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中山義一調教助手



昨年9月のデビュー戦を単勝1倍台で快勝したように、ウインバリアシオン級の期待が込められていたマジェスティハーツ(牡3、栗東・松永昌厩舎)。その後は故障により調整が遅れ、最後の権利を取りに行ったプリンシパルSで3着と日本ダービー出走は叶わなかったが、夏に2連勝で賞金を上積みしてきた辺りが高い資質の証明だろう。最後の一冠に懸ける陣営の意気込みは言わずもがなで、中山義一調教助手にその前哨戦となる神戸新聞杯のポイントを訊ねてきた。

2連勝までの道程を振り返る

-:マジェスティハーツ(牡3、栗東・松永昌厩舎)が神戸新聞杯に向かいます。競馬は7月の中京以来になりますが、短期間でも夏場に休養したことによる変化などがあれば教えて下さい。

中山義一調教助手:新馬を勝った後に、トモか筋肉の筋か、腸骨の辺りを痛めました。腸骨は骨盤と背骨とを繋げる部分です。それで4ヶ月ほど休養させ、帰ってきてからは順調に使えていて、皐月賞には間に合わなかったのですが、ダービーに使いたいので、プリンシパルSに向かいました。すぐに頭を上げてしまう癖があって、頭を上げないように、ネックストラップやランニングマルタンなどを装備してレースに挑んだのですが、ちょっとペースが遅かった分、抑さえようとしたら頭を上げて、良い位置にいても、最後方まで下がってしまいました。

結果、終い32秒台の脚で追い込んではくれたのですが、僅差の3着でダービーには行けませんでした。そこを目標に凄く攻め上げてきたので、少し疲れが出まして、その後1走がダメ。“じゃあ、緩めてしまおうか”ということで思いっきり緩めたら、結果、2連勝ということで、春先はそういう過程でした。2ヶ月ほど放牧に出しまして、9月に帰ってきてからは、馬もトモの筋肉に違和感がなくなったのか、頭を上げることもなく、抑えやすくなって、凄く乗りやすくなっています。今は一回り、二回り大きくなって、力もついたかなというところですね。


-:先ほど、馬体を見せていただいたのですが、まだちょっと休み明けっぽい腹回りというか、締まりに関しては、使ってからの方が良くなるだろうなという感じでしたが。

中:菊花賞が目標なので、その辺はいくらか味付けをしていかなければならないと思います。ただ、輸送では結構減るので、ちょっとゆとりを持った仕上げの方が能力を発揮できるんじゃないかと思っています。

-:「もともとトモに弱さを持っている」とのことですが、この馬はPコースに入ってから坂路に行くのですか?

中:ウチの調教パターンがPコースと坂路、もしくは坂路2本というのが基本になっています。

-:トモを緩めたことで2連勝したわけですが、ダービーを目標に仕上げている過程で、プリンシパルを使った直後に京都(3歳500万下)で武豊騎手が乗って6着に負けたレースですが、あのレースと中京で勝った長久手特別(1000万下)とは好対照のレースですよね。

中:そうですね。ユタカ君が乗ってくれたレースは、プリンシパルの疲れが取れないままでイケイケの状態だったと思います。帰ってきて、結果が出ていないので、ユタカ君もちょっと首を捻っていて、「じゃあ思い切って調教で楽をさせて使おうじゃないか」と。あまりにも不甲斐なかったのでね。追い切りは馬の気がよくて走ってしまうので、なるたけ走らせないように工夫をして使ったのが2連勝に繋がったと思います。

-:森(一馬)騎手が乗って2連勝したわけですが、京都の時は馬場状態が良かったので、勝ち馬が逃げ切ったウインアルザスでした。マジェスティハーツも内枠からスタートして外にスペースを見つけて、4コーナーを回って来る時は内から5・6頭目のコースを通ってきたので、距離的なロスというか、展開としては不向きな面もあったのかなと思います。

中:僕の主観的な考えですが、通用する馬なら、掛かろうが、出遅れようが、不利があろうが、掲示板には来ないといけない。それが来られていないというのは、状態が良くなかったのだろうなと思います。

-:あのレースに関しては“スローペースだったから不向き”という以前に、コンディション自体がクエスチョンマークだったということですか?

