関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

榎本優也調教助手

善戦マンのイメージを天皇賞(秋)で払拭したジャスタウェイ。競馬ラボではすっかりお馴染み、榎本優也調教助手の担当馬だけに喜びもひとしおだが、ドバイ遠征に向けて真の戦いは中山記念から始まる。これまでの好調とやんちゃぶりは「トレセンLIVE!」でも伝えられているが、当コーナーとしても近況は外せないところ。改めて、2014年始動戦への意気込みを聞かせていただいた。

※インタビューはレース1週前に行ったものです。福永祐一騎手が騎乗停止のため、乗り替わりとなりました。

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【中山記念】フォトパドック/ジャスタウェイ


最終追い切りレポートはコチラ⇒


天皇賞(秋)の勝因を振り返る

-:中山記念から始動するジャスタウェイ(牡5、栗東・須貝尚厩舎)について伺います。感動的な天皇賞(秋)制覇から休養に入り、ようやく今年緒戦となります。まずは帰厩してからの変化として、体がパワーアップしているように見えますが、見た目だけで言うと、20キロぐらいは大きくなったんじゃないでしょうか。榎本助手にはどのように映っていますか?

榎本優也調教助手:やっぱり、一番にはパワーアップしたところを感じますね。馬体重はドンピシャですね。今朝で514キロでした。天皇賞(秋)が496キロでしたからね。これは初めてなんですけど、太り過ぎないように飼い葉を加減しているぐらいなので、今までで一番良く食べてくれています。

-:馬体が大きくなっているので、中山記念の馬体重を発表した時に、多くのファンが驚くと思われるのですが、このぐらいだったら大丈夫だよ、という目安はありますか?

榎:雰囲気が(絶好調の)関屋記念の時(馬体重506キロ)に似ているんですよね。その時と比べると、多少、体がしっかりしてきているので、510キロぐらいあっても問題はないと思います。

-:表記的にプラス10キロであっても問題はないということですか。

榎:そうですね。全然問題はないと思います。


「天皇賞(秋)の時は、調子は落ちてきているような気はしていましたけど、体は動けるというところでカバーしてくれた感じはします」


-:勝利した天皇賞(秋)を振り返ってみると、台風の影響で金曜輸送になって、ジャスタウェイにとっては必ずしもプラスではない条件だったと思います。今だから言えることですが、パドックで見ていた時に、首筋の辺りに湿疹みたいなものが出ていて、ピークを過ぎているじゃないかという不安を覚えていたんですが、榎本助手的にはいかがでしたか?

榎:そこは僕もずっと気になっていましたし、体調が万全ではなかったのかもしれないなと思いながらやっていました。でも、毎日王冠の時はリフレッシュした感じで良かったですけど、休み明けという体の動き方で、もうちょっと物足りないかなというところがありました。逆に天皇賞(秋)の時は、調子は落ちてきているような気はしていましたけど、体は動けるというところでカバーしてくれた感じはします。

-:メンタルではなく、フィジカルでカバーした一戦だったと。

榎:そう思いますね。

-:結果的に勝ちましたけど、パドックで見た時には、レースがあと3時間遅かったら多分我慢できなかったんじゃないかなと思いました(笑)。あと、レース後のジャスタウェイにはかなり疲れが出ただろうなと。

榎:目一杯走った疲れもありましたし、(台風の影響で金曜日入りして)競馬場に2日も置かれたこともあります。ただ、テンションは高かったですけど、落ち着いた方だとは思います。1日目の方がピリッとしていましたし、1日置いてからの方が飼い葉も食べ出してくれていたので。レース当日の朝には、一頭でゆっくりと引き運動ができました。



-:いつもと違う状況で、2日間も競馬場に滞在してレースを迎える馬としては“今日はレースじゃないのか”という戸惑いはあるんでしょうか。

榎:どうでしょうね?せっかく、2日もあるので、僕としては“そうなってほしい」”という思いはありました。新馬じゃないので、パドックまで行けば流石に分かってくれるだろう、という思いはありましたし。いい具合に一回気持ちが緩んだんじゃないかなと思います。

-:そういう時に、緩み過ぎないところが、ここまで来る馬の凄さでしょうか。

榎:昔からそういうところはありましたけどね。落ち着いていても、どこかでピリッとしたところをいつも持っていると言いますか。

-:今振り返れば、毎日王冠の時に、個人的には馬券的に評価を下げた方が良いのかなと思っていたんです。ある種、際立った買い要素もないけど、消し要素もないので……(笑)。半信半疑で見るしかなかったのですが、それでも2着に来たところを評価していたら、天皇賞(秋)を勝つことも予想できたかもしれません。

榎:「勝ったから言えるんやろ」と言われてしまうかもしれませんが、毎日王冠は負けてしまいましたけど、久しぶりに良い競馬をしたなと。エプソムカップと関屋記念は誰が見ても不完全燃焼という競馬だったのでね。多少ペースが遅かったので、不格好なところもありましたけど、勝ち馬はG1馬(エイシンフラッシュ)ですし、これで良くなるだろうし、本当に力を付けているなという風に思いました。

-:それでも、流石に天皇賞(秋)の時の弾け方というのは、想像できなかったですよね(笑)。

榎:誰もが驚いたと思います(笑)。

-:しかも2000mでは今までそれほど成績が出ていなくって、溜めて競馬をせず、無理に先行させたりしてリズムを崩しているレースが多かったじゃないですか。その答えがちゃんと出たということも嬉しいところでしたね。

