第93回凱旋門賞のみどころ[和田栄司コラム]

今年の凱旋門賞の鍵を握るのはアルシャカブレーシングのトレヴ、ルーラーオブザワールド、エクトーの3頭である。2008年にウイークエンドロンシャンのスポンサーになってから、6年目で凱旋門賞をトレヴが優勝、今年もトレードで手に入れたコンテンダーを3頭も出走させて来た。

グレゴリー・ブノワ騎手は、お手馬の仏二冠牝馬アヴェニールセルタンを捨てて、エクトーを選択した。これによってアヴェニールセルタンにはクリストフ・ルメール騎手が決まった。トレヴは引き続いてティエリ・ジャルネ騎手で連覇を狙う。これによってひたすら待つだけになったフランキー・デットーリ騎手は、月曜日のバリードイルの発表でG2フォワ賞同様ルーラーオブザワールドに騎乗することになる。

バリードイルは愛オークス馬で今年クールモアにトレードされたチキータとの2頭出し、チキータにはジョセフ・オブライエン騎手が決まった。今年3戦して2着、3着、4着と着順を落としたトレヴは、フランキーにロイヤルアスコットで見限られ、前哨戦のヴェルメイユ賞の後、ジャルネ騎手にも「凱旋門賞は非常に難しい」とまで言わせている。しかし陣営は月曜の雨で、馬場が柔らかくなることに一縷の望みをかけた。

ルーラーオブザワールドは前哨戦のフォワ賞を逃げ切った。フォワ賞勝馬は、1985年にサガスが凱旋門賞連覇を成し遂げたかと思われた瞬間2着降着、以来フォワ賞勝馬の優勝がない。オルフェーヴルの2年連続2着は最も記憶に新しい。特にペースセッターとしてマークされるだけに、フランキー鞍上でも楽観は出来ない。そうなるとフレッシュなエクトーが俄然クローズアップされる。

エクトーは2歳時にG1クリテリウムアンテルナシオナルを勝ったが、今季はG3フォンテンブロー賞の後長い休養に入った。トレード話が進んで復帰戦となったのがニエル賞。いきなり距離が2400mに伸び、8頭立ての最後方から、特に残り400mから200mまでは10秒台の強烈な追い込み、さすがにラスト200mは12秒11と落ちてクビ差まで詰め寄られたが、長いブランクと初距離を考えれば文句は言えない。目下6連勝中。

凱旋門賞前売り人気でエクトー、アヴェニールセルタンと並んで7倍の1番人気に推されているのはオークス馬でキングジョージを連勝したタグルーダ。キングジョージで38年振りの3歳牝馬優勝を飾ったタグルーダは、ヨークシャーオークスでタペストリーの強襲にあって連勝記録が4でストップした。但し、敗因はフケによるものとはっきりしている。

個人的にタグルーダに関して気になっている点は、まだ英国以外に遠征経験がない点である。2007年のダービー馬でインターナショナルSを勝って臨んだオーソライズドは凱旋門賞で10着に沈んだ。ローテーションがよく似ている。凱旋門賞前売り人気で次に続くのが日本のジャスタウェイとハープスターの8倍。

ジャスタウェイは、ドバイデューティーフリーで世界最高レーティングの130を貰った。英国人は、ホースマンを除いて、競馬予想の決め手はレーティングであるから、押し出されるように人気を上げて来た。安田記念などそのエキサイティングな走り方には脱帽する。しかし、6月以降にレースを使わず、しかも距離を400mも伸ばす点に一抹の不安がある。2002年の英愛ダービー馬ハイシャパラルは、6月末の愛ダービーの後、3着に終わった。

ハープスターとゴールドシップは、初の海外遠征でしかもぶっつけでの無謀な挑戦に疑問が残る。先人達が試行錯誤の末たどり着いた凱旋門賞の使い方に逆行する。よって凱旋門賞でハープスターとゴールドシップには大きな期待をかけたくない。あとはシーザームーンをバーデン大賞で破ったドイツのアイヴァノウ、成長したアイヴァノウのベストの状態を見たという点で注目する。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。