中:そうだと思います。

-:前走、中京で勝った長久手特別なのですが、終いの差し脚がいい割に、前半の行きっぷりもいいんですよね。

中:出して行ってしまうと、その気になって行ってしまうので、本質的に2000くらいがベストなのかなという気がしないでもないんです。ただ、長距離に向かっていくには、みんながそういうところを通ってきながら、騙せるかというところが最大のポイントになってくるかなと思うんです。それに、3000がもの凄く得意な馬はいないと思うんですよね。

-:距離うんぬんの他にも、性格的にスローペースを我慢できるのかとか、長い時間を走って集中力を維持できるのか、という意味では、若干の不安もあるのかなと思うのです。

中:不安はありますね。ちょっと掛かるということはずっと頭にありましたので、それを踏まえて、放牧から帰ってきた後は、馬を前に置いて我慢させるとか、行きたがっている時に抑えることで馬にわからせることなどを、ずっと稽古しています。それが稽古で100できても、競馬でどれくらいできるかというのはわからないんですけれど、稽古で100できないものは、競馬で100できないですからね。一応、100やったつもりでいるんですけどね。

-:その辺りは、春のマジェスティハーツと比べてどれくらい変化があるかというのは、神戸新聞杯でしっかり確認したいところですね。

中:そうですね。僕らとしては、その辺で競馬をさせてあげたい馬ですし、冠も1つくらいは何かが取れるんじゃないかと期待していたので、やっとみんなと同じ舞台に立つことができたかなと思います。



ウインバリアシオンの経験をこの馬に

-:皐月賞、ダービーという舞台を踏ませてあげられなかった、という思いが、菊花賞に向いている状態ですね。

中:菊花賞は松永昌厩舎からウインバリアシオンを使ったことがありますし、3000に向かうにあたっての“こうした方が良いだろう、こうしなければいけない、こうした方がプラスになる”というのは身を持ってわかっていますので、その距離がプラスに向くようにと思って毎日やっています。

-:ウインバリアシオンから学んだ菊花賞への味付けというのを教えていただけませんか?

中:バリアシオンはパワーがありましたから“走る馬は走るんだよ”みたいなところはあるんですよね。ちょっとパワーが足りない子は“どこで味付けをするか”だと思います。メンバー構成で抜けて強い馬が、たくさんいるとかではなくて、みんな拮抗している状態であれば、上手く乗ったものが1番前にくるんじゃないだろうかと思います。

-:同じハーツクライ産駒のウインバリアシオンとマジェスティハーツというのは、何か共通しているところはありましたか?

中:マジェスティハーツはトモが良くなって、瞬時に動けるということに関して、ウインバリアシオンとよく似ていますね。

-:位置取りとか、引っ掛かる感じはちょっと違いますか?

中:バリアシオンは、あまり前向きな子ではなくて、アンカツ(安藤勝己)ちゃんも「行かせれば1600でも大丈夫だよ」と言っていたんですけれど、ゴーサインを出してから“ヨイショ”みたいなところがありました。ところが、マジェスティハーツは、ゴーサインを“いつ出るねん、いつ出るねん”というふうに待っているような馬なので、そこがちょっと違いますね。

-:馬によっては、ずっと1200ダートや1400ダートなどのコーナー2つのレースを経験している馬というのは、コーナーを2度回ったら終わるんだというのを知っているから、そういう馬を1700ダートとかに使った場合に、向こう正面でやめようとしたり、そういう利口な面もあるじゃないですか。

中:馬によって違うんですけれど、なだめられるように調教してあれば、それも克服可能かなと思います。


-:普段は中山さんがマジェスティハーツに乗られているわけですが、Pコースとか坂路だけではなく、他のシーンで乗りやすくなったという成長の証はありますか?

