屈腱炎からの再起! 超良血馬が遂にG1の舞台へ ヴァンセンヌ
2015/5/31(日)
G1を勝って種牡馬にしたい血統
-:お母さんの血がここで開花して、G1馬はG1馬からということになりそうですね。
井:それも含めて、個人的なことを言わせてもらいますと、種馬にはなってほしいですよね。フラワーパークの子でディープインパクトということでね。母の男馬はこの馬が最後なのですよ。重賞を勝ったのもコイツしかいないので。
-:クリアンサスもこちらの厩舎でしたね。
井:あの子は女馬でしたし、それを考えると、やっぱり気持ち的には種馬になってほしいと思うので、安田記念は勝ちたいですね。
-:単純にローテーション的に厳しくなると思うファンがいると思いますが、今の体を見ていると充実しているし、意外に疲れよりこの勢いに乗ってしまえ!という方が、僕らにとって得なのかもしれないですね。
井:やっぱり普通に3カ月休んで、トライアルに使って安田記念というのは、特に何の問題もないローテーションかなと思いますし、東京新聞杯を勝つまでは安田記念なんていうことは出てこなかったので。そこを勝たないと賞金が足りないじゃないですか。それだけに、東京新聞杯までは出たとこ勝負っぽい印象でした。東京新聞杯の後にどこの前哨戦を使いましょうか、という話になって、マイラーズCかダービー卿CT、京王杯SCという話になった時に、マイラーズCは屈腱炎を治した馬だから硬い馬場は避けたかったので、ずっと京都を嫌がっていたのですよね。僕は休み明けで安田記念を使うのが嫌だったので、「京王杯SCで行きたいです」ということは伝えたのです。
「馬の性格によって、すぐに無理して走る子とかもいますからね。性格上、走り過ぎちゃって反動が出るタイプではなかったので、このローテーションが一番良いかなと」
-:その時に、中2週というのはこの馬にはデメリットにはならないと判断されたのですね。
井:ああいう性格なので多分大丈夫だろうなと。東京新聞杯を使った後にケロッとして帰ってきたんですよ。無理さえさせなければ、輸送して帰ってきただけでポシャる馬じゃないんだろうな、ということ、それに無理して走っていないと思ったんです。馬の性格によって、すぐに無理して走る子とかもいますからね。性格上、走り過ぎちゃって反動が出るタイプではなかったので、このローテーションが一番良いかなと。
-:3歳の未勝利でデビューして、京都新聞杯と鳳来寺山特別で12着に負けていたのが、今では信じられないような成績ですものね。
井:京都新聞杯はガッツリ引っ掛かりましたもんね。もともとそういうところがあったのですよ。それが、前走で初めてまともに折り合ったんじゃないですかね。
-:見た目に、パワータイプの人を乗せたくなる体じゃないですか。しかし、求めているものは結構ソフトな……。
井:ソフトなタッチなのですよね。あの馬が行き出した時にどれだけ引っ張ったって、勝てないので、結局(ハミを)抜くしかないんですよね。
大得意の道悪なら可能性は急上昇
-:これから梅雨に入ってきて、安田記念で天気が悪くなったとしても、ドンと来いですね。
井:そこは、全然問題ないですね。東京新聞杯の時に内枠を引いたじゃないですか。その時にゲート裏で福永さんに「どうですか?」と聞いたら「内が悪いわ」と言っていたのですね。「ただ、この馬は多分、大丈夫やから内突くね」と言って出て、インでずっと我慢して勝ったので、余程悪い馬場は大丈夫みたいなんですね。
-:日本の競走馬もそうですし、ディープインパクト産駒も雨が苦手な馬が多いのに珍しいタイプです。
井:珍しいですね。僕の中では馬力が違うと思いますね。コイツ1馬力超えているやろと思う時があるので。1馬力の基準が分からないですが(笑)、普通の馬の平均よりもアイツは力があるので、そういうところかなと思うんですけどね。あとは、時計がどれだけ速くなるかという、心配材料はそこだけですね。
-:後半の開催ですしね。
井:今週末、東京は雨予報みたいですしね。それを考えると、この馬に合う馬場になってくれんじゃないかなと思っているのです。
-:母父のニホンピロウイナーというのも、色々な種類の活躍馬を出していますからね。旧・山本厩舎のメガスターダムに幹夫先生が乗っていましたね。ファンの人がパドックで観たら、惚れ惚れするのじゃないでしょうか?
井:ええ、良い歩きをしていると思いますよ。毎回、毎回引っ張る時は、一番良く見えているだろうなと思って、一人で引っ張っていますけどね。
-:では、いつかベストターンドアウト賞を狙って下さい。
井:獲れたら良いですね。ありがとうございます。
(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦、山中博喜)
ヴァンセンヌ・井上智史調教助手インタビュー(前半)はコチラ⇒
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プロフィール
【井上 智史】 Satoshi Inoue
中学生の頃、競馬ゲームに熱中しテレビでナリタブライアンを見て競馬界を目指す。馬乗りになる為に高校2年から乗馬を始め、大学進学後にオーストラリアの競馬専門学校に留学し、そこからシンガポールで調教助手として2年間働いた。
結果的に大学は中退し、帰国後は育成牧場で2年務め、24才で競馬学校に入学。2007年3月に開業したばかりの松永幹夫厩舎に7月から所属しセレスハントを担当してきた。「競走馬でいる間は出来るだけ馬の気持ちを考え、馬がハッピーでいられるように考えています」とモットーを語る。
現在の担当馬はヴァンセンヌ、ティルナノーグ。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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