コチラ検量室前派出所

テトラドラクマ

テトラドラクマで初G1制覇を狙う小西師

●クイーンCで20年ぶりの重賞制覇

暑い……。4月最終週の東京競馬場。寒がりの検量室前パトロール隊員にとって、外が暖かくなることは歓迎なのだが、検量室前は基本的にスーツ。外を歩くと自然と汗が落ちる。これでは今から真夏が心配になってくる。世間はゴールデンウィーク真っ只中。一般企業に勤める友人は9連休だという。ゴールデンウィークなど関係ない競馬関係者にとってはうらやましい話だ。そんな連休の最終日である5月6日(日)に行われるのがNHKマイルカップ(G1)。毎年混戦になるレースだが、今年も例に漏れず大混戦。予想に頭を悩ませるファンの皆さんも多いだろう。

そんな大混戦に厩舎初G1を懸けて挑む1頭の牝馬がいる。テトラドラクマ(牝3、美浦・小西厩舎)。前走クイーンCを圧勝し、1998年ガーネットSのスーパーナカヤマ以来、20年ぶりの重賞タイトルを小西厩舎にもたらした。物腰柔らかな小西調教師にその話を振ると、「そろそろ重賞を勝ちたいと思っていたところでした。強い内容でしたね。勝てて良かったです」と柔和な笑みを浮かべながら嬉しそうに話してくれた。

NHKマイルカップでも人気の一角を背負う愛馬を師が初めて見たのは1歳の終わり頃だったという。「コロンとした馬でしたが、ボリュームがある馬だというのが第一印象でした。ルーラーシップ産駒もいろいろなタイプがいますけど、女馬にしてはボリュームありましたね。いい馬だと思いましたよ」と当初から手ごたえを感じていたようである。

それから半年ほど後、昨年7月の福島芝1200mの新馬戦でデビューした。1番人気に推されたものの、勝ち馬から1.6秒の大差を付けられて9着に終わってしまった。「1200mの新馬戦を使ったのは、早い時期で距離のある新馬がそう多くなかったこと、そして調教からいいスピードを見せてくれていたこともありました。しかしこちらが思っていたよりもまだ子どもで、うまくレースできませんでしたね」と振り返る。「元々育成の時からも、トレセンに来てからも調教で動いていた馬なんです。やってくれるとは思っていましたよ」。そう師が語るように、2戦目は東京マイルに距離延長して一変。後にフェアリーSを勝つ超良血馬・プリモシーンとクビ差の接戦を演じ、好内容の2着に食い込んでみせた。

その後、未勝利1着を挟んで臨んだ今年1月のフェアリーSでは1番人気に推されながら6着に敗れたが、師の表情に悲観の色はなかった。「中山の大外はキツかったですね。あのコースで大外では、能力が一枚も二枚も抜けてないと厳しいですよ」と語る。

テトラドラクマ

愛弟子・田辺騎手とのG1参戦は初めて

小西厩舎としては、チェリーメドゥーサの秋華賞以来、約5年7ヶ月ぶりのG1挑戦である。やはり気合が入るものなのかどうか聞くと、微笑みながら首を横に振る。「男馬に強いのがいますから(笑)。レースで自分のペースで走れるかは分からないですし、馬場状態などでも結果は変わります。いろいろなファクターがありますが、全てがうまいこといって、あとは自分のペースでいけるかどうかだと思います」と話した上で、「普段から女馬特有のピリピリしたところはありますが、ルーラーシップ産駒にしてはおとなしいほうですし、調整はしやすいです。1戦ごとにレース内容が良くなってきましたから、潜在能力に期待したいですね」とレースを待つ姿勢は、いつも通り自然体だった。

●「まだまだこれからの馬」

ただ今回のNHKマイルカップは小西師にとってはこれまで以上に気合いの入るG1であることは間違いないだろう。テトラドラクマの鞍上に予定されているのは自らの弟子である田辺裕信騎手である。共に臨むG1はこれが初めてだ。このことについて「そんなにG1も使ってないからね(笑)。G1を使っていたのも田辺がジョッキーになる前だから。この間も一緒に重賞(クイーンC)を勝てましたし、この勢いでいければいいですね」と笑う。弟子と共に臨むG1を心待ちにしているのが伝わってくる。

「田辺はうちの厩舎にずっといますけど、最初からいいわけではなかったです。色々と積み重ねてトップジョッキーになってくれました。まだまだ課題はあるでしょうが、さらに伸びると思います。あとはグレードレースをもっと勝っていけるようなジョッキーになってほしいですね」と愛弟子にやや辛口のエールを送るが、クイーンCのレース後、取材陣に「田辺騎手との師弟コンビでの重賞制覇は初めてでしたね」と問われた師の表情は満面の笑みだったことをパトロール隊員はよく覚えている。クイーンC当日は田辺騎手の34回目の誕生日でもあり、20年ぶりの重賞制覇を誕生日の愛弟子と共に成し遂げることができたことは二重の喜びだったのだろう。

「まだまだこれからの馬です」と、師は決して大きなことを言わないが、「前に行ければ内枠でも大丈夫だと思います。東京のマイルはそんなに枠の影響もないですからね、中山マイルコースと違って(笑)。未勝利2着、そしてその後勝ってから、レースごとにステップアップしている感じはあります。同型馬との兼ね合い次第ですね」と言いながら笑顔を見せる。

祖母にあたるプルーフオブラヴの半姉には1997年の第2回NHKマイルカップを圧勝した名牝・シーキングザパールがいるテトラドラクマ。固い絆で結ばれた師弟コンビと共に、偉大な大伯母が手にしたタイトルを狙う。

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