平林雅芳の目

トピックス

日曜東京11R
天皇賞(秋)(G1)
芝2000m
勝ちタイム1.57.2(レコード)

勝ち馬ウオッカ(牝4、栗東・角居厩舎)

■・・・『ありがとう!』と多くのファンの掛け声が・・

どちらが勝ったのかまったく判らない。
スローで写す出す映像では、むしろ内のダイワスカーレットが態勢有利にも見える。
「頼むっ!」と願う思いでエレベーターに乗り込む。
検量室へと急ぐ、着順を書き込む掲示板を観に向かう。
写真判定の際に係員が見た態勢優位馬を先に書きこむホワイトボードがある。
たまに着順が入れ替わることもあるが、高い確率で1着馬を先に書いてある。
そこには、ああ、非情にも『7、14』の順に馬番が書いてあった。

虚しい気持ちを奮って、地下馬道を引き上げてくるウオッカと武豊Jを待った。近づいてきた二人に『劣勢や~!』と言わなくてはならない辛さだ。
『やっぱり』と言った感じでそのまま言葉少なに馬を進めて、検量室前の枠場に馬を入れた。
1着のところにはもうダイワスカーレットが入っている。
2番目の枠場に入れるしかない。
鞍を外してゴッタ返す人、ひとの中を検量室へと入く武豊Jの後姿・・。

凄い人達でひしめきあう検量室の枠場のあたり。
皆がまだかまだかと検量室内の動きを、息を呑む感じで待つが、なかなか動きがない。
ほんとうに長い、なが~い時間が経っていく。
報道の大勢の記者達が『ゾクゾクするような競馬だったね!』や『凄い競馬を観させて貰った!』と絶賛や感嘆の言葉が飛び交う。
どちらが勝ってもとの声も聞こえる・・。
そして『オーッ!』と言う歓声とともに、一番最初に書き込まれた『14』の数字が目に飛び込んできた・・・。

2頭が待っていたが、ウオッカの陣営から『やった!』の声が飛びかう。
角居厩舎の人のそばで、ちょっとうるっと来ている人がいた。
そう、メイショウサムソン担当の中田さんである。
聞けばウオッカ担当が息子さんだという。
思わず中田さんに駆けつけて握手、そしてハグハグである。
『親子で2年連続で天皇賞ですか?』とこちらも貰い泣きしそうになりながら声をかけると、『そうなんですよ、本当に良かった、よかった』とグスグスである。
危ない、あぶない、ここで涙を見せたくないと堪える。

武豊Jが、大勢の記者とマイクの前でのインタビューから開放されて、前へと出てこれた。
GⅠしか握手しないようにしているので、最近はとんと彼の手のぬくもりを忘れていたが、久しぶりに暖かさを思い出せてくれた・・。

本馬場へと向かう彼の後を、追いかけるように馬場についていった。
芝の上に立って谷水オーナーを待っている間に場内から『タケ!タケ!』の呼び声があがる。
それに応えて武豊Jも、スタンドに向かってバンザイを4、5回して両手をあげて応える。
いや~、久しぶりに見たこのシーン。本当に絵になる男である。
『いや~長かった、本当に良かった』と、スタンドから沸く歓声を聞きながら、表彰式を遠くからジックリといつまでも見ていた・・・


ダイワスカーレットがポンと出て、単独で先頭に立つ。
少しして、ペリエらしくトーセンキャプテンが追いかける。
しかし並ぶまでは行かず、単騎逃げが続く。
ウオッカディープスカイが前後して、中団より前ぐらいに位置しているが、動く気配もない。
2頭だけが離れて進んでいるようだが、場内の放送でその2頭は前がカンパニーで後がドリ-ムジャーニーだというのが判る。
ここの位置では圏外だなと思って、前の流れを追う。

4コーナーを廻ってもダイワスカーレットに並びかける馬はいないが、ディープスカイウオッカが並ぶように外目から徐々に上がってくるのが見える。

直線半ばで安藤勝Jが追い出した。
ディープスカイの四位Jが、外をちらっと見ながら追い出しのタイミングを計っているように見えた。
その瞬間に外にいたウオッカがグイと伸びて、この2頭がダイワを抜いたように見えた。
そしてそのまま外2頭が並んでの追い合いかと思った瞬間、また内ラチ沿いのダイワスカーレットが伸びだす。
そして、内々で前との差を詰めてきていたカンパニーが、猛然とダイワスカーレットディープスカイとの間を突っ込んでくるではないか。
しかし外のウオッカと内のダイワスカーレットの2頭が優勢の勢いである。
一旦外のウオッカが出たはずだったのに、内からまたダイワスカーレットが盛り返し気味に伸びだしているようにも見えた時がゴールであった。

『凄い!、凄すぎる。』ダイワスカーレットの渋太い内容。
直線半ばでの脚色からはウオッカが楽勝と思えたのに、ゴールを過ぎてもまったく判らない2頭の牝馬の争い。
この2頭は本当によきライバルであり、どちらが強いのか判らないほどの実力である。
そして今年のダービー馬ディープスカイも、この姉御達に割って入ろうかという競馬内容だ。この馬も凄い馬だ。
12万人も入った東京競馬場。ビッシリとスタンドを埋めた大勢のファンが惜しみない拍手をしてくれたように、最高の競馬を見せて貰った・・。
すばらしい天皇賞であり、歴史に残る名競馬シーンとなるだろう・・・。
『ありがとう』と言いたい・・。