競馬YouTuberとして一躍名を挙げ、各媒体に引っ張りだこの佐藤ワタルが、地方&海外レースを展望。若くして人並み外れた知識量、分析力を披露する。
南関東で覚醒!2戦で計14馬身差つけた快速リッカルドが中央G1馬撃破へ
2018/3/11(日)
フジノウェーブ記念を圧勝したリッカルド
●1400mで先行して持ったまま楽勝
3月7日(水)、検量室前パトロール隊員は福島県小野町に向かっていた。福島県南部の郡山市から車で1時間ほど、山間の小さな街に行っても、隊員は移動中ずっと当日行われていた大井競馬を1Rからせっせと購入していた。隊員の地方競馬好きはもはや病気とも言うべきもので、治療のためのいい病院があればぜひ紹介していただきたいものである。
さて、この日の大井競馬場のメインレースは第9回フジノウェーブ記念。元々『東京スプリング盃』の名称で施行されていたが、このレースを第1回から4連覇した名馬・フジノウェーブの功績を称え、2014年から現在のレース名に変更された。ここ2年もソルテ、ケイアイレオーネといった南関東の強豪たちが制してきたこの重賞を、人一倍気にしている1人のホースマンがいた。ノルマンディーファーム小野の
。サウンドトゥルーやスノードラゴンなど岡田スタツドの関連馬たちの最前線基地で日々、活躍馬を送り出し続けている。この施設が送り出した馬で今、南関東で旋風を巻き起こしつつあるのがリッカルド(セ7、船橋・佐藤裕厩舎)だ。JRAから転入緒戦の船橋・報知グランプリカップでみやこSを勝った経験があるロワジャルダンをまったく問題にせず、2着に7馬身差を付ける圧勝劇を演じ、フジノウェーブ記念に駒を進めてきた。新馬戦以来の1400mということを心配されていたが、好スタートを切って先行すると、4コーナーをものすごい手応えで回り、残り200mほどから追い出されるとグングン後続を引き離し、阪急杯などでも好走例があるオメガヴェンデッタを相手に7馬身差という圧倒的な着差を付けて快勝したのである。池田主任にとって、リッカルドはたくさんの馬の中でも、特に思い出に残る馬なのだという。
池田主任が小野町にやってきたのは5年ほど前。まだ来て間もない頃、1頭の芦毛の2歳牡馬が美浦から戻ってきた。ここまで2戦して、新馬戦で11着、2戦目で9着、それぞれ1着からは2秒以上離される大敗を喫していたリッカルドだった。「ちょうど2回使って、股関節を痛めてしまってここで立て直している時でしたね、初めて乗ったのは……」と当時を懐かしそうに思い出す。そして「僕もここにきてまだ間もない頃だったんですが、自分のやりたいように、そして自分の意見も聞いてもらいながらやらせていただきました」と笑顔で語る。
ノルマンディーファームの池田主任
しかし、その裏では苦労があった。「性格に難しいところがあって、調教でもちょっと難しいところがありました」と言うように、調整は至難の業だったようだ。そこで池田主任をはじめとする関係者の尽力もあり、リッカルドは再び美浦へ戻った。迎えた中山での復帰戦。キャリア3戦目、それまでの着順から6番人気の評価にとどまったが、好位を確保すると、直線でグングン後続を離し、2着に7馬身の差を付ける圧勝劇を披露してみせたのである。
●強力JRA勢相手でも「外枠に入れれば楽しみ」
その後も大崩れのない走りで勝ち星を重ねていき、2016年のエルムステークス(G3)で初重賞制覇を飾った。「色々な思い出はありますが、個人的には一番嬉しかったですね」と懐かしむ。地道に馬とコンタクトを取り、信頼関係を結んでいったことで、気難しい部分はどんどん減っていった。初重賞制覇となったエルムSでも騎乗し、中央時代の『相棒』であった黛弘人騎手も「僕が乗った時にはだいぶ完成されていましたね。気性的にも乗りやすかったです」と語る。あの重賞制覇には多くのホースマンの支えがあった。
重賞勝ちの後は11戦するも一度も3着以内に入れなかったリッカルド。20181月のポルックスS(5着)を最後に中央競馬登録抹消、船橋・佐藤裕太厩舎へ転入した。どうしても力が衰えた馬が南関東など地方に来ることは多々あるが、リッカルドは力が落ちていないオープン馬である。転入初戦の前から南関競馬ファンの間ではどこまでやれるのかというのが話題になっていた。そして見事に結果を出したが、主任は「ハハハ」と笑いながら「強いですね。まだ中央でやれたくらいの馬ですから」と実力は中央馬に劣らないことを強調した。
この先は、5月2日(水)のかしわ記念(Jpn1)が視野に入っている。強力な中央勢相手でも「かしわ記念で外枠に入れれば楽しみ」と語るが、その理由について次のように解説する。「中央だとダートの1600mは東京になってしまうんです。そうすると最後の坂が堪えてしまうところがあって……。中山1800mもちょっと長いなというところがありました。阪神の1400mとかでも全然やれた馬だと思います。スピードがあるんです」とポテンシャルを称賛した。黛騎手はセールスポイントとして「いつも真面目に、一生懸命走ってくれる馬なんです」と精神面の良さに触れる。
かしわ記念ではフェブラリーSを制したノンコノユメなど中央のダートG1馬たちが揃い、厳しいレースとなるだろう。しかしリッカルドの持つスピード能力、そして一生懸命走る面をうまく出すことができれば、チャンスは大いにある。
レース名にもなったフジノウェーブは地方所属ながら2007年のJBCスプリントを制するなど、大井競馬のヒーローとして人気もあり、応援される馬だった。あの勝利から10年あまり。同じく芦毛のリッカルドがフジノウェーブに続くか、今年はその動向に目が離せない。
2016年のエルムSを制したリッカルド
プロフィール
佐藤ワタル - Wataru Sato
1990年山形県生まれ。アグネスフライトの日本ダービーを偶然テレビで観戦して以降、中学生、高校生、大学生と勉学に勤しむ時期を全て競馬に費やした競馬ライター。『365日競馬する』を目標に中央、地方、海外競馬の研究を重ねている。ジャンルを問わない知識は、一部関係者に『コンビニ』とまで評されている。早稲田大学競馬サークル『お馬の会』会長時代に学生競馬団体『うまカレ』を立ち上げたり、北海道の牧場などに足繁く通うなど、若手らしい行動力を武器に、今日も競馬を様々な角度から楽しみ尽くしている。現在はサラブレ、一口クラブ会報などでも執筆中。血統派で大の阪神ファン。甘党でもある。