関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

小林真也調教助手

3歳時はG1のNHKマイルCを含め、毎日王冠まで5連勝。しかし、そこから大敗を含む5連敗と極度の不振に陥ってしまったカレンブラックヒル。本年緒戦は初距離となる1400mの阪急杯を選んだ陣営だが、様々な工夫を施して復活はあるのか……。聞けば、変われるだけの要素はこれでもか、と言うほどあるところ。復活に懸ける誓いを小林真也調教助手が聞かせてくれた。

4歳時の一年間は極度の不振

-:今回は乗り手が秋山騎手に戻るカレンブラックヒル(牡5、栗東・平田厩舎)について伺います。安田記念、マイルCSと二桁着順で、NHKマイルC覇者としては納得いかないというファンの方もいるかと思います。

小林真也調教助手:一昨年の天皇賞(秋)(5着)までは頑張ってくれていたんですけど、昨年は期待を裏切ってしまって……。少なくとも表面的には、どこが悪いというわけではないんですけど、馬自身どこか違和感があって走っていないんだろうなと思います。レース後の息の入りを見てもケロッとしていますから。フェブラリーSを使ったから精神的なダメージを受けたという見方もあるかもしれませんが、物言わない馬のことだから、決してそれだけではないだろうと思います。

-:思い出されるのは、フェブラリーSの1週前追い切りを見た時に、ものすごく動きが良かった印象があるのですが。

小:あの時は、動きが良かったというのはありますけど、気が先走っていましたね。牧場から帰ってきた時点で、かなり気負っていたというか、走り方も変わっていたので。

-:それは、具体的にどのような変化ですか?

小:元々、ガツンと引っかかる面はあったんですけど、それがすごく表に出てきていたというか。頭も高いし、上バミに当たるというか、走り方も小さくなっていましたし。筋肉が痛いとかじゃなくて、かなり力んでいましたね。ジョッキーが追い切りに乗る頃にはだいぶ落ち着いていましたけど、あの時は気負っていました。天皇賞(秋)でピークを迎えて、その時のテンションが抜け切らないままだったような気がします。

-:このクラスの馬になると、少々コンディションが良くなくても、ある程度の格好はつけるのがG1馬の底力だと思いますが、二桁まで負けてしまうと、やはりどこかに敗因を求めたくはなるものですよね。

小:そうですね……。

昨年のフェブラリーS1週前追い切りの様子


-:マイルCSの頃から間隔は開きましたが、調子は回復してきていますか?

小:あの時も、どこかはっきりした不安要素があったわけではなくて、少なくとも安田記念よりも良く感じたし、何度も獣医さんに診てもらって、「大丈夫」とお墨付きももらっていたんです。ただ、去年はずっと、ふとした時に何とも言えない違和感を覚える瞬間がありました。「気のせいかな」というレベルで、それがあったからこそ獣医さんにもちょくちょく診てもらっていたんですけど、触ってみておかしいところは無いし、歩様にも見せないので、レースに使っていました。

もしかしたら馬自身も何か違和感を覚えていて、それが自分で走るのを止めていた理由かもしれないです。今はどうなのかと言われると、不安に感じることはないですね。今のところ、牧場から帰ってきた初日から今日まで、一回もそういったところは見せていないので、このまま行ってくれたら、とは思います。


-:マイルCSでは、4コーナーでレースを止めていたというか、集中力が切れていた感じでしたが、あそこで体力的に一杯になる馬でもないので、あれは結構ショッキングな場面でしたよね。

小:マイラーズCのことを考えても、まるで違いますからね。岩田騎手も「全然走ってないし、止めてる」ということで、全く同じことを言っていて、最後はジョッキーも無理しませんでした。


「今年は仕切り直しですね。今のところ何も違和感もないし、このまま行ってくれたら走れる態勢には整うと思います」


-:気ムラな面があった父・ダイワメジャーの血が出ているんでしょうか。

小:僕らから見たダイワメジャーのイメージから考えると、父親ほど気難しくはないかな。ダイワメジャーはもっと凄まじかったと思います。ブラックヒルはどこも違和感なく良い状態で出せば、馬が素直に自分から走ってくれるというのが、デビュー当時から天皇賞(秋)までの持ち味で、その素直さが良いところだったと思うので、いかに違和感のない状態で出せるかがカギだと思います。

-:「早熟だったんじゃないか」という不安を持っている人もいると思いますが、その点はどうですか?

