海外に視野を
2012/1/13(金)
-:なるほど、思っているよりも日本馬の能力はフランスでも評価されているんですね。今後、日本馬が凱旋門賞で勝とうと思ったらルメールかメンディザバルに乗ってもらったほうが良いんでしょうか。
ルメール:ん?それは日本の騎手の問題ではないと思うな。問題は経験だよ。当然、日本の騎手よりも僕らの方がロンシャンを知り尽くしているからチャンスはあると思うけど、豊だって海外での経験も豊富だし、ロンシャンを良く知る騎手の一人だよ。逆に、イタリアやイギリスから名のあるトップジョッキーが凱旋門賞に乗りに来てもロンシャンでの経験がなければチャンスはないだろうね。それくらいロンシャンで乗った経験は大事なんだよ
-:日本の騎手はあまり海外には出て行きませんからね。
ルメール:非常に残念なことに積極的に海外に出て行く日本の騎手ってユタカくらいでしょう。どうやって経験を積むか?それこそが日本の騎手に欠けているところだと思う。もっともっと海外に目を向けて欲しい!時間を割いてフランスでもイギリスでもオーストラリアでも出て行けば、きっと何か掴めるんだから。競馬における経験だけじゃなく、いろんな経験が必要になってくる。“海外に行って30鞍しか乗れなかった”とか、乗り鞍に恵まれなくたって良いんだよ。その国、そのコース、で得た経験がものを言う時がいつか来るんだから。もしも海外のG1に日本馬が挑戦する時に、乗った経験があればオーナーや調教師にアピールできるでしょう?
-:日本では、海外の経験があってもなかなか大舞台で乗せてくれる環境ではないですが。
ルメール:それでも海外に出て損はないよ。それくらい貴重な経験になるんだから。
-:「日本の騎手はもっと海外に行って経験を積め」と。
ルメール:そう!例えば、若手の田中博康騎手もフランスやベルギーに行っていたでしょう。彼もフランスに行って乗り数も少ないのに頑張って、いろんな競馬場を転戦していた。そこで得た経験は彼の騎手人生にとって非常に大きいと思うよ。田中博騎手が日本に帰って来てから、どんな変化があるのか注目して見て欲しいな。多分、上手くなっているんじゃないかな?
メンディ:僕はちょっと違う考えなんだけどいいかな?この間、クリストフがメルボルンカップに行ってDunaden(デュナデン)で勝ったよね。オーストラリアで乗ったことのなかったクリストフが勝ったんだよ。もちろん勝ったDunadenには勝てるだけの力があった。そこは重要なんだけれど、騎手として、そのコースで乗った経験がなくても前日から馬場をチェックしたり、コースを歩いたりして、レースに対応するのは可能だと思う。ただし凱旋門賞ってことになると話は別だよ。ロンシャンは世界の中でも特別難しいコースなんだ。高低差もあるし、コーナーも難しい、おまけにフォルスストレート(※)まである。僕らフランス人騎手が何度乗っても難しいコースだから、海外での経験とロンシャンでの経験はわけて考えた方がいいと思うんだ。
(※)(false straight)=“偽りの直線”
中回りコース、大回りコースのみ第4コーナーまではフォルスストレートと呼ばれる最大650メートルの擬似直線が続く。
ルメール:フランスの競馬は他の国に比べても特別スローになるよね。だから凱旋門賞にはペースメーカーが出てきてレースを引っ張るんだけど、この逃げ馬が直線でバテた時が大変なんだよ。
メンディ:日本と違って馬群が密集しているから前にも横にも後ろにも動けない。そんな中で、みんなちょっとでも空いたスペースを見つけて馬を押し込んでくる。
ルメール:かなりラフに入られることもあるし、乗っている僕らにしてみたら危ない競馬だよ。そのタフさが凱旋門賞なんだけど。
-:やはりあれくらい密集した競馬を見せられると日本のファンもドキドキするんですよ。日本では見られない勝負が凱旋門賞にはあると思うんです。
ルメール:フランスのタイトな競馬が魅力的なのは良くわかりますよ。でも僕らにとって日本の競馬は安全でマナーも良くて素晴らしいと感じる面もあるんですよ。騎手にしても、僕らがフラッと来て簡単に勝てるようなレベルじゃないし。日本なりの良さもありますから、“郷に入れば郷に従え”でしょ(笑)」
メンディ:僕が今回初めて日本で乗ってみて戸惑ったのは裁決の判断基準です。国によって細かなルールは違って当然だし、それを理解した上でレースに乗らなければいけない。最初の頃は裁決に呼ばれて注意されても理由がわからなくて、「何がどういけなかったのか?」と、ちょっと悩みましたよ。
ルメール:日本の競馬は馬と馬の隙間が空いていて、どこからでも抜けられそうに思うでしょ?でも僕らの感覚で動いてしまったら、即アウトってこともある。日本のルールを知って、日本のルールに合わせて乗るのも難しいものなんだよ
メンディ:騎手や馬の安全面とファンが見て白熱する両方を考えると、フランスと日本の中間くらいがベストじゃないかな?ある程度、馬群が密集していて見ているファンも面白い競馬が出来ると良いね。フランスの競馬はちょっとタイト過ぎると思う、ラフだし(笑)。
プロフィール

クリストフ・パトリス・ルメール
(Christophe Patrice Lemaire)
1979年5月20日生まれ。フランス国籍。身長163cm、体重52.5kg、血液型B型。
1999年にフランス騎手免許を取得すると、間もなく頭角を現し、02年より短期騎手免許を取得して来日するようになる。
日本での重賞勝利までには時間が掛かったが、05年の有馬記念では追い込み脚質だったハーツクライを先行させ、三冠馬・ディープインパクトを封じて、見事、初重賞制覇をG1制覇で飾った。
他にもカネヒキリと挑んだ08年のJCダートや、09年のウオッカでのジャパンカップなど、テン乗りを物ともせず、大仕事をやってのけていることで日本のファンにも馴染みは深い。
現在、ヨーロッパではアガカーン殿下やオーギュスタン・ノルマンといった大馬主と専属契約を結んでいる。昨年も祖国フランスのサンクルー大賞や、オーストラリアのメルボルンカップなど、世界のビッグレースを制覇。世界トップクラスのジョッキーである。

イオリッツ・メンディザバル
(Ioritz Mendizabal)
1974年5月2日生まれ。スペイン国籍。 身長170cm、体重53kg、血液型O型。
1994年にフランス騎手免許取得。04年に初めてフランスリーディングに輝くと、08~10年も3年連続でリーディングを獲得。
また、日本では3度目の出場となった08年のワールドスーパージョッキーズシリーズで、45ポイントを獲得して総合優勝を果たした。
昨年秋に初めて短期免許を取得して、日本での騎乗をスタート。通算132戦15勝をマーク。アイムユアーズに騎乗したファンタジーSでは日本での初勝利を重賞制覇で飾った。