関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

荻野琢真騎手

前哨戦の阪神大賞典では2番手からの抜け出しで新境地を開拓したゴールドシップ。かねてから同馬の出走時には様々な角度からスポットを当てている競馬ラボだが、今回は中間の調教に跨っている荻野琢真騎手をキャッチ。当人が分かる範囲での前走時との比較、並の馬との決定的な違いなど、騎手ならではの目線でG1・4勝馬の凄みを語ってもらった。

1週前で前走時の当週に近い状態

-:ゴールドシップ(牡5、栗東・須貝尚厩舎)の1週前追い切りに乗られた荻野琢真ジョッキーです。よろしくお願い致します。

荻野琢真騎手:今回、馬場(CW)で乗せてもらったのは初めてだったんですけど、ゴール板過ぎた後にすぐに先輩のところに寄っていって……。「ヤバイです。気持ち良いです」と言ったぐらいですから、よっぽどです。やっぱり重心の低い走りで、安定感がありますね。すごく安定していて、今日はちょっと馬場状態で負荷が掛かっていたんですけど、向正面でも全然スーッと行く感じで。

-:乗り心地を例えると、どんな感じですか?

荻:道中の3~4コーナーを回ってくる時もめっちゃスムーズなんですよ。だから、すごくパワフルでバーッと行ってるかというと、そんな感じじゃないんです。自然な感じでハミをガッチリと噛んで行ってるんじゃなく、すごいところで受けて溜まっている感じなんですよ。だから、我慢をしていても、しんどくなくてキツくないんですよ。引っ張りきれない手応えじゃなくて、溜まっていて前を見ながらジッとできる。馬がゴーサインを待っている感じなんですよね。(6ハロン)76秒で持ったまま来れるんですから、やっぱり能力が抜けているんでしょうね。

-:しかも、終いが12.8ですからね?

荻:終いは最後までシッカリとやったので。全体的にシッカリとやったので、足りないことはないと思います。



-:シッカリとやって加速し出した時の反応は、どんな感じでしたか?

荻:本当にジッと乗っていて手前をポンと替えて、残り2ハロンぐらいで良いかなと思ったけど、(併せたアスカクリチャンにも)頑張って引っ張ってもらっていたんですけど、そこをそのままスパッと抜いていく感じで、ウォーという感じですよ。沈みましたね、グッと。

-:レースであの馬に乗っているのは、若干他の馬からしたら反則気味な感じですか?

荻:今日はクリチャンと併せ馬でしたけど、あれだけ実績のある馬なのに、“クリチャンがかわいそうちゃう?”と思いながら。あんまりにも余裕過ぎて、ジックリと乗りました。

-:今日走ったゴールドシップのコースとしては馬場の5か6分目ぐらいでしたでしょうか。

荻:4コーナーぐらいはめっちゃキレイでしたね。本当にコーナーも上手に回ってきましたし、ゴーサインを出したらご覧のとおりで。「前回の最終追い切りと比べて、どうですか?」と、よく聞かれますけど、やった場所も坂路と馬場ですから比較対象にはならないですね。1週前でこれだけ動けるんだったら、問題ありません。現段階で来週もうちょっとシッカリとやらんな、タルいなというのは全然ないです。

-:今週がレースでも十分に行けそうな。

荻:十分に行けそうな感じです。前回乗った時は本当に“スゲー!完全に仕上がっているな”という感じでしたけど、同じような感じではあるので。



桜花賞前レッドリヴェールにも騎乗

-:荻野ジョッキーと言えば、桜花賞前にレッドリヴェールの追い切りにも乗られました。その時はゴールドシップに乗った時ほどの感触ではなかったと?

荻:でも、ゴールドシップに比べても、あの馬は瞬発力がすごいですよ。スパンと動きますね。ゴールドシップは排気量の違いでブーンと、沈み出してからグァーンと行きますけど、リヴェールは動こうかな、と思ったら、もう馬がポーンと行ってるんですよ。2頭に共通するのは乗りやすいですね。ハミを噛んでグッと来てても、頑張って引っ張って、抑えて抑えてバンじゃなくて、ジョッキーが上でジッとできるんですよ。良いところで馬が溜まって走っていて、こっちがゴーサインを出せばスッと動けるから。やっぱり力んでワンペースで走っているんじゃなくて、余計な力を使って走らないですから。

-:それは、種牡馬としては共通していることですけど、ステイゴールド産駒が全部そうできる訳じゃないですよね。

荻:全然、そんなことはないですよ。僕が乗っていたステイ産駒でも1頭いましたけど、ひたすらノメって、トモが重くて引っ張りおこしてでも何とか、という馬もいますし、それはセンスなんでしょうね。

-:2頭の抜けたセンスの馬がこの厩舎にいると?

