関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

西浦昌一調教助手

単勝1.9倍という断然の支持を受けたJCダートは、ソラを使ったところで一気に交わされての3着。初の中央G1タイトルこそ夢に終わったホッコータルマエだが、本年のダート路線を牽引してきたのは同馬であることは誰しもが認めるところ。そういった意味で、師走の大一番は落とせないところだろう。早くから”最大目標はドバイWC”と言い続けている西浦昌一調教助手に、その過程にある、東京大賞典制覇への手応えを聞いてきた。

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"ソラを使った"ことに尽きるJCダート

-:東京大賞典に向かうホッコータルマエ(牡4、栗東・西浦厩舎)について伺います。ジャパンカップダートはまさかの3着と残念な結果に終わり、落胆されたファンの方もいると思います。レースを振り返っていただけますか?

西浦昌一調教助手:敗因は"ソラを使った"ことに尽きるんですけど、元々そういう悪癖を使う面はあって、これまでは相手なりに走るということでカバーしてくれていたんです。今回は、大事なところで強くなりすぎていたのも弱点だったのかなと思います。

-:内容としては、1番人気で早め早めの競馬というのはセオリー通りだと思うのですが、そこから押し切ろうとする時に、もう1頭でも前に馬がいて、追い比べになっていたら、また違う結果になっていたのかなと感じました。

西:逃げ馬がもうちょっと頑張ってくれれば、結果は違ったかもしれないですね。

-:大一番を3着で終えて、そこから東京大賞典に目標を切り替えて調整されていますが、コンディションの変化や、レース後の状態はどうですか?

西:使うごとに良くなっていく馬なので、月に1回ずつ使っていくスタイルは予定通りなんですけど、この前はあまり走っていないので、疲れも全然ありませんでした。どんどん良くなっていくこの馬のパターンは継続できていると思います。

-:春から夏にかけてコンスタントに使われた上で結果を出してきた馬ですから、過酷なローテーションに見えてもタルマエには堪えていないんですね。

西:相手なりにしか走っていないからダメージも少ないですね。後続をぶっちぎって勝つような馬ではないので。順調に上積みがあって、どこまで強くなるかわからないぐらいです。

あえてここで試行錯誤も

-:先日、立ち写真を撮影する際に馬体を見させていただきました。JCダート時と遜色ないような丸みや雰囲気が感じられましたが、馬体重はどれぐらいですか?

西:ここからさらに、成長分が重さとしては出てこないと思うんですけど、どこが完成形なのかは、まだ僕らも把握できていない状態なので。減っていても、たかが知れている程度だろうし、現状とそれほど変わらないんじゃないかな。

-:コースが阪神から大井に変わります。

西:コースや馬場状態には注文は付かない馬ですね。

-:そういう意味では、あんまり話を聞くことがないですね(笑)。JCダートが終わってから、現在に至るまでにエピソードがあったら教えて下さい。

西:前回の負け方を考慮して、これから厩舎サイドで作戦を立てるところです。逃げで行くのか、ソラを使わないようにするためには2番手にスッと下げて競馬しないとダメなのか。ジョッキーと調教師としっかり打ち合わせして、僕ら馬を作る側のイメージと、競馬のイメージが一致できるように頑張って行きたいですね。


「負けは許されない馬ですけど、そういうこともやった上で、本当の完成が見えてくると思うので」


-:幸(英明)ジョッキーの考えはどうなんでしょう?

西:枠に左右されるところがあるみたいです。力がある馬なので、僕はあまり気にしないんですけど。外に出そうと思えば出せるだろうし、一回モマれてもいいから、わざと馬の後ろに入れて競馬してみてもいいんじゃないかな、とは思っています。

-:3歳時のレパードSのようなイメージでしょうか?今の完成度でそんな状況をどのようにクリアしてくれるか見てみたいですね。

西:負けは許されない馬ですけど、そういうこともやった上で、本当の完成が見えてくると思うので……。また、そういうレースをすると、馬が走りきってしまうと思うので、ダメージが残った時にどうするかですね。まだそういう経験をしていないのでね。

-:先のローテーションに影響するかもしれませんね。

西:そうなんですよね。最大目標はドバイや、まだタイトルを獲っていない中央G1だったりするので、この敗因を今後に繋げていきたいです。



今度こそ強いタルマエの競馬を

-:JCダートでは、ニホンピロアワーズが先行して外から併せてくるような場面がありましたが、タルマエは問題ありませんでしたか?

西:あれだけ来られても引っかかるようなことはないですね。落ち着いて走ってくれてます。ただ、あそこまで意識してガンガン来るなら、もう少し頑張ってくれれば良かったんですけど。

-:そういう意味では、3歳時から比べて精神面での成長は窺えましたか?

西:そうですね。ただ、馬があからさまに残り200mのハロン棒をゴールと間違っているような競馬だったのでね。あそこで抜け出して"ハイ終わり"って感じで。そりゃジョッキーも慌てますよね……。

-:前の2頭と比べて、どうのこうのという話ではありませんよね。

西:行き脚がついている馬は乗りやすいですし、走るのを止めている馬を動かそうとする方が難しいですから。


「走るのを止めたりする癖はこれまでも気をつけてやってきましたが、前走を踏まえてもうちょっと意識的に調整をしたいですね」


-:それがフォームの乱れにつながっているように見えますけど、それだけじゃなくて、タルマエが直線伸びていたら幸騎手もああいうフォームにはならなかったわけですね。結論としては、東京大賞典は今までのように強気に先行するだけではなく、若干後ろ目の位置から、馬群を抜けて差してくる展開も想定しているということで。

西:枠順にもよるんでしょうけど、その可能性はあります。

-:馬に乗っていての変化はありませんか?

