競馬YouTuberとして一躍名を挙げ、各媒体に引っ張りだこの佐藤ワタルが、地方&海外レースを展望。若くして人並み外れた知識量、分析力を披露する。
【高松宮記念】出てないレースの着順でまた除外対象に…不運の馬が『奇跡』起こすか
2018/3/21(水)
17年オパールSで堂々と逃げ切ったソルヴェイグ
●昨秋に続き、またもや除外対象に……
春がやってきた。寒がり・末端冷え症の検量室前パトロール隊員にとっては長く苦しい日々からようやく解放された気分である。先日栗東トレセンを訪れた際も10時過ぎには18度と、実に快適な環境で動き回ることができた。売店のうどんをすすりながら寒さに震える日々とはオサラバである。
さて、今週から春の4週連続G1開催となるが、その口火を切るのが高松宮記念。このスプリント決戦が迫る中、悔しそうな顔を浮かべる男がいる。担当馬ソルヴェイグ(牝5、栗東・鮫島厩舎)が高松宮記念出走予定の鮫島厩舎・松浦良幸助手だ。先月25日の小倉8Rで、1年6ヶ月ぶり、丸3年二桁着順だった担当馬のオルロフ(牡6、栗東・鮫島厩舎)が単勝115倍ながら圧勝し、厩舎内で『オルロフ松浦』というプロレスラーのようなニックネームで呼ばれている。
そんなオルロフさんは苦い表情で切り出す。「オーシャンの1、2着が逆なら…。キングハートよりは賞金持ってるし、ナックビーナスが3着ならナックより賞金持ってるし…レーヌミノルやネロが2着でも大丈夫だったんだ…その決着になるかと思ったよ」。そう、ソルヴェイグは出走順位19位、現在のところ除外対象1番手なのである。昨年のスプリンターズSもレーティング上位で出走可能だったものの、当週になって除外対象になってしまう不運。ここまで悔しがるのも分かる。
スプリンターズS除外の無念をオパールS1着で晴らしたものの、その後は京阪杯9着、京都牝馬S11着と急に崩れ始めたソルヴェイグ。松浦助手もこれには「京都牝馬は最終週。馬場も荒れていました。1400mはいいと思っていましたが…ちょっと深刻ですね。4コーナーで自分で競馬をやめているんです。ジョッキーが言うにはフワっとなるらしい。2走前の京阪杯でスムーズに運べたのに急にやめてしまって…」と首を捻る。
そんな京都牝馬Sは+10キロの478キロだったが、これについては「予定通り」と影響ないことを強調する。「元々減り過ぎなんです。470キロの体型ではない。もっと大きくていいくらい。調子はかなり良かったんです。シルクロードSを使う可能性も残しつつ早く入れて、トレセンでしっかり長めに乗っていたのに身体は減らず、いい意味でふっくらしていました」。それだけに、大敗のショックは大きいようだ。「スタートも良く、競馬の形も良かったです。馬場もそこまで気にしていなかったとジョッキーは言っていました。外差し決着になってしまいましたが、それにしても…。最後は流していましたからね。今回は早々と競馬をやめてしまいました。調教はそんなことはないんです。真面目に一生懸命走ってくれます」という。
強敵揃いの17年ヴィクトリアMで5着と健闘
●一族と共に大舞台を経験してきた男の自信
松浦助手はこれまでも母アスドゥクール、そしてその弟エールブリーズなどを担当するなど、この一族を知り尽くす存在だ。「お母さんも難しいところがありました。坂路の下りで動かなくなったり、植木に顔を突っ込んで動かなくなったり…。ソルヴェイグはそういう面はなかったんです。レース中にやめるところもなかった。普段は変わったところはないんです。女の子は気持ちがこうなると難しい」と苦しい心境を明かす。
しかしこの中間、陣営は対策に乗り出している。「いつもソロっとやっていましたが、この中間は調教から攻めています。ずっと坂路で調整していましたが、CWで長めに、のびのびと走らせてみています。落ち着いて走れていますよ。前走は走っていませんから、息が入るのも早かった。その分状態は更に良くなっていますよ。今回のほうが全然状態はいいです」と仕上がりに自信を見せる。
何より松浦助手にとって喜ばしいのは、「最近カイバを食べ始めたこと」。確かに昨年秋に話を伺った時は「この一族の牝馬は全然飼い葉を食べてくれないんです…何が好きなんだか…」とおっしゃっていたが、「もう飼い葉を残すことはないです。その分身体が減らなくなりました。調教を加減しなくて良くなったので、負荷を掛けられるようになったのは大きいですね。馬は元気いっぱいです」と、その成長に自然と表情も緩む。「(伯父の)ソルジャーズソングも高松宮記念で3着とよく頑張りましたし、いいイメージがあります。左回りもいいですね。血統的にも一族みんな得意でした。ソルジャーも、自分が担当したエールブリーズも。ソルヴェイグ自身もヴィクトリアマイルで見せ場を作って5着でしたから。出走できれば一発を狙うつもりで頑張ります!」と力強い言葉で締めてくれた。
以前当コラムでも書いたが、この馬はひたすら松浦さんをなめる癖がある。今回訪問した際も相変わらずペロペロキャンディーのごとくなめ続けていた。「ツンデレだから、馬房の外に僕がいる時は我慢してなめないようにしているんですよ。でも僕が中に入ったらもう我慢できずになめてきます(笑)以前は僕の安物のダウンジャケットをなめるのが好きだったんです。あの生地がお気に入りだったようで。今はユニクロのホットパンツに好みが変わりました」と笑う。このペロペロなめている姿が実にかわいい。動画でお見せできないのが残念なくらいだ。
今回、ソルヴェイグは高松宮記念に出られれば、人気はそこまでないだろう。以前、担当馬リトルゲルダが未勝利戦で単勝165倍ながら1着、そして先日担当馬オルロフが単勝115倍で圧勝するなど大穴を開け続ける『オルロフ松浦』が再び波乱の使者となる可能性は十分だ。
プロフィール
佐藤ワタル - Wataru Sato
1990年山形県生まれ。アグネスフライトの日本ダービーを偶然テレビで観戦して以降、中学生、高校生、大学生と勉学に勤しむ時期を全て競馬に費やした競馬ライター。『365日競馬する』を目標に中央、地方、海外競馬の研究を重ねている。ジャンルを問わない知識は、一部関係者に『コンビニ』とまで評されている。早稲田大学競馬サークル『お馬の会』会長時代に学生競馬団体『うまカレ』を立ち上げたり、北海道の牧場などに足繁く通うなど、若手らしい行動力を武器に、今日も競馬を様々な角度から楽しみ尽くしている。現在はサラブレ、一口クラブ会報などでも執筆中。血統派で大の阪神ファン。甘党でもある。