高松宮記念を制したファインニードルが、ライバルの3連覇を止めて最優秀スプリンターの座を奪う。2年連続でセントウルS1着からのローテーションだが、昨年は年明けから8戦目で12着。今年は狙ったレースだけを使って4戦3勝と中身が違う。デビュー前からスプリンターとしての高い素質を感じていたという鵜木陸宣助手に、強さの秘密と春秋スプリントG1制覇への手応えを聞いた。

「半信半疑」「6割」でセントウルS完勝

-:スプリンターズS(G1)に挑むファインニードル(牡5、栗東・高橋忠厩舎)についてお聞かせください。休み明けのセントウルSは完勝という内容でしたね。

鵜木陸宣調教助手:よろしくお願いします。海外帰りだったせいか、そんなに調子が良いとは思っていなかったのは本音ですけどね。追い切りはそれなりに動いていましたけど、元気がない訳じゃないけど、雰囲気がピリッとしないのかなと。半信半疑の中で勝ってくれたらそれは嬉しいし、たとえ負けたとしてもこれを使ってみてどうなのかなという思いではあったので、ステップレースとしては良いかな、という思いでした。

-:当日の阪神競馬場は開幕週とは言え、若干雨の影響があって、スピード以外にパワーも要る馬場だったと思うのですが、3~4コーナーまでは安心して観られるレースだったんじゃないですか。

鵜木陸宣調教助手

▲攻め専として高橋義忠厩舎を支える鵜木助手

鵜:そうですね。川田君(騎手)と何回も話したことがあるんですけど「位置取りというより、リズムで走る馬。もう26戦もしていて、競馬慣れしているというか、ポジションが2番手、3番手というよりも、自分のペースで走っている」感じらしいんですよね。それで「ペースがあまり速くなければ、2~3番手に行っているだろうし、飛ばす馬が何頭もいて、ペースが速くなれば5~6番手になる」みたいに言っていたんですけどね。

結局去年は2~3番手でしたけど、今年は行く馬もいたので、5~6番手くらいにいましたが「馬のリズムで乗っていれば、特にポジションは関係ない」と言っていたので。雨が降ったこともあったのですが、けっこう前が飛ばしていたので、良馬場だったら、ハイペースでも残ってしまうことがあるのかなと思っていたのですが、そうならずに差し切った感じでした。でも、今朝の追い切りの時も川田君(騎手)が「良馬場でも差し切っていた」と言っていましたね。

-:鵜木さんの心配していた「ピリッとしていない」というところは、周りの評価はどうでしたか?

鵜:多分、みんなそうだったと思います。乗り役の川田君(騎手)が当週の追い切りに乗った時も、高松宮記念が100としたら、「6~7割でも6割寄りだ」と言っていたので、「どれだけ辛口なのか(笑)」と思っていたんですけどね。

-:でも、それであの内容だったら、今回のスプリンターズSは楽しみしかないですね。

鵜:ケガでもしない限り、これよりも下がることはないのかなとは思いますけどね。

鵜木陸宣調教助手

-:体重の話をさせてもらうと、この馬は一時、去年のシルクロードSで488キロ、その後の高松宮記念で480キロあったのですが、香港では466キロ。今回は若干プラスに乗せられて、470ジャストという数字でしたね。

鵜:こちらにいる時は480キロ以上ありますよ。でも、競馬に行ったら、大体10キロくらい減るので。阪神でも京都でも、どこに行っても減るんですよね。中山だと、セントウルSよりちょっと減るかもしれないですけどね。でも、460キロ台でも走っているので、体重の幅は広いんですけどね。

-:体重が多ければ好調、不調、そういうことではないのですね。

鵜:シルクロードSの時は明らかに太いと思っていましたけど、走れていたので。結論、体重はあまり気にしないんですけどね。見た目で、太いかな、細いかなという感じで、筋肉の付くところも明らかに違いますしね。

-:体重が同じでも、体型は変わりますからね。

鵜:そうですね。他の馬もそうだと思いますけどね。

「ターゲットを絞って使いたいところに使える」

-:今日(9/20)の追い切りは雨が降っている後半の時間帯の坂路で、やや時計が掛かる馬場だったと思うのですが、動きはいかがでしたか?

鵜:中2週で使うので、あまりやらない予定で行って、55~6(秒)で良いかなと思っていたのですが、55弱くらいでした。最後もあまり気合いを乗せないで、そのまま流してきた感じで、それでちょうど良いかなという思いはありますけど。

-:去年と同じローテーションですね。

鵜:去年と同じローテーションですけど、今年と出走回数がまるで違いますからね。去年は北九州記念の時がピークに近いと思っていて、仕上げていったつもりが、不利があって5着に負けてしまいました。ダメージもそんなにない感じだったので、セントウルSに使ったのですが、セントウルSで勝ち負けしないと、次にどこを使えるか分からない状況でした。

ただのオープン馬だったら、賞金が足りなくて除外になることも多々あるので、セントウルSを全力で勝ちに行くという気持ちで出て、勝てたのですが、さすがにもうお釣りがない状態でした。(出走)権利もありましたし、スプリンターズSも使わせてもらったんですけどね。やっぱりその時は疲れもあったかもしれないですけど、格がなかったというか、実力が伴っていなかった感じがしますね。

