関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!


--:では、フィフスペトルを管理する加藤征弘調教師にお話を伺います。今、立ち話で聞いたところによりますと、高橋さんがターフトピックスの美浦担当をされていた時もあまり加藤先生とは接点が無かったという事で。

高橋:そうなんですよ。加藤先生にインタビューする時は、いつも坂田(裕美・トレセンTIME美浦担当レポーター)が「加藤先生のインタビューは私が行く!」って言っていたので(笑)。

加藤:ああ、そうなんだ(笑)。僕がよく喋って、自分が話さなくて済むから選んでいたんじゃないの(笑)?

高橋:どうでしょうかね、今度坂田に聞いておきます(笑)。とにかく私は今回が初めてのインタビューになりますね。よろしくお願いします。

加藤:よろしくお願いします。

高橋:まず、いよいよ今週ダービーを迎えるわけですけれども、今のお気持ちを聞かせてください。

加藤:まあ、よくここまで無事に上手い事来れたな、という感じです。なかなか珍しいですからね、函館2歳ステークスを勝って、ダービーまで無事に来るという馬は。もしかしたらそんなにいないんじゃないですかね?

高橋:距離も1200mと2400mで性格の違うレースという感じですもんね。

加藤:そうですよね。それでもクラシックの王道を歩んで来ることが出来ましたし、良かったと思います。

高橋:先生は最初から「距離は大丈夫」と思っていらっしゃいましたか?

加藤:いや、自分で自分の考えを覆すようで何だけど、最初の頃は「マイルくらいが限界かな」と思っていましたけど、皐月賞を見る限りでは、2000mでももうちょっとゆっくり走らせれば大丈夫なんじゃないかな、という気がしました。無理して途中で脚を使わなければ。

高橋:皐月賞のどういったところが「距離がもつ」と思えるポイントだったんですか?

加藤:皐月賞のちょうど1000m通過から残り600mまでの2ハロンの間の走りがね、物凄くストライドが伸びて良かったんですよね。それを見た時に「もしかしたら、現時点のこの時期の2400mだったら、相手も同世代だしやれるんじゃないかな」という意識が芽生えたというか。その皐月賞の1000mから1400mの間の2ハロンを見て「意外と良い走りをするじゃないか」って。このままの雰囲気で無理をさせないで走っていれば、多少距離は融通がきくんじゃないか、と思いました。

高橋:その皐月賞の次はNHKマイルカップに進みました。

加藤:自分としては「皐月賞からダービー1本でも良いかな」とも思いましたけど、やっぱり本来の適性通りの競馬もやらないとね。

高橋:マイルカップをご覧になっていかがでしたか?

加藤:競馬だから致し方ないですけど、まあ二通りの競馬になっちゃったというのかなあ。前と後ろで別の競馬になっちゃいましたね。前の2頭と後ろの馬のペースがまるっきり違って、全頭一緒にスタートを切ったんじゃなくて、別々にスタートを切ったようなレースになってしまって。また、ウチの馬も直線に向いた時にあんまり本気になっていなかったんでね。本気になっていれば、勝つまでは行かなかったかもしれないけれど、もう少し見せ場があったんじゃないかと思いますけど。何か馬に本気さが無かったような気がしますね。

高橋:気持ちがレースに向かない面が。

加藤:そういうところはいくらかありますね。ちょっと気持ちの上で遊びがあると思います。

高橋:それが今度はレースで距離が延びた時に、良い意味での遊びになったり。

加藤:そうですね、そうなってくれれば良いなと思います。

高橋:そうですか。先生から見て、フィフスペトルの良さはどんなところだと思いますか?

加藤:結構、早熟のように見えるけれど、そうでもないところですね。5月22日の遅生まれですが、早い時期にデビューして子供子供しながらもクラシック路線の王道を歩んできて、ついにダービーに出走する事になるんですから。着実に成長していますね。

高橋:5月の遅生まれで、あんなに早い段階から結果を残すのは凄いですね。

加藤:それがこの馬の丈夫さというか、芯の強さというのか、そういうのがあるんでしょうね。

高橋:一番「成長したな」という部分は、どういうところに見えますか?

加藤:やっぱりどの馬もそうですけど、丸々3年経って、骨格上の成長がありますね。やっと大人びてきたといえる感じはしますよ。顔つきにしても、少しずつ大人っぽくなって来ていますし。突然ガラッと変わるというような事は無いですけれども。

高橋:ダービーが近づいてきて急に良くなるというか、雰囲気が良くなってきたりという事はありますか?

