まずは今週、大阪で行ったイベント『生うまトークサミット』へのご来場、ありがとうございました。最近の東京ではよく見るな、というファンの方もいらっしゃるようになりましたが、一年ぶり2度目の大阪開催ということもあり、初めて開催するような感覚でした。

ちょっと意外だったのが、大阪といえばお笑いのメッカのイメージでもあり、元気のいい人が多い土地柄という印象だったものの、じっくりと話に聞き入る方が多かったこと。次回はいつになるか未定ですが、またの開催をご期待いただきたいところ。そして、今週はイベントを兼ねて、栗東トレセンにも赴いてきたので、かなり直前ですが、私が自ら回った菊花賞(G1)出走馬のレポートもお届けします。

●最大の惑星アフリカンゴールドはステイゴールド産駒らしさ満載

歴史的な酷暑が続いた夏も過ぎ去り、すっかり季節は秋。木曜の日中は暑さを感じるほどだったが、トレセンの朝は冷え込み、久しぶりに上着を重ね着してトレセンを歩き回った。

そんな折、寝ワラ専用のごみ箱にごみ出しにきた厩舎スタッフに「アフリカンゴールドを担当している方はどなたでしょうか?」と伺うと「あっ、僕ですよ」と答えてくれたのは西園正都厩舎平田睦良調教助手。偶然、お目当ての人に出会ってしまった。

もともと取材候補と考えていたアフリカンゴールド(牡3、栗東・西園厩舎)は、実は半兄に2014年のドバイワールドカップを制したアフリカンストーリーという良血なのだが、今回が重賞初挑戦になる。前走の兵庫特別は軽ハンデだったものの、楽な手応えで4馬身差の圧勝。一躍菊花賞へ名乗りを挙げたのだ。

「前走は(台風による開催延期で)調整は難しかったのですが、何とかキープしてくれました。トライアルにいく話もあったのですが、確実に賞金を加算したほうがいいんじゃないかということで、あのレースに。それにしても、勝ち負けになるとは思っていましたが、あんなパフォーマンスをしてくれるとは想像以上でしたよ」と平田助手。その勝ちっぷりに驚きを隠せないようだった。

アフリカンゴールド

左右の眼つきが違う これはレインボーラインも同じなんですよね!

ただ、ここ2戦の成長曲線こそ著しいものの、決して道のりは順風満帆ではなかったよう。何故ならば血統。トレセン・競馬場問わず、立ち上がったり、馬房でも穴が空くほど壁を蹴飛ばしたり。激しい気性で知られるステイゴールド産駒らしく、育成には手を焼いたそう。

西園厩舎といえば、坂路での追い切りが主流だが、この馬に関してはデビュー前からコース追いのみ。坂路まで連れていくのが大変だから、という理由もあったそうだ(笑)。

「今まで何頭かステイゴールドはやってきましたが、これ程の気性は初めてです…。(ステイゴールド産駒は)うるさい方が走るとは聞きますけどね。いつも怪我しないようにやっているのが本音。やる(担当する)方は大変です」と苦笑い。それでも、ひと夏を越して心身の成長もみられるという。未勝利時代はソエに悩まされていたのも、すっかり解消。前走の勝ちっぷりは決してフロックではなかったようだ。

「この馬の一番の売りはスタミナ。距離も心配していませんし、操縦性も問題ないです。前走の疲れもなく、先週からしっかり追いきれたほど。チャレンジャーのつもりで挑みたいです」と平田助手。控えめな口ぶりながらも、長距離適性を感じさせられた。

●「過去最高」一変ムード漂わせるグレイル

続いて訪れたのは、西園厩舎から2つ隣の野中賢二厩舎。白山大賞典でグリムが重賞連勝。同世代のシヴァージも将来が嘱望される存在。古馬のダートにはクインズサターンや4連勝中のインティがおり、今後、ますます目が離せない厩舎だと思っている。その中で、芝路線のエース格といえるのが、クラシック最後の一冠で逆転を狙うグレイル(牡3、栗東・野中厩舎)だ。

