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村山明調教師

村山明調教師

2月に行われた上半期のダートチャンピオン決定戦・フェブラリーSで、3歳時以来となるビッグタイトルを手にしたテスタマッタ。トランセンドら人気勢の失速はあったにせよ、2着につけた2馬身差の着差以上に、その出色のパフォーマンスは、多くのファンの脳裏に焼きついたことだろう。
そして、フェブラリーSの主要メンバーを加え、成長著しいランフォルセ、地方の雄・フリオーソらを加えた好メンバーによるかしわ記念。フェブラリーSで王者の立場へ登り詰めたテスタマッタがどんな走りをみせてくれるだろうか。


-:フェブラリーSはおめでとうございました。私も現地で取材にあたらせていただいていたのですが、普段はクールな印象の村山先生も、だいぶ表情が緩んでいるな、と。口取りを見ても、すごく笑顔でしたよね。

村:ありがとうございます。普段はあんまりオモテに出さない方なので。人見知りするもんだから……(笑)。

-:では、前回はフェブラリーS一週前にお話を伺いましたが、レースを直前の追い切りから振り返って頂けますか?

村:直前は併せ馬で遅れたんですけど……、まあ“併せた”ということが良かったとは思います。今まではそういうふうにプレッシャーをかけていなかったので。欲を言えば同時入線できる追い切りが良かったんですけどね。それでも十分効果はあったと思います。

-:あの馬のタイプを考えると、時計や動きはそう攻め駆けする方ではないだけに、見た目以上に実のある追い切りだったということですね。

村:そうですねえ。時計はあんまり出る馬じゃないんでね。東京大賞典と根岸Sと、結構ハードなレースが続いたので、「疲れが残らないかな?」と心配だったんですけれど、当日の馬の雰囲気が良かったので、心配していたそういう面では大丈夫かなという感じはありましたね。

-:レース前に、どんな展開になるか、というシミュレーションはされると思うんですけど、ああいう展開になるというのは予想されましたか?

村:前回(根岸S)は岩田ジョッキーが結構折り合いに苦労していたので、「引っ掛かるくらいなら行ってしまうのかな」とも思っていたんですけれど。前に行くのか、いつもと同じ戦法で行くのか、それはもうジョッキーに任せていたので、「今日は後ろから行くんだな」という感じで観ていました。

-:枠順に関しては、「どちらかと言えば内の方がイイ」というお話でしたが、間逆の枠で。

村:そうですね。外なんで、「そのまま引っ掛かって行ってしまうとマズイな」とは思っていたんですけど、上手く前にいた馬を壁にできて。

-:他の馬だったら、ちょっと引っ掛かっているように見えるくらいの走りでしたが、テスタマッタの中では、まともな方だったでしょうか。



村:同じ引っ掛かるにしても、揉んで抑えていたのではなくて、ジーっとその位置で我慢できていたので、根岸Sのときよりもパワーが溜まっていたんじゃないかな、とは思います。

-:どのあたりで「いい勝負になる」という手応えはありましたか?

村:4コーナーを回るときの勢いが良かったので、「3着くらいにはくるかな」っていう感じで見ていて、直線半ばで先頭に立って抜け出したときに、「勝てるかもしれない」と思って見ていました。あれだけ突き放すとは思わなかったですけど。

-:ここ一連のレースで能力の高さは示していましたが、それでもトランセンドなどの実績馬を相手にあれだけの走りを見せるとは、想像以上のパフォーマンスだったんじゃないかと思うのですが。

村:そうですねえ。展開に恵まれたとは言え、シルクフォーチュンには差されなかったわけですからね。力を見せることができたかなと。あそこからシルクフォーチュンに差されるようならば、展開が向いただけだったんでしょうけれど、あれだけ着差も離しましたからね。力を証明した走りだったと思います。

-:この大一番でシッカリと結果を残すことができた一番の要因はどんな点にあると思いますか?