榎:やっぱり嬉しかったですね。

復帰緒戦に向けての動き

-:ジャスタウェイはG1馬になって"新生ジャスタウェイ"といいますか、これからはファンの見る目としても、ハードルがどんどん上がっていくと思います。今年緒戦の中山記念を迎えるにあたって、先週の動きが結構良かったので、今週の1週前はどんな動きをするのか楽しみにしていたんですけど、写真を撮っていた時は、そんなにビュンと来る感じは無いなと思ったのですが、乗っている榎本さんからするとどうでしたか。

榎:正直に言うと、期待していた分の9割くらいで、満点とはいかなかったですね。

-:馬場状況だとか、先週に良く走った部分もあったかもしれないですね。

榎:僕が物足りないと感じた理由はいろいろあるんですけど……、どれを挙げましょうか。併せ馬の相手が先週はシャドウバンガード(牡5、1600万)、今週はオツウ(牝4、500万)で、全然違ったというのも大きかったと思います。

というのも、シャドウバンガードは準オープンまで来た馬ですし、能力が無いわけではないのですが、坂路だといつも頑張って54秒前後の馬なので、どう頑張ってもジャスタウェイは楽にやれる相手だったんですよね。今週併せたオツウは、皆さんも知っているかも知れませんが、本当によく動く馬で、追いかける形でやったので、向こうの方がやっぱり最後の手応えは楽だったんじゃないかと思います。全体の時計が指示より少し遅かったのもあるんですけどね。


-:その分、オツウからすると、やっぱりゴール前の伸びというのは余力を残してあった感じで。

榎:向こうが楽になった感じですね。先週は「ある程度感触を確かめながら」という指示だったので、終い重点で追い切りました。来週もやりますが、今週はしっかり目にということで、動く馬と併せました。

2/19(水) 坂路で4F53.4-38.4-24.8-12.5秒(一杯)をマーク
オツウ(馬なり)を0.5秒追走し、0.1秒先着したジャスタウェイ(右)


-:物足りなかったというのは、必ずしもデキが落ちているわけではなくて、併せた相手も違うし、着実に良くはなっているという事ですね。

榎:ちょっと見映えはもう一つでしたが、馬は間違いなく良くなっています。

-:オツウと併せて見映えが良かったら、猛時計が出ていますもんね。

榎:でも、それもできなくは無さそうかなと思っていた部分もあったので(笑)。まあ体も余裕がありますし、こんなものかなという。

-:ジャスタウェイの元々のスタイルを考えていくと、中距離型にもできるし、マイラー仕様にもできそうな、幅のある馬に見えました。あまり筋肉量が多くなっていくと、よりマイラー色が強くなっていく懸念もありますが、乗っていて軽さという面ではキープできていますか?

榎:乗りやすくなったような気もしますね。普段の調教なのでそうじゃないと困るんですけど、だいぶ力まずに走るようになってくれています。今回帰ってきた後は、今までで一番乗りやすいんじゃないかと思いますね。


「強く追い切っても、体も全然減らないですからね。2歳の頃から思うと、考えられないくらい逞しくなっていると思います」


-:去年の春くらいには「乗りにくい」って言ってたのに(笑)。

榎:ちょっと当時はいろいろと噛み合っていなかったんですかね。うち(須貝尚介厩舎)は普段の攻め馬も結構いい時計で走らせるのですが、それでも全然足りてないくらい、今回は本当に元気が良くて。行きに元気がいい馬はいくらか居るんですが、体をほぐして、坂路を上がってから帰ってきても、まだまだ元気がいいんですよね。もう少し精神的に大人になっているかな、というのも期待していたんですが、逆に僕が遊ばれていて、馬に凄く余裕ができたんだろうな、とは感じますね。

-:体力的にも持て余している感じで。

榎:だと思いますよ。強く追い切っても、体も全然減らないですからね。2歳の頃から思うと、考えられないくらい逞しくなっていると思います。

-:ここからはまずドバイが目標になります。ドバイの叩き台と言ったら語弊がありますが、中山記念に目一杯に仕上げてからドバイに持って行って、再調整ということも無いと思うので、ここは8割位の仕上がりになるでしょうか?

榎:それは人の感覚ですよね(笑)。あの子はああいう気性なので、僕は「これくらいで丁度いいだろうな」という感覚で仕上げています。

ジャスタウェイ榎本優也調教助手インタビュー(後半)
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【榎本 優也】Yuya Enomoto

競馬ラボでは『トレセンLIVE!』のコーナーでコラムを担当。
大の競馬ファンである父親の影響で、幼い頃から阪神、京都競馬場へ足を運ぶと、武豊騎手に憧れてジョッキーを志すように。視力が足りず受験資格をクリア出来ず、断念せざるをえなくなったが、競馬関係の仕事に就きたいという思いに変わりは無く、牧場勤務を経て、25歳の時にJRA厩務員課程へ入学し無事卒業。
しばらくの待機期間を過ごし、09年5月に須貝尚介厩舎で待望の厩務員生活をスタート。 7月には持ち乗り助手となり、それ以来、2頭の競走馬を担当している。

調教助手としては、アスカクリチャン、アスカトップレディ、クリーンエコロジー、コレクターアイテムなどを手掛け、2012年上半期には担当するジャスタウェイがアーリントンC(G3)を制して人馬ともに重賞初制覇。NHKマイル、日本ダービーとG1の舞台を経験した。

現在は厩舎の屋台骨を支える傍ら、趣味である一眼レフカメラで厩舎の愛馬たちを撮影。関西のトップステーブルに登り詰めた須貝尚介厩舎のスポークスマン的な役割を果たしている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。


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