競馬ラボでは、ダービー前のインタビューコーナーでも取り上げさせていただいた馬だが、今秋もセントライト記念前、後と厩舎を訪ね、記事にならない話を聞かせていただいていたのは担当の川副秀明調教助手。厩舎方針とのことで馬具の手入れも熱心にやられており、常にずいぶん遅くまで仕事をされている印象。どうでもいい話だが、元高校球児という共通点が僕とはある。どうりで道具の手入れを欠かさない。自分も高校時代はイチロー選手にならい、グラブ磨きを欠かしたことはなかった。実際のプレーはイマイチだが…。

話を本題に戻します(笑)。グレイルはご存知の通り、新馬、京都2歳ステークスを連勝し、クラシックの主役と目される存在に。しかし、共同通信杯では1番人気に支持されながらも7着。その後2戦も残念ながら掲示板にすら名が挙がらなかったほどだ。

グレイル

顔も身体もビッグサイズのグレイル 兄ロジチャリス似?

というのも、3歳秋を迎えても、緩さの残る身体で、追い切り一つ行っただけでも反動があったほど。8月に帰厩した頃「完成はまだまだ先だろうね。4歳秋くらいか…」と川副助手も包み隠さず語っていたくらいである。前走のセントライト記念は3着に好走したが、皐月賞でもラストは伸びていたように、あれくらいなら不思議ではない。ただ、戦後の様子が違ったという。

「今の状態はこれまでで一番ですね。いつもならレース後、背腰にダメージが残って、歩様もよくなかったのが、この中間は違うんです。前走が終わったばかりの頃は『来年の春くらいにはイケるかもしれないな』と言っていたけれど、自分たちが思っている以上によくなっているんですよ」という。

川副助手はやみくもにセールスポイントばかりを語る方ではない。落ち着いた語り口で「決して器用な馬ではありません。下り坂もおそらく得意ではなさそうですから」と課題も指摘。ただ、そう聞けば聞くほど中間の良化度合いがずいぶんなものだと感じさせられた。

父は長距離戦にめっぽう強いハーツクライ。血統の額面だけみると、距離延長にも対応できそうだが「京都2歳Sでは手前を換えなかったけど、先週、今週と追い切りでは綺麗に手前を換えていましたよ。もともと調教でも前に進んでいかないような馬だし、前走もハミをとったのは最後だけらしいですから。折り合い面は大丈夫だと思うんです」と太鼓判。気運高まる今回、本格化を告げる一戦となるか。

●ダービー馬も手がけた腕利きがカフジバンガードを「最後のクラシック」へ送り出す

続いて立ち寄ったのは松元茂樹厩舎。レース当日は70歳のバースデーという師。ビリーヴ、ローブデコルテなどを手がけた名トレーナーも来年で定年。よって今回が最後のクラシックということになる。そして、厩舎の活躍を屋台骨として支えていたのが吉田政弘厩務員だ。

吉田厩務員は若かりし頃に所属していた布施正厩舎で、ダービー馬バンブーアトラスを担当。松元茂厩舎でもビリーヴで高松宮記念を制したことでも知られる腕利き。ちなみに、実の息子である吉田貴昭調教助手は、同じ屋根の下でつい最近まで活躍したマキシマムドパリを手がけていたり、トレセン内にも重賞ウィナーを担当していた近親者の多い名門ファミリーなのだ。

そんなベテラン厩務員が昨秋に前任者から引き継ぐ形で担当するようになったのはカフジバンガード(牡3、栗東・松元茂厩舎)。任されてすぐに「エエのをやらせてもらえるな」と感じたという。

カフジバンガード

キレ味には欠けるけどバテない強みを活かしたいと吉田厩務員も評していたカフジバンガード

「この血統らしく、悪さはしそうなんだけど、扱いやすいんですわ。春は重賞で足りなかったけれど、当時よりも首さしがしっかりしてきたね。今週の調教はよかったよ。幸(騎手)に『終いだけやって』といっていたら、『こんなに速い時計がでるとは思わなかったです』って言ってたよ。目一杯やったわけやないからね。先々は走ってくると思うから、ずっと観ておいてくれや」と吉田厩務員。大ベテランが認める潜在能力。厩舎の解散後の動向も含め、長い目で見守りたい。

