今の競馬、ここを変えてほしい!
2011/8/28(日)
水:ここまでは全体的な危機感という意味で伺いましたが、今、お仕事をなさっている上で、具体的な面で、こういった事を変えてほしい、テコ入れしてほしいと思っている点はありますか?
小:基本的なところは凄くやり易く感じているんですよ。関東馬が負けているのも、それはそれでいいなと思いますし。負けたことが悔しいとか、それをパワーに変えて、努力するわけですから。それこそ、組合も一緒に制度を変えてやっている事なんて、以前では考えられなかったですから。
水:レースの編成に関してはいかがですか?差し当たって除外の問題などは切実だとは思いますが・・・・。
小:あ、除外はやっぱり大きいですね。
話がちょっとずれてしまいますけれど、中央競馬って週に2日間しか開催がないじゃないですか?そこで、外国人騎手がバンバン勝っている。外国人騎手と話して「海外と日本の何が違うんだ?」と話をすると、「日本の(中央)競馬は2日しかない。それは日本人騎手にとってかわいそうだ」と。「自分達はデビューして、乗る気になればそれこそ、朝調教して(ヨーロッパの競馬は午後から)それから移動して、競馬に何頭か乗って、それをずっとやってきたから鍛えられている」というんですよね。移動が大変なジョッキーだと、セスナとか、自家用機で移動したりする事もあるくらいで。下手したら、今だとデビューして、乗せてすらもらえないじゃないですか。
昔から言われていることだけれども、もっと地方競馬と交わりを持って、ジョッキーを育てるという事を考えていくべきではないでしょうか。海外に行くと、フランキー・デットーリくらいの騎手だって「こんな田舎の競馬場?」というところに、1鞍だけ乗りに来ていたり、聞く話だと何百キロも車を運転して行ったりするらしいじゃないですか。調教師はスターにはなれないんですよ。昨年は蛯名正義という騎手が海外へ行って凱旋門賞で2着になったことで、大きくニュースとして取り上げてもらえたわけじゃないですか。やっぱり、そういうジョッキーを育てるためにも、今の一部のジョッキーしか乗れないという状況をなんとかしなくては…。そう考えると、色々(課題は)ありますね。
水:今のお話は極論で言ってしまえば、免許の統一化という事になりますね。
小:そうですね。なったらなったで複雑な問題はあると思うんだけれども、もっともっと乗れる環境をつくらないと駄目だろうし…。
水:難しいですよね。今みたいな格差社会になってしまうと、馬主さんからも「この騎手は絶対乗せないでくれ」という事も当然あるんでしょうけれど。
小:今は昔以上にそうなってきましたね。
水:先生の仰った事とは、なおさら逆方向にいってしまっているというか。若いスター騎手を育てるにも育てられないというか。思いつけば問題はないのでしょうけれど、どうしたらいいと思いますか?馬主さんにも余裕がないから、そうなっているのでしょうし…。
小:中央に関しては、施行規定や開催日数が決まっているので、法律を変えなくてはいけないんでしょうが、開催日を小規模でもいいから増やすのも一案でしょうね。砂も(レースを行うことで)痛みますけれど、ダートの競馬だったら、もっとできるだろうから。福島や新潟のような、お客さんも入り易いところで、ダートばかりの競馬を週に何日かやっていてもいいと思うんですよね。法律さえ変えればできるんじゃないのかなと。
水:それで除外も減るだろうし、乗り役の騎乗機会も増えるから、騎手が腕を磨く環境ができると。
小:例えばそこでの賞金は低くして、でもそこで権利をとれれば、土日のレースに使えますというのもありかもしれないですし。またそこでのレースではジョッキーや調教師の進上金が少なくて、馬主さんの取り分が多いというのもありかもしれません。競馬というのは馬が出走しない事には誰も潤わないですから、そういう開催でもいいかもしれませんよ。
水:開催日数や1日の競走施行数に関しては、前からもっと融通を持たせられないのかなと思っているんですけれどもね…。でもそういう話をすると、二言目には労働問題がどうこうとか、なってしまうんですけれど・・・・今はそんな事を言っている場合ではないんですからね。
例えば、今は去年の夏の猛暑の影響もあって、新馬の除外がめちゃくちゃじゃないですか。あれは夏に使いたかった馬が、夏バテで使えなかったことのしわ寄せが来ているわけですよね。そういう事情なら今の時期は新馬戦をもう一鞍増やして1日13レースやるとか。でもそういった事はできない状況にあると。
小:基本的に何事も規則で縛られているのが、中央競馬ですよね。最後は御伺いを立てないといけないですから。
水:そういった事になってくると、前から言われているように「民営化にしたらどうか?」という話になってしまいますよね。
小:競馬界がちゃんと監督して運営すればいいと思うんですよね。民営企業に貸すというか。そういった形でやっていけば、もうちょっとやりやすいだろうし。(ルールの)線引きとかは競馬界がやればいいわけで。
水:そうですね。畜産である部分や、裁決にまつわる部分は一般に下ろすのは難しいと思うし、御上がやっていたからこその良さもあると思うんですよね。だから、そこで半官半民にするのか、官の中に民の発想を持った人をもっと入れるのかという対応をしていかないと、本当に化石になってゆく気はしますよね。
プロフィール
水上 学 Manabu Mizukami
1963年千葉県生まれ。東京大学文学部卒。
エフエム東京のディレクターや、競馬場場内エフエム放送であるターフサウンドステーションの制作構成などを経て、グリーンchの構成作家に。現在は競馬ライター。
初めて見たレースは1971年の日本ダービー。ヒカルイマイの逆転劇と、競馬自体の美しさに感銘を受けて競馬にノメリ込む。
70年代後半から血統に興味を持ち、手製の血統表を作成。以後試行錯誤を重ねつつ現在に至る。
【最新著書】
『実戦血統馬券術シュボババ2nd! 血闘両断!』(ベストセラーズ刊)
【出演】
『土曜競馬中継』(ラジオ日本1422KHZ)
『競馬予想TV!』(フジテレビTWO)
小島 茂之 Shigeyuki Kojima
1968年2月15日生まれ、広島県出身。
美浦トレーニングセンター所属の調教師。
1993年1月に競馬学校・厩務員課程を修了すると、同年7月に嶋田功厩舎の厩務員として配属。
94年、調教助手となり浅野洋一郎厩舎所属に。その後、岩城博俊厩舎へ移籍。02年に調教師試験に合格し、翌年に厩舎を開業。
管理馬が関西圏のレースに出走する際は、事前に栗東入りをさせて、調整を進めるスタイルを頻繁に取り入れ、ブラックエンブレムや、クィーンスプマンテをGI勝利に導いた事でも知られている。
また、自身の管理馬に対してのレポートを綿密に綴った小島茂之厩舎公式ブログ『小島茂之厩舎の本音』を06年12月より継続している。
小島茂之厩舎公式ブログ
『小島茂之厩舎の本音』