西:走るのを止めたりする癖はこれまでも気をつけてやってきましたが、前走を踏まえてもうちょっと意識的に調整をしたいですね。本当は馬なりとかでサラッと動いてほしかったんですが、止めそうな気配を見せたので、とりあえず今週は気合を入れておきました。

-:「止めたらアカンで」調教ですか。

西:はい、やっておきました(笑)。



-:その効果が大井で生かされるといいですね。今週も馬場状態が悪い中の調教になってしまい、馬にとっては過酷な状況は続きますが、残り約10日、頑張ってもらいたいです。

西:目標が先々にあるので、ひとつひとつ、課題をクリアして行けるように頑張ります。

-:それでは、東京大賞典での巻き返しに向けて、ファンにメッセージをお願いします。

西:JCダートは残念な結果に終わってしまいすみませんでした。ただ、状態は悪くありません。今度こそ強いタルマエの競馬を見せられるよう頑張っていますので、応援よろしくお願いします。

-:昌一助手も、ファンの方々と同じ気持ちでタルマエを応援しているわけですね。今度はソラを使わない競馬を期待しています。

西:厩舎一丸で、気持ちをひとつに頑張ります。年の瀬で寒くなりますが(笑)、ぜひ生で応援しに来てください。

兵庫GT連覇を狙うティアップワイルド

-:続いて兵庫ゴールドトロフィーに出走予定のティアップワイルド(牡7、栗東・西浦厩舎)についてもお伺いします。昨年同様カペラSからのローテとなりますが、12着と残念な結果になりました。

西:得意の中山であの負け方だったので、ちょっと残念でしたね。

-:敗因はどういった部分でしょうか?

西:自分のリズムで走れていないことかなと思います。最近はグッと辛抱させてから動けるようになっていたのに、脚をタメられなかった。中山は得意なはずなんですけどね……。前々走の武蔵野Sのようなリズムで行けば走れたと思うんですけどね。確かに1600mは長かったけど、直線まで辛抱できていたのでね。

-:それを考えると、やはりカペラSの結果は物足りないですか?

西:そうですね。次は1400mになるので、いいポジションで運びやすい競馬場・距離でもあると思うので、期待しています。

-:中山よりもさらに小回りの園田で、脚をタメるにはもってこいですね。昨年は優勝しましたが、当時と比較して状態はどうですか?

西:状態は変わらずいいんです。



-:今週の追い切りはどのように行われましたか?

西:カペラSを使った後なので15-15程度で留めていますが、週末はしっかりやります。

-:馬体重の変動はありますか?

西:これだけの古馬なので、変わらず来ています。輸送した疲れもありませんよ。

-:今回は近場の関西圏での出走となります。前走よりちょっとプラスくらいでしょうか?

西:輸送減りしない馬なので、トレセンで量った数字と遜色ないくらいで出られるんじゃないでしょうか。

-:強敵になりそうな馬についてはどうお考えですか?

西:3歳馬も出てきますが、斤量負けするような馬でもないですからね。やっぱり自分のリズムだけだと思うんです。おそらく番手からの競馬になるだろうし、ソツなく進めていってほしいですね。

-:この馬の調子がいい時の、堂々とした競馬を期待しています。

●ジャパンCダート前・ホッコータルマエについてのインタビューはコチラ⇒


同年・帝王賞勝ち馬の東京大賞典での成績(過去10年)
馬名 人気・着順
13年 ホッコータルマエ
12年 ゴルトブリッツ 不出走
11年 スマートファルコン 1人気1着
10年 フリオーソ 2人気2着
09年 ヴァーミリアン 1人気2着
08年 フリオーソ 4人気5着
07年 ボンネビルレコード 不出走
06年 アジュディミツオー 1人気5着
05年 タイムパラドックス 1人気3着
04年 アドマイヤドン 不出走
03年 ネームヴァリュー 4人気9着
同コースで開催されることから有利と思われそうな帝王賞勝ち馬だが、同年で帝王賞→東京大賞典と大井2000mの舞台を連覇した馬は過去10年でスマートファルコン1頭のみ。果たして、ホッコータルマエは暮れの大舞台を制し、ダート王に再度名乗りを上げることはできるか?


【西浦 昌一】Syoichi Nishiura

昭和49年生まれ。西浦勝一調教師の3人兄弟の長男。当初はこの世界に入るつもりはなく、東京の大学に進学するつもりだったが「早く一人前になりたい」という思いから止まることに。当時はまだ西浦師の騎手時代で、父の思い出の馬を尋ねると「カツラギエースの時は小学校5年生くらいで、社宅の周りで自転車レースしていたんです。みんなおめでとうおめでとうって言って、何がおめでとうなんだろうなと。うちのオカンは騒いでるわで、凄いレース勝ったんだ位にしか思わなかった」と。

当初に所属したのは解散した星川厩舎で「当時ジョッキーだった本田さんと仲が良かったので、頼んだら入れてくれたという感じ。可愛がってもらえて、サンライズ系とか外車、サンデーなど走る馬ばっかりやらせてもらってました」。西浦厩舎は開業して1年後から15年間所属しており、現在は持ち乗り助手として活躍。毎日馬に接する時のモットーは「一緒に気持ちを分かってあげる、仲良くしているんだけど少しだけ優位に立っておきたい」。同世代に元騎手の飯田祐史技術調教師などがいる。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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