関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

川合達彦調教助手

デビュー戦こそバンドワゴンに後塵を拝したが、その後は全く危なげのない競馬で3連勝中。早くも母トゥザヴィクトリー、全兄トゥザグローリーに勝るとも劣らないセンスを見せているトゥザワールドだが、一族悲願のクラシック制覇に向け、まずは弥生賞で一冠目への視界を良好にする。名門・池江厩舎の素質馬を知り尽くす川合達彦調教助手に、4連勝へ向かう成長曲線を聞かせてもらった。

偉大な母の資質を引き継ぐ逸材

-:弥生賞に出走予定のトゥザワールド(牡3、栗東・池江寿厩舎)について伺います。3連勝で若駒ステークスを制しましたが、これまでのレースを振り返って、この馬に対する印象を教えて下さい。

川合達彦調教助手:新馬戦は敗れてしまいましたが、当時はゲート試験に合格して2週間後に出走でしたからね。まだ緩さもありましたし、仕上がりの差もあったと思います。それでも、一度実戦を使った事で、そこからどんどん力をつけてきたと思います。

-:負けたとはいえ、勝ったバンドワゴンはその後も活躍しています。あの新馬戦を見ていて、人気薄の馬が展開利で勝ったのかと思いきや、上がり33秒台の脚を使っていたんですよね。

川:そうですね。バンドワゴンも新馬戦のパフォーマンス通りの活躍ですね。

-:仕上がりの差で、それほど悲観する新馬戦ではなかったということですね。未勝利戦は少頭数のレースで勝ちましたが、安心して見ていられましたか。

川:そうですね。敗れたとはいえ、新馬戦でも素質を感じるパフォーマンスを発揮しましたし、これから良くなると確信していたので、未勝利戦の時は安心して見ていられましたよ。

-:そして、次走の黄菊賞が2歳レコードでの勝利でした。1番人気をオーシャンヒーローに譲り、2番人気に甘んじましたが、この時のコンディションはいかがでしたか。

川:川田(将雅)騎手も厩舎サイドも、調教では「いいね!」という感じだったんです。だから、人気にはそれほど気にしていませんでした。

-:年明けから大活躍の池江厩舎で、トーセンスターダムやサトノアラジンなど、期待の3歳馬も数多くいます。注目度も高く、ファンは「どの馬が一番なのか」なんて盛り上がったりもしていますが、トゥザワールドももちろん、厩舎の期待馬ですよね。

川:ええ。もちろんどの馬も素晴らしい馬ですし、我々の期待も大きいです。トゥザワールドも”三本の矢”の太い一本ですよ。



4連勝を狙うこの中間の動き

-:トゥザワールドに普段乗っている感触、タイプというのはどのような感じですか?一般ファンは“強い”というイメージはあると思いますが、どういう良さがあるのか、どんな特徴を持った馬なのか、まだまだ知らないと思います。

川:言葉にするのはなかなか難しいものですね。大型なんですけれど、ガムシャラに走るのではなく、スーッと伸びるような感触でしょうか。楽々と、悠々と走っているのですが、その中にもスピードを感じさせるんです。今回、川田騎手が乗った1週前追い切りで、僕はバーディバーディに乗って先行して、ラスト1Fで並んでくる予定だったんですけど、途中で後ろをチラッと確認してみたら“あれ、離れすぎなんじゃないの?”という印象だったんです。でも、ラスト1Fに近づいてきた時に、ちょっと仕掛けたら並ぶ間もなくスーッと伸びてきましてね。心配をして損をするような動きでしたよ。

-:川合さんが騎乗されたバーディバーディも、決して調教駆けしない馬ではないですよね。

川:タイプとしては切れる馬ではないですけど、全体的に脚をつかうように走る馬ですよね。



-:その古馬を置き去りにするということは、トゥザワールドは瞬発力も兼ね備えていそうですね。

川:そういうことですね。騎手のコントロールに対して順応しますから。うちの厩舎は縦列調教じゃないですか。しっかりとした馬が先頭に立って、他の馬がついていく形なんですが、トゥザワールドは3歳馬なのに先頭に立っても全然物怖じもせず、みんなを引っ張って歩けるんですよ。

-:ボス的な要素があるんでしょうか。古馬でも、縦列調教の先頭に立つと、気を使ってソワソワしてしまう馬もいると思います。

川:チャカチャカする馬は、何歳になっても大人になりきれないものですが、トゥザワールドは違いますね。2歳の頃は物見して、川田騎手も慎重になったところがあるんですけど、今は精神的にしっかりしていますね。

-:馬体重はどれくらいですか?

