関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

田中博司調教助手

初のG1挑戦だった高松宮記念は、1番人気に推されながらも超がつく不良馬場に瞬発力を削がれて3着。しかし、小柄な馬体からのピッチ走法で、大外から果敢に追い上げたそれは、単なるスプリンターの競馬内容ではなかった。かねてから、様々な路線を想定して調教をこなすのが藤原英昭厩舎流で、それも1頭持ちで、腕利きの田中博司調教助手が仕上げているなら尚更だ。ヴィクトリアマイルで早速のリベンジは成功するのか、最終調整中の愛馬の状態を聞かせてもらった。

帰厩が遅かった中での良し悪し

-:ヴィクトリアマイルに挑むストレイトガール(牝5、栗東・藤原英厩舎)ですが、高松宮記念の前に取材させていただいて、レース当日は凄い雨。歴史の中でも過去最高くらい降っていたと思うほどでした。あれだけ馬場が悪くなったら内外関係なくなるので、内から来ると思っていたのですが、思ったよりも外目だったことが着順的には悔やまれるという気もします。よく頑張った3着でしたよね。

田中博司調教助手:勝った馬と通っているところが全然違うというのは確かですよね。うちの厩舎で7Rの2000mを使ったトーホウスマートに岩田騎手が乗っていたのですが、そのレースを乗って、宮記念のゲート裏でも「外を行きます」と本人が決めていたので、乗っている本人の判断で行きました。

-:牝馬にあの極悪馬場ですからね。

田:あの馬場でもある程度がんばってきていたし、力のあるところをちょっとは見せられたのかなと思います。

-:しかも、初G1でしたよね。

田:1番人気にしてもらって、勝てれば良かったのですが、3着でした。馬も一生懸命走ってきたし、レース後はいつも以上に疲労がありました。


「いつもの帰ってきた雰囲気よりも、追い切る前から前向きなところがありました。普段の2週前の坂路はやらずにきました。それだけやらなくても前向きさが出てきています」


-:あの馬場で走ったら疲労がないという訳にはいかないですよね。頑張った中でも、ヴィクトリアマイルに向けて順調にこられた訳ですから、回復度合いはまずまずですか?

田:いつものパターンでは、丸1ヶ月前にトレセンへ戻してもらっているんですが、今回は1ヶ月をちょっと切っていて、27、8日でレースです。いつもより帰ってきてからレースまでの日数が浅いです。

-:疲労回復に時間を取ったのですか?

田:前回が3月30日で、今回が5月18日ということで、前走からの日数が少ないというのも今までとちょっと違いますし、ある程度、疲労が取れてから入れて、今回の調整日数になっています。

-:体を見せてもらったら、当たり前の話ですが、ちゃんと回復できているような感じですよね。

田:いつもの“レース2週間前”の形できています。ただ、今回はいつもより帰ってきた時点での馬体重が少なかったです。だから、いつもより減らないように気をつけました。

-:そういう状況だと、調教量の加減などが必要だと思うのですが、今回の調整の難しさというのはいかがでしたか?

田:いつもの帰ってきた雰囲気よりも、追い切る前から前向きなところがありました。普段は、1週前に岩田騎手を乗せて進行するのがパターンで、その前は坂路である程度の時計を出す調教をしていて、坂路を52、3でやって、やっと馬に競馬に向けての前向きさがドンと出てくるのですが、今回はそれをやらなくても、ある程度の前向きさが普段の調教から感じ取れましたし、ミスも少なかった。2週前の坂路の52、3というのはやらずにきました。それだけやらなくても前向きさが出てきています。



以前よりマイル戦を想定しての調教

-:ファンの中には1200mで強いイメージがあるのですが、距離はどうですか?

