてるじゃないですか。そう思うと、今の時期じゃないかなと。

-:今はアワーズの力をつけていく段階だと。

学:JCダートを勝ってチャンピオンになりましたけれど、やっぱり、追われる立場で、それをどうやって防衛して行くかって事ですからね。

-:帝王賞の後はJBCが目標ですか?

学:そうなってくると思います。今年は、実績のある金沢競馬場での開催ですからね。

-:これからは人気を背負った時の重圧との戦いですね。

学:本当にそうですね。平安Sの時が、アワーズとのレースの中で一番緊張しましたからね(笑)。

-:帝王賞もそれ以上に緊張するかもしれませんね。

学:その緊張も楽しめるように。なかなかここまで緊張することもないと思うので(笑)。

-:貴重なお話をありがとうございます。

学:こちらこそ、ありがとうございました。




【酒井 学】Manabu Sakai

1980年 新潟県出身。
2013年 西園正都厩舎に再度所属。
JRA初騎乗
1998年3月1日 1回中京2日1R ショウワヒカル
JRA初勝利
1998年3月8日 1回中京4日12R マチカネヒガノボル


■最近の主な重賞勝利
・12年 JCダート/13年 平安S
(共にニホンピロアワーズ号)
・12年 京阪杯(ハクサンムーン号)
・12年 プロキオンS(トシキャンディ号)


1998年に二分久男厩舎所属からデビュー。池添謙一、太宰啓介、白浜雄造、中谷雄太騎手らと同期にあたる。 デビューイヤーこそ25勝を挙げたが、その後、勝鞍が減少。7年連続で年間の勝ち星がひと桁に留まった時期も経験。
しかし、近年は所属した西園正都厩舎や、「ニホンピロ」の冠名で知られる小林百太郎オーナーのバックアップもあり、勝ち星を伸ばすと、昨年はニホンピロアワーズとのコンビで涙の初G1初制覇。 西園厩舎のハクサンムーンで京阪杯を制し、恩人であるオーナー・師匠に報いたことはファンの感動を誘った。 父は現在では廃止となった公営・新潟競馬の厩務員、兄は川崎競馬の酒井忍騎手。