関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

昆貢調教師

昆貢調教師


昨年は天皇賞(春)を制し、秋には凱旋門賞へ挑戦したヒルノダムール。異国の地で結果を残すことはできなかったが、日高ブランドに誇りを持つ昆貢調教師が、その思いの結晶ともいえるヒルノダムールで世界最高峰の舞台に挑んだことは、大きな経験となったことだろう。そして、GIタイトル奪取、海外を経験した今、連覇の懸かる舞台でどんなパフォーマンスを魅せてくれるか注目が集まる。

シャドーロールを装着、その効果は…

-:前走は残念な結果に終わってしまいましたが、その前走は最後の直線でどれくらいの不利があったのか教えていただけますか?

昆:ちょっと後味が悪いレースになってしまいましたね。でも、(ヒルノダムールが不利を受けたオルフェーヴルは)失格になっていないので、そんなに酷くはないんじゃないですか(笑)?でも、確かにオルフェーヴルの方が脚はあったと思うけれど、僕は馬が真っ直ぐ走った方がいいと思っているので、「脚があるなら真っ直ぐ走ってよ」と。ウチの馬も馬券的に支持は集めていて、(不利もなく)3着にでも入っていたら、ファンへの貢献にもなっただろうし、残念かなと。

-:あのレースは上りが掛かったレースでもありました。

昆:いやあ、馬場が悪かったですね。

-:ああいう馬場は、ヒルノダムールは苦にしないと思いますが。

昆:苦にはしないですけれど、ウチの馬は1キロ、他より斤量を背負っていましたからね。それも堪えたのかと思います。

-:そういう悪い馬場を走ったことでの疲れはなかったのでしょうか。

昆:でましたね。一週間ちょっとくらいはガタっとくるようなところはありました。今までそんな事はなかったのですが。ただ、僕の計算では(去年の前哨戦に選んだ)大阪杯と違って、十分間隔をとれば、立て直せると思っていたので、阪神大賞典を選択したんです。使って間をあけたかったですし、立て直す余裕もありました。



-:その中間、馬体を見る限り、いい感じで体も膨らんで、毛艶も綺麗。凱旋門賞から帰ってきて、一番いい状態で挑めるのかと思いました。

昆:疲れが出ることも想定していましたし、目標は去年から天皇賞においていましたからね。一番いいコンディションで挑めるんじゃないかと思いますし、イメージ通りですね。

-:(一週前)今の馬体重はどれくらいでしょうか?

昆:490キロですね。前みたいに減らなくなっているので、レース当日は480キロ台になるんじゃないでしょうか。去年の天皇賞が474キロで出ましたが、厩舎にいる時は480後半で、競馬当日に(関西圏の輸送でも)10キロくらい減っていたんです。今回は前走比でもプラス体重で出られるかもしれません。

-:近場の京都でもそれくらい減るタイプだったんですね。

昆:10キロくらい減りますね。でも、今年の京都記念の時にうんと減らなかったんですよ。あの時でマイナス4キロとか……。「減らなくなったなあ」と思いました。

-:それは精神的な成長によるものですか?

昆:それもあるでしょうし、古馬になってきたんでしょうね。

-:ヒルノダムールにはずっと遅生まれであることを仰ってきて、本格化を迎えて、凱旋門賞を経験した今、今回の天皇賞も期待できると。

昆:まあ、去年に実績はあげていますからね。連覇は簡単なことではありませんが、僕はそれをやると頑張ってきています。



-:その一つのキッカケとして、今回は先週からシャドーロールを着けています。その狙いを教えてくれますか?

昆:集中力をつけるということですね。競走能力にどれくらい影響があるのか、それは走ってみないとわかりませんが、今着けている段階では落ち着きもありますし、変にイライラしたところはないので、効果はあるんじゃないかと思います。

-:ヒルノダムールに着けようと思った理由は?

昆:馬ってどんな馬でも100%の力で走っていないと思うんですよ。100%の力を使えば、壊れてしまうから。でも、70か80か90かはわかりませんが、そういうギリギリのところまで出さないといけないと思うので、何かを工夫しないといけない。その時は(持っている力が)出ていたけれど、それを着けなきゃ出なくなっているのかもしれない。それも僕たちの技術の一つなので、いろいろ馬が真剣に走るために苦労しなくちゃいけないですよね。

-:走る能力という事に関しては、昨年タイトルを獲ったように心配はありませんが、今年は3戦目。ここへ来ての上積みは見込んでいいのでしょうか?

昆:良いでしょうね。使ってはいても「まだ前哨戦だ」という意識はありましたから。この間の阪神大賞典も勝ちたいと思って、ある程度のことはしましたけれど、本番はあくまでここで、スタッフ一同、今回が勝負と思っています。

内枠の妙味

-:今日の追い切りはどんな内容だったでしょうか?

昆:さっき3頭ほど、全てジョッキーが跨って追い切りましたが、「下(馬場)が悪い」というコメントが返ってきたので、それを考えたらけっこう速いんじゃないでしょうか。

-:CWで99.7-82.1-39.4-13.4。あの時間にしたら速い方ですね。

昆:(他の馬と追い切りを行っていた)3歳オープンのハタノヴァンクール、準オープンのトキノフウジンらと比較しても十分な時計ですよね。ダムーロと併せたオーシャンフリートも攻め馬は凄く走る馬で、それが遅れているくらいですから、ダムールが走っているんだと思いますね。今日は全体的な時計も出したかったので、来週は上り重点になると思います。

-:来週の追い切りはそれほど時計を出すことはないと。

昆:あんまり馬場の悪いところではやりたくないので、坂路にしても、下にしても早い時間帯になると思いますよ。疲労を残さないようにね。天気や馬場を見て決めますが、鍛えることを目的にはしません。

-:整える程度と。今日、ジョッキーが乗ってきてのコメントはどんなものでしたか?