荻:そういうことでしょうね。引っ掛からなくて、前進気勢がないのと違いますよ。馬が前進気勢を出しているのを、こっちが持って我慢させられるんですよ。多分、走る馬というのは、人間の反応を待っているんですよ。



今季は馬が走ることに集中

-:長距離戦を控えたゴールドシップにとっても、文句なしの1週前追い切りでしたね。ちなみに乗っていた感覚では、時計はどれぐらいだと思って乗っていましたか?

荻:(CWの6F)80秒は余裕で切っているなと思いましたよ。だって、僕も76秒で走って来たことはないですもん、CWで。ハハハ(笑)。普通だったら、これじゃ止まるやろうなという感じですけど、全然止まる気配すらなかったです。

-:はたからみれば、時計だけを見たらやり過ぎではと思ってしまいます。

荻:いや、やり過ぎではなくて、それぐらい動く馬なので。だから例えば同じ15-15でも、ゴールドシップからしたら15-15で上がってきてもほとんど負荷が掛からないですよ。同じ時計でも目一杯負荷を掛けたらあの時計になりました、というだけで、別に時計が速くてというのは、多分問題ないと思いますけどね。他の馬なんて、目一杯やっても76なんて出ないですもん。

-:76秒を出せたとしても、終いが12秒台ではないでしょうからね。

荻:13秒後半とかになっちゃうでしょ。そう考えると、シッカリと負荷が掛けられたということだと思うんですよね。多分、やり過ぎというのは、あの馬にはあんまりないんじゃないかと。テンからグンと引っ掛かって、それを無理やり抑えて、引っ掛かってバーンとかいうのだったら。引っ張って力んでいるので、多分馬の筋肉も硬くなるでしょうし、全然そういうのではないんで。ナチュラルな感じでスゥーと併せていって、先輩が横ですごく頑張ってもらっているのを、横でジッと大変そうだなと思って見ながら(笑)。



-:荻野騎手にとっても財産になる追い切りでしたか?

荻:本当に良い経験をさせてもらっていますよ、ゴールドシップに乗れて。僕、ジャスタウェイにも2~3回乗ったことがあるじゃないですか。追い切りの感触で、そんなにズバ抜けてはいないんです……。ただ、確かにあの馬は上手に走ります。すごくバネがありますけども、引っ掛かるようなところもないですし、ジッとできるからキャンターは好きですけど。

-:それでは、ゴールドシップの状態を改めてまとめていただけますか。

荻:最近は馬が走ることに集中してきたと思いますし、乗っていてすごく走る気を見せてくれてるので、本当に苦しがって余計なことをしなくなったんでね。前に先輩が乗った時はヤバかったですもんね、ずっと立ち上がったりして。


「乗っていて、本当に変な意味で怖さというか、何かやりそうという雰囲気が今はそんなにないです。今は走っている方に集中しているような感じがしますし、前回も思った以上に良い競馬で勝ってくれましたしね」


-:この間の阪神大賞典の馬場入りの時は、そんな暴れなかったじゃないですか。そういう所も改善されつつあると?

荻:そうだと思います。乗っていて、本当に変な意味で怖さというか、何かやりそうという雰囲気が今はそんなにないです。今は走っている方に集中しているような感じがしますし、前回も思った以上に良い競馬で勝ってくれましたしね。

-:しかも、後方から走るイメージがあるゴールドシップが良いポジションを取って終いも突き離すという本命馬の形になりつつありますね?

荻:僕も追い切りに乗った時は、もっとスッと動けるだろうなと思ったんですよね。本当にスッと動いてくれたので。追い切りも競馬と繋がるんだなと思いました。僕はレースに乗ってどんな感じだったのか分からないですけど、(バンデの松田)大作さんなんかも「一瞬で抜かれたわ」と言っていましたからね。当時と変わらない雰囲気できていますので、本番でどんなレースをしてくれるのか楽しみですね。

-:ありがとうございました。


【荻野 琢真】 Takuma Ogino

1988年 滋賀県出身。
2007年 栗東・大久保龍志厩舎所属でデビュー。
初騎乗
2007年3月3日 1回中京1日目1R ブライティアアーチ
初勝利
2007年3月10日 1回中京3日目3R コアレスリーヴァ


■重賞勝利
・2009年 日経新春杯(テイエムプリキュア号)


競馬学校23期生として入学。同期には浜中俊、藤岡康太、丸田恭介らがいる。2009年の日経新春杯では、引退レースとして出走したテイエムプリキュアを勝利に導き重賞初制覇。後に引退が撤回され、同馬とのコンビでG1騎乗も経験。「テイエムプリキュアには多くの事を教えてもらった」と、引退後に振り返っている。
近年では須貝尚介厩舎の調教を精力的に手伝っており、ゴールドシップやレッドリヴェールに騎乗。また、アスカクリチャンの香港遠征にも帯同するなど、S.R.Sの躍進を支える一人と言っても過言ではない。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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