村:掛かり癖があって、今までは上手く折り合って競馬ができていなかったことが一番の敗因だと思うんですけど、今回はジョッキーが続けて乗ってくれたんで。同じ東京コースということもあったし、感触を掴みやすかったんじゃないかな。

-:振り返ってみれば、同じジョッキーが3回連続で乗ったのは今回が初めてだと思うんですよね。乗り手を選ぶ面のあるこの馬にとっても、そこは好材料だったんでしょうね。

村:この馬に関しては折り合い面が難しいのですからね。それは言えると思います。

-:改めて、レース後の心境はどんな感じでしょうか?

村:なかなかG1というのは勝てないんでね。ジワジワと嬉しさがこみ上げてくる感じでしたね。

-:その後のテスタマッタの様子はどうですか?

村:やっぱりG1を走った後で疲れは残っていたんですけど、2ヶ月は間が空くので、1ヶ月で疲れを取って、そこからまた徐々に仕上げて行くという形で、今まで順調に来られていますね。

-:レース直後の会見などでは、ドバイというプランもありましたが、結果的には国内に専念する形に落ち着きましたね。

村:ドバイも行ってみたい気持ちはあったんですけど、疲れとかを考えると、ちょっと強行軍になるかな、と思って見送りました。この馬にとっては良かったんじゃないかなと思うんですけどね。

-:そのレース後の囲み取材の中では、報道陣の方に、角居先生の下で学ばれたことがタメになったというエピソードをお話されていたと思うんですが、改めて、教えてもらえますか?



村:川崎記念(11年)を左肩のハ行で取り消したんです。使って使えない状態でもなかったんですけど、「ちょっと気になる」ということで……。ボクが角居厩舎にいたときに、ウオッカがエリザベス女王杯(07年)を1番人気で取り消したんですね。そのときは、もうホントに「勝ち負けする」というような状況で取り消したので、その辺の角居先生の判断力というか、スパッと判断したあたりは凄く勉強になったんですよね。馬を最優先に考えるという意味で。ウオッカもね、使えないような状態ではなかったと思うし、能力も発揮できるとは思ったんですけど、ちょっと不安があれば見送る、っていう。その判断を学ばせてもらいましたね。

-:あの時は人気のある馬で、G1ですからね。本当に些細なアクシデントだったと。

村:そうですね。すぐに肩もほぐれて、(ハ行が)分からなくなるくらいの状態だったんですけど、やっぱり違和感があったんで。その教えがあるから、馬を壊さないで、ココまでこられたことに繋がったのかな。まあ自身もその後にG1を勝っているんでね。そこで無理していたらアクシデントがあったかもしれないですし。

-:この次はかしわ記念(5月2日・船橋1600m)、そして、その結果次第の部分もあると思いますが、その後は帝王賞(6月27日・大井2000m)を目指して行く予定ですか?

村:58キロの斤量で出られるさきたま杯(5月30日・浦和1400m)か、帝王賞か、という選択になってくると思うんですけど……。まあ出走メンバーと距離と相談して、という感じですね。

-:先々の話をすれば、秋はJCダートを大目標になっていくと。

村:そうですね。「コーナーを4つ回るレースを何とかクリアしてくれないかな」とは思っているんですけど。

-:次のかしわ記念ですけど、船橋の馬場の印象や、コース適性に関してはどうみられていますか?

村:やっぱり直線が短いので、追い込むのにはちょっと不利なコースですよね。その辺は岩田ジョッキーも先日も交流重賞を勝ったりしているようにコース形態を分かっていると思うんで、レースの流れと、馬の調子を見て乗ってくれるとは思います。

-:この前、同じ船橋競馬場で行われたマリーンカップでは先生もパドックでメモリアルイヤーを引かれていましたよね。紛れてやっていたのでちょっとビックリしました(笑)。船橋のヘルメットを被って。

村:僕は大体、いつも引っ張っていますね。早足になったりするところを落ち着かせるために。二人で引くことでジョッキーにも安心感が出るでしょうし。

-:直線の追い切りのスケジュールはどんな感じですか?