昆:(藤田騎手は)単刀直入に言う人ですが、「馬もリラックスして、力みもないしいい。シャドーロールのせいか、馬の状態がアップしたのかはわからないが、冷静だった」と言っていました。

-:見た目だけでもここへ来て上がってきていますね。

昆:上がっていますね。ここ10日くらいで変わってきたような。疲れが取れてきたからかもしれないし、先週までは無理をしていなかったので、今日はしっかりやらないといけないと思っていました。

-:前走、一緒に走ったオルフェーヴルと走るということで、自在性のあるヒルノダムールが勝ちを狙うとしたら、どんな競馬になると思いますか?

昆:どうなんでしょうか。それはジョッキーが考えているとは思うので。でも、僕は去年と同じパターンがいいんじゃないかと思いますね。

-:後ろから差すのではなく。

昆:恐らく今回もハナに行く馬はいますけれど、そんなに速く飛ばすタイプではないんですよね。(ペースメーカーとして)アテにしていたような馬も登録はしていなかったですし、ハナに行くとみている馬も本当に行けるかどうかというレベル。いずれにせよ遅いペースになるとみています。

-:今年も内で我慢してロスのない競馬を心がけると。



昆:内が欲しいですね。ダムールはそういうパターンの時に勝っていますし、大外を回った時は皐月賞以外、結果が残っていませんから。内に潜り込んで馬込みの中で我慢するような形で瞬発力を活かすのがベストかと思います。

-:逆にそこは嵌め込み過ぎた場合、走らない馬が出てきた時の危険性もあると思います。

昆:それは内を引いた時には有利・不利はありますよ。内って絶好になる事もあれば、アダになる事もある。だから、内って面白いんです。

-:それが出来る馬っていうのも少ないですよね。

昆:自由自在に扱えるところが、天皇賞の長丁場には心強いんじゃないかと思います。

-:ヒルノダムールは長距離適性あって、昔から期待されていた馬。距離適性は高いですよね。

昆:なかったら昨年勝てないし、あるんだと思います。

-:その点、今の社台さんなどの良血馬はそれほど長距離向きではないというか。

昆:ディープインパクトが活躍しているけれど、どちららかと言えば、短い距離向き。だから新馬からポンポンと走るけれど、皐月賞もステイゴールドが勝ちましたし。距離はもたないんじゃないかと、僕はクエスチョンマークでしたね。あれだけの頭数をつけたら、それは例外も出てきますよ。

-:つけている牝馬のレベルも違いますからね。

昆:あれだけならどんな種馬をつけても走ると思いますよ。その点、マンハッタンカフェは面白いです。なぜなら短いところも長いところも走れるじゃないですか?だから面白みがあるんです。

-:その反面、難しさもあるんじゃないでしょうか。

昆:ありますよ。でも、それを上手くもっていくのが技術ですから。

-:マンハッタンカフェは骨が太くて、飛節が深いじゃないですか?その点、踏み遅れるというか、加速するまでに時間がかかる印象があります。

昆:最初、社台もマンハッタンカフェには力を入れていなかったじゃないですか?日高とかが力を入れていて、その馬達が走ったから、力を入れ始めている。大して期待はしていなかったんですよ。アグネスタキオンもそう。ダービー馬が出てきたりしたら、これは走ると力を入れ始めて。そういう風に日高で成功する種馬は走るんです。繁殖牝馬のレベルで言ったら、明らかに日高は落ちますから。ディープは全然違いますよね。社台のトップをつけているんですから。

-:日本の馬産地のトップがつけているんですからね。そんな観点から見ても、今年の天皇賞は面白いですよね。

昆:面白いですよね。

-:連覇の懸かる天皇賞ですが、最後にレースへ向けて、一言お願いします。

昆:今年もひと泡吹かせてやりたいと思っています。密かにね(笑)。頑張ります。

(取材・写真)高橋章夫


【昆 貢】 Mitsugu Kon

1958年北海道出身。
1999年に調教師免許を取得。
2000年に厩舎開業。
JRA通算成績は222勝(12/4/22現在)
初出走:
00年3月5日 1回 阪神4日目 12R アルアラン(3着)
初勝利:
00年4月15日 2回阪神7日目 7R アルアラン


最近の主な重賞勝利
・11年大阪杯/11年天皇賞・春 (共にヒルノダムール号)


11年にわたる騎手生活を経て、2000年に厩舎開業。着実に成績を積み重ねると、08年にJRA重賞初勝利を挙げ、同年にディープスカイがNHKマイルCと東京優駿の変則2冠を達成。また、09年にローレルゲレイロで高松宮記念とスプリンターズSのスプリントGⅠを春秋制覇。昨年の大阪杯にて「未完の大器」ヒルノダムールが初重賞制覇を収めると、勢いそのまま天皇賞(春)でGⅠを制覇。その後の凱旋門賞挑戦、帰国緒戦の有馬記念は残念な結果に終わったが、新たなスタートと位置づけて天皇賞(春)の連覇を狙う。