小:確かに、気の良い馬が若いうちに頑張りすぎて、古馬になって燃え尽きるということはあると思いますが、まだその判断は早いかなという状態ですね。

-:ダイワメジャーは浮き沈みの激しい部分がありましたけど、古馬になってからG1を勝つように浮上したじゃないですか。ブラックヒルの場合はアップダウンの"ダウン"が続いていて上がってきませんけど、もう1回弾けるような場面が来てほしいなと思います。

小:最初の年がものすごく良くて、昨年はまるでダメで……。今年は仕切り直しですね。今のところ何も違和感もないし、このまま行ってくれたら走れる態勢には整うと思います。

調教ではいい頃と同じくらいの状態

-:NHKマイルCの頃より体もだいぶ変わりましたね。デビュー時は太めだったので474キロありましたけど、NHKマイルCでキッチリ仕上げたときに460キロ。昨年のマイルCSで464キロですが、実際にはたくましくなりましたよね。

小:レースには470キロくらいで出ると思います。がっしりしています。

-:良い感じのパワーアップ感を残したまま、競馬場に向かったほうがいいのでしょうか。

小:今回は極端に太い状態で帰ってきたわけではないですし、調整自体は特に気を使うとかはなくて、現段階で482キロなんですけど、このまま普通にやっていけば、470キロくらいで競馬ですね。

-:昨日の追い切りについてですが、少し予定よりも遅い時間になりましたね。

小:7時15分くらいでした。今回から、キャンターで乗る前にダグを踏んでから行っているので、結構時間帯が遅くなってしまって。馬場ももちろん悪くなっているし、周りに馬もいない状態なので、馬もそんなにムキに走らないですし。それでも、前週に比べたらずいぶん動きも良かったし、順調に仕上がってきていると思うんですけどね。

一週前追い切りでのカレンブラックヒル


-:個人的には「(ブラックヒルが)来たのがすぐ分かった」ところが良かったと思います。状態が悪い馬だと分からないこともあるんです。G1馬でも、直前に来るまで見逃してしまったりも……。今回は、「あっ、来たな」という感じでしたね。

小:近くに馬がいたら、もっと気が入ってガンッと走ったでしょうし、もっと時計も詰まったかもしれません。

-:今のところ、坂路の時計よりも、レースへ向けたコンディションが主なテーマでしょうか。

小:時計に関しては何も考えていなかったというか、普通にスッと行って、叩いたり、ガシガシ追ったわけでもないですし、その週によって馬場状態も、他馬の状態も違いますからね。動きは良かったですよ。


「普段のキャンターでも、いい頃と同じようには走っているので、このまま行ければ競馬でも走ってくれると思うんですけどね」


-:これだけ走る馬を回復させるというのは、出口の見えない迷路に入ったような感じで大変なことだと思います。

小:前回大敗した後は、本当にそんな感じでした。でも、ここが踏ん張りどころだろうなとも思いましたね。例えば爪が悪いだとか、筋肉がどうだとか、表面的なことであれば、まだいいんですけど、そういう訳でもない。もしかしたら、もっと奥のほうかなとか、股関節かな、とそれはもう断定ができないので。ただ普段のキャンターでも、いい頃と同じようには走っているので、このまま行ければ競馬でも走ってくれると思うんですけどね。

-:今回のレースに臨むにあたって、馬具などに何か変化はありますか?

小:馬具はそのままですね。メンコは使うと思いますが、特に変更点はないです。

-:レースでもメンコは付けたままで?

小:今回は付けると思います。普段から結構気の入ったキャンターをしていますし、いい頃のピリッとした感もあります。基本的には大人しいし乗りやすいけど、ちょっとした時に信じられないような場所で走ろうとしたりするので、そういう面がある内はメンコをしておいた方が安全かなと思うので。

-:ストライドに関してはどうですか?

小:去年が特別悪かった訳ではないので表現の仕方が難しいですが、去年よりはスムーズに走れていると思います。フェブラリーSの時のような変な力みや気負いもなく、トモからハミまでズシッとくる手応えがあるので、今のところいい感じですね。

-:ハクサンムーンという、引っ張ってくれそうな馬も居ますので、すんなり流れに乗って、往年のパワーを発揮して、馬なりでまくってきてほしいですね。

小:位置取りはジョッキーが出たなりで判断すると思うし、特に作戦という作戦もないので、その辺は秋山さんにおまかせです。

カレンブラックヒルの小林真也調教助手インタビュー(後半)
「復活するための対策を試行錯誤中」はコチラ→

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【小林 真也】 Shinya Kobayashi

中学3年でテレビゲーム「ダービースタリオン」にハマったのをキッカケに、競馬に興味を持つ。早田牧場、天栄ホースパークでの勤務を経由し、トレセンへ。

大橋厩舎に所属した後、現在の平田厩舎で攻め専として勤務。一昨年のマーメイドSを勝ったブライティアパルスが思い出の一頭。「膝を骨折してから掛かるようになってしまって潜在能力の半分くらいしか出してやれなかった」と悔やむ。気難しく、普段からうるさかった同馬が輸送した時、夜明けとともに馬房から外に出してレースまで延々歩かせていたのを懐かしむ。

牧場時代から秋山騎手のフォームに憧れていた。「自分じゃあそこまでキレイに乗れないですけどね(笑)」調教後も事務作業を淡々とこなす頭脳系ホースマン。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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