本番は若干のマイナス体重が理想

-:体つきですが、太目に見えやすい馬です。短距離馬で、ちょっとコロンとしています。ファンは馬体重も気にしていると思うのですが、セントウルSのプラス12というのは、この馬にとって太くはないですか?

西:見てもらうと分かる通り、典型的な夏馬で、帰ってきた時に20キロ以上太かったので、春先は体を戻すのが大変だったのですが、実際には数字以上に体ができていました。今度も多少減るぐらいで、プラス12の前はマイナス6だったので、そんなに太くもなかったです。今度も少し減るような体重で出てくると思います。

-:見た目に丸みを残した状態の方が良いということですね。

西:そうですね。中2週しかないですし、トライアルからのG1にしては間隔が短いので、直前の一本(追い切り)だけになると思います。

-:今朝に馬を見させて頂きましたが、レースで激走した疲れがないですよね。

西:全くないですし、いつもは使われるたびにガンガン回るんだけど、穏やかですよね。年齢的なものもあるかもしれませんが、穏やかだから走らないということはないですし、古馬の風格が出てきたのかなと思います。若い時はもっとピンピンしていて、どこ行くんやお前、という感じでしたが、今はだいぶ大人しくなりました。馬は1年でだいぶ違いますね。

-:それだけ心肺機能も強いからこそ、疲労回復がレース後にもできるということでしょうね。

西:若い頃に比べると戻りも早いですね。

ハクサンムーン

-:ということは、期待して良いのではないですか?

西:期待して良いですね。ただ、今の新潟だけに、中山みたいに勝つとは言いきれないから、80%ですね。どうせ1番人気にはなると思いますし、期待に応えられるようにしっかり仕上げては行きますが、それは競馬のアヤということもありますから。

-:この馬は新潟ではアイビスSDで使ってはいるのですが、その時の輸送はいかがでしたか?

西:馬運車ではどうってことなくて、着いてから、日が明るいうちは回るから、可哀想だけど、担当はペットボトルとおにぎりを差し込んで、一日中馬に付きっ切りでした。

-:旋回癖が出ないようにですね。

西:この間の阪神でもそうでした。

-:付きっ切りなんですね。

西:それだけの馬ですからね。これだけの馬にこれから出会えることはないかもしれません。安田隆行厩舎に全弟が入るけど、どうなのでしょうね。すぐ下、吉村厩舎の全弟は全く走りませんでした。良く似ていたのですけどね。去年の外国人馬主が買った父ヴィクトワールピサはちょっと馬のタイプが違いますからね。良く似ているのは安田厩舎の馬ですが、あれがどれくらい走るかなと、楽しみにしています。

-:先生でもこの馬の兄弟に注目されているのですね。

西:見ているし、ご縁があればやってみたいな、というのはあります。実際は安田厩舎に入るので、見るしかないです。

3、4Fだったら世界で一番速い馬

-:ハクサンムーンの精神的な面で、成長して古馬の風格が出てきたという話があったのですが、歩いている時もクビを下げて、全く周りを警戒しないです。短距離馬はもっとクビを高く上げて、周りを気にして、何かがあったらすぐに反応できるような態勢をとっています。

西:調教ではするのですが、人を信頼していて、もともと人好きなんです。近くに行ったら、必ず寄ってきます。馬は嫌いなんだけど、人は好きなんです(笑)。だから、人が曳いていれば、安心して回っているし、担当の後ろに頭を付けて、テクテクと歩いています。ひとたび馬場に入ったら暴れ出しますけどね。洗い場でも大人しいんです。脚冷やすのも、ジーっとして動かないです。上手くバランスが取れています。

-:極端にオンとオフがあるのですね。

西:オンの場合が凄いですが、オフは他の馬以上にオフになります。オンになった時の反動をそこでうまく調整していると思います。

-:乗れない僕らは、馬体や雰囲気で判断しないといけません。それに関しては若干、分かり辛い馬ですよね。新聞だけ見たら強い馬だと分かりますが、裸馬で歩いていたら分かりません。

西:普通の人じゃ分からないですね。

-:見た目には分からない天性のものが、筋肉とか色々な部分であるのでしょうね。

西:体が柔らかいです。あんまり回るものだから、どれだけ回るのかと、寝ワラ棒を馬房に突っ込んだんです。どうするのかなと思ったら、当たるのが嫌で、少しの幅の中で回り出しました。背骨が折れるから止めとけって、体がくの字型になるくらい回るんです。こんなに体の柔らかい馬は初めて見るっていうくらいです。


「1Fの競馬があったら世界一だと思います。2Fとって、1F目行った後の勝負をさせたら世界に通じると思います。9秒台でいきますもん」


-:短距離馬は使うたびに硬くなるイメージがありますが、そういうのもないのですね。

西:ないですし、典型的な短距離馬の体でもないですよね。そんなに胴が詰まっているわけでもないし、身体能力だけで走っているのだろうなと思います。

-:気性的に、マイルに行ったら厳しくなりますよね。

西:厳しいと思います。使っては見ますが、阪神Cもキツイと思います。1Fの競馬があったら世界一だと思います。2Fとって、1F目行った後の勝負をさせたら世界に通じると思います。9秒台でいきますもん。

-:車でいったらゼロヨンみたいな戦いですよね。

西:ゼロヨンだったら凄いと思います。どんな馬でも掛かってこいという感じです。3、4Fだったら世界で一番速いと思います。

ハクサンムーン

-:先生も若干の不安がある、新潟で行われるスプリンターズSですが、おそらく1番人気に推されるので、ファンも注目していると思います。先生からのメッセージをお願いします。

西:中山だったら絶対に勝ちます。「100%勝ちます」と言いますが、新潟に替わったことで、「たぶん勝つと思います」と。80%くらいは勝てると思いますが、残りの20%は色々なアヤがつくし、その辺は何とも言えません。ただ、勝つ競馬というものを知っているジョッキーなので、一回乗ったことで把握していると思います。彼に全編を任せて、託すだけです。

-:あとは普段通りですか?

西:普段通りです。プラス思考で戸崎が乗っているから、新潟に替わっても、ということです。

-:今年のスプリンターズSはちょっと異色ですが、頑張って下さい。

西:G1馬にしてあげられるように頑張ります。

(取材・写真=高橋章夫)