鵜木陸宣調教助手

▲1週前追い切りにも川田将雅騎手が騎乗

-:そういう面では、今年のシルクロードSから高松宮記念でG1初勝利しているのですが、格がようやく追い付いてきたということですね。

鵜:そうですね。格が付いてきたのと、やっぱり賞金も加算出来ていたので、使いたいところを使えるようになって、ターゲットを決めやすくなりましたよね。昨夏の条件馬時代はどこを使えるか分からない状況で、準オープンでも除外を食いそうな時もあったし、オープンなんて特に賞金がないとどうにもならないので。

-:そういう面では常にフレッシュな状態で、レースに挑めるようになったのが今年のファインニードルですね。

鵜:そうですね。さっきも言いましたけど、やっぱり使いたいところに使えるという、ターゲットを絞っていけるというのが今年の強みかなと思いますけどね。

1200mで素質開花「1400mでは抑えきれない」

-:先ほども26戦しているということでしたけど、若い時に比べての体型的な変化、それと、精神的な成長というのはいかがですか?

鵜:アドマイヤムーン産駒はけっこう多くて、ウチには4~5頭入ってきているのですが、大体怖がりな気性の馬が多い感じがしていました。

この馬自体も、2歳で入ってきた直後はけっこう臆病な面が多くて、やっぱり怖がり方も普通の馬よりも派手でしたね。動きもけっこう速かったので、ちょっと苦労した時もありましたけど、段々と乗り込んでいく内に時計も出てきましたし、乗りやすくもなってきました。

けっこう完成度が高くなってきたな、と思っている時にデビュー戦を迎えて、その時は1200mの馬かもしれないと思いながら、デビュー戦からしばらくは1400mを使っていたんですよ。1400~1600mは持ってくれないかと思いつつ使っていて、3回目の1400mで勝ってくれましたが、やっぱりクラスが上がっていくと、けっこう1400mでは抑えきれない感じが出てきましたね。そこで、1200mにしたら、やっぱり実力を出してきた感じはありましたね。

鵜木陸宣調教助手

-:1200mを走る馬というのは、やっぱり競走馬として極限のスピードを求められる距離だと思うので、使った後のダメージがありそうなのですが、この馬は順調に使えていますね。

鵜:そうですね。1回500万を勝った時に、ぶつけて蹄の蹄冠がボロッと剥がれかけていて、それで4~5カ月くらい休んだんですよね。それが一番長い休みだと思いますね。

-:それは自分でぶつけたのですか。

鵜:自分で引っ掛けたと思うんですけどね。それでもけっこうちぎって勝ったんですよね。強いなと思って帰ってきたら、蹄がないわと思ってビックリして……。これは相当時間が掛かるのかなと思っていたのですが、思っていたよりは意外と早く治って、4~5カ月くらいでしたね。

-:脚が丈夫なんですね。

鵜:丈夫なんですかねぇ。再生能力があるというのか、治るのが早いんですかねぇ。

-:それ以外は、長期の離脱がないじゃないですか。

鵜:それ以外は体が痛くて、傷んでというのはないですね。

「厩舎に来て最初に乗った時に、この馬は当たりやなと思ったんですよ。なかなかそう思ったことはないんですけどね。とにかく柔らかかったんですよね。それでも、当時の印象からしたら、まさかG1を勝つとは思っていなかったので」


-:デビュー時から体重は10キロくらい増えているだけで、そんなに大幅には。

鵜:そうですね。464キロくらいでデビューしたと思うのですが、それから488まで行って、それからまた470前後くらいになっているのかなという感じがしますね。

-:使い出しの時はギリギリまで絞って使っている訳じゃないと思いますから、余裕残しということを考えると。

鵜:それと比べると成長はしているんですけどね。

-:乗っていて芯が入ったというか、どこが一番変わりましたか。

鵜:去年の夏頃に準オープン(水無月S)で、57.5キロを背負ってタイレコードを出したことがあったのですが、あの頃からすごく成長を感じたというか、強くなった気はしましたね。

鵜木陸宣調教助手

-:その頃から鵜木さんもG1という意識も?

鵜:全然、そんなことは思っていなかったですよ。それよりも厩舎に来て最初に乗った時に、この馬は当たりやなと思ったんですよ。なかなかそう思ったことはないんですけどね。とにかく柔らかかったんですよね。柔らかくて、動きが悪いことをするにも速くて、すばしっこいのですが、これが良い方向に向いたら、けっこう行くなと思いましたね。それでも、当時の印象からしたら、まさかG1を勝つとは思っていなかったので。

-:アドマイヤムーンの産駒と言うと、そこまで柔らかさを感じないのですが。

鵜:そうですね。他の何頭かいた馬は硬い馬が多かったですね。

-:むしろ硬くて、シッカリ感があると思うのですが、この馬は違うんですね。

鵜:今で言うとドッシリした感じですね。去年重賞を勝つくらいから、若さが抜けたというか、たまには臆病な面も出したりしていましたけど、今は本当にドッシリしていますね。競馬以外は本当に何もしないというか。

馬場状態も位置取りも不問
ファインニードル陣営インタビュー(2P)はコチラ⇒