村:1週前追い切りをシッカリやって、当該週もそこそこの負荷をかけて競馬、という。日曜日追い切りに設定しているので、22日、29日とシッカリやって、競馬に向かう予定です。

-:コース的な問題もあると思うんですけど、馬場的にも、砂が重いというか、もっさりしている印象があるんですが、その点についてはどうですか?

村:そうですねえ……。まあ特に、そんな気にはならないと思うんですけどねえ。あとは展開面とか、折り合い面とかの方が課題になってくるとは思います。



-:前走後、岩田騎手とはどんな話をされたんですか?

村:折り合いさえ上手くつけられれば、距離はこなせるって言ってくれました。1400mでも、2000mでも。あとはホントに、折り合いだけがカギですね。

-:報道陣にも「この馬はもっと力を出せるよ」みたいなことも言っていましたよね。

村:はい。「能力は十分にある」と言ってくれているので。上手く引き出してもらえるといいんですけど。

-:そういったこともあって、その後の活躍があるというわけですね。そういえば、翌日は抹茶を振る舞ったそうですが、いつもやられているんですか?

村:去年の4月からお茶の教室に週1で通い出しました。もともとお茶は競馬学校の騎手過程で3年間やっていたんですよ。今もボクらの頃と同じ先生がやっているはずです。

-:とはいえ、それを、その後に実践された方もいないんじゃないですか(笑)。

村:そうですねえ、あんまり聞かないですねえ(笑)。せっかくねえ、日本のいいものを教えてもらって、そのままやらないで終わるのはもったいないかなと思っていたんですけど。作法とか、仕草がキレイになりますよ。おもてなしなので、オーナーが厩舎に遊びに来たときに、お茶をお出しして、くつろいで頂けたらな、というのもあって始めたんです。これからも続けて行こうと思っていますよ。

-:腕とかはあるんですか?

村:いや、あれは許状(きょじょう)って言って、その過程が終了すると、次のお手前を習えますよっていう許状がもらえるだけで……。まだまだ初心者ですよ。

-:話は戻りますが、今回のかしわ記念。前回とは違った立場と言いますが、チャンピオンとして注目を集めることになると思いますけど、レースに向けての意気込みを最後にお願いします。

村:ランフォルセ以外はフェブラリーSと同じようなメンバーが出てくるので、前回がフロックだったと思われないような、恥じないような競馬をしたいですよね。

-:やっぱり、G1を勝った後の厩舎の雰囲気も盛り上がりましたか?

村:本当に良くなりましたね。今まで2年くらい「ウチはもうG1を勝てる力をつけているから、自信を持って仕事に臨んでほしい」っていう話はずっとしていたので。それが形になって、みんなも「あの調教師が言っていたことはウソじゃないんだな」ってことは理解してくれたと思います。これからどんどん、また強い馬を作っていきたいと思いますし、ファンの方々にも応援してもらえるような馬をつくっていきたいと思いますね。


【村山 明】 Akira Murayama

1971年東京都出身。
2008年に調教師免許を取得。
2008年に厩舎開業。
JRA通算成績は75勝(12/4/29現在)
初出走:
08年9月28日 2回札幌6日目7R コパノオーシャンズ(4着)
初勝利:
08年10月19日 4回京都4日目4R テスタマッタ


最近の主な重賞勝利
・12年 フェブラリーS/・11年 マーチS(共にテスタマッタ号)


競馬好きの父の影響で騎手を志す。1990年より斉藤義美厩舎よりデビュー。 その後、松元省一厩舎、大沢真厩舎、松田国英厩舎に所属。騎手時代は通算中央競馬3186戦218勝(うち重賞2勝)をマークした。 07年に騎手を引退、角居勝彦厩舎で調教助手となり、08年に厩舎を開業すると、開業2年目にはテスタマッタでジャパンダートダービーを制覇。 名門厩舎で培った名馬との経験を厩舎経営に勤しんでいる。