小:今、若い人で車に興味のない人が増えているっていうじゃないですか?野球だって昔ほど人気はないし、地上波は打ち切られつつある。サッカーだって今は良いけどそのうちどうなるかわからない。そう考えると、競馬というか、ギャンブルに対しての意識や興味は今のままでは確実に薄れていくと思うので、それをひきつけるには、少なくともGIは盛り上げないといけないんじゃないかなと。

水:競馬を特別な物というか、一部の隠れた楽しみにしてしまってはいけないと思います。僕なんかは小学校2年生の頃にテレビの地上波で競馬を観て(※71年の日本ダービー)、その美しさと凄さに感動して、それ以来何十年も虜になったわけです。もし当時、あれが限られた媒体でないと見られなかったとなれば、子供の目に触れるものではなかったわけです。地上波でやっていたからこそ、子供が観られたわけですからね。

小:そうですよねぇ。今回、地上波が1つなくなったのは大きいですよね…(※)。

【※2011年より一部のテレビでの競馬中継が中止になり、BSチャンネルでの放送に切り替えられた】

水:やらなくてはいけない事は沢山あるので大変だとは思うんですけれども、そういう事をひとつとってみても、そこは削ってはいけないというところで削っていたり…。

小:基本、競馬の恵まれていることって、馬が走っていることに尽きるんです。動物が嫌いだという人って、そんなにいないはずなんですよね。私なんかもテレビを観ていて、面白いものがなければ、動物が出ているようなものを観ますし。動物園に行って癒されるのと一緒で、そういった面もあって競馬をみていましたから。
僕が競馬ファンだった当時はギャンブルがよく思われてなかったですけれど、競馬ってギャンブルであっても、基本的には馬が走っていて、可愛いな、面白いなというのがキッカケでハマったわけで。チャンネルが減ることで、アプローチできるチャンスがなくなってしまうわけですから。

水:本当にそうですよね。個人で価値観の違い、趣味の違いはあるでしょうけれど、例えば、最も一般の人の目に触れる部分であるテレビCMも、結局わけのわからない内容で(笑)。

小:馬が出てこない(笑)。

水:そう、商品を出さないCMってありえないんですよ。10年前に作られた「最後の10完歩」のCMが今年復活していますけれど、結局ああいうのが一番訴求力があるという事だと思うんですよね。なのに商品を出さないCMが一番出広されているというのは…。

小:タレントさんに助けてもらう企画はどんどんやっていいと思うんです。でも今やっているのは、直接ダービーやジャパンカップというレースに結びつかないやり方が多いですから・・・。極端な話ですけど、CMもドラマ仕立てに作るよりは「ジャパンカップ!ジャパンカップ!」って10回連呼してもらった方が「ジャパンカップってなに!?」って、興味を惹くと思うんですよね。インパクトって大事じゃないですか?それもないんですよね。

水:例えば(SMAPの)木村拓哉さんがJRAのCMに出ていた時は、ダンスをしながら競馬の用語であったり、仕組みを歌に乗せていて。その中で一番インパクトがあったのが、種牡馬をテーマに採った回の時に「(年間で)100頭以上に種付けするのさ~♪」って、歌っていたことですよ。あれはキムタクだから洒落で済むんだけれども、凄く効果的だったと思うんですよ。馬が映らないなら、ああいう事をやる方がいいと思うんですね。そのCMも最後のシーンではキムタクが本当に馬に騎乗していたんですけれどね。
今は「CLUB KEIBA」でやっていますけれど、あれはGIの前にやる事じゃないですよね。1月とかに今年から競馬を始めましょうという意味ならいいけれど、あれをダービーの前に流して、誰がダービーの馬券を買うかと思うんですよね。最後だけ申し訳のように「5月何日は日本ダービー」っていうだけで、同じ映像の使い回しなんですから・・・。

小:ダービーが何かすらわかっていない人が沢山いるし、それこそどこでやっているかも知らない。競馬の仕組みすら知らない人が圧倒的に多いことをもっと理解しないといけないと思いますね。広告はそういう人たちを如何に引き込むかが勝負というか。スポーツ紙の一面に「ダービー」って書かれているから「ダービーって凄いの?」で始まって、で、馬券を買ってレースを見て、楽しい思いをした人がその後へ繋がっていくわけじゃないですか。そんな基本的な仕組みが忘れられている気がしますね。

水:僕はいつも夏の新潟開催の時はラジオ日本の解説で新潟に泊まるんですけれど、BSN(テレビ局)はいつも金曜の夜に、30秒から1分の枠を使って、例えば新潟記念週なら「今週日曜のメインレースは新潟記念。新潟記念は芝の外回り2000mで争われ、過去3年の結果はこうなっていました」と、本当に10秒くらいずつ過去のゴール前の映像をフラッシュしたものを繋げて「今年出走を予定している馬は・・・・」と簡単に見どころを紹介するようなことをやっているんですよね。そこに自分の局の競馬中継の番宣を繋げているんですけれど、あれは凄くわかりやすいんですよね。新潟記念ですら・・・と言ったらなんですけど、関心の薄い人に見てみようという気を起させると思いますよ。過去のゴール前のフラッシュ映像も迫力があるし、ああいう事をもっとやった方がいいですよ。

小:やっぱり「買いたい、観に行きたい」っていう事が根本だと思うんですよね。そういう気持ちをどうくすぐるか。もうちょっと違うやり方があると思うんですよね。

水:色々な人に競馬をアピールして、新規のお客さんが入ってきて、その内の何割かが残ってくれれば、さっきから話してきたことの問題の何割かは改善の方向に向かうと思うんですよね。

小:いまは競馬が凄くピンチな状況に向かいつつあって、でもそのおかげで厩舎制度をもう一度見直そうとなったり、昔強かった関東馬が久しく負け続けて「このままじゃいけない」と頑張っていることも、おそらく歴史の中では必要なことなんだと思います。楽天的に考えると将来、「あの時があったから、今は良くなったね」と言えるといいなとは思っていますね。

水:先ほど仰っていた事とは真逆の発想で「あの時、あれがあったから、今は良くなったんだぞ」と。

小:そう言える日が来るために、今があるんじゃないかと思ってやっていますよ。でも先ほども言ったように逆の意味での「もしかしたら…」とはいつも思っています。

水:ファンが危機感を感じる必要はないですけれど、マスコミ・施行者であるJRA・現場にいる騎手や調教師は、危機感を共有しないといけないですよね。それぞれが自分の権利を主張しているだけでは絶対に上手くいかないでしょうし。危機感を共有する中で立場が違う者たちが案出しをしていかないと、結局今のまま悪い方へ転がっていくことになりますよね。

小:ある種、同じ企業の中でやっているわけですよね。スーパーだったら鮮魚があったり、肉や野菜があったりで。自分のところの利益だけを主張していたら良くないわけで。お互いの融合性というか、戦略をもってやっていかないと、スーパーそのものが駄目になっちゃうだろうし。

水:その中で音頭をとらなきゃいけないのはJRA。その中にスペシャリストとゼネラリストがちゃんといて、色々吸い上げたり揉んでいったりしないとという事ですね。僕なんかは職員さんと接する機会はないので、どういうふうに考えているかわかりにくいところもあるんですけれど。伝え聞くところでは、危機感を持ってちゃんと考えている人もいると。

小:個人的には多いですよ。でもひとつの企業・団体となると、動きづらいという感じがありますよね。でも、少なくとも馬場の事であったり、業務のことであったり、現場の人は危機感を近いところで感じてくれているのでそれは救いですよね。