加藤:それはあると思います。やっぱり生後丸々3年という、ちょうどそれを境に成長していく時期ですから。それでも、フィフスペトルは遅生まれですから、この時期の早生まれの馬との差というかハンデは結構大きいですよ。早生まれの馬にとってのダービーは、フィフスペトルにとっての菊花賞というくらいの時間差がありますからね。そこはやっぱり可愛そうだと思いますけれど、逆に言うと、それでここまでの結果を出しているわけですから大したものだと思いますよ。

高橋:完成度という点ではどうしても早生まれの馬に遅れをとりますからね。

加藤:それがカバー出来た要因が、やっぱり育成の時からあった骨格の丈夫さなのかな、と思うけどね。だから早い時期からデビュー出来たし、もう馴致が始まる前から昼夜放牧っていうのをやったりしますけれど、初めの頃は手足にむくみが出たりする事もあるのに、そういう事も全く無くて。

高橋:本当に順調なんですね。

加藤:そういう事も全て完璧にクリアして、10月なら10月の育成から始まってもう6月にはデビューだから、なかなか無いんですよね。本当に理想的なんですよ。それが生まれてからずーっと続いている感じで。

高橋:順調に育成されて、先生の厩舎に入った後も順調で。

加藤:この馬はほとんど厩舎にいますね。去年の5月20日頃に入厩してきて、デビューの2週間くらい前まで美浦に置いて、それから函館に運んで新馬勝ちですからね。本当に計算通りというか上手く行きました。普通はどこか疲れが出たり、いろいろあるものなんですけれどそれも無くて。

高橋:コンスタントに出走されていますよね。

加藤:まあ万全を期して、2回使って3ヶ月あけて、2回使って3ヶ月あけてというペースで来て、軌道に乗ったのでここのところは4回使ったという感じですね。やっぱり若い才能のある芽は摘んじゃいけないので。

高橋:いくら体が丈夫だからとはいえ、2歳の頃に無理をしてしまうと後々反動が…。

加藤:戦意を喪失してしまうのが一番困りますね。体が丈夫でも気持ちがね。やっぱりやる気が無い時、レースに使われたりすると余計にやる気が無くなってきたりするので、そこだけは十分に気を配ります。これはフィフスペトルだけではなくてね、どんな馬でもそこだけは気を配ります。今回は使い詰めで来ていますけれども、始めの2回のスプリングステークスと皐月賞では大してレースをしていないので、今回出走に踏み切りました。

高橋:レースをしていない、というのは。

加藤:激走していない、という事ですね。そんなに凄い脚を使った事が一回も無かったので、その分だけまだお釣りがあるかなっていう感じで。

高橋:そうですか。フィフスペトルの調教は明日(5/28)の予定ですけれども、気を付ける点はどんなところになりますか?

加藤:オーバーワークにならない事ですね。あとはちゃんと併せ馬をして、多少やっぱり目つきを変えておかなきゃいけないな、と思います。ちょっとここの所、折り合い重点の調教というか、どうしても距離をもたせよう、折り合いを付けようという事で、単走で追ったりする調教が多かったんです。若干その辺りが競馬にも影響しているんじゃないかな、という気持ちも多少あったので。かと言って、カーッとさせるのも良くないので、坂路は止めて、全体的にゆっくり走らせながら最後の1ハロンだけ併せてみようかな、と考えています。それでちょっと気持ちの方をね。

高橋:分かりました。私、フィフスペトルの距離がどうなのか気になっていましたけど、先生のお話を聞いて安心しました!ダービーでも応援しています!今日は有難うございました。

加藤:有難うございました。

--:お疲れ様でした。加藤先生の東京・芝2400mの実績データをお持ちしたのでよろしければご覧ください。

加藤:ウチはあまり使っていないでしょ?(資料を見ながら)あー、ウチはまだ東京の芝2400mは勝っていないんだ。という事は初勝ちがダービーになるチャンスだ!そうなったら最高だね(笑)。まあ、開業した最初の頃は、そういうクラシックを狙うタイプの馬は新しい厩舎には来にくいんですよね。僕も最初の3年間は「ダートセンパチ(1800)の加藤」って呼ばれていたんだから。もう1000万からオープンまで、ダート1800のスペシャリストだったんですよ。またそういうタイプの馬が多かったというのは事実で。これからはフジヤマラムセスだとかダンスオールナイトみたいな芝の馬も入ってきているから、また変わると思います。