●菊花賞は狙いすました一戦 長距離砲メイショウテッコン

最後は、広大な栗東トレセンの中でも坂を下った一つ下の区画に拠点を構える高橋義忠厩舎。今秋のG1第一弾・スプリンターズSを制したことでも記憶に新しい。厩舎内もこまめに整頓されていたり、自前のホームページなども備えるなど、厩舎運営が非常にオーガナイズされている。

新進気鋭の厩舎において、ファインニードルに続く2頭目のG1馬誕生へ期待が懸かるのはメイショウテッコン(牡3、栗東・高橋忠厩舎)。調教騎乗を手がける中塚健一調教助手を訪ねたところ、周りの厩舎では残っているスタッフを数える方が早いほどの時間帯まで作業をされていた。遅くまでお疲れ様です、そして、突然すみません!!

メイショウテッコン

同じ3歳の素質馬マイハートビートを1頭持ちで担当、メイショウテッコンは調教を担当している中塚助手

キャリア3戦目、今年1月には梅花賞で2400mの長丁場も経験していたマンハッタンカフェ産駒。白百合ステークス、ラジオNIKKEI賞ではハイペースを先行してしのぎ切るなど、消耗戦で持ち味を発揮してきた。

今回は神戸新聞杯3着からの臨戦となるが「コース替わりはプラスになると思ってやっています。今年のはじめから2400mを使っていますし、全くかからないので、他が苦手にするのなら、距離は強みだと思っています。ダービーも出てほしかったですが、叶わず。それで、3歳オープンなので番組がなく、1800mに出ましたけどね。単にズブい馬だから長距離を使っていたわけじゃないですし、スピードもあると思いますからね。自信をもって迎える舞台ではありますね」と歓迎といった印象だ。

その前走の神戸新聞杯。みれば、スタートでは外からこすられるような形になったばかりでなく、内の馬と挟まれ、ややハミを噛んでしまうアクシデント。もともとハナにいくつもりもなかったという。さらにエポカドーロも出遅れたことで、行かざるを得なかったようだが、結果、ラストは上がり勝負。この馬の理想の形ではなかったといえるだろう。

「3コーナーあたりからスパートしていく感じがベスト。それに耐えうるスタミナもあると思っています。トビがゆったりしているけど、馬格はスラっとしている。500kg近くてダイナミックですね。顔の模様こそ違いますけど、マンハッタンカフェっぽいですし」

メイショウテッコン

クラシック音楽が流れる優雅な厩舎の雰囲気の中、落ち着いた様子のメイショウテッコン

ちなみにレースでは著しく折り合いを欠くようなタイプではないが、性格は独特だそうだ。「我は強いので、やりたくないことはやらなかったり。なかなかの頑固者かもしれません。でも、決してうるさくもないし、イヤなものはイヤというだけ。昔は馬場も行きたがらなかったですから(笑)。だから、気分を損ねないようにはしてきました。過保護といえば過保護ですけど、調教の時は腹帯を締めて乗るのはストレスになりますから、曳き馬をして、外の角馬場でダグをするまでは乗らないように。帰りも曳いて帰ってくるようにしています。でも、厩でも大人しいし、噛んだり蹴ったりはしません。芯があって負けん気が強い子なんです」。

聞けば乗り難しそうに感じるが、頑固なだけでそういうことではないという。騎乗する松山弘平騎手も京都新聞杯の敗戦を糧に、ペース配分を修正。その成果が連勝となって結果に現れた。人馬の呼吸が大事な長丁場。コンビの絆を大一番で発揮できるか。

取材レポは以上となります。まとめるのがレースの前日となってしまい恐縮ですが、馬の個性をなるべく紹介できるように務めたいこのコーナー。またの機会があれば…ぜひご一読よろしくお願いします(笑)。