サンマルホーム"

2月11日、松籟Sに出走したサンマルホーム

●格上挑戦の万葉S4着で激震走る

今年も12分の1が経過した。あと1ヶ月で3月だが、未だに暖かくなる気配はない。「寒がり」「末端冷え性」「インドア派」の三拍子揃った検量室前パトロール隊員は、セーターを二枚重ねしたにも関わらず、震えながら検量室脇のテレビで京都競馬を観戦していた。そんな中、京都10R・松籟Sに個人的に注目している馬が出走していた。7着だったサンマルホーム(牡8、栗東・山内厩舎)である。

話は戻って、2018年最初の中央競馬開催週。中山金杯やフェアリーSなど重賞レースも盛り上がりを見せたが、ある意味で場内がザワついたと言えば、日曜京都11R・万葉Sだった。出走馬の平均年齢はまもなく8歳に届くというくらい高齢馬が揃ったこの一戦。1着トミケンスラーヴァはタイキシャトル産駒、2着リッジマンはスウェプトオーヴァーボード産駒と、おおよそ京都芝3000mとは思えない血統の馬での決着となった。

そんなレースで上がり3Fメンバー中最速の末脚で追い込んできたのが、斤量49キロ、これがデビューから62戦目だったサンマルホーム。在籍クラスは準オープン。格上挑戦で、1600万下に昇級してから2年半、計26戦で3着以内はなく、一時は1200mも使っていた馬の激走に驚いたファンは多かっただろう。SNSではサンマルホームがトレンド入りするほどだった。陣営もこの激走には驚いたようで、「よく頑張ってくれました。ただ、あんなにやれるとは正直思っていませんでしたね。走った要因は未だによく分かりません……」と首を捻る。厩舎内では『もっと積極的なレース運びをすれば勝っていたのでは……』という声すら上がったようだ。

実は昨年12月、アポロケンタッキーの取材で山内厩舎を訪ねた際、近くの馬房にいたサンマルホームを取材していた。準オープンでまだ一度も馬券に絡んでいないのに、ファンレターや写真が届くなど、謎の人気を誇る馬だからだ。

サンマルホーム"

サンマルホームは今から約5年半前、小倉で、佐藤哲三元騎手を乗せてデビューした。それからは420キロちょっとの体重ながらタフに走り続け、未勝利の身ながら格上挑戦した野路菊Sで後に天皇賞(秋)などG1を2勝するラブリーデイにクビ差の2着の接戦を演じるなど、意外性を発揮していた。

山内厩舎は担当者がよく変わるのだが、当時担当していたスタッフの皆さんは口を揃えて「あの頃は今より気性が激しく、大変でした」と言う。「カラ馬がいるとえらく怖がりますし、調教中も人を落としにかかったりして、それこそ哲三ジョッキーのことも振り落としたことがありました。あの頃は一日が終わるだけで、(自分が)今日も無事だったと安心したものです」と振り返る。現在は当時と比べるとだいぶ気性もマシになったとのことだが、それでもやんちゃな面は相変わらずだそう。

●特技"つまみ食い"!意外性が大人気

そしてこの馬にはもう一つ、変わった癖がある。『つまみ食い』だ。以前パドックで周回中、近くに植えてあった花を食べにいくこともあったようだが、最近も厩舎周りを運動中に、近くの厩舎の植木を食べに行くことがあったよう。これもファンから愛される一つの要因のようだ。

それらの性格面に加え、サンマルホームは『サラ系』という一風変わった特徴がある。サラ系とは、簡単に言えば祖先にあたる馬の血統表が書面で証明されない場合、純粋なサラブレッドとは認められない。『サラ系』にカウントされるのだ。

サンマルホームの場合、父ストーミングホーム、母父マヤノトップガンは共にサラブレッドだが、母母父にあたるキタノダイオーは母方の祖母で豪州から輸入されたバウアーストックが血統書の不備によりサラブレッドと認められなかったことから、『サラ系』の種牡馬だった。戦後、競馬を目的とした馬産が始まることでサラブレッドの血統が重要視され、サラ系の馬は次々に姿を消した。現在日本に『サラ系』の馬はごくわずかとなっており、サンマルホームは血統的に大変貴重な存在なのである。

距離や馬場など条件を問わずタフに走り続けていたサンマルホーム。一時は500万下を勝てず、登録抹消の話すらあったという。そんな中、昨年11月、彼に転機が訪れた。障害試験に合格したのである。陣営は合格を機に中京開催での障害入りを見据えていたものの、中京開催は障害未勝利戦への登録馬も多く出走を断念。そんな中で迎えたのが今年の万葉Sだった。

格上挑戦に加え、騎乗予定だった藤懸騎手が同日の3レースで落馬。急きょ今年2年目の川又賢治騎手に乗り替わり。それに加えて初の3000mと不利な条件が重なった中、最後、鋭い脚で伸びてきて、あわや3着というレース振りを披露したのである。京都の長距離で追い込むその姿は、一瞬、同じ毛色の母父・マヤノトップガンを彷彿とさせるものだった。数々の不利条件をものともしないところは、逆境の中で血を繋いできた祖先の血を感じさせる。新春の京都競馬場に『雑草魂』が光った瞬間であった。

サンマルホームはここまで63戦、全国各地の競馬場に遠征し、計110キロ以上の距離を走破してきた。「未だに衰えを感じないし、坂路でも常に一生懸命に走ってくれるんです」そう陣営が評するサンマルホームは逆境に負けず、これからも走り続ける。

サンマルホーム"