高橋:厩舎に入ってくる馬の質が変わってくるんですね。

加藤:徐々にそういう馬が入って来るようになってきたという事ですよね。

高橋:先生の厩舎の成績も好調で。

加藤:いや、やっとですよ。それだけ頑張ってやっとです。そうは言ってもやっぱり関西主流ですから。いくら頑張って、いくらリーディングのトップの方にいても「関東は弱いんだろう」という意識というか。

高橋:そういう見られ方というか雰囲気を…

加藤:それは感じますよね。でもこのままではいられないですから。だから去年の朝日杯も頭差負けちゃいけなかったんですよね。一昨年はシンガポールでG1を勝ったけど、毎年G1くらい勝たないと「関東でも加藤厩舎は違うぞ」っていう風には、なかなか見てくれないよ。3~4年続けてG1を勝つくらいじゃないと厳しいですよ。

高橋:シンガポールのG1、シャドウゲイトで勝ちましたね。

加藤:あれは力ずくで勝ったようなものだからね、本当に。「格好つかないだろう、G1くらい勝たなきゃ」という感じで。意地というかね。日本でG1は厳しいから「この馬がG1を取れるのはどこだ」って一番とりやすい所を世界中探して持って行きましたからね。G1で賞金もちゃんとあるレースを探して(笑)。しかも時計はかかるし、雨は多いしっていう条件も良くて。

高橋:シャドウゲイトにピッタリだったんですね。ビッグレースを勝つと厩舎にハクが付くという感じはありますか?

加藤:やっぱり違いますよ。いくら条件が合って、相手が弱いといっても簡単にG1タイトルは取れませんからね。

高橋:そうですよね。あ、あとこれも聞きたかったんですけど、先生が今までで一番印象に残っているダービーはどのレースですか?

加藤:えー、何だろうねー。うーん…コーネルランサーは良かったねえ。

高橋:コーネルランサー…

加藤:知らないでしょ(笑)?俺、子供の頃から競馬を見ているからね。コーネルランサーは好きだったねえ。

--:1974年のダービー馬ですから、歴史の積み重ねを感じますね。

加藤:そうですよ、やっぱり経験だから。この世界も。全て経験ですよ。本で勉強して知識を持つだけじゃなくて、そこに経験に基づいた直感が加わらないとダメですよ。全てが同じ馬はいませんから、1つの知識を引き出しにしてその馬に当てはめるのではなくて、多少のアレンジを加えないと過去の知識も当てはまらないんですね。

高橋:知識だけじゃなくて、その本人の経験や感性を加えてアレンジする必要があるんですね。

加藤:そう。直感や毎日馬を見ている洞察力も大事ですよ。

高橋:教科書で覚えた事だけではダメなんですね。

加藤:それだけじゃムリですよ!ここはそういう学歴だけがモノを言う世界じゃないからね。まあ、だから僕も入れたんだけど(笑)。

高橋:アハハ!先生、今日はお忙しいところ有難うございました!とても楽しかったです。

加藤:じゃあまた取材に来てください。




加藤 征弘

1965年東京都出身。
2001年に調教師免許を取得。
2002年に厩舎開業。
JRA通算成績は213勝(09/5/27現在)
初出走:2002年3月3日 1回 中山4日 8R エビスイーグル(3着)
初勝利:2002年6月2日 4回 東京6日 3R ソプランマンボ


■主な重賞勝利
・08年函館2歳ステークス   フィフスペトル号
・07年シンガポール航空国際C シャドウゲイト号
2003年から2008年まで6年連続で優秀調教師賞を受賞(07、08年は共に関東1位)。開業初年度から毎年二桁勝利を達成している。管理馬フィフスペトルで自身3度目のダービーに挑戦する。





高橋摩衣

生年月日・1982年5月28日
星座・ふたご座 出身地・東京 血液型・O型
趣味・ダンス ぬいぐるみ集め 貯金
特技・ダンス 料理 書道(二段)
好きな馬券の種類・応援馬券(単勝+複勝)

出演番組
「Hometown 板橋」「四季食彩」(ジェイコム東京・テレビ) レギュラー
「オフ娘!」(ジェイコム千葉)レギュラー
「金曜かわら版」(千葉テレビ)レギュラー
「BOOMER Do!」(J SPORTS)レギュラー
「さんまのスーパーからくりTV」レギュラーアシスタント


2006年から2008年までの2年間、JRA「ターフトピックス」美浦担当リポーターを務める。 明るい笑顔と元気なキャラクターでトレセン関係者の人気も高い。 2009年より、競馬ラボでインタビュアーとして活動をスタート。 いじられやすいキャラを生かして、関係者の本音を引き出す。