川:今は520キロあります。競馬には510キロ台くらいで出られると思いますよ。今回は初輸送になりますので、6~8キロは減るかなと思うんですけどね。



ファンの期待に恥じない競馬を

-:まだ未知数な部分もあるでしょうか。3歳牡馬はこれからどれだけ成長できるかが、クラシック戦線に関わってくると思うんですが、成長度はどれくらいでしょう。

川:食欲もありますし、普段もイライラするところがなくて大人しいんです。ストレスなく、ノビノビと成長しているのではないでしょうか。今回は初輸送で、皐月賞も見据えての一戦なので、これが良い経験になってくれればいいですね。

-:500キロ台の大型馬で、前走も上がり33.6秒の脚を使っていますが、この馬は瞬発力系でしょうか、それとも長くいい脚を使うタイプでしょうか。

川:どちらのレースも見せているので、競馬はしやすいんじゃないかと思います。

どんな流れにも対応できるオールマイティーさがあるので、川田騎手の思う通りに乗れると思います。少し頭の高い走法ですがこれだけ走るんですから、特に注文は無いですね。


-:頭の高さがどうこうより、もっと背中を使って走っているということでしょうか。

川:そういうことですね、全身バネのような馬なんです。非常に体が柔らかいんですよ。

-:写真を撮っていても、四肢が浮いている場面が多々あるので、いわゆる大跳びのバネがあって弾むような走りです。大型馬は、そんなに小脚が使えないといいますか、不器用な面があることもありますが、この馬にはそのような面は無さそうですね。

川:今までのレースを見る限りでは、そういう感じはしますね。

-:お話を伺う限りでも自信を持って臨めそうですね。

川:皆さんの期待に恥じない競馬をしてほしいですね。



-:金杯から絶好調の池江厩舎なので、クラシックでもぜひ、3頭と言わず、たくさん馬を送り込んでほしいです。

川:明後日(3/2デビュー)のサトノフラクタルも楽しみですからね。僕が乗っているわけじゃないですが、調教は凄く動きましたからね。先生(池江泰寿調教師)も「クラシックに何とか間に合わせたい」と言っています。

-:馬も人も、毎回結果を求められて大変かもしれませんが、それだけの期待があるのは、ありがたいことですね。

川:そのような期待馬に乗せていただけて毎日、貴重な経験をさせてもらっています。

-:オルフェーヴルが無事に引退して、その後のニューヒーローをみんなが待っている状況です。期待の3歳馬たちに次代を担っていってほしいですね。最後に弥生賞を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

川:関東では初登場になります。このまま無事に勝ち進んで4連勝でクラシックで臨みたいと思います。寒さも少しゆるんできましたので、ぜひ競馬場に足を運んで頂ければと思います。トゥザワールド、池江厩舎の応援をよろしくお願いします。

-:ありがとうございました。


【川合 達彦】 Tatsuhiko Kawai

2005年4月で引退した元騎手。中学生時代に偶然目にした騎手課程の募集がきっかけで、馬の世界へ飛び込む。栗東・坂田正行厩舎より騎手デビュー。
騎手引退後は調教助手に。07年より池江泰寿厩舎に所属。追い切りでは併走馬に跨ることが多い。時計が速くなり過ぎないように全体のラップに注意を払いつつ、追い切りをつけている。高額馬が多い同厩舎で「どんなに高い馬でも鍛えないと走らない」がモットー。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

■公式Twitter