関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

波多野 敬二厩務員

波多野 敬二厩務員

●フリオーソと2年間を過ごした男は元・サラリーマン

-:フェブラリーSに出走するフリオーソについて、早速伺いたいところですが、このオリジナルインタビューでは、地方競馬の厩務員さんに取材をさせて頂くのは初めての事です。
まずは波多野さんのプロフィールもお聞かせ下さい。どういった経緯でこの世界に入られたのでしょうか。


波:ええ、よろしくお願いいたします。昔はサラリーマンをやっていたんです。一応、課長だったんですよ(笑)。サラリーマンを12年やって、バブルも崩壊したあとの頃、28歳くらいの時に自分で焼き肉屋か、焼鳥屋をやりたかったんです。その時に「馬の世界の方が仕事になるよ」という話があったので、それに乗せられてフラフラと足を踏み入れていったのが初めてのことで。
そこで、「牧場に行ってくれないか?」という事で、半年間牧場に勤務したのですが、給料や待遇面が話と違って、辞めようと思ったんです。そうしたら、牧場の長男坊が「1年でいいから、道営(競馬)に行ってくれないか?」と頼まれて。その頃は全く馬にも乗った事はなかったのですが、そこで道営に行ったことがこの世界に入ったキッカケです。


-:28歳から馬の世界に入られたとは、大変だったのではないでしょうか。競馬を仕事にされる前に、競馬との関わりはどこでありましたか。

波:子供の頃は「競馬イコール悪い人のギャンブル」といった感じでしかなかったですね(笑)。馬券はサラリーマン時代に、中央も地方も買ってはいたんですよ。出身が苫小牧でしたし。だけれども、一般の人間が道営に入れるとは、思ってもいませんでした。

-:そこから、南関東へ来た経緯を教えてください。

波:当時いた道営の手島健児調教師が70歳で定年になるから、若い人は何人か辞めなくちゃならない事になって。自分は南関東に知り合いが出来たので、その伝手で川崎の内田勝義厩舎に行ったんです。

-:そこでディラクエ()などを担当されていたわけですね。そこから川島正行厩舎に移籍されたと。

(ディラクエ=07年2歳時は北海道の成田春男厩舎に所属。ダートグレードの北海道2歳優駿を制し、暮れの全日本2歳優駿でも2着。翌年、南関東に移籍し、京浜盃を圧勝するも、クラシック本番の羽田盃・東京ダービーでは敗れた)

波:そのディラクエを担当する前から、川島先生にも「うちに来いよ」と何度か声をかけられていたんです。それで08年の7月31日から移籍する事になりました。その年の年末までは他の担当者だったのですが、翌年の元旦からフリオーソを担当するようになって、今や丸2年は(フリオーソを)担当した事になりますね。

-:一日・一週間のお仕事のスケジュールはどんなサイクルでしょうか。

波:(調教に)乗るのが遅いので、僕の場合は21~22時くらいに寝て、5時くらいに起きます。午前の仕事に一区切りがつくのが11時くらいで、午後は14時くらいから仕事をしていますよ。今はフリオーソとスマートヴァリューの2頭しか担当していませんが、3頭担当している時は2時くらいに起きていましたよ。

-:休日などはどう過ごされていますか。

波:厩舎に来てから2年半は経ちますが、一度も休んだことはないですね。一応、全休日とかはありますけれど、当番制とかはないので、自分が担当している馬は全部自分で世話をしますから、休むことはないんですよ。中央なんかは休むことはあるかもしれないですけれどね。中央だと、エスポワールシチーを前に担当していた竹垣厩務員は仲がイイですよ。かしわ記念の前日なんかは、2年連続一杯やりました(笑)。レースの当日の朝も一緒に食堂に行ったし、「お前の馬には負けないぞ(笑)」みたいな話もしていましたよ。

-:相当な激務ですね…。そこまで忙しいと、どうやって息抜きはされるのでしょうか。

波:仕事が終わって、夕方の何時間かだけですね。みんなで食事に行く事もありますし。もう慣れっこですよ。

-:川島厩舎に来て、先生の凄いところはどう感じられますか。

波:細かいことや馬の状態に気が付きますよね。僕らが見てもわからないようなところに、パッとみて気が付いたり。厩舎に来た頃は、けっこう指導されましたけれど、最近、あんまり言われる事(指摘される)もなくなったので、だいぶ認められてきたかなと思います。

-:波多野さんからみた、船橋競馬の良さはどこでしょうか。

波:北海道・川崎・船橋と3か所を渡り歩いてきましたが、ここは馬のレベルが高いですね。厩舎の調教方法や休ませ方なんかもそうですし。僕は南関東での日が浅いから、あんまりハッキリした事は言えません。