中:普段の仕草が凄く大人びてきているなと。なにかあったらバタバタしたり、気に入らなかったら、跳ねて蹴りにいったりすることがあったんですけれど、今は本当にお兄ちゃんになったというか、精神的な成長が多いんじゃないかと思います。

-:春のマジェスティハーツは、普段はモッサリしていて歩きたがらない仕草があったのですが、それでもレースに行ったら“行くぞ”っていう気持ちを出しますよね。

中:オン・オフがハッキリしていますね。

-:あの馬の引っ掛かり方というのは、中山さんからしたらどのような感じですか?一般の人から見たら良いポジションにいるとさえ思うくらいで、引っ掛かっているとは感じない人もいると思うのですが。

中:春先のトモが弱かった時は、頭をちょっと上げていたので、騎手が抑えようとしているところよりも前の方に重心が行ってしまっていました。だから、タメきれなかった。ところが、今はトモが良くなって口の向きがいいので、馬が溜まるような状態で走れます。

-:縮めて伸ばすという動きをするとき、縮めきってから放せるようになったのですか?

中:そうですね。

-:神戸新聞杯は楽しみですね。

中:バリアシオンが忘れてきたものを、ちょっとでも取りに行けないかな、というふうに工夫はしています。

神戸新聞杯は森騎手、菊花賞は武豊騎手で

-:普段なら、乗り慣れている森一馬騎手に任せるわけなのですけれども、残念ながら(通算勝利数の規定からも)菊花賞は乗ってもらえないんですよね。

中:一応、菊花賞はユタカ君が「乗りたい」という風に言っていますし、どっちも乗り慣れているので、その辺は全然心配はしていません。

-:G1に乗るには30勝以上必要というルールがあるんですよね。森くんはまだ14勝です。

中:そうですね。今回は東京でユタカ君が乗って、どうしても差し合ってしまうので、乗り役を誰か探してということで、結果が出ている一馬がいいんじゃないかと。先生も「乗せてやるよ」ということだったので、これは願ったり叶ったりだと。自分のところ(自厩舎)の騎手をそういうところに使えるというのは喜ばしいことです。

-:本番に乗る武豊騎手からしても、調教から上手く癖を掴んでいるジョッキーに乗ってもらった方が、変な癖がつかなくていいですよね。

中:その方が良いと思います。

-:本番は菊花賞なのですが、ここもいきなり楽しみにしていいですか?

中:どちらか1個のタイトルは、持って帰りたいなと思っています。

-:この馬が菊花賞の距離を克服できる可能性はありますか?2000mくらいがベストだという話がありましたが、菊花賞ではペースが今までより遅くなります。

中:一応、今回使ったらリフレッシュをして、3000m用のエンジンに載せ替えて行こうと思っていますので、策は考えてあります。

-:菊花賞前にまた取材をさせて頂きますので、まずは神戸新聞杯でどう変わったのかというところを見させていただきます。

中:まずは、神戸新聞杯で結果が出れば、の話ですけどね。

-:出ても出なくても、何かが見えるじゃないですか。

中:そうですね。よろしくお願いします。

-:ありがとうございました。


【中山 義一】Yoshikazu Nakayama

父は元騎手でアラブの牝馬アオエースを駆って読売カップを制した中山義次。ギャンブル色が強かった当時の競馬に疑問を持ち、馬術の世界を目指し追手門大学を卒業。しかし現実的に生活を考えると競馬界に入るしかなかった。初めて所属したのは開業間もない北橋修二厩舎。厩舎解散まで25年間所属した北橋厩舎ではエイシンプレストン、スターリングローズ、など数々の馬の調教を任された。思い出の馬は愛らしい顔が印象的だったゴールデンジャック。ウインバリアシオンに惚れ込む栗東の名物調教助手。