田:今回まで、好成績を収めてから1200mでしか使ってないということで、そう思われているのですが、普段から“マイルぐらいまでは持つ馬”という感じで調教もやっていますし、乗った感じもそうなので、去年の夏から、厩舎としては“マイルまでは(持つ)”というつもりでやっています。

-:競走馬にとって、1200mのスプリント戦に使うというのは究極の選択ですよね。1200mに縮めるのは一発勝負みたいなところがありますが。

田:求める部分は今までとちょっと違いますよね。今までは1200mなので、前向きさを求めるという調整方法だったのですが、今回は1600mでも道中で我慢できるように、という課題を持ちながらやっているので、そのつもりで今回はCコースで岩田騎手がどう思うか、という調教のテーマがありました。彼は「馬がエキサイトしてないし乗りやすい」と。そう思わせるのにある程度の時計も出したかったし、道中遅すぎると喧嘩になるおそれがあるのですが、大丈夫でした。

1週間前はちょっと下(コース調教)でしんどい思いをさせる、というのがいつものパターンですし、上がってきて「どう?」って言ったら、凄く乗りやすく、ペースも速かったみたいで、そこでそう思ってくれるように普段の調教をしていました。それで「レースの当週は乗らないでいいか?と聞いたら「お願いします」という、パターン的にはいつもと同じです。




-:一般的なファンが懸念する“1200mの馬をマイルに戻したら引っ掛かって終わるんじゃないか、末脚をなくすんじゃないか”というところはクリアできそうですか?

田:大丈夫だと信じてやっているし、それは昔からそのつもりで調整しています。1200のスペシャリストを見ていると、坂路主体で仕上げている馬が多いので、坂路だけという調整方法より、Cコースを使ってコース1周半でしっかり乗り手の言うことを聞かせて、という調整方法でずっときています。それは前からマイルまでは、という意識があったので、そういう調整方法をしています。

-:高松宮記念であれだけ馬場が悪かったことを考えると、1200のスペシャリストだったら止まっている可能性もありますよね。1200の馬では、あの馬場で3着にはこられないのではないかと?

田:しんどいのかなと思います。今回が初めて1600mのための調整をしたという訳ではなく、去年の夏から1600まではというつもりできていました。

-:実際に1500mも使っていますしね。

田:エルフィンSでも走って、未体験ではないです。順調にこられています。


「岩田騎手も後藤騎手の復帰を祈っているでしょうし、レースの当日はずっと病院に行っていた、というのも知っているので。ジョッキーとして勝負して欲しいと思います」


-:実績を考えると、同厩舎でいうとウリウリの方がマイル路線にはピッタリのイメージですよね?

田:あれは王道というか、ヴィクトリアマイルで勝負するためにここ最近のローテーションが組まれてきているし、凄い動きを間近で見ているので、“コイツと走るのか”という気持ちもありますが、レースはやってみないと分からないです。もしかしたらストレイトの方が対応してきっちり走れるかもしれないですし。

-:ウリウリと比べるとフットワークも違いますよね?

田:まずストライドが違いますね。ウリウリが10歩で行くところを、12、3歩はかかっているでしょうね。

-:府中の王道の誤魔化しのきかないコースを回転数で勝負しないといけないということになると、心臓のタフさが求められますね。

田:そこは、匹敵するくらいは絶対にあると思いますし、それ以上にあるんじゃないかなと思っています。

-:小脚の利く利点を生かして、混戦からズバッと抜け出してくれますか?

田:普段からそういうイメージを持って、ここ2週は岩田騎手を乗せて真後ろにつけて、辛抱させています。



-:岩田騎手で府中のコースということになると、先日の不運な事故もありましたし、馬券を買うファンは若干、躊躇してしまうかもしれないですが?

田:そこは賛否両論あるでしょうし、そういうのは良くないと思っているファンがいるのも確かですが、厩舎サイドとしては岩田騎手を主戦にずっときていますし、復帰の週ですので。

-:岩田騎手も後藤騎手の復帰を祈っていますよね。

田:祈っているでしょうし、レースの当日はずっと病院に行っていた、というのも知っているので。ジョッキーとして勝負して欲しいと思います。

-:勝負できる状態にあるということですね。

田:馬はきっちりデキています。

ストレイトガールの田中博司調教助手インタビュー(後半)
「パドックの気配と想定馬体重」はコチラ⇒

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【田中 博司】Hiroshi Tanaka

父は田中耕太郎元調教師。同厩舎で競馬人生をスタートした後、スタッフの産休がキッカケで小学生時代からお互いを知る藤原英昭調教師のもとへと異動し、名門厩舎の躍進に携わってきた。調教技術もさることながら、培ってきた知識と人脈、そのリーダーシップは秀でており、理想像といっても過言ではない調教助手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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