-:逆に船橋競馬の課題はどうお考えですか。

波:船橋は全国・南関東の中でもオープン馬が多いですよね。それを主催者などが上手く宣伝をやって、売り上げも上がれば、もっと中央にも対抗できる環境になるのではないかと思います。南関東も盛岡のように、どこか一つ、お金を集めて芝のコースを造れば、芝の適性も判断出来るでしょうし、いいかと思いますけれどね。

一番の好物である人参を与える波多野厩務員とフリオーソ


●フリオーソを手の内に入れた2010年

-:ありがとうございます。さて、フリオーソについて伺いたいと思います。川崎でお仕事をされている時点から、フリオーソの事はご存じだったと思いますが、実際担当されての印象はどうでしたか。

波:気品のある綺麗な馬だと、本当に思いましたね。

-:普段はおとなしいタイプだといわれていますが、実際、日々接しての印象はどうでしょうか。

波:皆は「大人しい」というけれど、去年あたりからけっこううるさいんですよ。外なんかで一人で引っ張ったら、引きずられますからね。今は若い子(戸谷 六連星厩務員)をサポートにつけて、2人でやっていますよ。

-:フリオーソというと、時折、メンコの色が変わることでも知られていますが、今回は何色でしょうか。

波:今回は川崎記念と同じ。紫色ですね。3種類あるんです。クリス厩務員の時は黒だったですけれど、最近は、春は桜っぽい色のピンクで、夏は帝王賞の時のように水色で。

-:この馬は前髪にも特徴はあるとお聞きしました。

波:縮れているんですよ。あんまりいないかもしれませんね。僕が来る前に頭の上かどこかを怪我したみたいで、梳かさせないんですよ。顔を触られるのも嫌がるところはありますし。

-:ちなみに好きな食べ物とかはありますか。

波:人参ですね。川島厩舎は下の(クラスの)馬も、上の馬も食べるものは一緒ですね。あとは先生が量を調節するように指示を出すくらいで。この馬はバナナなんかよりも、人参が一番大好きですね。

-:一般的な馬の好物のイメージですね(笑)。昨日(9日)、追い切りを終えられたとのことですが、現在の状態はいかがでしょうか。

波:時計は(6F65秒3-4F)51秒8くらい。普段の調教より、強めくらいの感じで、この馬なりでの調教が出来たと思います。佐藤裕太君(騎手)が騎乗してくれましたが、帰ってきてスグにフッと息が入りましたよ。

-:昨年からの一連のデキを維持している状態でしょうか。

波:そうですね。(東京)大賞典や川崎記念の疲れは感じられないですね。

-:その大賞典は相当な時計でした。反動はなかったでしょうか。

波:時計は馬場が軽かったので、あれくらいの時計は出るなという感触はありましたよ。ただ、アレは僕も「スマートファルコンを負かせてやろうと」勝ちにいったレースなんですけれどね…。僕らもレース中は4コーナー付近のバスの中で観ていますが、3コーナーでもっとついていけばよかったんです。あそこで3~4馬身は離されていたのが、最後は詰めていますから。3コーナーでピッタリとマークして、最後は勝負根性で追い比べしていればね。フリオーソには可哀そうなレースだったなと思います。

-:確かに悔いが残るレース内容でしたし、あの開催は時計が平均的に速かったですね。あの頃の大井はなぜ時計が速かったと、現場の方は感じられましたか。

波:砂が薄いんでしょうね。今年の開催も速かったですから、砂を足していないんでしょうね。経費の問題かもしれません。どうしても地方競馬は経費がかかるので、砂の入れ替えも半年か一年に一回しかやりませんから。道営なんかだと、継ぎ足しくらいしかできませんからね。

-:ちなみに最近の天候だと、地方競馬でも凍結防止剤は撒いてますか。

波:最近は撒いているようですね。それによって、脚が荒れている馬も出ているみたいですよ。

-:話は逸れてしまいましたが、昨年、かしわ記念でも不慣れであろうマイルに対応して、エスポワールシチーの2着。更に帝王賞を2度目の制覇。また、大賞典でも分が悪いとみられていた時計勝負にも対応したりと、ここへ来て成績を挙げた理由なぜでしょうか。09年・10年とこの馬を見てきて、何か変わったところはありますか。

波:やっと、自分自身がフリオーソを理解できたかなと。手の内に入ったんじゃないかと思いますね。1600mだとこうゆう体、2000mだとこうゆう体がいいとか。状態・体調面だと、おしっこの量や、馬房でのボロの硬さですね。そうゆう判断が(09年の)一年をかけて出来るようになったと思います。

-:昨年、かしわ記念の際は、ファンからみても距離がどうかという懸念はありました。今回もマイル戦になりますが、その不安はありませんか。

波:09年はダイオライト記念を使って、かしわ記念、帝王賞というローテでした。ダイオライトって2400mなので、そこを使うと、どうしても(かしわ記念で)行きっぷりが悪いんですよね。ハミをとらないというか、フワフワしてしまうというか。
それを一昨年、(戸崎)圭太から「2400mを使った後だから、フワフワしてしまって」と(かしわ記念の時に)言われたので、それを解消するために、去年のかしわ記念の攻め馬はちょっと強くしたんですよ。裕太君に「ちょっと気合をつけるような攻め馬をしてよ」って言って。先の話ですが、今年のかしわ記念に出る時は、フェブラリーの後だから、グンとは行けると思いますけれどね。


-:今回、東京コースでの課題はどの点に感じられますか。

波:先生も言うように坂が長いのでね、そこが「どうかな?」という感じではありますけれども。トランセンドを平坦コース(船橋)の日本テレビ盃では、馬なりで負かしていますからね。ただ、新聞見たら、今日も凄い時計を出しているようでしし、(同型脚質だけに)あとは枠順の兼ね合いですね。
日本テレビ盃も行こうと思えば、ハナにいけたでしょうし、行っても行かなくてもいいとは思いますよ。それは出たなりで、ミルコ(・デムーロ)に任せて。ミルコも去年の有馬を勝った直後も、すぐに厩舎に来たんですよ。


-:川島厩舎というと、いつも管理馬がパドックで綺麗にみせていますが、波多野さんからみた、フリオーソのパドックでの好気配はどのようなポイントで感じられますか。

波:普段、見た目は大きく変わらないと思うのですが、引っ張っている側からすると、微妙にハミをグッと力を入れて引くんですよね。去年の帝王賞や東京大賞典でもそうでした。そうじゃない時、去年のJBCの時などは、気合乗りが足らなくて、フワ~んとして、引き手が弛んじゃっているなって感じでした。自分からハミをとって、グイグイ歩くような時はやる気満々ですね。

-:フリオーソというと、腹袋も大きくて、ブライアンズタイム産駒らしい馬ですね。今回はどれくらいの馬体重になりそうでしょうか。

波:いつも地方の場合は507~10キロくらい(の馬体重)で使うんですけれども、中央の馬場は軽いですよね。脚抜きのいい砂で。だから、悪くても503~505キロくらい、(前走から)マイナス2~5キロくらいの間で行きたいと思うんですよね。その方が千六にも対応出来るんじゃないかと思いますし。

-:ちなみに昨日はどれくらいの馬体重だったでしょうか。

波:昨日で514キロくらいだったかな。ここから川崎なら輸送で5キロ減るんです。その場合はこっち(厩舎)では512キロくらいで、朝に勝負飼葉をつけて、レース前は507~508キロくらい。東京の場合だと一頭で輸送しますし、馬房もポツンと一頭なんですよね。だから、(川崎よりも)もうちょっと減ると思って、飼葉の調整をすると思いますよ。

-:そこまで綿密な調整をされていると。

波:いつもレースはそうですね。もっと長距離輸送するならば、もっとフックラさせるでしょうし。中央だと輸送して、マイナス~キロだとかありますけれど、ウチの厩舎はそうゆう事はないですよね?個人個人が何度かやってゆくうちに手の内に入れますから。

-:今回、波多野さん自身で験を担いだりはされますか?

波:僕は験を担がないですけれど、(野球選手の)イチローじゃないですけれど、普段の同じ事をコンスタントに長く続けていこうと。僕も道営時代、中央だとかに遠征に行く時に、攻め馬を強くしてみたりとかやってみましたが、逆にそれが馬にとっては負担になったり、疲れが残ったりとゆう経験があったので。普段通りのフリオーソの調教で、心臓さえつくってあげれば大丈夫かなと。あとは当日に疲れが残っていないような状態を目指して…。

-:早い話ですが、今後のローテーションは決まっておりますか。

波:先生の話では、フェブラリーのあとは、かしわに行って、帝王賞です。フェブラリーを勝てれば、秋のプランも変わってくるかもしれませんよ。

-:そうですか、先々も含めて楽しみにしております!最後にファンへ向けて一言お願いたします。

波:いつも沢山の応援を頂いて、みんなに注目して頂いているのはわかっているので、変な仕事は出来ないですね。皆さんの期待に応えられるような馬造りを、自分の出来る限りの中でベストを尽くして、いい形で出走させたいなと思っております。それは常々心掛けていますので、応援して下さい!




【波多野 敬二】 Keiji Hatano

1962年3月31日生まれ。
北海道の手島健児厩舎、川崎の内田勝義厩舎での厩務員を歴任して、08年より川島正行厩舎に移籍。
川島正行厩舎では、フリオーソだけでなく、JRAの重賞ウィナーのディープサマーなどを担当してきた。